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20 解決

20 解決


 その後は慌ただしく事が運んだ。

 森の中で爆炎が上がる様子を見たカスタリア兵やハーモル村の住人は続々とドラゴンの下を訪れ、承治とヴィオラは状況説明に追われた。


 ハーモル村の住人も、最初は巨大なドラゴンを前に恐れおののいていたが、承治の言語能力を駆使した通訳により、なんとか誤解を解くことができた。

 住人の中には獣人少女の父である宿屋店主の姿もあり、彼も承治の説得によりドラゴンと娘の仲を認めて己の誤解をドラゴンに謝罪していた。


 そんなわけで、古龍襲撃事件は一件落着の様相を見せ始めたが、ヴィオラと承治には長岡の処遇という問題が残されている。

 一同はとりあえずハーモル村に戻り、承治、ヴィオラ、長岡の三人は今後について話し合った。


 事の発端になった長岡は、深く反省した様子で口を開く。


「すいません、俺のせいでこんな騒ぎになって……」


 現世では持ち得なかった強大な力を得て転生すれば、さも演出されたような事件に首を突っ込みたくなる気持ちは分からなくもない。

 そう思った承治は、長岡に同情してヴィオラの説得を試みる。


「彼も反省しているようですし、どうにか許してあげられませんか?」


 顎に手を当てて考え込んだヴィオラは、しばらくしてから小さなため息をついて口を開く。


「当の古龍があなたを許すと言っていたのに、私達があなたを裁くのも傲慢かもしれませんね……わかりました。では、こうしましょう。私達の確認した古龍は最初から無傷で、襲われてなどいなかった。勘違いで多少の諍いはあったが、話し合いで穏便に解決した。コルネティア公爵にはそう説明しましょう」


「ありがとうございます……」


 そう告げて深く一礼した長岡は、顔を上げて言葉を続ける。


「俺は、これから旅をして自分の役目を見いだせる場所を探そうと思います。今回は、本当にご迷惑をおかけしました」


 平和なこの世界で長岡の持つチート級の戦闘能力を生かせる場所があるかは分からないが、承治はとりあえずその懸念を告げないでおいた。


 話がひと段落つくと、ヴィオラは軽く手を叩いて二人に告げる。


「さて、事件も無事解決したことですし、今晩は祝賀会といきましょうよ。ナガオカさんも、急ぐ旅路じゃなければご一緒にどうですか?」


 げっ、やっぱりそうなるか。

 と言うより、この人半分クラリアで酒飲むのが目的だっただろ。昼飯の時も物欲しそうに酒のメニュー見てたし。ホント、酒が絡むとポンコツになるなこの人。

 などと心の中でヴィオラを罵った承治は、仕方なく宿屋の食堂へと向かった。



 * * *



「ねえねえ、のんれるの? ちゃんろのんれるの? あんたら、おとこれしょ! のまらきゃらめよ! ぐいーって、ぐいーって!」


「いや、ヴィオラさん一人で飲んでてください」


 そんなわけで日が暮れて間もない頃、ヴィオラは既に酔っぱらいモードに突入していた。

 いや最初から分かっていたことだけどね。と、承治はフルーツ入りの蒸留酒を舐めながらしみじみ思う。


 いま酒盛りが開かれている場所は、ハーモル村宿屋の大食堂だ。その席には、ヴィオラと承治の他に長岡とセレスタも同席している。

 長岡は成り行きでこの場に同席していたが、酒には手をつけていなかった。


「あの、大月さん。俺、死ぬ前は未成年だったんですけど、こっちの世界ならお酒飲んでも大丈夫ですかね?」


 その問いに、いささか頬を赤らめた承治は片手を振って応える。


「いやいや、酒なんて飲まない方がいいよ。一回ハマっちゃうと、そこのポンコツエルフみたいになるからさ」


「ああー! いま、ぽんこつってゆったぁー! わらしはぽんこつれはありまへん! そういうこというひろは、しけいれす! しけいしけい!」


 呂律の回っていないヴィオラは承治の首を掴んで締め付ける。


「ぐえッ! し、死ぬ! ホントに死ぬから! 二回目死んじゃうからぁ!」


 長岡は発狂するヴィオラにドン引きしつつ、フルーツジュースを手に取る。

 彼の複雑な表情は、今後一切酒は飲まないと決心しているかのようだった。


 承治はどうにかしてヴィオラの相手を長岡にパスし、黙々と料理を口にしていたセレスタの近くに席を寄せる。


「ごめんねセレスタちゃん。こんな騒がしい席じゃゆっくりご飯も食べられないでしょ」


 承治の言葉に、セレスタは首を振って笑顔で応える。


「いえ、お母さんが死んでからは一人で食事をとることが多かったから、大勢で食べるのは楽しいよ。家族揃っての食卓って、こんな感じなのかなぁ」


 いや、多分違うぞ。酔っぱらいが暴れてる食卓とかヤバいから。

 などと正直に言うわけにもいかず、承治は話を続ける。


「まあでも、これからはカスタリア王宮で暮らすことになるんだし、オババ様も一緒だから寂しくないかもね。僕も、普段は王宮の食堂でご飯食べてるから、食堂を使う時は声かけてよ」


「フフ、ジョージさんってやっぱり優しいね。本当に私のお父さんみたい。ジョージさんがお父さんなら、ヴィオラさんがお母さんで、ナガオカさんがお兄ちゃんになるかな? 毎日が楽しくなりそう」


 想像を膨らませるのはいいけど、色々と問題を抱えそうな家庭だなオイ。セレスタちゃんが目指すべき理想の家庭は、もっと慎ましくてハートフルじゃなきゃダメだよ。こんな飲んだくれお母さんや武闘派イキリ兄貴をもったら苦労するよ。

 などと、承治はそんな下らないことを考えつつ蒸留酒を傾ける。

 

 すると、店の奥から昼間出会った獣人少女がエプロン姿で現れ、承治の前に小奇麗な芋料理を置いた。


「今日はありがとうございました。これはサービスです」


「そんな気を遣わなくていいのに。今日は村の人の誤解も解けてよかったね」


 その言葉に、お盆を抱きしめた獣人少女は満面の笑みで頷く。


「はい! ジョージさんのお陰でドラちゃんの気持ちも分かったし……こんなに幸せな日は他にありません」


 ドラゴンの気持ち、か。承治は単に二人の仲を取り持っただけで、気持ちを言葉にして彼女に伝えたわけではない。

 だが、言葉は交わせずとも、一人の少女とドラゴンは端から心を通い合わせていた。今回の事件は、それを再確認するきっかけだったに過ぎないと承治は思った。


 獣人少女が店の奥に戻るのを見送った承治は、ぽつりと呟く。


「ああいうのも、愛の形ってやつなのかなぁ」


 その言葉にセレスタが反応する。


「あの子は本当に、心からドラゴンのことが好きだったんだね……」


「好きになってしまえば姿形なんて関係ないんだよきっと」


 セレスタは小さく頷き、呟くように告げる。


「私のお父さんとお母さんも、そうだったのかな……」


 セレスタの父と母は、一方が人類種、もう一方が獣人という種族の異なる者同士らしい。だが、周囲がその関係を快く思わない中で一緒になろうと決めたのだから、二人の間には誰にも妨げられない強い愛があったのだろう。

 それを思った承治は、静かにセレスタへ告げる。


「セレスタちゃんがここにいるのが、何よりの証だよ。二人が惹かれあわなければ、セレスタちゃんは生まれてこなかったんだから」


「そうだね……」


 そう告げるセレスタは、物悲しくも優しげな笑みを浮かべていた。


「ねーねーらにおしゃべりしれるの? わらし、くらりあごわかんない。もひかひて、ナンパ? ナンパらの?」


 酒臭いヴィオラに横やりを入れられた承治は、腕をわなわなと震わせて立ち上がる。


「うっさいなこの飲んだくれエルフ! いい話してるんだからちょっと黙っててくださいよ!」


「やらー! わらしもおしゃべりしらい! しらいの! しらいの!」


 ヴィオラは駄々をこねる子供のように腰を左右に振って承治へ迫る。

 その様子を見た長岡とセレスタは、たまらず笑いをこぼしていた。

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