目標は一級冒険者
拙いながら携帯て投稿させていただきます。遅筆ですがよろしくお願いいたします。
受付カウンターに一枚の用紙が置かれた。
「リリアです。よろしく。お願いします」
明るく元気な声がギルドに響きわたる。
「はい。仮入会届けね。記入内容は…」
受付嬢は用紙と希望者を何度も見比べだ。
希望者は青い瞳を輝かせ、受付嬢の言葉を待つ。
「…リリア=マリアナ=オリガ=エヌスターナさん……ですね」
「はい!」
「オリガ=エヌスターナ様なんですよね」
「どうぞリリアと呼んでください」
近くで掲示板を確認していた男達の声が聞こえる。
「おい、オリガだってよ。本当か」
「冷やかしだろう。女だぞ」
長い黒髪をなびかせリリアが振り替えり、全開の笑顔で答える。
「本当で本気です。よろしくお願いします!」
カウンターの受付嬢が声をかけた。
「すみませんがこちらで間違いないでしょうか、お嬢様」
「リリアです。間違いありません」
「ですがここは冒険者ギルドですよ。貴族の方はあまりいらっしゃいませんし、ましてや女性の方となると…」
「間違いありません。今日15才になりました。手続きをお願いします。
あと身分カードなんですが、これがありますので追記でお願いします」
リリアは白いカードを受付嬢に手渡した。
「…神殿の仮カードですか」
「ギルドって掛け持ち出来ますよね。神殿とはダメですか」
「いえ、大丈夫です。…分かりました。そこまでおっしゃるなら、手続きをさせていただきます」
「ありがとうございます」
「では、ギルドの説明をさせていただきます。
1級から12級まであり級が上がるほど危険もしくは困難になります。正規カードは9級からとなりますので、まず12級の依頼から始めてもらいます。町中での雑用が中心ですね。
級が上がる時には試験がありますので申し込んで下さい。
依頼遂行中の怪我は基本的に自己責任です。
依頼のキャンセルは褒賞金の半額を支払ってもらうことになりますので、無理な依頼は受けないで下さい」
カウンターにカードが戻される。白一色だったカードは縁の色が黒く変わっていた。
「本人確認をして下さい」
カードの右下に指を置くと氏名のみ表記されていたものが、他の情報と共に立体映像のように浮き出してきた。
『所属:神殿、冒険者ギルド』
「やった〜!ありがとうございます。これで今日から私も冒険者ですね!」
「まだ、見習いランクですけどね。
紹介が遅れましたが、私はナタリーと申します。何かありましたら声を掛けて下さい。
それからギルドは平等を基本としてますので、他の冒険者と同じ扱いとなります。くれぐれも無理をしないように気をつけて下さい」
この世界は、人間とそれに類するもの、動物と魔獣で出来ており、王国制度が成り立っている。
王を唯一の者とし、公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵、平民となる。
例外として神殿があり、独自の制度があるため、修行しだいで平民でも人を導く立場となる。
人は、『火・水・風・土・光・闇』を信仰の基礎とし、その数『6』を聖数として崇め、6才に洗礼を受け洗礼名を戴き、12才の天啓で素質を導いてもらう。
12才から15才までは自分を知るために色々な職業訓練に参加し、15才からは師を仰ぎ見習いから働き始めるのが一般的だ。
18才で成人となるまでに何らかの職業を身につけることになる。 つまり15才は働き始める年齢なのだ。
だが、どこでも変わり者はいるもので、リリアもその一人だった。オリガという候爵家の名を持ちながら冒険者ギルドを選ぶなんていままでなかったことで、すでにこの場にいる冒険者達から注目をあびている。
リリア本人は動じることもなく次の段階へすすもうとしていた。
「あの〜ナタリーさん。さっそくで申し訳ないんですが、どなたか指導してくださる方を紹介していただきたいんですけど…お願いできますか」
「紹介ですね…どんな方になってもいいですか」
「ええ、指導をして下さる方ならどなたでも」
「依頼料の五分の一を払うことになりますけどいいですね」
「指導料がいるんですね。分かりました」
「それでは…」
ナタリーが箱を持ってカウンターから出てきた。
ロビー兼酒場に向かって大声で呼び掛ける。
「各チーム代表者全員集合」
リリアは突然のことにその場を動けずにいた。
酒場から何人かこちらに集まってくる。皆仕方ないといったかんじで不機嫌そうな雰囲気だ。
「ナタリー、またやるのかよ」
「いい加減方法変えないか」
など、積極的な者はいない中、ナタリーは動じることなく相手をする。
「昼前から酒のんでるあんたたちに仕事をあげようってんだからありがたく思いなさい」
ナタリーは集まった者たちに箱を向ける。
「当たりは6番だからね。」
リリアもここまでくれば何をしているか分かった。くじ引きで指導者を決めようというのだ。
「リリアさん、あっもうギルド仲間だから普通に話させてもらうね。
今日はついてるわよ。誰に当たっても、問題ないやつらだから安心して」
「…くじ引きですか」
「そうよ。じゃあみんな引いてちょうだい」
順番に箱から紙を取り出す。
「じゃあ、開いて〜」
「やった。2だ」
「おれ7番」
「あ〜俺6番だ。当たっちまった」
「決まりだね。皆、協力ありがとう」
集まっていた者たちはもとの場所へ戻っていった。が興味深くこちらをうかがっている。
「この人はロウィン、チーム鉄の鎖のリーダーだよ。4級だから実力はあるしね。じゃあ、あとよろしく」
ナタリーはカウンターへ戻っていった。
「…リリアだっけ」
「はい。リリア=マリアナ=オリガ=エヌスターナです。よろしくお願いします」
「ロウィンだ」
赤毛に緑の目をした30才位の背の高い男だった。
「ギルドで名乗るときは呼び名だけでいい。こっちに来な」
そういうと酒場の奥へ進む。
リリアも付いていったが注目をあびるなか、珍しげにあちこちを見渡している。
「おい、ここだ。とりあえず座れ」
テーブルには先に三人がすわりエールを飲んでいた。
「失礼します」
と言って座ったリリアに冷やかしの声がかかる。
「失礼しますだって。そんな可愛いの初めて聞くぜ」
「お嬢さん酒のむのははやいぜ。水かミルクにしときな」
席に着いたロウィンがうなる。
「お前らやかましい。羨ましいなら変わってやるぞ」
といってエールを飲み干す。
「とりあえず紹介だな。うちは四人のチームだ。リーダーの俺と、右からフャーリ、レイ、エルヴィだ」
「フャーリだよ。魔法使いだ」
「レイよ。よろしくね」
レイは珍しく女性の冒険者だ。
「エルヴィ。一応剣士だよまだあまり経験ないけどね」
「リリアです。神殿で回復魔法を主にならってます。武器は短剣を使ってます。よろしくお願いします」
リリアは緊張を感じながらも、ギルドの登録が出来たことに喜びを感じていた。 すでに気持ちは早く依頼を受けたい思いで一杯だった。自然に笑顔になり、それは回りの注目をさらに集めた。
わざわざ席を立ち声をかけてくる。
「ロウィン、こんな可愛い子怪我させるなよ」
「そうだぞ、無理もさせるなよ。笑顔が見れなくなっちまう」
「お嬢さんには悪いこと教えるなよ」
野次馬たちはロウィンにからみ始めた。
「うるさい!無理させずに仕事ができるか!」
と一括すると大人しく席に戻っていったが、リリアへの注目は変わらなかった。
「店主、エールと果実水を頼む」
ロウィンはリリアの分まで注文した。
「あのロウィンさん、私は何も無くても」
「ロウィンでいい。それに色々話があるからな。今日はおごりだ。何か欲しいものがあったら言いな」
以外と気のつく男らしい。怖そうでもないし、見た目も悪くない。
「ありがとうございます」すぐに注文品が運ばれてくる。
「さて、話に入ろうか。まずいくつか聞きたい事がある」
真剣な顔で話始める。くじ引きとはいえ、真面目に指導してくれるようだ。
「ギルドに登録したとはいえ、まだ正式な冒険者になったわけじゃない。本気でやる気あるのか」
「はい!もちろんです」
「じゃあ今まで何をしていた。普通登録してなくても、誰かに付いて15才なら一通りの事は身に付けてるもんだ。
あと、短剣の使い方はどうやって覚えたんだ」
「12才から今まで神殿に住み込みで指導を受けてました。短剣は護身術の一環として家で習いました。」「なぜ神殿から出てきた」
「父との約束だったんです。子供の頃から冒険者になりたくて、本当は12才から来たかったんですが、すごく反対されて、条件が神殿に見習いとして過ごし、成人の18才までは所属すること。
ただし15才からなら両立を認めてくれると。だから早く15才になりたくて、やっと今日ここにこれました」
「神殿との掛け持ちってことはそっちの仕事もするわけか」
少し眉を寄せながらロウィンが考えこむ。チームの三人は判断はリーダーに任すという感じで、様子を伺っている。
リリアは指導を断られるか不安になってきた。
「あの!出だしは遅れましたが成人したら冒険者だけでやっていきますので、どうかお願いします」
「分かった。指導は引き受けよう。ただしチームには入れない。
自分で依頼を受けて、そのやり方を指導する。わからない事があれば遠慮なく聞いてくれ。
級をあげたい時は、事前に連絡をくれ」
「連絡はどうすればいいですか」
「ナタリーに伝言してくれ。あと報酬は俺が関わって、依頼を達成した時だけでいい」
「はい」
「あとは好きにすればいい。もともと指導者なんていなくてもいいんだ。
自分の出きることから始めればいい」
「じゃあ、早速今日から依頼を受けたいんですけど、どれがいいか選んでいただけますか」
「一応ランク別に掲示されているから、分かりやすいぞ」
リリアと共に席を立つロウィン。掲示板の前で説明を始めた。その様子をチームメンバーは見守る。
「ロウィンて結局、世話好きなんだよね」
とエールのお代わりを注文しながらレイが呟く。
「そのうち、うちのチームに入るだろう」
「懐かしいなあ。僕もあんな風に色々教えてもらったな。まだまだ未熟者だけどね」
エルヴィは羨ましそうに見つめる。
レイがエールを受け取り少し掲げる。
「将来のチームメンバーに乾杯」