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そにょ2

「もう大丈夫なのかレラ?」


 翌日早朝。仕込みの為に父さんと私は厨房に降りていた。

 マリアもカタリナかあさんもまだ寝てる。


「あはは、ごめんね父さん慌てん坊な娘で。足元よく見てなかったのよ」


 アップルパイの生地を練りながら謝る。


「お前の母さんもうっかりさんだったからな、父さんは心配なんだよ」


 オーブンでパン種の様子を見ている父さん。やっぱカッケェわ父さんて。

御年40には見えないなー。

 茶髪を短く刈って日々の労働で鍛えた無駄のない筋肉質な締まった体つき。精悍な目鼻立ち。私は由緒正しいファザコンである。


「今度から気をつけるわよ」


 私もミニドーナツを油に投入しながら笑顔で答えた。


 私のお菓子ゾーンは二年ほど前から父さんの店の一角を使わせて貰っている。ささやかながら私の城である。

 まあ一坪もないけどね。


 売りはミニドーナツと三角に小さくして揚げたアップルパイとクッキー。子どもの少ない小遣いでも買えるようにサイズを小さくして原価を抑えたのだが、実は大人(男性多め)も結構買っていってくれる。仕事の休み時間とかにつまむのに丁度いいとのこと。


「レラちゃんのお菓子は甘さが控えめで美味いよね」


 とは常連のオッサンの言葉。


 この辺の町のお菓子は甘過ぎるのが多くて、カロリー怖くて食べるのに勇気がいることがある。

 でも太るのもやだけど甘いものは食べたいしで作ったモノですからねぇ。

 そういや、彼女の国でもかなりスイーツが発展してたわ。甘み抑えた上品な作りのも沢山あった。

 いくつかはこっちの世界でも作れそうなので、後日試してみようと思っている。


「レラちゃん、あなた、ご飯よー」


 カタリナかあさんが朝食を作って呼びに来る頃には一通り父さんのパンや私のドーナツとアップルパイが仕上がるのもいつも通りだ。

 

「「「いただきまーす」」」


 カタリナかあさんの料理も美味しい。

 父さんの焼きたてのパンに豆と野菜が沢山入ったトマト風味のスープ。裏の畑で獲れたレタスとキュウリのサラダ。オレンジジュース。

 大変健康的でございます。


「そう言えば、レラ姉さん、舞踏会の話知ってる?」


 ぶふぉっっ。


 いきなりむせた。鼻から来るオレンジジュース、かなり痛いわ初めて体験したけど。


「げほっげほっ、……な、何舞踏会って?」


「国王様が50歳になったから、お祝いでお城で食事食べ放題の上、無礼講の舞踏会が開かれるみたいなのよ」


 カタリナかあさんがウキウキしてる。

 食べ放題の方に惹かれてるんだろうけど、マリアまでどうした。

 いや、お城に入れるのは年に1度の新年の挨拶だけだし、それも入り口の広場みたいな庭のとこだけだもんね。

 中も見られるのは嬉しいよねぇ確かに。


 でも、舞踏会……。とってもイヤな流れなのよね。


「へえ……楽しそうね。皆で行ってくれば?」


「何を言うんだ。家族みんなで行くに決まってるだろ?

 お前だって、お城のお菓子はどんなのがあるのか気になってたじゃないか。

 父さんも、王宮で出るパンを食って出来れば味や技術を学びたいんだよな」


 父さんに笑顔でそう言われるとなかなか断りづらい。


 確かに王宮のお菓子は気になってたんだけど……舞踏会か……。


 あれ。でも考えてみたら、私マリアみたいに可愛い訳じゃないし、展開が童話と似てるってだけで私が王子様に惚れられる可能性なんてないじゃない。


 やだわー。とんだナルシストになるとこだったわー。


 自分で自分が恥ずかしくなり、苦笑した。


(そうね、行かないとね!参考に出来るお菓子があるかもだわ)


 どうやら来週から5日間開催されるらしい。太っ腹ですな国王。60の時にも是非お願いします。


 着るものは特に舞踏会で踊らないつもりならよそ行きのワンピースとかで良いらしいし、問題なし!

 今回はカロリー忘れて食って食って食いまくるぞー。



 急に行く気まんまんになったシンデレラに(やっぱり年頃の娘だね)と言いたげにドムとカタリナは目を見交わしていた。



 そしてあれよあれよでお城の国王お祝いウイークが明日からという日の夜遅く、レラの部屋にまさかの訪問者が現れた。 



「だだだ、誰よあんたいきなり乙女の部屋に!」


 そろそろ眠ろうとして寝間着に着替えてさてベッドへ、と思って振り向いたらベッドの横の椅子に黒いローブを羽織った若い男の人が座っていたらそらぁビビります。窓も閉まってるのに。


「やほ♪」


「やほ♪、じゃないわよ変質者。父さー」


「ちょ、待った待った!説明するからまず聞いてっ」


「モゴモゴっ、だったらさっさと話して!」


 慌てた兄さんに口を押さえられて暴れる。突然でごめんだけどお願いだから静かにしてぇ、と小声でお詫びされたのでとりあえず大人しくする。


「オレ魔法使いなの」


「へえ。なら錬金術の店は三軒隣よ。うちパン屋」


「知ってるよ。君シンデレラだろ?」


「私は貴方を知らないんだけど」


「だろうね、初めて会うし。

 でも君には果たさないといけない約束があってね」


「……?」


「思い出しただろ?前世の記憶」


 まさか、その事を知ってるとは思わなくて唖然とした。


「なぜそれを……」


「だから話すから聞いてってば」



 前世の記憶の彼女は本来まだ死ぬのはその日よりかなり先だったらしいが、トラックの運転手が本来通るはずの道路を通らずに別の道を通ったせいではねられて亡くなったらしい。


 ただ、その世界で生き返らせるのは難しかったので、本人にどんなとこがいいか聞いたところ、『まともな王子様と結婚できるような童話みたいなところに生まれ変わりたい』ということでこの世界に生まれ変わったらしい。

 らしいってそれが私か。


「いや、事情は解ったけど、それでなんでお兄さんがここに不法侵入することになってんの」


「いや、だからこのグランデ公国の王宮行くでしょ?舞踏会に出てもらわないとだからドレスと靴持ってきた」


「やめてよ。……まさかガラスの靴とか言わないわよね?」


 明らかにびくってなったじゃんお兄さん。マジでか。


「そんな歩きにくいもん履いてもし怪我でもしたらどうしてくれんの。童話だと靴が脱げたせいで周りの女性を巻き込む大騒動に発展するじゃない」


「いや、でもお約束だか……」


「お約束?そんなお約束いらないわよ。パン屋は重労働なのよ?足とか怪我したら仕事出来ないじゃない。

 ていうか私踊れないからドレスアップも必要ないのよ。王宮行くのは食べるためよ仕事のために」


 魔法使いのお兄さん泣きそうなんですけど。

 ちょっとなんで勝手に来て私が虐めてるみたいな構図になってるのよ。神様なんとかしなさいよ。

 

「でも彼女の願いが……」


「彼女って、生まれ変わった私よね結局?で、その私がイヤだと言ってるんだけど、貴方はぶっちゃけ嫌がらせをしたい訳?」


「違うけど!でも彼女も綺麗に着飾ってみたいって言ってたしっ。若い身空で亡くなったからそういうキラキラした思い出の1つや2つ生まれ変わったら有ったっていいじゃないかっ」


「逆ギレ?逆ギレなのちょっと」


 この兄さん子どもか。

 あー、でも言いたい事は理解出来なくもないんだよなぁ。17才だもんねぇ亡くなったの。腐女子から脱却して全うな乙女の道に進んでたかも知れないし。


「……最終日だけなら考えてもいいわ」


 つい言ってしまった。


「本当に?!ありがとう!」


 兄さんすごい食いついた。


「でもガラスの靴とかなし。ごく普通のパンプスで。

 あとマリアとカタリナかあさんの分のドレスと靴も。父さんのスーツと靴も用意してくれたらいいわ。最終日舞踏会に出ても。でも本当に基本のステップ位しか知らないのよ。しくじっても知らないからね?」


「大丈夫、自然に踊れる仕様に靴が出来てるから!

 あとみんなの分も任せて!」


「でも、みんなにどう納得させるかよね……いきなりそんな高価なものがなんであるのって話になるし」


 兄さんはウインクした。


「それもOK。夢の中で操作して持ってて当たり前の状態にしとくから。

 でも、お願いね。頼むから一回だけは王子と踊って。

 若い女性は必ず1回ずつ踊るみたいだからね舞踏会の参加者は。一応花嫁探しも兼ねてるし」


「……とてもイヤだけど、機会があれば踊るわよ。でも惚れられると思わないでね。まぁ万が一惚れられても困るけど。私スイーツの店を出す夢があるし」


「充分充分。彼女も成仏出来るし」


「地縛霊みたいに言うな。彼女はベース私なんだから成仏されても困るんだけど」


「ごめんごめん言葉のあや。まあとにかく頑張って♪」


 明日まとめて荷物届くようにするから待っててねー、と兄さんはいきなり部屋からかき消えた。

 モノホンの魔法使いだったか。


「……はぁぁ……」


 なんか、考えても無駄な気がして、早々とベッドへ潜り込んだ。



 翌日の昼ごはんの時、『遠縁の羽振りのいい親戚がせっかくの機会だからとほぼ使ってないスーツやドレスや靴を贈ってくれた』と思い込まされたカタリナが私へのドレスを渡してくれた。


「最終日の舞踏会位は経験してみましょうよ!こんな機会は2度とないもの。

 マリアもレラちゃんも可愛いから着飾って行きましょうよ。メイクは私に任せて!」


 とテンション上げ上げのカタリナかあさんを見ながら、どんどん童話の展開とだだ被りしてくる事に怯えてる私がいるのであった。





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