11 side バルジオーザ 【告白】
今日のオリーヴは、我がクリーチィを通じてオリーヴに渡した新しいドレスを身につけて、食堂に現れた。
光沢のある薄紅色の胸当てとスカートに、透ける白の長いベスト。そして、瞳の色に合わせた深い緑の長い帯を前で結び、長く垂らしている。
黒も似合うが、華やかな色も似合う。我のオリーヴは、何を着ても美しい。
「今日の食事は、半分がイドラーバの食材だ。だいぶイドラーバに染まってきたな」
我のこの言葉を聞けば、オリーヴは我を疎ましく思うかもしれない。しかし、いいのだ。近づき過ぎるよりはな。
そう思った時、オリーヴがためらいがちに言った。
「……あの……」
「何だ」
「少し、お話を、したいんだけど」
「好きに話すがいい」
「そうじゃなくて」
オリーヴはうつむく。
「あの……他の人には、聞かれたくない話」
我は固まった。
ふ
ふ
二人きりで、ということか?
「あの……後で、寝る前に、廊下の暖炉のところで待ってるから」
そういって、オリーヴはもくもくと食事を始めた。
待 っ て る か ら 。
頭の中で、オリーヴの言葉が木霊する。
これは……噂に聞く、「待ち合わせ」というものではないだろうか!?
我はイドラーバの王であり、誰かと会うときは呼びつけるか、勝手に押し掛けるかしていた。待ち合わせ、など、したことがない。
緊張が走る。いや、緊張など必要ない、ただ単に食事が終わって少ししたら、三階の廊下の暖炉に行けばいいのだろう?
しかし結局、我は夕食を食べる気がなくなり、オリーヴを見つめながらひたすら「待ち合わせ」のことを考えていた。
三階の廊下は、しん、と静まりかえっている。風や雷鳴さえ、今夜は息をひそめているかのようだ。
カチャッ、と扉の開く音が響き、オリーヴが廊下に出てきた。
ドレス姿のままのオリーヴは、物憂げな表情をしている。その立ち姿はランプの灯りに照らされて、神話の女神のように幻想的に浮かび上がっている。
暖炉から少し離れた柱にもたれていた我は、腕組みをしたまま言った。
「我と『待ち合わせ』とは、いい度胸だな」
……間違えた。「我を呼び出すとはいい度胸だな」と言おうと思ったのだが、頭の中で「待ち合わせ」「待ち合わせ」と唱えていたら……
「…………」
オリーヴは我をじっと見つめると、我の方へ近づいてきた。
「座れ」
我はオリーヴが暖炉の前にさしかかったところで、命じる。オリーヴは軽く首を傾げた。
「あなたは?」
「我のことは良い」
答えると、彼女はドレスの裾を慣れない仕草で摘みながら、ソファに腰を下ろした。そして、離れたところにいる我を見る。
「あの……今、あたしとあなたの他に、話を聞いている人はいない?」
彼女の仕草や視線の一つ一つに見とれつつも、我は辺りに意識を張り巡らせた。今、この別棟には、我とオリーヴだけ。二人きり、だ。
「おらん」
「じゃあ、言うけど、あの」
オリーヴは我から目を離さないまま、こくり、と喉を鳴らしてから言った。
「予言が、あったんだってね。あたしが生む子がイドラーバを滅ぼす、みたいな予言が」
頭の中が、一瞬真っ白になった。
オリーヴは予言のことなど知らなかったはずだ! 誰が教えた!?
「ギルフから聞いたのかっ」
ぐわっ、と翼を広げて奴を捜しに行こうとすると、オリーヴが中腰になってあわてた様子で止める。
「ち、違う。この間、逃げようとしたときに、図書室を通って、その時に初めて知ったの。本で」
本? たしかに、図書室には予言を勝手に記録する『予言録』があるが、どの本が『予言録』かなどオリーヴは知らないはずだ。
焦りと苛立ちと心配を押し隠しながら、我は問いつめる。
「逃げようとしている時に、自分が予言に出てきたことも知らず、わざわざその一冊を探し出したのか? あの大量の本の中から?」
「呼ばれたの、本に」
オリーヴはうまく説明できないのか、座り直しながらたどたどしく言う。
「本たちが、まるでひそひそ、噂話をしてるみたいだった。その中から、オリーヴ、って声がして」
『予言録』がわざわざ教えたのかっ。あの本め、予言の本人が来るなどと言う珍事に、浮かれおったな……!?
「ギルフさんは予言を知ってるのね? ……確か、『フォッティニア王国ガーヌの町に住む乙女、名をオリーヴ。彼女が生む子は、フォッティニアの敵を滅ぼすであろう』……だった」
正確にそらんじてみせるオリーヴ。
我は翼を納め、心を落ち着けようとしながら威圧的に答えた。
「予言を知ったからとて、どうする」
「どうする、って」
オリーヴは一度視線を膝に落とし、両手の指を絡めた。
「知って、色々考えて、疑問が解けたなって……。例えば、あなたがなぜあたしを、ここに連れてきたのか」
どくん、と、心臓が脈打つ。
何を言い出すのだ、オリーヴは……
彼女のふっくらした唇が、動く。
「普通なら、あたしを殺すはず。ガーヌに来たのは、殺すためでしょ? でも殺さなかった。女なんていくらでもいるのに、よりによって一番、生かしておいちゃいけない女を、王妃に選んで。ずっとあたしを見てる。どうしてかなって、考えた」
オリーヴは顔を上げ、我の目を見つめた。
「予想が違ってたら恥ずかしい、って一瞬思ったけど、あたしをさらったあなた相手に恥じらってる場合でもないし、言うわ」
そう言いながらも、唇はためらい、視線は揺れる。しかし、彼女は思い切ったように言った。
「あなたは、あたしを……すき、に、なったの? だから殺さないの?」
角から力がピーッと吹き出し、廊下の壷が一つ、割れた。
「……な……なに、を」
言葉が、出てこない。
オリーヴが予言のことを知ったらどういう行動に出るかは、考えていた。我でも誰でも良いから、とにかく誰かとの間に子を作ることを望むだろう、と。
しかし、面と向かって、「あたしをすきになったの?」……だと?
唇を引き結び、我の返事を待っているオリーヴ。
決意の表情の彼女は、凛として美しく、そして可愛い。
「そうだ。好きだ」
つい、口をついて出た。
はっ、と、オリーヴが目を見開いた。
……………………言ってしまった。
今まで「気に入った女」程度の扱いをしつつさんざん威圧してきたオリーヴに、言ってしまった。
オリーヴは、我の好意など、信じるだろうか?
信じたら、何かが変わるのか……?




