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16 外国訪問

16 外国訪問


「えっ、ヤバくないコレ。想像以上に怖いんですけど」


 朝焼けの映える空の上で、先頭のセレスタと後方のヴィオラに挟まれて〝空飛ぶモップ〟に跨る承治は、カスタリア王宮の上空で恐怖に身を震わせていた。

 高度は100メートルくらいあるだろうか。そんな空間で己の体を支えるのは、股下にある小さな座席とセレスタの体だけだ。密閉された飛行機に乗るのとは訳が違う。


 だが、承治の体に掴まるヴィオラの方は、怯えるどころかむしろ未知の経験にはしゃいでいるようだった。


「凄い眺めですね! 私、魔道具で空を飛ぶのは初めてです!」


 承治はなりふり構っている余裕などなく、か細いセレスタの体に手を回してガッチリとホールドする。そして、背中にはヴィオラの豊満な体が押し付けられた。

 どこか心地の良い香りが鼻をくすぐり、背中と両手にやわらかな感触が伝わる。


 これぞ美女サンドウィッチ!

 とか思ったけどさ、そんなの堪能してる余裕ないから。落ちたら即死だからねコレ。


「ソロソロイクヨー」

 

 セレスタがそう告げると、モップはゆっくりと前進を始める。

 速度は徐々に加速し、数十秒と経たないうちに全身で強烈な風圧を感じるようになった。


「怖い怖い怖い! 落ちちゃうって!」


「すごい! 風圧を魔法で抑えてるんですね! これならひとっ飛びですね!」


「ゴーゴー」


 こうして、クラリア行超特急空の旅は幕を開けた。



 * * *



「尻が、割れる……」


「わ、私もお尻が……」


 目的地に無事到着した承治とヴィオラは、己の尻を押さえて地面にうずくまっていた。

 〝空飛ぶモップ〟には三人乗り用のサドルを取り付けていたが、それでも不安定な姿勢での長時間飛行は下半身に多大なダメージを蓄積させるには十分だった。


 セレスタの方はなんともないらしく、けろっとした表情でうずくまる二人を眺めている。さすがに乗り慣れているだけのことはある。


「ダイジョウブ?」

 

 とりあえず尻の筋肉をほぐし終えたヴィオラは、よろよろと立ち上がってセレスタに現在地を確認する。


「ここが、クラリア王国のハーモル村ですね」


「ソダヨー。昔、キタことあるヨ」


 承治は内股のまま立ち上がって正面に目を向ける。

 すると、林間に形成された小さな町が広がっていた。木製の家々はまばらに並び、そこかしこに畑が広がっている。

 片田舎というよりド田舎と言って相違ない光景だ。


 どうやら、この世界に入国審査やパスポートといった概念はないらしい。そもそも、国境線に森が広がっていれば出入りの管理は難しいように思えた。

 承治は背後に見える森を見て呟く。


「ここから西へ行って国境線を跨げば古龍のいる森に行けるわけですね。とりあえず、どこに行きます?」


「まずは村の宿場で情報収集しましょう」


 そう告げたヴィオラは、おぼつかない足取りで町の中へと足を踏み入れた。



 * * *


 

 承治、ヴィオラ、セレスタの三人は、今晩の寝床確保と聞き込みを兼ねて町の中央にある宿場を訪れた。

 まずは宿の予約を行うことになったが、ヴィオラはクラリア語が話せないそうなので、交渉役に選ばれたのは万能言語能力を持つ承治だ。


 今晩の予約を終えた承治は、雑談を装って店主から話を聞き出す。


「そういえば、最近西の森で古龍が襲われたなんて話を聞きましたけど、店主さんは何か知ってます?」


 その言葉に、毛深い獣人の店主はいささか不機嫌な態度で応じる。


「ああ? あんたらカスタリアの連中か。何をしに来たが知らねぇが、あんたらもドラゴン絡みなんだろ。言っちゃ悪いが、おたくの国があんなバケモノを野放しにしとくから騒ぎになったんだよ」


「バケモノ、ですか」


「ああそうさ。この町じゃ、昔からドラゴンは子供をさらうバケモノだって言われてんだ。俺の娘も、危うくドラゴンに誑かされて連れていかれるところだったぜ。たまたまウチに泊まってた剣士様が助けてくれなきゃ、今ごろどうなってたことか……」


 なんだか知らないが、いきなりビンゴらしい情報をゲットする。


「もしかして、その剣士が娘さんを助けるためにドラゴンと戦ったとか?」


「さあな。俺は現場を見たわけじゃねぇ。だが、ドラゴンに攫われそうになった娘を剣士様が助けてくれたのは事実だ」


「娘さんと、その剣士は今近くにいます?」


「剣士様は今朝宿を出てどこかに行ってるな。娘は部屋にいたはずだが……」


 そう告げた店主は大声で奥さんを呼び、娘の所在を確認する。

 すると、奥さんは店の奥から「あの子なら野草を取りに出かけたよ」と返事をした。


「だそうだ。あいつ、当分外には出るなと言ってあるんだが……」


 聞けるだけ話を聞いた承治は、話を切り上げて仕入れた情報をヴィオラに伝える。

 承治の話を聞き終えたヴィオラは、顎に手を当てて己の考えを告げた。


「ずいぶんと早く情報が集まりましたね。古龍襲撃事件の犯人が町の住人でなければ宿を利用すると踏んでいましたけど、その剣士とやらがかなり臭いですね。それに、事件の当事者らしい二人が外出中というのも気にかかります」


「とりあえず、西の森に入って古龍の様子でも見てきますか。場所は大体わかるんですよね」


「ええ……さっそく出発したいところですが、その前にやるべきことがあります」


「やるべきこと?」


 承治の言葉に頷いたヴィオラは、真剣な表情で告げる。


「まずは腹ごしらえをしましょう。この町の名物は千年芋のエレメンタルハーブ焼きだそうです」


 その言葉にセレスタも同意する。


「オー、ゴハンたべたイ」


 いや、お腹空いてるのは分かるけどさ、今は名物とかどうでもいいでしょ。

 などと突っ込むわけにもいかなかった承治は、とりあえず店主に三人分の食事を注文をした。

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