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私と冒険と精霊と  作者: 直村 もと子
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ナタリー

今日もギルドの朝は変わらない。掲示板を見る人々に混じって依頼を探す。

「どれにしようかな」

自分が出来そうなものを探していると後ろからナタリーの呼ぶ声が聞こえた。

「おはよう、ナタリー。何かあったの?」

「おはよ。ロウィンから伝言だよ。今日から三日間依頼で留守にするって」

依頼の指導者として、また、訓練指導者も兼ねているロウィンの留守は、早く昇級したいリリアには辛い。

「長いなぁ、自主訓練を頑張るしかないかな」

「あっ、それも伝言あるよ。体力づくりなら良いけど武器は使っちゃダメだって。変な癖がつくから」

「えー、仕方ないね。つまんないな。じゃあ依頼いっぱい済ませるわ。そうだ、ナタリーに報告があるの」といってカードを取り出す。

「私、巫女になったの。ほら、もう仮カードじゃないでしょ。正規カードよ」

カード内容を表示する。『職種:巫女、冒険者見習い』

正規カードは銀色で神殿を示す白いラインが真ん中に入っていた。

「本当だ。凄いじゃない15才に成り立てで貰えるのは早いよ。私の知っている限りじゃ一番かも。良かったね!ところでまだ仮カード持ってる?」

「うん。あるわよ。はい、これ」

「冒険者ギルドだけ仮カードだと二枚使わないといけないでしょ。正規カードにデータ移しておくから貸して。すぐ終わるから」

といって、何かの作業をするナタリー。

「聞いているかも知れないけど、正規カードは無くすと再発行に大銀貨一枚の手数料がかかるから、落としたりしないように。

神殿でも再発行は同じ様に出来るけど、ギルドの依頼中の討伐記録までは判らないからね。

まあ無くすとこっちでも判らないけどね。傷位なら何とかなるから。っと、言って無かったっけ。パンフレットにちょっとだけ書いてあるけど、討伐依頼は自動記録だから途中で無くすとまたやり直しだよ。

まだこっちは12級だからすぐには関係ないけどね。はい出来た、これね。仮カードは処分しとくよ」

カードは仮カードと同じ様に縁が黒くなっていた。

「ほら、内容確認して」

右下に指を置いた。

『所属:神殿、冒険者ギルド』『等級:冒険者レベル12級』

「この前買い物にいったでしょ。その時買った中に長い紐が付いたカード入れがあったよね。ロウィンが押し付けたやつ。それに入れて首に掛とくんだよ。ほら、こんな風にね」

襟元から首に掛かっているカードを取り出す。銀色なのは同じだか右側に黒い筋が入っていた。

「これが冒険者ギルドの正規カードだよ。買い物の時も使ってたけど、品物見るのに夢中でこれは見て無かったよね。

ギルド職員か9級以上の冒険者には黒筋が入るんだ」

リリアは羨ましそうに呟く。

「私も早くほしいなぁ」

それをナタリーは聞き咎める。

「ダメダメ!急ぎすぎると実力ないくせに等級だけ上がって、無理して仕事するから、そんなやつはすぐ大怪我なんかしてギルドを辞める事になるんだ。

ちゃんと鍛えなきゃ駄目だよ」

「分かった。ちゃんとするわ。ところで大分混みあって来たわね。邪魔しちゃってごめんなさい」

他の窓口には人が並び始めている。

「邪魔なんかじゃ無いよ。伝言も新人への注意も仕事の内。ちょっと私情も入ってるけどね」

「ありがとう、ナタリー。私依頼見てくるわね」

リリアは掲示板へ向かい再び依頼を探し始めた。

しばらくすると依頼票を持ってナタリーの元へ戻ってくる。

「これにするわ」

差し出された内容は料理の基本を教えて欲しいとのものだった。

「料理出来るの?」

「日常的な物ならね。神殿は料理も当番制だったから教えられたわ」

「へぇ、なんか意外だわ。お嬢さんだから何も出来ないと思っていたよ」

「神殿に入らなければそうなっていたと思うわ。意外な事で役に立つのね」

「まあ、頑張って来て。ほら、完了票」

「それじゃ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

リリアは楽しそうにギルドを後にした。



「はい完了票」

その日午後にリリアはギルドに帰って来た。

「早かったね」

「依頼の人が私と同じ位の年でね。色々話ながら教えられたわ。

作った物は昼食として一緒に食べて来ちゃった。ナタリーにも食べて貰いたかったわ」

「また今度作ってきてよ。お嬢さんの手料理だって言ったら多分争奪戦になって面白いと思うよ。

ほら、報酬金」

「争奪戦?何で」

「ここは手料理に飢えている男達がいっぱいいるからね。

注目のお嬢さんの料理だってなると取り合いになるよ」

「私、注目されているの?」

「気づかなかった?女ってだけでも少なくて目立つのに、それが貴族のお嬢様って言うんだから、今一番の話題だよ」

「そうなんだ。あまり気にしたこと無かったわ」

「これからは気を付けてちょうだい。皆が好意的とは限らないし、身近な危険を避けるのも冒険者の基本だからね」

「分かった。気を付ける」

「それで今日はあとどうするの?」

「何か依頼を受けて、終わったら自主訓練をするつもり。そういえばギルドって何時まで開いてるの?」

「一応、カウンターは午前八時から夜八時までだけど、酒屋が有るからね。

それに緊急事態があるかもしれないから、当番制で夜も誰かいるよ。

ちなみに訓練所は朝六時から夜十時までだよ。遠慮なく使って。

但し、遅くなるなら迎えに来てもらうこと」

「迎えを?なぜ?」

「リリアはまだ暴漢に襲われても対処出来ないでしょうが。夜に一人で帰るのは一人前になってからにしてちょうだい」

「ああ、心配してくれてるのね。ありがとう、ナタリー。気を付けるわ。

じゃあなにか短時間で出来る依頼を探さなきゃ」

カウンターから離れ掲示板を見に行くリリアだった。が、すぐに依頼票を持って戻ってくる。

「ナタリー、これお願い」

「何にしたの。刺繍?時間がかかるんじゃない?これで良いのね」

「大丈夫よ。針仕事は子供の頃から母に教えてもらっているからね。結構得意なの」

「お嬢様の教養ってやつね。私じゃボタン付け位しか出来ないよ。

はい、完了票ね」

「絶対今日中に終わらせるから。行ってきます」

勢いよく飛び出して行った。

「この調子じゃすぐに昇級するね。試験監督人を用意する必要があるかも」

指導者は試験監督人をすることが出来ないのだ。

「また、あの手で決めようかな。12級なら6級以上で大丈夫だしね」

リリアは宣言通り夕方に帰って来た。完了票もちゃんとある。

「帰りにちょっと屋敷に寄って迎えを頼んで来たわ。これで自主訓練をしても良いでしょう。訓練所借りるわね」

「すぐには強くなれないんだから無理しちゃ駄目だよ。それと水分をちゃんと取るの忘れないで」

リリアを見ているとなぜだか世話を焼きたくなってしまうナタリーだった。

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