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私と冒険と精霊と  作者: 直村 もと子
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ロウィン

「ナタリー、おはよう。ねぇこれ見て」

と嬉しそうに手を差し出してくる。

「あれ、指輪買ったの?して無かったよね」

左手の中指に幅広の指輪がはまっている。銀色で模様が刻まれていた。

「ほら、買い物に行った時魔道具屋で買ったアイテムボックス。

使用者限定式で指輪型なのよ。昨日受け取りに行ったの。容量が少し少ない気もするけど、きっと役に立つわ」

「それって魔力が無いと使えないんだよ。んで容量どの位あるの?」

大事そうに指輪を撫でながら答える。

「五十種類を五十個までなの」

「それだったら当分は大丈夫じゃないかな。それにしても嬉しそうね」

「そうよ。初めて買った物だもの。大事にしなきゃね」

「普通は6級位で用意し始める物だからね。無くさないように。

見た目だけは立派な冒険者なんだから、変なやつに引っ掛かって、身ぐるみ剥がされ無いようにって…何だか私注意ばかりしているよ」

「あら、重要な事を色々教えてもらってるわよ」

「まあ、リリアがそう思ってくれているなら、それでも良いわ。

ここ数日特に頑張っていたから、私も言っておく事が少なくなってきたしね。それとロウィンだけど昨日、帰ってきたよ。多分もうすぐここに来るんじゃないかな」

「本当、だったら待ってようかしら。今日依頼を受けたら十個目よ。昇級試験を受ける前に声を掛けるように言われているし」

「草刈りに犬の散歩、子守りに料理に刺繍があって、それから配達とまた犬の散歩、あとは店番と収穫の手伝いで九個ね。確かにあと一つだね」

二人して指を折りながら数えた。

「今日は何を受けるの?」「まだ決めてないわ」

ギルドの扉が開いてロウィン達が入ってきた。

「おはよう」

「おはようございます」

「おう、早いな」

「今、あんたの話をしていたところだよ」

「俺の、何だよ」

チームの三人は酒場に席をとった。

「私の昇級試験の事なんです。受ける前に言うように始めに言われてたから」

「もう十個終わったのか?」

「いいえ。今日で十個目なんです」

「ついでにこの子凄いよ。正式な巫女になったんだ。あとは、実践だね」

「そうか、思ってたより早いな。訓練もやっていたか?」

「はい。伝言通り武器には触ってません」

「今日の依頼はなんだ」

「まだ決めてません」

「そうか」

ロウィンが掲示板に向かった。

「たいしたのは無いな。何でもいいが早く終わりそうなのにしておけ」

リリアも掲示板を見渡す。「じゃあ、また配達にします、ナタリーお願い」

依頼票を渡す。

「了解!ところでアイテムボックスの使い方は大丈夫だね」

「うん、昨日色々試したから判ってるわ」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「行ってきます」

扉をあけ、リリアは元気に飛び出して行った。



昼過ぎにリリアが帰ってきた。これで十個完了だ。

「ナタリー、終わったよ」良い笑顔で告げてくる。

「じゃあ、昇級試験だね。ちょっと待って」

カウンターから出たナタリーはロウィンの席に向かう。なんと無くリリアもついて行った。

「邪魔するなって言っただろう」

とは言いつつ、こうなることが判っていたようだ。全然酔っていない。

「お邪魔します。フャーリさん、レイさん、エルヴィさん」

「大丈夫だよお嬢さん」

フャーリが答えてくれる。「今日は仕事が終わったから飲んでるだけだよ。一緒に飲まないか」

「すみません。お酒は苦手なので…」

レイが話しかけてくる。

「フャーリ、まだこの子は15になったばかりだよ。酒の味はまだこれから覚えていくんだよ。

ねぇ、お嬢さん。たしかリリアだったよね」

「はい、覚えて頂いてたんですか」

「ここは女が珍しいからね。私も初めは酔っぱらい相手に苦労したよ」

「レイが苦労してたなんて想像できないな。殴り倒しているところなら分かるけど」

「なんだって、エルヴィ」

「大した事じゃ無いよ」

息が合っている。とても仲が良いチームのようだ。

「ナタリー、用件は判っている」

「一応五時まで予約してあるよ」

「分かった。リリア、訓練所に行くぞ」

「はい」

連れ立って行く二人にナタリーは手を振る。

「リリア、頑張って!」

訓練所でロウィンはリリアに訓練用の剣と短剣を渡した。

「魔法が使えるんだ。遠くの敵はそれで戦える。問題は敵が近くに居た場合だ。どうしても剣で戦う事になる。

それから採集依頼のときは近すぎて剣でも長すぎる。そんな時は短剣を使うんだ。それに短剣は木を削ったり、夜営の時に役に立つ。剣は左脇に短剣は右から腰に装備するんだ」

「はい」

「あと左手には盾だな」

木製のバックラーを渡される。重りが入っているのか見た目より重い。

「いまの装備は皮製だからまだ良いが、金属製になると重くなる。使えそうか?」

「はい、まだ大丈夫です」

「装備で無理はするなよ。お前は後衛で戦う方法も有るんだ。

例えばうちのチームにいるファーリがそうだ。だがソロで戦うなら武器は必要だ。戦い方を覚えておいた方がいい。

それから剣に拘るな。剣を使いつつ足で蹴って来るやつもいる。見た目を気にするな。生き残る事を考えろ」

説明しながらロウィンも自分の用意をした。武器はリリアと同じ剣だ。

「じゃあ、素振りからだ」

「はい!」

ロウィンが見本を見せてくれる。リリアも真似をして横で振り始める。上から下へ、または右から左、左から右へと振り続ける。

「肘が曲がってきているぞ。しっかり伸ばして」

「はい」

「足がふらついてる。もっと強く踏み込め」

「はい」

「背筋を伸ばすんだ」

「はい」

「もっと力強く!」

「はい!」

訓練は素振りだけで終わったがリリアは疲れきっていた。普段使わない筋肉が悲鳴をあげている。

ナタリーが果実水を用意していてくれた。

「お疲れさま。大丈夫だった?」

「あまり大丈夫じゃないかも。身体中が痛いわ」

「二三日は筋肉痛ね。次の予約どうする。ロウィンもまた依頼を受けないと生活があるし、チームメンバーを何日も遊ばせておけないでしょ。

昇級試験受けるか、12級の依頼を受け続けるか、訓練するか、どれ選ぶ」

「訓練をするわ。やっとここまで来たのだから、もっと頑張らないと」

「じゃあロウィンと日程を調整して。火の曜日の件もあるでしょう」

リリアは酒場でエールを飲んでいるロウィンに近づいた。

「ロウィン、今後の日程はどうなりますか」

「ああ、取り敢えずしばらくは長期の依頼は受けない。短期なら受けるが火の曜日にするか、俺抜きで受けるかだな。

そんなに心配いらないぞ。出来るだけはやってやるし、お前なら基本的な動作を覚えたら、後は実践で覚えていくだろう。

多分、お前は練習より実践で教える方が良さそうだ。本番に強いってやつだな」

「そうでしょうか」

「ああ、第一お前はもう巫女の職種を持っている。どんどん現場へ出るべきだ。それで次の予約だか、俺は明日なら一日中暇だぞ」

「じゃあ明日八時から一日お願いできますか?」

「一日は駄目だ。始めに言っただろう。体を休ませるのを忘れるな。

八時からだと十二時までして、休憩をとってから復習に軽く自主練習をする方がいい」

「はい」

明後日あさっては火の曜日だから明明後日しあさっての水の曜日になら昇級試験を受けれられるだろ。お前なら大丈夫だ」

「わかりました。ありがとうございます。私、頑張ります」

一礼してナタリーのカウンターに戻る。

「ナタリー、予約をお願い。明日の朝八時から十二時までよ」

「ん、分かった。取っとくね」


翌日、闇の曜日の朝。

リリアは珍しく寝坊をしてしまった。侍女のケイトが起こしに来るまで起きれなかった。

しかも、筋肉痛で全身が痛い。

「大丈夫ですか。お嬢様」

「なんとかね。皆を待たせると駄目だから、急ぐわ。ケイト、手伝ってくれるかしら」

「もちろんです。少し急ぎましょう」

「ありがとう」

食堂ではすでに皆が集まっていた。

「ねえ様遅いね」

末っ子のシオンが誰に言うでもなく呟いた。姉のリアナが応える。

「すぐに来るわよ。昨日とても疲れていたみたいだから、もうちょっと待ってあげてね」

「うん…」

家長である父、ヴォールスが言う。

「やはり無理にでも辞めさせた方が良いかもしれん。大体もう神殿で巫女の身分を頂いたそうじゃないか。神殿巫女として生きるのも名誉なことだ」

「あなた。その件はもう約束ずみでしょう。親である私たちが約束を違えるのは間違ってますよ」

「それは分かっとるが、毎日疲れて帰ってくるのを見るのは…」

ドアが勢いよく開いた。

「おはよう、遅くなってごめんなさい」

「疲れているのだろう。今日は休んではどうだ」

父が声をかける。

席に着きながら返事をする。

「嫌よ。今はまだ弱いけど体力が付いたら平気になるわ。私、早く強くなりたいの」

「そうか…では朝食を頂こう…今日の恵みがあることを神と精霊に感謝して頂きます」

「「「「「いただきます」」」」」

食後、リリアは部屋に戻り皮鎧等を身に付けて行く。もう慣れたものだ。

初日は固かった皮もリリアに馴染んできている。部屋を出て玄関に向かう。

「行ってらっしゃいませ。お嬢様」

使用人が扉を開ける。そこにはこの前まであった馬車の姿がない。

足腰を鍛えるため歩く事にしたのだ。

「行ってきます」

今日は何時もより少し遅れている。急がなければと早足で歩き出す。筋肉痛が辛いけどその分きっと強くなれる。

リリアは汗をかきながらギルドに予定通り到着した。ロウィンはまだみたいだ。カウンターにナタリーの姿がない。きっと休日なのだろう。

酒場で果実水を注文すると店主から教えられる。

「ここの人気商品はエール、ミード、果実水だよ。食べ物も色々あるのになぁ。朝からエールを飲んでいるやつもいるし、店を閉めてる時間がないよ」

果実水で一休みしているとロウィンがやって来た。

「おじさま、ごちそうさまでした」

カップを店主に返し、カウンターへ向かう。

「おはようございます、ロウィン」

「ああ、おはよう。今日は体が痛いだろう。平気か?」

「判りますか。全身筋肉痛です。でも大丈夫です。頑張ります」

「皆経験してんだよ。じゃあ行くか」

二人で訓練所へ向かう。

「今日は柔軟からだ。それから素振りをして、終わったら人形相手に練習だ」

「はい」

「それぐらいで時間になるだろう。午後からは好きにしたら良いが、昼はきっちり休めよ」

「ロウィンはどうするんですか」

「昼頃にはチームのやつらが来るから、一緒にエールでも飲んでいるよ」

「食べ物も色々あるらしいので、注文して下さいね」

「いつから店員になったんだ」

「だってお酒の注文ばかりで食べ物の注文が無いって、それに閉店時間がないんですって。

凄いと思いませんか?」

「確かにいつもいるな、あの店主。いつ寝てんだろう」

「やっぱり、凄いですね。あのおじさま」

「今は酒場より訓練だ。そう言えば、リリアはまだ武器を持ってなかったな。

俺の予備の短剣をしばらく使え。昇級試験の時、必要かもしれん。それに11級になれば使うことになる。

今度時間がある時に、短剣を買いに行こう」

「はい、ありがとうございます」


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