異世界転生した元ニートがチートで少女を誑かしつつ無双する話を転生物書く気がしない筆者が短編にするとこうなる
桜庭菊花「やあ、かもさん。僕の発明した〈お題BOX〉だよ。小説を書くためのキーワードが書かれたクジを自動生成してくれる優れものなんだ」
賀茂川家鴨「ほほう。引いてみて下さい」
桜庭菊花「はーい。抽選の結果、お題は『転生』と『チート』になったよ!」
賀茂川家鴨「……はあ。2枚しかくじがないですからね」
桜庭菊花「ちゃんと大衆向けを意識して書いてね。あと、これは僕からのお願いだけど、普段かもさんはエロとか恋とか書きたがらないから、『エロ(R15)』と『恋愛』は必須項目にするからね。あと、『男主人公』だよ。2000文字程度で書くこと。いつもの教養とかナントカとか、難しいことは絶対に書いたらダメだよ。頭の中が空っぽでも読める娯楽100%の作品にしてね!」
賀茂川家鴨「いえ……そういうものを書く性分ではないのです」
桜庭菊花「決まり! 思考停止して、さらっと読んでね!」
1 はじまり
ニートで引きこもりの俺は、醜いデブだった。大学受験に失敗して、親のスネをかじって生きのびている。ろくに勉強もせずに、ネトゲをやる毎日だ。
俺は自宅でアルバイトのひとつもせず、親の貯金を食い潰していた。
「何か面白いことねぇかなあ」
平日の昼間に、コンビニでカレーライスを買おうとしていたところ、トラックに轢かれて死んでしまった。短い生涯だった……。
2 てんせい
目が覚めると、眩い光に包まれた。身体がふわふわした感じがする。
「あーっはっはっは、わらわは女神じゃ。名前は決めてない」
「女神様、俺は死んだのか?」
「そうじゃよ。だから、そなたに新しい生を授けてやろう。いままで不憫な生活をしておったようじゃから、ちょっとサービスをしてやろう」
自堕落な生活の間違いじゃないのか? まあいいか。
「そうじゃのう。ちょっとした技能と、おまけで少女をプレゼントじゃ」
……何かおかしな単語が聞こえたけれど、気のせいか。
俺は再び眩い光に包まれ、意識が途切れた。
3 ちーと
文字、か……。どういうことだ?
俺は後頭部に柔らかい感触を覚えて、目を覚ました。
木製の家、ここはログハウスか? いや、それより……。
「あ、起きた?」
俺が目を開くと、ふわふわしたものは、少女の胸だと気づいた。
あどけない声だ。
たっぷりと柑橘系の甘い香りを堪能する。
おそらく、女神様がくれた少女だろう。好きにしていいんだよな?
それより、何だか身体が軽い気がする。
見下ろすと、腹はへこみ、筋肉質な細い腕がそこにはあった。
「もうちょっと寝る?」
少女はのんびりした声で、俺をたわわに実った胸元に誘う。
俺はもう少しの間、枕を堪能してから、身を起こした。
ふと、腕をのばすと、ウインドウらしきものが表示される。
なんだ、これ。
左上には《少女 Lv.70》、体力などのステータス、年齢、身長、体重、スリーサイズ、装備品など、事細かに表示されていた。レベル高いな。
少女は小首を傾げている。このウインドウが見えていないのか?
俺はステータス欄のスリーサイズを興味本位でいじってみた。
ウエストを少し減らして、バストを引き上げてみる。
「ひゃっ!」
「どうした?」
と言いつつ、バストをじりじりと引き上げる。
少女胸のあたりが膨らんでいくのがわかる。
俺は少女の胸で寝た。うむ。これぐらいが心地よい。
次に装備品をいじってみた。
「ひゃあっ!」
俺は少女の装備を下着から順番にストレージマークの中に移動させていく。
さすがに全裸はまずいので、ふかふかの胸の脂肪分で我慢する。
「襲撃だー!」
「何だ?」
外から野太い男の叫び声が聞こえてきた。
少女は俺の額をぽんぽんと叩く。
「勇者、村を救おう?」
「勇者? 俺のことか?」
こんな俺好みの少女に頼まれたなら仕方がない。
俺はログハウスの外に飛び出した。
4 しゅうげき
「なんだ、ありゃ!」
体長5メートルはあろうかというゴーレムが街を破壊しながら歩いている。
このままだと俺達の愛の巣も破壊されてしまうだろう。
俺は腕を掲げ、ステータスウインドウを開き、値を睨んだ。
えーと、《ストーンゴーレムマスター Lv.200》……うわぁ。
装備は……なし。レベルやHPは……さすがに弄れないか。
そうこうしているうちに、ゴーレムは俺の傍らにいる少女を掴みあげた。
「あう」
ごつごつした掌で、少女をぎりぎりと締め付けている。
しかし、少女は顔色ひとつ変えずに我慢している。
「待ってろ! 今なんとかするからな!」
少女はこくりと頷いた。
何かないか……この状況を打開する方法は。
俺はゴーレムから距離を取りつつ、考える。逃げてるわけじゃないぜ。
「勇者」
「どうした」
「だめかもしれない」
「もうちょっとがんばってくれ!」
めきめきと少女の骨のきしむ音が俺を焦らせる。
くっそおおお、どうすりゃいいんだよ!
いくら転生したとしても、俺の貧弱な体力じゃ勝ち目がねえよ!
なにしろ、立ち向かう勇気が出ない!
俺は、もともと、引きこもりのニートだったんだからな!
「あ……」
少女が口から血を吹き零した。やばい。やばい、やばい、やばい!
はっ、そうだ。
この身長とかスリーサイズとかはどうなんだ!
「喰らえっ!」
俺はストーンゴーレムマスターのウエストを0に下げた。
するとどうだろう。ゴーレムの腹が捻じ切れて行く。
ゴーレムの上半身がガラガラと崩れ落ちる。
少女が落下してくるので、少女の体重を0.1kgまで下げた。
すると、ふわふわと風に揺れながら、少女は地面に着地する。
風で飛ばされないように、元の体重に戻しておく。
「怪我はないか?」
「ない」
「嘘つけ」
俺は口元の血液を掌で拭ってやった。
ゴーレムの身長を最低値にすると、瓦礫はアリのようなサイズになった。
俺はそれを足で何度も踏みつける。
敵の体力が0になったことを確認し、俺はぐっと掌を握った。
衛兵らしき人物が俺の元に駆け寄り、目をみはった。
「おお、あのストーンゴーレムマスターを倒してしまうとは! これは、すばらしい! 王に報告せねば!」
5 終劇
こうして、俺は王様に謁見し、少女とともに王国貴族兼冒険者として名を馳せることになった。
やがて、俺は少女と結婚式を挙げることとなる。
俺は純白の衣に身を包んだ少女の薬指に結婚指輪をはめ、誓いのキスをする。
少女はぽっと顔を赤くした。
「これからもよろしくね」
「ああ」
幸せの鐘の音が、教会に響き渡る。
魔王を倒した俺は、王の座を引き継ぐことになるのだが、それは別の話。
めでたし、めでたし。
賀茂川家鴨「疲れました……これはひどい」
桜庭菊花「じゃあ、この調子でもういっかい抽選やろうか!」
賀茂川家鴨「やりません。代わりに締めてください」
桜庭菊花「むう。かもさんが娯楽=気晴らし100%の物語小説を書きたくない気持ちはわかるよ。でもさ、例えば、疲れた学生や社会人などを想像してみてよ。辛い現実ばかりで、難しいことを何も考えたくないとき、無料で脳味噌を無にして現実逃避できる娯楽本を、ある種の『習慣動機』として読みたくなるものなんだよ。ゲームファンタジーでお約束の展開なら、鍛えられた読者の方ならすぐに世界観を共有できる。だから、こういう作品も必要だと想うよ。こういう作品ばかり読まれると困るけどね!」
賀茂川家鴨「幼少期からこういう作品ばかり読んで、ダメになっていく読者が容易に想像できます」
桜庭菊花「まあね」