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大人の洞窟

作者: みゃお

とあるお題サイト様から「大人の洞窟」。探検することによって、成長していく”僕”を書けたらなーって思って。

街を出て、まずは山を登りに行った。訪れた事のない場所に行けば、何かが見つかると思った。けれど、何も得られなかった。

次に、僕は山腹にある湖へ行った。綺麗な景色を見れば、何かが変われると思った。けれど、何も変わらなかった。

湖の次はそこから続く川の下流へ行った。時と同じように何もしなくても流れていく水の流れを眺めれば、何かに気付けるかと思った。けれど、何も気付けなかった。

更に、下流から目と鼻の先にある滝へ行った。僕ら人間が立っている力、重力を目の当たりにすれば、何かを感じられると思った。けれど、何も感じられる事が出来なかった。

最後に、滝の裏にあった洞窟へ入った。本でしか見たことない場所に行けば、何かを知れると思った。けれど、ここでも何も知ることが出来ないと思っていた。洞窟に入るまでは。



最初は暗くて何も見えなかったけれど、慣れてくればある程度認識出来るようになってきた。洞窟って初めて入るな。今まで小説や図鑑でしか見たことが無かった。何なんだ、この不思議 であり、神秘的な空間は。普段なら気にもとめないような足音や垂れてくる水の流れが反響して音楽の様に聞こえてくる。どれくらい歩いただろうか、どうやら夢中になりすぎてかなり深い所まで来てしまったようだ。そろそろ出ないとな。外まで暗くなってしまう。


そう思って僕は振り返った。そして驚愕した。素っ頓狂な声を出してしまった気がするがこの際気にしていられない。なんだ、このいくつにも渡る穴の数は。僕は今どの道を通って来たんだ。そんなの、振り返ったんだから分かるだろう? と言われると思う。だが、壁が一色で塗りたくられているドアも何もないドーム型の部屋に居ると想像してみてくれ。そして、そこから振り返るんだ。どこが真後ろだったのか分からなくなるだろう? それと同じ状況だ。どれもこれも同じものにしか見えない上に暗く、音も水の音しか流れない今。平衡感覚等皆無に等しいこの状況で、どうさっき通った道を探せと言うんだ。こんなことになるなら、ヘンゼルとグレーテルみたいにパンくずを来た道に落としてくれば良かった。落ち着け、僕。ここで慌てても何も解決しない。


落ち着いたら、少しは情報を把握出来るようになった。ここは、どうも洞窟の中間辺と言うこと。そして、垂れる水音以外に流れるような水音が聞こえてくること。ということは、その水に沿って歩けば出口に近づけると言うことだ。あの滝からこの水が流れて来ているのなら、その水の行き先は更に下の方、山麓になる。となれば僕からすると一石二鳥だ。洞窟から出られる序に山も下りられるのだから。

そう考えた後の僕の行動は早かった。水音が聞こえる方向にある道へ片端から入っていき、探しだす。そこからは水の流れに沿って歩くだけだった。途中、お腹が空いて休憩したりしていたが。その時は、本当、山と川に行っていて良かったと思った。行っていなければ、食料がリュックに入っていなかったし、流れている水から魚を捕まえる事だって出来なかった。


ようやく、淡い光が見えた。そして、僕は嬉しくて足早になった。自然の光は、こんなにも落ち着くものだったのかと改めて実感させられた。その頃には旅に出た目的は忘れ、晴々とした気持ちだった。もう、この旅も終わりなのか。案外楽しかったな、と思いながら僕は嬉々として洞窟を出た。


そこで僕を待ち構えていたものは、信じられない光景だった。そこは、僕が生まれ育った街、そして僕のこの旅の出発地点だったからだ。この街に、洞窟があったと言う事実にも驚きだったが、遠く離れたあの滝の入り口とここが繋がっていたと言う方がもっと驚いた。


家に着くと親に「どこに行っていたの」、と怒られ、友人達には何故か歓迎された。何故こんな事するんだ、と尋ねてみたら「2ヶ月間行方不明だったんだぞ」、と言われた。これには僕も驚いた。何故なら、僕はこの旅を1,2週間程度だったと思っていたからだ。どうやら僕の体内時計は大幅にずれていた様だ。おい、どうなっているんだ。ぼーっとしていた所為で狂っていたのかもしれない。



あれは、僕が自分探しの旅に出ていた時だった。自分が何をしたいのか、何の為に今こうして生きているのかが良く分からなくなって自暴自棄になって出た旅だったと思う。20年以上経った今となっては旅に出た真意や見た物全ては覚えていないが。あれは、本当にいい経験だったと思っている。精神的に大人になる為のステップを踏めたんだ、と。




街を出て、まずは山を登りに行った。訪れた事のない場所に行けば、何かが見つかると思った。けれど、何も得られなかった。食糧を集めたり、寒さに耐えたり、と生きる為に必要な行動を身に付ける事が出来たから何も得られなかったと言えば嘘になるが。


次に、僕は山腹にある湖へ行った。綺麗な景色を見れば、何かが変われると思った。けれど、何も変わらなかった。ここに来る前は想像も出来なかった様な素晴らしい景色を知る事が出来たから何も変わらなかったと言えば嘘になるが。


湖の次はそこから続く川の下流へ行った。時と同じように何もしなくても流れていく水の流れを眺めれば、何かに気付けるかと思った。けれど、何も気付けなかった。流れに呼吸を合わせ、魚を捕まえる事が出来たから何も気付けなかったと言えば嘘になるが。


更に、下流から目と鼻の先にある滝へ行った。僕ら人間が立っている力、重力を目の当たりにすれば、何かを感じられると思った。けれど、何も感じられる事が出来なかった。改めて全ての物が重力の法則に適っていると体感出来たから何も感じられなかったと言えば嘘になるが。


最後に、滝の裏にあった洞窟へ入った。本でしか見たことない場所に行けば、何かを知れると思った。僕は、ある事を知ることが出来た。その時は役に立たなくても、時が経てば役に立つようになる、と。そして、僕ら人間は知らず知らずのうちに蓄積されてきた事を使って生きている、と言うことを。


読んでいただきありがとうございました!

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