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会いたいと誰かが呼ぶ

作者: あまね

 気がつくと見知ったところにいた、それはたまにあることだろう。

 これが異世界にいく物語の話の序盤だったら、自分もかなりパニックになるだろうし、わくわくもしたかもしれない。

 

 見知った場所ではトキメキも不安になることもない、パニックになるということも無い。


 小さい頃によく遊んだ神社近くの公園に、夜にただただ立ち尽くす、高校男子というなんも不思議は無い状況にすぎないと思えばいい。

 しいての不安といえば、ズボンのポケットを探っても、小銭も財布もないので、自分の家に帰るのに電車をつかえずそれなりの距離を歩いて帰らないといけないということだ。


 携帯でも持っていれば、迎えなどを頼めた可能性もあるものだが、歩いて帰れる距離なんだから、あるいて帰れというなにかのお告げなのかもしれない。

 

 自宅へと向かって、歩き出そうとしたが、靴を履いていないということに気づいた。

 

 靴を履いていないと足の痛みがひどいものだ、その痛みに先程まで問題としていなかった事だが、よくよく考えてみれば、見知った場所に気がついたらいたということは、なにか心が空っぽになりふらふらと出歩く、まるで夢遊病かなにかなのだろうか。

 僕としては歩いた覚えも無いし、さきほどまですることがなくてベットで寝ようとしていたはずだが、記憶違いというのもあるだろう、なにか突如悲しい事でも起こり、自暴自棄に歩いて、公園へとたどり着いたのだとしたら、財布もしくは靴を履けとそのときの僕に言いたい。


 小さい頃の記憶というのがあてにならないのか、当時夜中歩くということをしなかったからなのか、それとも近所とはいえ引っ越して十年近くたっているのだから、小さい町といえど、それなりに所々変わっている部分があるせいなのか、様々な要素があるが、見知らぬ町を歩いているような期がしてならない。


 いや、本当は知らない町なくせに、似たような風景だけで、小さい頃に来たことあるとなど思い込んでしまっただけなのだろうか、それなら先程までの若干の余裕を返してほしい、不安しかない。


 道に迷ったといってもいいぐらい、うろちょろする、駅の方角はあっているような気はするが、どうもきちんと進めているような気はしない。


「清水、なにやってんのこんな時間にしかも靴下とか、変態なのアンタ」


 小さい頃、近所に住んでいて、今は同じ高校という腐れ縁であまり可愛くないと言い切ることができる矢沢という存在でも、この状況では天使にも見えてくるから不思議だ、もう今だったら可愛いからアイドルオーディションでもいけよと太鼓判を押してもいいかもしれないぐらいに可愛いくみえた。


「矢沢金を貸してくれ、できれば靴も」

「矢沢様だろ」


 訂正、なにか分らないが、優位にたったとばかりにほくそ笑む姿は天使なんかじゃなく、どこの女王様だといいたい、しかしながら悔しいことに、今の状況は完全に矢沢様が有利だ。


「矢沢様、お金を貸してください、できれば靴もお願いします」

「まぁいいけど、お金は返してよ」

「わかっている」

「しかし、アンタ常々変態だとはっきりと分っていたけど、か弱い女子を負ぶって自分の家まで帰りたいとかどんな変態?」

「そんな変態は体育会系にいるだろうが、僕は生憎と文系だ」


 なぜ背負わなければならないのだ、胸もないような感触を楽しめない、へたしたらクビをしめられる様な女王様に背後を任せるほど僕は人間やめていない。


「冗談だよ、苦しむ姿を見たいだけ」

「いや、そういうの勘弁しろよ」

「そういや、さっきからなんでタメ語?」

「すいません、矢沢様」

「よろしい、じゃあお金と靴とりに私んちに行こうか、そこまでは我慢してよ」


 深々と頭を下げる、土下座すらいとわない。

 お金と靴を借りるために、人は高も簡単に卑屈になれる。

 僕は前者はともかく、後者は初めて記憶した。


「まぁ、冗談はおいてお前が体育系の変態じゃないのに、靴下で此処まで何しに来たの?」

「いや、気づいたら、公園にいたんだよ、本当ならベットの上で眠っているはずなのに」

「この時間に寝るとは優等生か貴様」

「いやいや、やる事がなかったから寝ようかなって思っただけ」

「寝ようとした人間がなんで、裸足で私んちの近くの公園にいたのさ」

「いや、だから気がついたら公園にいたんだよ、不思議なことに」

「その言動のほうが不思議だよ、今更変態キャラから不思議ちゃんに変更する気?」

「そんな気は毛頭ない」


 いや確かに気がついたら、公園にいましたなんて言われても普通なら、さっぱり分らないとい言われてもしょうがないし、しかしこちらとしても気がついてたら公園にいましたというより他無いのだから、困ってしまう。


 考えると異世界にいくような物語の主人公達はその点言い訳がきくだろう、なにせ遠いところから来ましたといえばとりあえずは誤魔化せるのだから。

 

「秘められた力でも目覚めたのかもね?」

「いっそのことコレが何もかも夢で目覚めたらベットの上って言うのが理想だね」

「目が覚めても夢で私にお金を借りたなら貸すお金は返してよ」

「それはひどい」


 夢で借りたお金を現実で返せなんて、ひどい腐れ縁の女王様だ。


 その女王様と歩いていると、昔を思い出したように、先程知らない町だと思ってしまった町も怖くなく、むしろ安心感や懐かしさに包まれるような気がするのは不思議なものだ。 


 流石は女王様といったところだろう。


「まぁでも夢物語だったら心あたりあるわね」

「なにが?」

「アンタがあの公園にいた理由」

「へぇ 僕が悲しい思いしたからとか夢遊病以外で?」

「うん、ほら誰かが会いたいと思ったらその誰かが夢に出てくる見たいな感じで誰かに呼ばれたのよ」

「あぁ、じゃあ誰が会いたいって思ってくれたのか、それは光栄だねぇ」


 そんな風に思ってもらえる人物に心あたりはないけれど、それは嬉しいことだと思う。

 それが奇跡的に叶って、僕をあの公園まで呼んだのならそれは運命だと思える。


「そしてそれは女性で私はその呼んだ人を知っているし、あんたも知っているわよ」

「マジで」


 驚いて矢沢を凝視してみると。矢沢がなにやら恥ずかしそうに告げようとしている、もしかしてこの女王様のような腐れ縁の矢沢が呼んだとでもいうのだろうか、それは恥ずかしい。

 

「私のおばあちゃん、再婚相手探していた」

「美香子さん、若いなぁ」 


 勘違いが恥ずかしい。

 いや、美香子さん確かに小さい頃結婚するとかいった覚えも無きにしろあらずというか、でもたしか美香子さんもう米寿近かったような気がするし。


「ほら小さい頃、あんたおばあちゃん好きだったし、私も一緒に暮らすのは、やぶさかではないわよ」

「いやいや、ちょっと背負えねぇですよその現実は美香子さんに結婚するって言った気はするけど」

「変らないって素敵だと思わない?」

「いや思うけど、小さい頃とは違うよ、あぁもういつまで引っ張る気だよ、冗談だよな?」

「わりと本気でおばあちゃん再婚相手探していた」

「お前の家に行きづらくなるような話をやめてくれよ」


 そんな与太話をしていると、矢沢の家につくと隣には昔住んでいた家が見える、懐かしいが、やっぱりもう他人の家なのだろう、知らない犬の鳴き声がした。


「はい、お金1000円ぐらいでいいよね、靴は父さんの予備のスニーカー」

「あぁありがとう」

「いいわよ、それと念のための地図」

「ありがとう、本当に助かった」

「あっそ、靴はどうでもいいけどこの恩とお金を返すのは忘れないでね」

「はいはい、それじゃあお金は明日あさってぐらいには返すから」

「恩もきちんと返しなさいよ」

「はい善処します」

「あと物覚え悪いようだから言っておくけど、おばあちゃんの前で結婚するといったのよアンタ」


 矢沢がドアを閉める前に言った最後の言葉に、僕は帰り道もどう帰ったか分らないまま家にたどり着くのだ。 

 


 

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