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19 少女の気持ち

19 少女の気持ち


 互いに簡単な自己紹介を終えたところで、まず獣人少女が口を開く。


「私は以前、この近くで野草を取っているとき狼に襲われて、それをドラちゃん……あのドラゴンに助けてもらったんです。それから仲好くなって、たまに会いに来ていたんですが、それを見たお父さんがドラゴンに襲われてると勘違いして……」


 猫型ロボットのようなアダ名をつけられたドラゴンは、話し合う四人の脇で手持無沙汰なセレスタと仲良くじゃれあっている。セレスタも意外に肝がすわっているようだ。

 獣人少女の言葉に対し、ナガオカが口を開く。


「そういうことだったのか……俺は彼女の父親から娘がドラゴンにさらわれたと聞いてドラゴン退治に来ました。数日前に戦ったときは、とりあえず彼女を逃がすことに専念して今日はリベンジのつもりでしたが、まさか勘違いだったとは……」


 続いてヴィオラが口を開く。


「私達は、国から保護されている古龍こと原種ドラゴンが何者かに襲われたと聞いてここへ様子を見に来ました。どうやら、犯人はナガオカさんだったようですね」


 ナガオカは申し訳なさそうに頭を下げる。


「すいません。村の人は口を揃えてドラゴンは恐ろしいバケモノだと言うもんですから、先走ってしまいました。俺もこの地に来たばかりで、まだ何も分からなくて……」


 その言葉に承治が反応する。


「ナガオカくんは、ひょっとして最近転生したばっかりなの? 転生契約書の控えがあるなら見せてもらっていいかな?」


 ナガオカは懐から一枚の紙を取り出し、承治に差し出す。

 そこには、『長岡祥太』の名で、承治が交わした契約とほぼ同じ内容のものが書かれていた。契約日は二週間ほど前だ。

 興味本位でオプションの欄に目を移すと、複数の項目が書かれている。

 三級言語能力、二級魔力付与、二級肉体強化、一級装備一式付与、三級活動資金援助――内容の詳細は分からなかったが、承治とは比べ物にならないほどの高待遇で転生しているのは明らかだ。


 え、ズルくない? こんなチートみたいな能力貰ってこの世界来れるのかよ。俺なんて言語能力だけで体ひとつなんですけど。

 と、出かかった嫉妬を喉元で抑えた承治は、苦笑いを浮かべて契約書控えを長岡へ返す。


「とにかく、事情はわかったよ。だけど、長岡くんの処遇はどうしましょう」


 その言葉に、ヴィオラは腕を組んで考え込む。


「古龍を傷つけたのは事実ですし、私としてもこのまま野放しと言うわけには……」


 ヴィオラがそう言いかけた時、承治の背後から何者かの声が聞こえた。


『くすぐったいぞ獣の子よ』


 驚いた承治が後ろを向くと、セレスタが楽しそうにドラゴンの顎をくすぐっている。

 もしやと思った承治は、ドラゴンに向けて声を放つ。


「もしかして、ドラゴンって喋れるの?」


 すると、ドラゴンは巨大な瞳を承治に向けてぐるぐると唸った。


『人の子よ。我の言葉が分かると言うか』


「ええ、まあ、普通に理解できます」


 その様子を見ていたヴィオラは驚いた様子で声を上げる。


「ジョージさん、古龍と会話できるんですか!?」

 

「えっ、むしろ皆は分からないんですか?」


 承治の言葉にヴィオラ、長岡、獣人少女は揃って頷く。

 すると、ドラゴンが再び唸った。


『かつて、我の言葉を理解する人の子は存在した。だが、ここ数十年はついぞ会っていない。人の子と言葉を交わすのは久しい』


 なるほど、と承治は今の状況を納得する。

 思い返して見れば、承治に付与されている言語能力には『一級』という格付けがついていた。対して、長岡の言語能力は『三級』だ。

 一級言語能力とは、どうやらドラゴンの言葉すら理解できてしまうらしい。


 とりあえず承治は、今の状況をドラゴンに説明する。


「ええと、ドラゴンさんでいいのかな。そこにいる長岡くんは、どうやら勘違いであなたを襲ってしまったそうです」


『承知している。我は生まれた時より畏怖される存在だ。かつては人々の争いに手を貸し、多くの者を殺めてきた。こうなる時が来ることは覚悟していた』


「まあでも、事情はわかってくれたみたいですし、カスタリアはあなたを大切な存在として保護しています。これから平和に暮らせると思うので、どうか今回の件は穏便に済ませられませんか」


『構わん。むしろ、久方ぶりの戦いに心躍った。そこの剣士を怨んではいない』


 承治がドラゴンとの会話を終えると、長岡が口を開く。


「ドラゴンは何と?」


「事情は分かったから穏便に済ますそうです。長岡さんにも遺恨はないと」


 その言葉に対し、長岡は申し訳なさそうにドラゴンの元へ歩み寄る。


「すいません。俺の勘違いであなたを傷つけてしまって……こんなことでお詫びになるとは思いませんが、せめてもの償いです」


 そう告げた長岡は、ドラゴンの体に触れて声を上げた。


『グロースハイレン!』


 すると、ドラゴンの体が光に包まれ、先の戦いで負った傷が徐々に癒えていく。

 その様子を見たヴィオラは、目を見張って声を漏らす。


「これは、治癒魔法……ナガオカさんは、火の精霊だけでなく救済の精霊とも契約を結んでいるのですか? それに、ウラシム鉱石を使っていないようですが……」


「精霊との契約やウラシム鉱石についてはよく分かりませんが、精神力を消費することで一通りの魔法は使えます」


 え、それって凄くない? やっぱりズルくない?

 俺も言語能力なんかよりそういう力が欲しかったんですけど。

 などと承治が考えていると、ドラゴンの体はたちまち無傷の状態に戻っていた。

 その様子を見た獣人少女は、堪らずドラゴンに駆け寄る。


「ドラちゃん! 傷が治ってよかった……もうこんなことしないから、大丈夫だから……」


 ドラゴンは承治に視線を向けて再び唸る。


『人の子よ。願わくば、獣の子に伝えてほしい。ここにはもう来るな、と』


 承治はドラゴンとの対話に応じる。


「どうしてですか?」


『我は忌み恐れられる者。我は何も生み出さず、そして何も与えられない。獣の子にとって、我は不要な存在である』


 それは獣人少女に対するドラゴンなりの気遣いなのだろうか。

 承治はいささか考え込み、口を開く。


「不要な存在、か……彼女は、そんな風に思っていないと思いますけどね。ドラゴンさんは、彼女のことが迷惑なんですか?」


『……』


 ドラゴンはその問いに応えなかった。

 承治は、半ば試すかのように獣人少女に問いかける。


「ドラゴンさんは、君に何もしてあげれないからもう会わない方がいいって言ってるよ」


 その言葉に、獣人少女は涙ながらに訴える。


「そんな! 私はドラちゃんに何かしてもらいたいとは思っていません! ただ仲良くなりたくて、傍にいたいだけなんです。お願い、そんな寂しいこと言わないでドラちゃん……」

 

 承治はその旨をドラゴンに告げる。


「彼女はあなたと友達になりたいだけで、何かしてもらいたいだなんて思ってませんよ。彼女を突き離すことが、彼女のためになるわけじゃありません。せっかく仲良くなったんだから、これからも彼女と会ってあげてください。僕からもお願いします」


『それが獣の子の意思であるなら、我は構わない』


「これからも会いにきていいって」


 承治がそう告げると、獣人少女は大粒の涙を流してドラゴンへ体をすり寄せる。対するドラゴンも、己の顔で獣人少女の体を優しく撫でていた。

 獣人少女は嬉しそうに何度も頷き、承治に向かって口を開く。


「ジョージさん。ドラちゃんの言葉が分かるなら、私の気持ちを伝えてください。ドラちゃんのことが大好きだって、ずっと一緒にいたいって……」


 承治はいささか迷ったが、ドラゴンではなく獣人少女に向かって口を開く。


「それは、僕が伝える必要はないかな。たとえ言葉が分からなくても、君の気持ちは十分に伝わってると思うよ」


 その言葉に、獣人少女は優しげな笑みを浮かべて小さく頷いた。

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