18 古龍
18 古龍
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
不意に飛び出した火球が命中したドラゴンは、悲鳴のような咆哮を上げて急降下を始める。
そして、土ぼこりを巻き上げ承治の目と鼻の先に降り立った。
ドラゴンはグルグルと唸り鋭い瞳で承治を睨みつける。
『我に挑むか人の子よ』
腰を抜かした承治は立ち上がることもできず、尻を引きずって後ずさる。
「た、た、た、助けてえええ……」
だが、そんな承治とドラゴンの間に割って入る人物の姿があった。
「大丈夫か! 早く逃げろ!」
そう告げて承治の目の前に駆け付けたのは、青い甲冑を纏う青年だった。
正面に視線を戻した青年はドラゴンに剣を突き付けて言い放つ。
「お前の相手はこの俺だッ!」
すると、ドラゴンは鋭い爪の生えた手を振り上げて青年を薙ぎ払おうとする。
その瞬間、激しい金属音が轟きドラゴンの爪と青年の剣が交わった。
衝撃で後ずさった青年は、態勢を立て直してドラゴンに向けて手をかざして叫ぶ。
『ファイヤーヴォイル!』
すると、先ほどドラゴンを撃墜した火球が青年の正面に現れ、ドラゴンの下へ襲いかかる。
火球はドラゴンの胴体に何発も命中し、激しい爆炎と土煙が舞い上がった。
な、なんだこの男。ハンパなく強いぞ。
不意に始まった戦闘を前に、承治は何もすることができず茫然とその光景を眺め続ける。
だが、そんな承治の視界に脇から飛び出す人影が映った。
その人影は土煙に隠れるドラゴンと青年の間に割って入り、大声で叫ぶ。
「もうやめてください! ドラちゃんを苛めないで!」
そう告げたのは、獣人の少女だった。
青年は少女の存在に驚き声を上げる。
「危ない! ソイツから離れるんだ!」
少女は青年の呼びかけに応じず、土煙の中へと駆けて行く。
そして、土煙が晴れてドラゴンが姿を現すと、少女はその体に抱きついていた。
「ドラちゃん! ごめんなさい! 私のせいで、こんな……」
少女は涙を流してドラゴンの体に頬ずりをする。
対するドラゴンは少女を襲うようなそぶりをみせず、落ちついた様子でグルグルと喉を鳴らしてその場に体を下ろした。
そんな光景を目の当たりにした青年は、状況が理解できないといった様子で当惑する。
「一体どういうことだ……君は、ドラゴンに襲われたんじゃ……」
青年の言葉に対し、少女は大きく首を振る。
「違います! ドラちゃんはそんなことしません! あれは、お父さんが勝手にそう言ってるだけなんです! だからお願い、これ以上ドラちゃんを苛めないで……」
そんな会話が交わされると、激しい戦闘は中断され、その場にいる全員がいささか落ち着きを取り戻した。
そして、一歩前に出たヴィオラは青年に告げる。
「どうやら、何か行き違いが起きているようですね。とりあえず、剣を収めてください。私ヴィオラという者で、ドラゴンの様子を見にカスタリア王都から来ました」
青年は素直に剣を鞘に納めてヴィオラに向き直る。
そして、横目でドラゴンの様子を伺いつつ自己紹介を始めた。
「俺は、ナガオカ・ショウタって言います。訳あって近くに滞在していたんですが、人をさらうドラゴンがいると聞いてここへ……」
ナガオカ・ショウタ。
どこか聞き覚えのある響きを持つ名前だ。加えて、青年の顔立ちは東洋風である。
それらを鑑み、承治はひとつの仮説を立てる。
「君、もしかして日本人?」
ナガオカは驚いた様子で承治に向き直る。そして、スーツ姿の承治を見て、何かを察したように口を開いた。
「あなたも日本人なんですか! もしかして、俺と同じ転生者とか……」
「やっぱりそうか。僕は大月承治って言います。あ、これ昔の肩書きですけど、どうぞ」
そう告げた承治は懐から名刺を差し出してナガオカに手渡す。
「ああ、これはこれはご丁寧に。すいません、俺は学生だったんで名刺持ってなくて……」
二人はヘコヘコと頭を下げ合う。
そんな様子を傍目から見ていたヴィオラは、不思議そうに首を傾げた。
「ナガオカさんも、ジョージさんと同じ転生者ということですか? お知り合い、というわけではなさそうですけど……」
その言葉に、承治はひとつ提案を出した。
「とりあえず、今の状況を整理しましょう。ドラゴンも落ちついているようですし」
そんなわけで、ヴィオラ、承治、ナガオカ、獣人少女はその場に集って各々の状況を説明することにした。