第6話「冒険者ギルド」
建物に入った瞬間感じたのは、酒の匂いだった。あたりを見回すと、ガタイのいい男達が朝早いというのに酒を飲み騒いでいた。飲み始めなのか、昨夜から飲んでいるのかはわからないが、それぞれ顔を赤く染め笑いあっている。
少し進むと、一面に紙が貼られたボードが現れ、その先には受付らしいカウンターが設置されている。ボードには数人の男たちが集まり紙を見比べていて、その紙が依頼書であると簡単に推測できた。
受付まで歩き、そこに座って笑顔を浮かべている女性に話しかける。
「すみません、冒険者登録をしたいんですけど。」
「はい、登録でしたら、こちらの用紙に名前と年齢を書いていただきます。その後で試験を受けていただきますがよろしいですか?」
「試験ですか?」
登録自体が簡単に済むと思っていた俺は、そう質問した。冒険者っていうのは誰でもなれる職業だと思っていたからだ。
「はい。依頼には危険なものもありますので、基準をクリアした方でないと登録はできないんですよ。」
「ああ、なるほど。」
やはり現実はそう甘いものではないらしい。確かに冒険者と言えば魔獣を倒したりするイメージが強いもんな。
「ちなみにどんな試験なんですか?」
「簡単ですよ。魔力の測定を行うんです。魔法使いではなくても、魔力は肉体強化などに使えますし、やはりある程度の魔力を持った方でないと、採用はできません。」
「わかりました。お願いします。」
そう言って俺は用紙を返す。昨日はあまり気にしなかったが、宿の看板の文字を読めたりと、この世界の文字は日本語そのものだった。おそらくあの女神さまが何かしたんだろう。
「はい。大丈夫です。タクトさんですね?二階の応接室で試験を行いますので、一緒にお願いします。」
「わかりました。えーっと・・・」
「あ!申し遅れました。私、冒険者ギルド、デオール支部の受付を任されています、マリアと申します。」
「よろしくお願いしますマリアさん。」
お互いの自己紹介が済んだところで、俺たちは二階へと向かった。
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「これは?」
目の前に出されたボーリング玉サイズの水晶玉をみて俺は質問をした。
「これが魔力測定の魔道具です。この水晶に手をかざすと、持ち主が持っている魔力の量を色で表してくれるんですよ。」
「へぇ、ちなみに一番低い色は何ですか?」
「一番低いのは灰色ですね。ほとんど魔力を持たない人はこの色が出ます。それから順に青、緑、紫、赤となっています。ちなみにこの色はギルドランクの色でもあるんですよ?Dが青、Cが緑、Bが紫、Aが赤になります。登録するともらえるギルドカードはこの色で作られています。」
「つまり魔力値とランクの最上位が赤っていうことですか。」
「いえ、Aランクの上にもう一つ、Sランクっていうギルドランクが存在します。この場合の色は黒ですね。ただSランクは世界でも五人しかいないので、あまり参考になりませんよ?」
そう言うとマリアさんは、「どうぞ」と言って水晶玉を差し出してくる。
「かざすだけでいいんですよね?」
「はい。水晶の上に手をかざしていただければ。」
指示に従い机の上の水晶玉に手をかざしていく。
最初に試験と言われた時は、筆記とか対人戦闘を行うのかと思ったので焦ったが、これなら突破できるだろうと思っていた。
―――女神さまが言うには俺には魔力適性っていうのがあるらしいからな。
どんな色が出てくるのかと、マリアさんは笑顔で、リリアは興味津々といった風に眺めている。
しかし、二人のその表情は次の瞬間には恐怖に変わった。
パキンッ!!
まず俺たちの耳に届いたのは何かが割れる音だった。手元を見ると水晶玉に亀裂が入っており、その亀裂から黒い風があふれ出す。
「うぉ!!」
とっさに手を放すが、水晶を中心に起きるその黒い暴風に部屋の物が破壊されていく。
「なんなんですかこれ!?」
聞いていた話と違うと、視線をマリアさんの方に向ける。しかし当のマリアさんも何が起きているのか理解できていないらしく、茫然とその荒れ狂う黒い風を見つめている。
「マリアさん!!」
今度こそ聞こえるようにと声を張り上げてはなった俺の言葉はどうにかマリアさんの意識をこちらに向けられたようだった。
「は、はい!!」
「これはいったい何です!!」
「わ、わかりません!今まで一度もこんなことには・・・!」
「くそっ!リリアは大丈夫か!?」
「はいです!しっかりタクトさんにつかまっていますです!」
「よし!!」
リリアの無事を確認した俺は、広がりつつあるその暴風から逃げるべくマリアさんの肩をつかむ。
「立ってください!逃げたほうが良さそうです!」
「え、ええ!!」
二人を連れ、応接室のドアへと向かうが、すでにドア周辺は黒い風が舞い近づけなかった。リリアは俺の腕をつかみ目を瞑ってるし、マリアさんも恐怖のためか震えているばかりで助言をくれそうにない。
―――こうなったら一か八か!!
そう思い扉とは逆方向、窓へと向かう。
「二人とも!飛び降りるぞ!」
「え!?」
「です!?」
二人は俺の言った意味がわからないとばかりに、目を大きく見開いて俺を見る。しかしそこで問答をしている暇はなかった。
「行くぞ!!」
そう言うと俺は二人を抱え窓を突き破った。
「え・・・えええええええええ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
二人の悲鳴が響くが、「気にしている場合じゃない」と、俺は着地に意識を変更する。しかしさすがに二人を抱えた状態ではうまく着地できるはずもない。俺はこちら側の世界に来たばかりの異世界人なのだから。
ドシンッ!!
鈍く響く音と、背中に加わった衝撃で俺は自分が背中から落ちたということを実感する。俺の腕には変わらずリリアとマリアさんがおり、二人のクッション替わりにはなったと安堵した。
「おい、大丈夫か?」
二人へと問いかけるが返事はない。どうやら先ほどの黒い風に相まって、ショックで気絶しているようだった。
「そうだ!!あの風は!?」
あのまま広がっては周囲に被害が出ると思い自分が落ちてきた二階の窓を見上げる。徐々に窓からも漏れだしてきているその風に対し恐怖を感じる。
「このままじゃ!」
パァン!!
「え!?」
どうにか周囲の人間を逃がさなければと思い、立ち上がろうとした時だった。拍手のような音が響き、次の瞬間には黒い風は散っていった。
「なにが!?」
散っていった風は黒い粒子のようになってあたりを漂っている。そしてその中、自分たちが飛び降りるために突き破った窓の中から、一人の女性が手を合わせながらこちらを見つめていた。
まるで、面白いものを見つけたといわんばかりの妖艶な笑みを浮かべて・・・・。
ここまで読んでくださり、ありがとうござます!!