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それぞれが求めるもの

 いよいよ2作目です。話の展開が広がってきました。


 (6)


 スーパーバトルトーナメント終了から三日後。実際に参加したアルタイルと大和は、ワイルドライドのリーダーに呼び出しをくらっていた。

 ゴートゥがデスクに握り拳を思い切り叩きつけた。

「逃がしたぁ?ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!!」

 目の前にターゲットがいたのにそれを捕まえようともしなかった二人にゴートゥは腹を立てた。

 逆鱗に触れたというのに二人は何事もなかったかのように落ち着いた冷静な態度を振舞っている。

 大和はアルタイルに合わせていたが、内心はどうなるかかなり恐怖心を抱いていた。

「奴がクリムゾンヒーローだという証拠は見当たらない。決勝に残っていた男性の参加ネームは“赤城烈怒”だった」

 と、わかりやすい言い訳をアルタイルが述べる。

 そんなもの、馬鹿な奴にだって理解できる。

「OTAはなんだった。バグクロークだと聞いていたはずだろ!!そいつのOTAはなんだった?」

 まだ落ち着いているアルタイルを羨ましく思いながらも心配する大和。下手すれば殺されそうだ。そうなればワイルドライドを抜けるどころの事態じゃなくなる。

「奴のOTAは、確かに赤い光も出ていたし、対戦相手のOTAらしきものも無効化していた。だが、奴のOTAがバグクロークだという確信はない」

 ゴートゥの握り拳が震えだす。さらに強く握りしめる。

 彼の―が震える様子を見て、もうこの場にはいたくない。大和はかなり後悔していた。弟にこんなに振り回されるとは思ってもいなかった。あいつは今頃どうしているのか。

 上京している大和と、愛知にいる烈怒とは連絡をほとんど取っていない状態である。

「お前は、それしか言えないのかー!!」

 怒りの表情を見たと同時にアルタイルは唾を呑んだ。覚悟はできている。最近の“ずれ”がどうしようもないくらいにアルタイルの心を動かしていた。

 決戦の時か。

 ゴートゥの握ったままの拳が、デスクの上にある謎のボタンを叩きつけるように押した。

 瞬間的に、デスクから半径2m以内に円を描くように穴があき、そこに全てのものが吸い込まれていく。落下していく体、それは死を意味するのか、それとも死より少し早い地獄への門か。

 

 穴の下に、次第に光が見えてきた。地獄へのジェットコースターもゴールに近づいてきたようだ。

 何かコロシアムのようなものがある。こんな地下競技場があるとは知らなかった。どうせ悪趣味なヒロリアが勝手に作ったのだろう。

 なんとか着地に成功し、アルタイルの元に小走りで近寄った。

 二対一。この状況が続けば自分たちの勝ちはほぼ確実だ。

 しかし何かが起こりそうな気がする。

 その証拠に、ゴートゥの口元は確かにつり上がっている。そして彼が指を弾くと同時に背後に現れたのは、珍しいメンバーだった。

「フ、フウマ!?」

 大和は思わず言葉を漏らした。

 ほとんどの会議にも参加しない、暗殺者として雇われた彼を久しぶりに見ると、勝手に驚きの声が出てしまう。

 再会を喜ぶのは無理のようだ。フウマが命令者の言うことを聞くのは絶対だと大和はわかっていたからだ。

 今はただの敵か。それとも自分たちが裏切り者なのか。正解はおそらく後者のほうだろう。

 ここは戦うしか選択肢はないようだ。逃げ道があるとは思えない。フウマが背中の忍者刀を取り出すのが見えた。彼の目を見たら、勝負は始まる。いつも鮮血な髪の毛で隠れた目は、彼の本気を出した時の仕草“前髪をかきあげる”ときに見られる。

 その鮮血な髪の毛は、チートではなく暗殺の時に飛び散った返り血である。ちなみに、ペンキや―などは、ゲーム上でしか反映されることはない。チートに思われやすいのが欠点である。

「戦うしか、なさそうだな」

 アルタイルが背中を合わせて背後で呟いた。

「わかってら」

 いつものように大和ものんきな返事を返す。

「かかってこいよ」

 無防備な状態での挑発は度が過ぎているのではないか。

 当たり前のようにゴートゥも怒りが込み上げてきたようだ。OTAを発動させる。

「貴様―!!」

 突如ゴートゥの背中から無数の黒い腕が出現し、大和に襲いかかり始めた。

「アルタイル、こいつの相手は俺がする。お前はフウマのほうを頼む」

「了解した。死ぬなよ」

 いつになくアルタイルの決意は固く、ほどかれることはない。大和の背中から離れ、フウマに襲いかかり始めた。


 黒い腕が次々と大和の足元に飛びかかっていき、地面を砕いていく。

 大和はOTAを発動させず、余裕を扱いたまま身軽にアクロバットを繰り出して避けていく。

 その様に、徐々に怒りのパラメーターが上がっていくゴートゥ。これだけの数を発しても人間一人さえ倒せないのは自分のプライドが傷ついていくだけだ。

「くっ、クソがっ!!」

「負け惜しみかい?お前のセンジュカンノンの特徴を知らないわけないだろ」

 OTA:センジュカンノン。それがゴートゥのOTAの名称だった。背中から生える無数の腕は、九百九十八本まで生やすことができる。自分の腕を合わせて丁度千本。そう、それはまさに千手観音だ。

 しかし腕の長さにも限度があるようだ。それを知っていた大和は、アクロバットを駆使して距離をとる。ちょこまかと動かれては、せっかくの―も役に立たない。

 

 そろそろ攻撃に転ずるか。

 避けるのに飽きてきた大和も、ついにOTAを発動する。

 大和の胸部が青白く発光し始める。その光は次第に全身へと行き届いていく。

 そして数秒後には遼腕に青いライフル、足の裏には水陸両用の小さなジェットボード、背中には二門の大砲、肩には加速用のブースター、拳に強力なメリケンサックが装備された。それは見る者を圧巻させる。

 全ての武器を装備し終えたと同時に胸部の青白い光はパトカーのサイレンのようなものを描き始める。そのサイレンからは甲高いサイレン音が放たれる。あくまで威嚇行動に過ぎない。

 OTA:ジャスティスポリス。相手一人にしか攻撃をすることができなくなるが、その攻撃は絶大な攻撃力を誇る。どこまでも敵を追いかけまわす装備は、相手を倒すまで走り続けるチーターのようだ。

 足元のジェットボードと肩のブースターが連動し、猛スピードで標的に接近する。

 いきなり至近距離に迫られたゴートゥは驚くことしかできなかった。

 左腕のライフルを腹に当て、超至近距離でトリガーを引いた。

 小さな弾丸ごときで大量の火薬が積まれたそのライフルからの攻撃は、まさかの爆発をも生む威力。

 ヒットアンドアウェイで大和はすぐに距離をとり、爆発に道連れになるのを防いだ。この戦法が主になることから、OTA:ヒットアンドアウェイでもいいのではないかと大和は思っていた。

 仕返しなのか、爆風の晴れた先から黒い腕が十数本伸びてくる。

 しかしこんなもの、ジャスティスポリスにはちょろいことだった。

「喰らえよ」

 背中の大砲を起こし、次々と砲口から弾が飛び出していき、―を打ち落としていく。やはり高火力なだけあって、一瞬にして黒い腕は消滅する。

 奥で舌打ちをする音が聞こえる。だからと言って手加減をするわけにはいかない。これは生死をかけた戦いでもある。

 全力じゃないと倒せない。ゴートゥはそのレベルの相手だ。

 ライフルが高圧振動のブレードへと早変わりし、白兵戦を挑む。先ほどの加速と同様、近づいてからブレードが振り下ろす。いったか、と思ったがそれは叶わず。腕が密集して盾を作り、ブレードは弾かれてしまう。

 やはり遠距離のほうがいいか。作戦を練り直し、ブレードをライフルに変化、ブースターで上空へと逃げる。

 まだちかい場所なら、腕も上空へと上がることができる。ゴートゥも負けじと腕を上空へ伸ばした。

 追ってくる腕を、何も見ずにライフルでただ打ち落としていく。

 当たる弾もあれば当たらない弾もある。

 いっそザ・Xを打って止めを刺そうか。勝てる自信ならいくらでもあった。

「決めるぜ!!」また挑発をかける。

「黙れ。消えるのはお前だ!!」

 乗ったのか乗ってないのかはよくわからないが、大和はとりあえず地上へと着地する。

 ジェットボードで滑走しながら、追い回す腕を振り切る。方向転換で少しは時間を稼げる。

 ようやくザ・Xを打てる位置だ。胸のワッペンを軽くこするとあの声が鳴り響く。

〈ザ・X〉

 ブースターとジェットボードを残し、残りの装備を外して体を軽くする。外れた装備はなぜか大和の足元を漂い始める。その間にも大和は加速を続けている。

 足元に集まった装備が次々とジェットボードと合体し、ローラースケートを作り出す。地面でしか活動のできない車輪が地に降り立つ。それは悪いように見えて、実は爆発的な加速を手にする。

 残像までを残すほどの音速。ゴートゥはそれを振り切れるだろうか。

 突如ブースターで角度を変えて、少し上のほうへ飛び上がると同時に、ゴートゥに向かってドロップキックを放った。

「プラチナ、ヘブンブリンガー!!」

 勢いづいて回転を続ける車輪が、ゴートゥの体に音速でダメージを与えていく。

 一定量のダメージを与えたところで、大和は車輪を止めるようにゴートゥの体を突き飛ばした。

 ゴートゥの体がくの字に曲がり、壁へと激突する。

 裏切り者にしては派手にやりすぎてしまったと後悔してしまう。このところ、後悔ばかりだな。


 一方、アルタイルとフウマの戦闘は苛烈を極めていた。

 アルタイルがOTA:ブリザードを発動。両腕の周囲の空気を凍らせて長さ50cmほどの氷の刃を作り出す。

 それによる連続攻撃で突くように攻撃をしていく。

 さすがの暗殺者といったところ。避けるのも達人レベルだ。まるで誘うようにアルタイルからの攻撃を避け続けている。

 その時突然、フウマが避けるのを中断し、右足で片方の刃を蹴りあげ、破壊する。

 そこに隙ができ、アルタイルは思わず自分の腕に目をやった。反射的にフウマが飛び回し蹴りを繰り出し、アルタイルの頬を吹っ飛ばす。

 体勢を崩しながらも、アルタイルは悪あがきに指で銃の形を作り、空気に向かって指を跳ね上げる。

 指先から発せられた冷気が、空気を直線状に凍らせて、レーザービームを描いた。

 まっすぐに突き進んでいった―を、フウマはいとも簡単に蹴りだけで空気が凍るのをやめさせる。武器を手にしながらも、足技だけで相手をするのはどれほど余裕のあるものなのか。

 そのまま氷のレーザービームは中途半端な形を残して空気中に滞在してしまった。

 内心舌打ちをしながらもアルタイルは再度氷の刃を出現させて立ち向かう。

 二度も同じ手は通用しない。そう言い聞かせるように軽々と氷の刃は避けられていく。そもそも先ほども攻撃を食らってはないが。

 このまま避けられるのを続ければこちらの体力が減るだけだ。すぐにこの攻撃も無駄だとわかり、別の戦法をとることにする。

 できればこの技は使いたくなかったが、ワイルドライドが相手では仕方がない。

 アルタイルは右手を突き上げる。それにより、その腕の周囲が凍るものだと思っていたが、それは大きく違う場所を凍らせる。

 小さな氷山が出現し、フウマの足元をすくった。

 間一髪で避けられたが、氷山の高さはこちらで調整できる。こうやって奇襲を繰り返していけば、いずれにも勝機が見いだせるはず。

 それからアルタイルは高さの違う氷山を次々と出現させていき、足場をうばっていった。

 だがこれほどの技で苦戦するほどフウマも弱くはない。

 結局優勢なのはフウマに過ぎない。

 フウマのOTAはまだ発動されていない。簡単に言うと、本気を出していないということだ。アルタイル程度なら、体術だけでも競り勝てる。という舐めた考えで奴は戦っているのだろう。

 今はアルタイルがフウマを見上げる立場にいる。氷山の頂点で仁王立ちをし、威圧感を放っている。さすが暗殺者といったところだろうか。戦いのプロ中のプロだ。

 力の関係も、今の立ち位置と同じような気がする。だが今は、それが覆るということを証明しなければならない。

 全力で挑む。アルタイルは手周辺の空気を凍らせ、巨大な大剣を作り出す。

 目の前で振り回し、剣を突きつけるような

ポーズをとる。このまま一撃必殺を狙う。そう決めた瞬間。

 アルタイルの願いもあっけなく消える。


 異変を感じた大和、ゴートゥは別に息を合わせたわけでもないが同時に壁の方に目をやった。何か変な音が聞こえる。

 目を疑ったその時。

 巨大な熱線が、壁を破壊して突き破り、こちらのコロシアムに降りかかる。

「な、なんだありゃ!?」

 いつもの癖か、驚きを隠せずに声が漏れる。

「くっ、侵入者か?門番のバーチャルは何をやっている!!」

 ゴートゥが文句を言っている間にも、熱線は範囲を拡大し、二人に襲いかかっていく。なんだかどこまで逃げても追いかけてきそうだ。当たるしかないにしても威力が恐ろしすぎる。それはもはやこのコロシアムの作りを破壊、いや高温の熱によって溶かしている。

 それはもはや、太陽のようだ。

 二人が足を動かしている時、ふと振り向いた大和の目に映ったものが一つ。

 太陽で例えると、黒点のようなものがそこにはあった。いや、それはただ黒い服を身につけているだけなのだろう。しかしこんな威力の攻撃をワイルドライドに向かって放つとは、なんたる挑発だ。今、組織をやめようとしている者のセリフではないが。

 それにしても、あの攻撃は一体何だ。OTAか、チートか。おそらくOTAだろう。しかしそれにしても反則級の能力じゃないか。ヒロリアもやってくれたものだな。

 逃げていた大和の足が突然と止まった。

 その理由は、というと。熱線が急にピタリと大和やゴートゥの手前で止まったのだ。止まったのは熱線のほうだった。

 二人とも驚きながら、腰が抜けたのかその場に安心したようにその場で腰を下ろす。

 先ほど見えた黒点が、何かを自分たちに訴えかけているようにも思えた。





 三章  絶望を生む者


 (1)


 男はボロボロになった布切れを纏っていた。

あくまでボレロだったらしい。それも今は穴だらけの―である。それは長い旅のあかしである。その下には、カッターシャツのような者が見られる。下半身のズボンは、今は膝を覆い隠す程度の長さだが、元は学校の制服くらいの長さだったようだ。

 空腹には困っていないが、金銭に困り果てている。金を求めて、このレオ・ルードにやってきた。

 

 美帆は今日もレオ・ルードで町を探索していた。なんだかゲームをやっていているのにもったいないような気がしてならない。

 さすがにパーティーというものを組まなければ、このゲームを楽しめない。

 なんか強そうな人がいいな。という願望を思い浮かべながら、人探しを始めた。

 雰囲気もいい人がいい。初心者がこんなわがままを言ってもいいのだろうか。しかしチンピラなどとは絡みたくない。誰でもそうだろう。

 その時、目に映ったのはボロボロの布切れを纏った、この前のハヤトのようなイケメンの男。

 目当ての人にぴったりだと、早歩きで近付いていく。

 足音に気付いたのか、その人はこちらを向いた。少し驚きがちな顔をしているのがわかる。しかしこっちのほうが緊張している自信はある。

「あの」

「・・・なんですか?」

 優しい口調からして、普通の人と確信できる。

「あの、あたしとパーティー組んでほしいんですけど・・・」

「・・・すいません。俺は、一人が好きなんで。・・・でも今は時間があるから町を回るくらいなら、いいけど」

「そうですか。ありがとうございます。あたし初心者で、よくわからないこといっぱいあるんで・・・」

「うん、なんでも聞いて」

 すると彼は、用事があるのかないのかわからにくらいの張り切りようでレオ・ルードの案内をしてくれた。

 初めて来たショップや、おすすめのショップを教えてくれた。かなり勉強になった。ここまでやられては、こちらも何かお礼をしなければならない気がしてきた。

 その時、周りのプレイヤーの話声が耳に入ってきた。

「キングオブビーストって知っているか?」

「ああ、知ってる。背中にライオンの入れ墨入ってるめちゃくちゃ強いんだろ」

「かっこいいよな〜」

 さすがにこちらから誘った癖に無言なのはまずいだろう。噂話をネタにでもしようと、男の方を振り返った。話が長く続くことを祈った。

「あたしも聞いたことありますよ、キングオブビーストって。あこがれちゃいますよねー」

「本当にいたらいいね」

 こちらにスマイルを向けてくるのはなぜだろう。あっさり受け流されたので、結局は失敗に終わった。

 カモフラージュとも知らずに美帆は話を続けた。彼にだって知られたくない事情の一つや二つはあるだろう。

「ちなみにレベルはどのくらいなんですか?」

 市場を歩きながら美帆は尋ねた。次の瞬間、美帆は目を見開くことになる。

「あんまし言いたくないんだけど。・・・376」

 呟かれたその一言に美帆は思わず大きな声を上げた。自分の何倍だろう。

 周りの冷たい視線に気づいていないのは彼女特有の天然さからである。彼もとても気まずそうだ。まあ彼のレベル376という数字は聞かれていないから特に問題はないだろう。

 男はかわいそうな美帆に気を配りながらも場所を移した。


 商店街の中央広場にやってきた二人。

 沈黙の中で美帆は男の服装を見て気付いたことが一点。これは誰にでもわかるようなことだ。

「その服、ぼろぼろじゃないですか。何か新しい服買った方がいいじゃないですか?後、その布切れにカッターシャツは超ださいですよ」

 美帆の毒のあるような言葉をまじまじと受け止める男。話を聞いて、目が点になっている様子は吹き出しそうになるほど面白かった。

 しかし、言い終えた後にやってきた後悔がとてつもなかった。言いすぎただろうか。まだ男は表情が硬くなったままだ。

 再度気まずい空気になり、沈黙が訪れる。

 そのまましばらくは男に見つめられる破目になった。やはりよっぽどショックだったのだろう。心から礼を言いたいのに、これでは謝罪をするはめになってしまう。お礼をするのも延期になるだけだ。

 意外にもその沈黙を破ったのは、美帆じゃなかった。次第に固まっていた―の表情が緩み始める。

「・・・まあ、確かに。そうだよな。ださいよね。なんか新しい服買わなきゃな」

 なんだかその話し方は、美帆や周りに気を配っている様子じゃなかった。なんだか他の、別の誰かのために言っているようだった。

 不思議に思いながらも、美帆は立ち上がった。まあ、いいだろう。終わりよければすべてよし、とも言うようにすっかり立ち直った。

「あの!ここまでしてもらったお礼といっちゃなんですけど。あたし、あなたの新しい服、買います」

 日本語がなんだかおかしいような気がするが、この気持ちを伝えておいて損はないだろう。言いたいことを言って何が悪い。いっそ開き直った気分で、恥ずかしいなどもうどうでもよくなってきた。誤解をされることはないだろう。

「えっ、マジで。本当にいいの?俺遠慮しないよ」

 意外な一面が今見られた。ケチ。少しは遠慮をするべきだろう。しかもさっきのかたまった表情はなんだったのだ。笑っておけばよかったと損をした。なんだか予想外の言葉にうまく言葉を返せない。

「は、はあ」

速人の時もなんだかこんなことを言っていたことを思い出す。


 彼のお気に入りの店だというクローズショップに美帆は連れて行かれた。そもそも服はこんなぼろぼろで、当分服を買っていない様子なのにお気に入りというのはどういうことなのだろうか。やはり彼は不思議な人間だ。

 店に入ってからすぐに、男は首を左右に振りまわす。どこに何があるかを確認しているのだろう。そしてすぐには歩き出していく。金を管理するものとして、美帆はついていくことしかできない。

 ラフな服が好きなのだろうか、彼はさっきから半袖の服にしか目をやっていない。意外と安く済みそうで安心した。

 最終的に男が選んだのは、真っ白で背中にライオンの顔が描かれたジャケット、真っ黒の膝を隠すくらいの半ズボン。そして、なぜか餃子とただ一言だけ明朝な字で書かれたT‐シャツ。

 最後が謎すぎる。どこまで行っても彼は不思議な人間としか思えない。せめて何かかっこいい模様や絵でも書かれた―を買えばいいのに。センスがないなあ、と思わず口に出しそうだった。

「ぎょ、餃子って・・・。餃子好きなんですか?」

「・・・いや、餃子はおいしいから」

(それって好きってことじゃないの?)

 心中疑問に思いながらも、美帆はレジに行って金を支払った。遠慮はしなかった割に、安いものを買ってくれたことに感謝する。変なアクセサリーや装飾のついた服を買われていたら、こちらの財布が空っぽになり、あちらから金を借りていたところだった。

 

 美帆がレジで―している間、男は試着室へと入っていた。

 上半身から着替えようか。

 ボロボロの布切れを脱ぎ、床に音を立てるように落とす。その反動で、しみついた砂埃が少しばかり宙を舞う。そんなことは気にするまでもなくカッターシャツのボタンを一つ一つ外していく。

 全てを外し終えられたシャツが、するりと両腕を抜けて地べたへと滑り落ちる。背後の鏡に映っていたのは、日本人らしい肌色と茶色が入り混じったような肌はなかった。

 鏡に映っていたのは、金色の毛並みを持ち、細長いひげ。顔からして、猫科の動物と思われる―が描かれていた。例えるなら、いいやその動物にちゃんと名前はある。そう、百獣の王、ライオン。

 “キングオブビースト”いつの間にか着けられていたあだ名。別にいい意味の―だから特に問題はない。このまま名を上げていけば、いずれは・・・。むしろうれしいくらいだ。

 これを機に少しでも彼女と接触できればいい。願いは届くだろうか。 

 百獣の王は果たして彼をどこへ導くのだろうか。

 

 試着室から出てきた男の印象は自分のおかげでがらりと変貌していた。

「ああ、結構似合いますね」

 餃子は嘘である。餃子のせいで結構と自然に言葉がこぼれ出たのかもしれない。

「うん、あとさっきいい下駄が売っててさ。一万もしたけど思い切って奮発しちゃったよ」

 自分に近づいてくるときの妙な足音の原因がやっと判明した。一万もする装飾を買うくらいなら、他の―も自分でそろえておくべきだろう。服をおごったのが馬鹿らしくなってきた。

 なんだか和風と洋風の服、それに少し中華の感じが入り混じっている国際的な服は、ライドザライドにはふさわしい服そうな気がした。受け狙いだろうか。彼がそんな人には見えないが。

 そもそも下駄を履いていれば、戦闘中はどこにいるか足音でばれてしまうのではないか。レベルの差が372ある美帆でも思いつく考えだ。376以下のレベルのプレイヤーでも下駄は好まないだろう。その上、足場が悪いとかえって戦いにくいのではないか。

 まあ彼も彼なりに、上級者としての考えがあるのだろうと頭の中で流した。

 その時、別れを告げる言葉が。

「じゃあ、俺はそろそろ。これで・・・」

 右手のひらをこちらに向けているのはサヨナラの合図のつもりだろうか。

 こちらの用事に振り回すわけにはいかないだろう。素直に美帆もオウム返しに―。

「今日はありがとうございました。あの、名前だけでも聞いていいですか?」

「俺、・・・ヴァン・D・オーキャッソー」

「変わった、名前ですね」

 自然と口から言葉がぽろぽろとこぼれていく。お礼の言葉でも言った気になっているのは彼女だけか。

「じゃあ」

 気まずそうにヴァンは手を振りながら背を向けた。

 その白いジャケットが風でなびいている様子が、なんだかかっこよくて恋しかった。

 メアドくらい、交換してもいいだろう。

 今日は刹那さが体に浸透した。


 (2)


 ゴートゥはアルタイル、大和意外の―のメンバーに召集をかけていた。

 その割に集まったのは、マグナムとスリーの二人であった。フウマは―として、誰が来るのかは大たい見当がついていた。

 リーダーとしてのまともな任務はこれが初めてとなるだろうか。このような場で喋るのは慣れていない。緊張した面持ちでゴートゥは口を開いた。

「早速だけど、今からクリムゾンヒーローに奇襲をかける。バーチャルソルジャーも大量に用意してあるからよ、存分に戦ってくれよ」

 後頭部を爪で掻きまわしている様子は、緊張をほぐすと同時に誤魔化してもいる。そんなのスリーやマグナムには簡単に見破られていた。

「了解。今奴はどこにいる」

 早くクリムゾンヒーローと戦うことを望むマグナムは、なんだか焦っているようにも見える。実際のところ、冷静に振舞っているマグナムだが、三人の中で今のところ落ち着きがあるのはスリー一人だけであった。

 リーダーが誰であろうと、任務には忠実なのがマグナムだ。ゴートゥはただヒロリアから受けた任務の内容を伝達しているにすぎない。彼はかなりヒロリアを尊敬しているようだ。一番の感謝すべきするところは、このライドザライドを作り上げた技術である。

「天守閣城塞都市:ウエディオーキャッソル。最近新しく更新されたタウンだ。武具に関連したショップが並んでいるらしいな。新しい町名だけあって人でにぎわっているかもしれない。その中にあいつもまぎれているかもしれないからな。・・・ヴィータみたいにはなるなよ」

 最後の語尾の言葉は、もっと別の言い方があったと思うが、そちらのほうが身にしみて伝わりやすい。一度知り合いが―な破目に会ってくれているおかげで万全の処置がとれる。いい意味でヴィータもいい役をかってくれたものだ。

「すぐに向かう。スリー、行くぞ」

「OK」

 マグナムはアイテム:フィートンアップを取り出す。これはクリムゾンヒーローが所持しているものと同じものである。マグナムの物と―の物との違いは、入手方である。本来、フィートンアップのカードはワイルドライドにしか支給されていない物である。それを彼が所持している事態が、チートと疑いをかけているのであった。いつも逃げ回っている限り、チートなのだろうとワイルドライド内では報告が上がっていた。

 カードが―の手によって破られた時、二人はカードの裂け目から出現した青白い光に吸い込まれていった。


 ゴートゥの言った通り、ウエディオーキャッソルのショップが立ち並ぶ市場では、人込みの大行列が出来上がっていた。しかも予想以上の人数だ。

 光から飛び出した瞬間、二人ともかなり驚いている様子だった。それは表情により確実に表現されている。

 出現した場所は、城壁の上、瓦だったからよかったものの、いくら見渡したところでクリムゾンヒーローらしき人物は見当たらなかった。

「こんな人の中から探せっていうのかよ〜」

 スリーの性格上、これを見てやる気をなくさないことはまずない。マグナムもあらかじめわかっていたことだった。

「仕方ないだろう。任務だからな」

「マグナムの趣味は悪いなあ」

 愚痴しか言わないスリーの趣味もどうかしていると言いたいところだったが、飛んでくるのはまた結局愚痴のような気がしたので止めておくことにした。

 次の戦闘に備えて、無駄な体力は1ミリも使いたくなかった。


 その頃、ターゲットとして狙われている深紅の犯罪者はというと・・・。

 ワイルドライドの予報ははずれて、彼は海底発達都心:アクアリウウムのネットカフェにいた。以前とは違い、絶望はしていない。希望に満ち溢れている。

 望美を助ける手段を得た烈怒。―の優勝賞品、ハイパーリカバリーカプセルを今手にしていた。

 これを使えば、彼女を助けることができる。今現在、緊張は頂点に達していた。テーブルに置いてある、目の前の雪うさぎの人形が、まるで早くしろと焦らせてくる。望美ならそんなことは言わないと思うが。

 しかし、実際のところ烈怒は―の使い方がいまいちわからなかった。回復アイテムはライドザライドでは珍しくない。むしろ烈怒もよく使うくらいだ。普段の回復アイテムはスプレー型の―なのだが、今回はカプセルのような形である。これを水と一緒に飲む、などという現実世界でもやるようなやり方は、この状況では不可能と言ってもいい。

 このまま使用方法がわからなければ、自分の努力は無駄になってしまう。

 手元のカプセルに、結局は絶望して、イライラして、適当に触っていた時。

 手が滑ったのか、カプセルが開いた。

「ん?」

 カチッと小さな効果音に反応した烈怒は、疑うように顔を上げた。

 カプセルは目の前で二つに分かれていた。境界線を境目にしてきれいに。

 なんだかまずいような気がしてならなかった。どうなるかさっぱり見当がつかず、また緊張する。

 しかしカプセルは烈怒の願いどおりに、都合良く動いてくれた。割れた―の中の薬用の粉が風に乗って雪うさぎのぬいぐるみへと降り注いだ。

 瞬間、―は光に包まれる。まぶしいばかりに溢れ出した光に、烈怒は目を覆い隠せざるを得なかった。

 

 目が自然と開いていき、伏せていた腕をゆっくりと下ろした。

 テーブルにいたはずのぬいぐるみはいなくなっていた。いきなりの事故に、目を見開いて驚くことしかできない。

 やってしまった。人殺しだ。

 勝手に口が開いていく。もしかして、詐欺だったのだろうか。またまた絶望の淵に落とされようとした時、肩で何かが跳ねた。

 そう言えば、光が消えてから、ぬいぐるみが消えてからの肩に降りかかる重みはなんだったのかと。精神的なものだと思っていたが、それは違った。衝撃が降りたことからして、今烈怒の肩に乗っているのは物質だった。

 その自分の肩を見れば、そこには雪うさぎがいた。驚かせるなよ、と安堵の息。それにしても、なんで動けないぬいぐるみが・・・。

 不思議に思って、反対側の手で掴もうとした時、それは動いた。

 首を垂れて、小さな手で目をこする。目を疑いたいのは烈怒のほうだ。

「う、動いた!」

 その声に反応して、謎の―は口を開いた。

「赤城」

「しゃ、喋った!!」

 動くよりも言葉を発する方が、烈怒には衝撃的だったらしい。それもそうだろう。言葉を話せる動物なんて、インコやオウムくらいしかいないだろう。よりによって今はそれが兎なのだから。

「ありがと」

 声からして、―。だがまだ信じ切れていない。状況を把握できない。こいつは一体なんなのだ。

 驚きの連続で、ついに烈怒は体を硬直させてしまった。

 兎は首をかわいらしく傾げて、不思議そうに小さな手で烈怒の固まった皮膚を突っついた。

 くすぐったかったのか、すぐに烈怒は元に戻ったが、顔はまだ固まっているようすである。

「いつまで驚いてるわけ」

「波村、・・・なのか?」

 徐々に硬直から回復していく烈怒の顔は、まさにアホ面で面白かった。

 兎が急に笑い出したのを見て、笑い方から烈怒は望美だと確定した。

「波村なの!?・・・よかった〜」

 今度こそほっとして、烈怒はつい雪うさぎを強く抱きしめた。感情が行動に表れている。―しすぎて望美は少し引いていた。

 体格さがありすぎて、望美には窮屈で苦しかった。

「赤城―、苦しい」

 いまなら何でも言うことを聞いてやるくらいの覚悟で、烈怒は即座に反応する。

「・・・」

 烈怒の目線はなんだかいやらしかった。またあの時のように体を両手で抱えられる。

「な、何!?」

 驚いても仕方ないことだろう。今度こそは何をされるかわからない。前回の動けなかったときとは違い、感情が伝わりやすくなっている。彼の暴走を止めれるかどうかはわからない。

「俺、絶対助けるから」

 前回と変わったことが一つだけある。元に戻るために、一歩近づいたことだ。

 今は望美も笑うことができた。苦笑が次第に笑いへと変わっていく様子を烈怒も喜んだ。


 烈怒は新しくできたタウン、ウエディオーキャッソーの噂を聞きつけて遊びに来ていた。ワイルドライドと言う存在に恐れることなく、平和な日常を装って商店街をぶらぶらしていた。

「なんか買わないの?」

 胸元から顔を出した兎が喋る。手を引っ掛けてぶら下がっているポーズは、烈怒にとって好みらしい。―ばれていないのが奇跡だった。

「欲しいものないんだよね〜」

「そんなことないでしょ」

「ニンジンなら買ってやるよ」

 その時、服の胸部が膨らんだ。何かと思い、顔を下げたその時、小さな衝撃が自らの鳩尾を叩きつける。

 望美が下半身を揺らして叩きつけたのだ。それは運よく?烈怒の―へと激突した。

 いくらなんでも、からかわれては望美も怒る。

「いってええーっ!!何すんだよ」

 彼女のいる部分より少し下の所を抑えながら、苦しそうに言った。

「だってムカつくんだもん」

 目を瞑っている様子から、まだ怒っているようである。烈怒は、誤るまでこの様子な気がしてならなかった。また面倒なことになりそうだ。

「どうせニンジンしか食えないだろ?」

 遊び半分でからかい続ける。

「次は顎に頭突きするからね」

 想像するだけで恐ろしさが実感できる。舌を噛んでしまいそうだ。

 ゲームの体と、現実世界の体は意識が共有しているため、ゲームの世界で舌が切れれば、現実世界でも同様の衝撃が走り、―。

 グロテスクなことを想像するのはもうやめておこう。と心に決める。


 クリムゾンヒーローが商店街を一人で歩いているところを、スリーはしっかりと木の上から目撃した。

 スタート画面を開き、マグナムにSKYPEを開く。

 数秒後には青い枠のモニターに、マグナムの顔を映った。

「クリムゾンヒーローを目撃。どうする?」

「今からそちらに向かう。人目のつかないところに移動したら一気に奇襲をかける」

「了解」

 SKYPEを閉じてまた数秒後には、相方がフィートンアップで隣に出現する。

「来たね」

「ここはまだ商店街の中だ。なんとか誘導できればよいのだが・・・」

 マグナムは―することを躊躇っていた。しかしスリーはマグナムとは対照的な意見だった。

「別に構わないでしょ。あいつ犯罪者なんだから」

「一般プレイヤーに危険を冒さないために俺たちがいるんだ。目的を忘れるんじゃない」

 いい案だと思ったのだが、意外とあっさり切り捨てられた。

 不安を表現するように、スリーは口をとがらせた。が、見向きもされなかった。

 その時、謎の着信音が鳴り響いた。二人はあわてふためきながらも、スタートメニューを開いた。

 お互いの所にSKYPEがつなげられていた。

「やあ、お困りのようだね」

 姿を現したのはワイルドライドの雇い主であった。

「ああ、全くだ。ちょっと広く作りすぎたんじゃねえか?」

 真面目なマグナムが珍しく愚痴を言う。だが彼の言うことは事実だ。東京ドーム2個分はあるらしい。

「まあまあ。手を貸そう。私のデンジャーコールで今からそちらに妨害兼誘導のモンスターを送り込もう」

 OTA:デンジャーコール。それがヒロリア・B・レイダムのOTAである。能力的にはバグクロークと肩を並べるほどのレア、もしくは最強クラスのOTA。その真の能力はというと、神話上のモンスターを呼び出すという最悪の―である。弱点は十分たてば、呼び出したモンスターも消えてしまうという点である。

 ―が力を貸してくれるのは非常にありがたい。どちらかというと本当はデンジャーコールに感謝すべきなのを忘れてはいない。

「サンキュー」

「数分待ってくれ。その間にも、クリムゾンヒーローを見失わないように」

「了解」

 スリーがそれだけをひと言告げると―した。

「じゃあ、行こうか」

「偽物は排除するまでだ」

 そのセリフを聞いて、今回の任務は大いに盛り上がりそうだと考えると、笑いがこみあげてきた。


 ライドザライドを開発したゲーム会社、「D&C」本社の社長室。

 そこには金髪の、片目にレンズを着けた神秘的な男が椅子に腰をかけていた。巨大な背もたれを持つその椅子は、まさに彼のために用意されたようなものだった。

 右の肘かけの外側にあるリクライニングのボタンを押しながら背もたれに力を駆けていく。徐々に―が倒れていき、四十五度のところで彼はボタンから指を離した。

 ヒロリア・B・レイダムの両手に刻まれた謎の刻印。

 両手を張り合わせると、手中から青白く神々しい光が溢れ出す。共に危険信号のような警報音が部屋中に鳴り響いた。

 意思を持ったその刻印からは、「デンジャー、デンジャー」と再度警告の声が鳴り響いた。

 それほどまでに危険な儀式を行うという割に、今回召喚するモンスターのサイズが小さいというのはなんだかもったいない。

 椅子の足を中心に、ヒロリアの手にある―と同じものが大きく床に広がっていく。出現した魔法陣はゆっくりと回転を始め、少しずつ速度を上げていく。

 魔法陣はパソコンとリンクしているようで、机にあるパソコンの画面には、今回召喚する予定のモンスターが描き出されていく。

 数秒後には―から―が出現した。蝙蝠のような形をしたモンスター。

「名前は・・・どうしようか。面倒だな、キメラでいいや」

 体は蝙蝠だが、翼はどこにでもいるような鳥の翼だ。キメラと言えてもおかしくない。

 ヒロリアは体勢を立て直し、両手をほどいて儀式を終了した。椅子のリクライニングボタンを押して、背もたれを元の位置に戻す。

 そのまま椅子を引き、パソコンのキーボードに指を走らせた。

 繋がったのは、ライドザライドのスタート画面である。スピーカーの電源がOFFになっているため、音は発せられていない。

「行け」

 ただ一言だけをキメラに告げると、言葉を理解した―は画面の中に潜り込んでいった。無論、画面に映っていたタウンは、ウエディオーキャッソーである。


 自分が本格的に狙われていることも知らずに烈怒は買い物を続けていた。

 と言っても、欲しいものは先ほど言ったように本当にない。ウインドウショッピングでこの商店街を出てしまうんじゃないかと思っていた。

「なんか買ってよー」

 胸元の望美が喋る。

「意味ねえだろ?」

「あたしが元に戻った時に渡してくれればいいの」

 少し怒った時の兎の表情は可愛らしかった。正直、烈怒は今の望美の方がよかった。

「いつになるんだよ、それ」

「赤城が助けてくれるって言ったんでしょ?あんた次第だし」

「あれ、そんなこと言ったっけ?」

「最低!」

 あの時はすごくうれしかった。期待もしていたのに。一気に裏切られた気分だ。

 涼しい顔をしている烈怒には非常に腹が立った。明らかにわざとらしいその態度は、望美の怒りのゲージを上げるだけだ。

「冗談だよ、冗談」

 急に態度が変わる。

 どうせ兎の表情と言葉から―をがらりと変えたのだろう。都合のいい奴だ。今更焦ったって、望美にはお見通しだ。冗談も程々にしてほしいものだ。

 その後、望美が怒ってしまったためしばらくの間は沈黙が走った。

 烈怒も気まずくて仕方なかった。どうにか機嫌を直す方法が思いつかないか悩んでいた所だった。

 そこに、平和な日常を壊し始める第一の資格が出現する。

 背後から鳴き声と翼を動かす音を鳴らして烈怒に近づいてくる影があった。

 謎の―に、周囲のプレイヤーはすれ違いざまに振り向いていく。見返り美人のような存在感を放つキメラは―にとって珍しかったようだ。

 そしてそれが烈怒の目の前にたどり着いた。

 突然と眼前に現れた謎のモンスターに、烈怒は戸惑うばかりだ。

「な、何だこいつ」

 ベテランの烈怒ですら驚いてしまうキメラ。これは不意打ちと言ってもいいくらいだ。

「見たことないよ、こんな奴」

 片手にバグクローク・ソードを構え、戦闘態勢に入る。しかしこんな人が多く、狭い場所ではかえって戦いづらい。圧倒的に烈怒が不利な状況だった。

 キメラが小型な理由も、全てヒロリアの策である。

 キメラは烈怒の頭部周辺を、超音波を発しながら飛びまわる。

「くっ、何だよ。こいつ・・・」

 頭を打ちぬくような攻撃に、思わず膝をついた。頭を押さえているうちに、兎が胸元から落ちる。

「あっ」

 小さな白い物体が、目の前に落下してきた。力を振り絞って兎に手を伸ばそうとした時、それは叶わなかった。

 キメラは蝙蝠の体からなる、爪のついた足をのばし、望美の体をひっとらえる。

 その光景に、烈怒は目を見開いた。まずい。そう判断した烈怒は、動きそうにない左手を諦め、剣を握っている右手を懸命に動かす。ソードを投げることに成功したが、キメラは兎を掴んだまま、背後から投げられた―を軽々と避ける。命中しなかった―は、しばらく空を切った後消滅した。

 歯ぎしりをして烈怒は立ち上がった。超音波が消えればこっちのものだが、相手も相当離れてしまった。

「くっそ!!待てよ」

 烈怒は人込みをかき分けながら道を進んでいく。一方で、キメラは空中を飛んでいるため、人込みなど関係なく烈怒を突き放していく。

 舌打ちの後に待っていたのは、商店街の出口だった。

 そろそろこのうざったい―もいなくなり、まともに戦える空間に突入できる。そう思った烈怒だが、待っているのはただの悲劇である。

 そうとも知らず、ついに深紅の犯罪者は出口に到達した。

 

 突然キメラは烈怒のほうに向きなおり、掴んでいた兎を放り投げた。

「きゃっ」

 望美の声を聞き、なんとかその小さな体を捕まえることに成功した。

「怖かった〜」

 望美からは安堵の息が漏れる。

 対照的に烈怒は嫌な気配を察知していた。

「今の・・・なんだったんだ」

 生じた疑問は、すぐに解決される。

〈ザ・X〉

 頭上から聞こえる必殺技の合図に烈怒は顔を上げた。見上げれば、城壁に人影が見える。そしてそこから、光速の紫色の弾丸が飛んでくる。

 なんとか横に回避した烈怒は、両手にバグクローク・ナックルを装備した。

 太陽の光のせいで眩しかった人影が、城壁から飛び降りる。

 影がなくなり、ようやく見えたその―は、ワイルドライドの服を纏っていた。

「・・・見かけない顔だな」

 

 烈怒の呟きにマグナムは反応した。

「あいつっ!」

 いきり立ってもう一発弾丸を放とうとしたのを、スリーが横から腕を掴んで引きとめる。

「仕方ないだろ。初対面なのは本当だからさ」

 それを素直に認めたマグナムは姿勢を立て直す。

 スリーが自己紹介を始める。

「俺はスリー、見ての通り・・・わかるだろ。こっちはマグナム。彼のOTAは・・・・・・バグクローク」

 語尾のセリフを聞いた瞬間、絶句した。

「・・・・・・本物か」

 烈怒はあっさりと認めた。

 マグナムも満足したかのように口角を上げる。

「それでいい。だがな、バグクロークは一人でいいんだよっ!!」

 担いでいたバズーカーを持ち、引き金を引いた。

 瞬間、前方には小規模の爆発が起こり、爆風が立ち込める。

 もちろん、この攻撃だけでは終わったつもりはない。

 スリーも戦闘の準備を整える。

 彼のOTAが発動する。徐々に小さかった体は、巨大化する。次第にマグナムの二倍の体をもつようになり、頭部からは二本の角が出現する。特に上半身が大きい。まさしく日本の昔話によく出てくる、鬼という妖怪だ。

「お前のその姿、久しぶりだな」

「そろそろ本気を出さないとね。・・・来るよ!!」

 鬼の角が烈怒の気配を察知し、スリーの体へと知らせる。力だけが自慢の鬼とは思えないような能力が備わっている。それがOTA:オーガ。

 スリーの言った通り、烈怒はこの程度でへばっておらず、爆風が晴れる前に―から飛び上がって姿を現した。

 上空へと顔を向ける。

 右腕には大砲を構え、こちらを狙っている。

「相撃ちか、それともどっちかが勝つか・・・」

 マグナムはそれだけを呟くとバズーカーの引き金を引いた。

 凄まじい爆音が周囲に轟く。

 一秒もたたない少数の世界の時間で二つの弾丸はぶつかり、はじけ飛んだ。

「チッ」

「つまらないね。俺は手伝うだけにするよ」

 内心マグナムは最初からそれがよかった。

 地面に着地したクリムゾンヒーローは、すぐさま赤い剣を装備し、こちらに向かって走り出す。

 マグナムのバグクロークは、偽物と違って白兵戦用の武器がない。

 そのため、尋常じゃないほど頑丈な物質でできたバグクローク・ピストルだけが―での頼りとなる。

 バズーカーを解除すると、―は光となって消滅する。

 そしてピストルを二丁、両手に構えて特に硬度が大きいグリップの下部で上手く赤い剣を受け止める。

 せり合った武器同士が火花を散らす。

 同時に両手で剣を持っているため、他はガラ空きな烈怒に目を付けたマグナムは、彼の腹を思い切り右足で蹴っ飛ばした。

 バランスを崩した相手は見事に吹っ飛んでいく。体勢を立て直そうとするが、体がまだ驚いているのか、よろめいてばかりいる。

 そこにマグナムはピストルを乱射した。

「死ねええぇぇ!!」

 怒りと憎しみ、憎悪と名のつくにふさわしい弾丸が続けざまに銃口から飛び出していく。それは音速の速さで烈怒の体に命中していく。 

 一発一発の弾丸のOTA無効化時間は少ないが、数が増えれば―の時間も増える。勝利を確信するも、激しく舞い上がる感情が制限をかけない。ゆるぎない弾丸の雨は、烈怒の体をついに打ち抜いた。

 HPバーが減るだけだった―も、さすがに量をこなせば致命傷にはなりうる。服の切れ目からは鮮血な液体が宙を舞った。

 しばらくして、弾切れを示すかのように、銃口からは、カチカチと空気をよぎる音しか出なくなった。


 全身が血まみれの烈怒。

 特に体を防いでいた右腕は重症である。この怪我ではソードや大砲も使えない。だからと言って、左腕を使うのは不慣れすぎる。自分の負けはわかっていた。

 烈怒が優先して守っていたのは、自分の体ではなかった。

 無論、約束を誓った兎であった。

 胸元から、望美が心配そうな顔をのぞかせた。なんとか彼女は無事のようである。

「赤城・・・」

 次の言葉を言いきる前に、烈怒が言葉を遮る。

「馬鹿。喋るな・・・お前の存在がばれたら、一番やべえだろ」

 息も続かないような声を上げて烈怒はその場に立っていた。ここまで考えてくれたことには、感謝はしきれなかった。

 心配をしたところで、烈怒の傷は塞がらない。ある程度望美も、烈怒の生命の危機は理解しているつもりだった。

「でも、・・・」

「誰か俺を助けてくれそうな人、・・・探しといてくれよ。・・・・・・ごめんな。約束、・・守れなくて」

 最後に述べられた謝罪の言葉を最後にして、烈怒は目の前の敵に向きなおった。望美も覚悟を決めて、再度服の中にもぐりこんだ。


 数秒後、バグクロークの効果で烈怒のOTAはかき消された。

 バグクロークの能力で身にまとっていた上半身および下半身の装備、「クリムゾンヒーロー」が解除される。

 烈怒はOTAを得る前の黒い長ズボンと、フードの付いた赤いポロシャツというシンプルな服装に早変わりした。

 一時的に無効化された―は、光となって消えていく。

 口からは息が漏れている。


「スリー」

 マグナムはその一言だけを告げる。出番を待っていたかのように、スリーは巨大な掌をマグナムにつきだした。そこに軽く一っ飛びして搭乗すると、クレーン車のように体が持ち上がっていった。

 眼中に映る敵は、もう翼を食われた鳥である。

 落ち着いた表情で右腰のスラップスイッチをゆっくりと押して行った。最後まで押された―が、反応して声を上げる。

〈ザ・X〉

 紫色の六角形が足元に出現する。エレベーターのように徐々に彼の体全身を昇っていく。

 それが頭上にまで達した時、ハッキングノヴァは発動する。

 スリーの巨大な両手が、マグナムを宙に放り投げる。空中で一回転したマグナムは、負けを認めたターゲットめがけて右足を突きだした。頭上にあった紫色の六角形はいつのまにか右足裏に移動し、烈怒に狙いを定めている。

 そして六角形が烈怒の胸部を捉えた。同時にマグナムのキックが食い込む。

 烈怒の―同様、肉体的なダメージは一切ない。その代わりと言ってもなんだが、HPバーはことごとく減少していく。あと少しで0になるとことだ。

 HPバーが0になった状態でも―が攻撃を続けているようならば、ダメージはHPバーを飛び越えて、現実世界にいるプレイヤーに、バーチャルコアを通じて直接ダメージが与えられる。終いには心臓が麻痺を起すなどをして、意識不明となる。死ぬ二まではいたらないのが奇跡ともいえるが、ほとんど植物状態のままであることが多い。今のところ、ライドザライドをプレイ中に意識不明になり、そこから回復した人間は世界中では一人もいないとの噂である。

 マグナムはその意識不明を狙って、烈怒に襲いかかった。烈怒のものと同様、紫の六角形からは大量のバグクロークが、槍状に飛びだしては次々と烈怒の体に襲いかかる。

 そしてついに、HPバーは0に達した。ライドザライドで本来ならば、ここで戦闘は強制終了される。しかし、ハッキングノヴァの性質上、烈怒の体内に残っているバグクロークを絞り出さない限りこの攻撃は中断されない。意識不明にするにはこの方法しかなかったのだ。

 烈怒の体には、OVERKILLと青い活字が表示された。ここから先は、烈怒が意識不明になっているという合図である。

 マグナムはそれでもやめられない攻撃を、憎しみのままに、怒りのままに続けていた。


 望美は烈怒に―言われた後、服の中から脱出し、反対方向に逃げ回っていた。

 小さな手足を動かして走り回るのは、不慣れであり、疲労がたまる。

 商店街に戻ったところですぐに息が切れてしまう。

 ―奴らに見つからない場所に逃げたら、これを使え。

 彼の遺言の後にあずかったのは、フィートンアップのカードである。烈怒が得意とするチートで彼女の体用に縮小されたカードを口にくわえ、人込みの足の周りを避けながら望美は走り続けた。心配だったのは、カードをなくさないかでもあったが、一番はやはり烈怒である。おそらく―。

 今彼に起こっていることは大たい想像がつく。考えるだけで悲しくなってくる。

 あの状況でも自分のことを気にかけてくれたことは、いくら感謝しても足りないだろう。

今度は自分が烈怒を助けなければならない。そのためにはまず、走り続けなければならない。

 商店街を出た入り口付近の所で、望美はカードを口から外した。

「はあ、はあ、はあ、・・・赤城、大丈夫かな」

息切れの中から発せられたセリフは、通用する事態ではない。

 とりあえず、今自分にできることをしなければならない。逃げなければ、天国で烈怒に怒られるような気がした望美は、少しためらった後カードを思い切り引き裂いた。

 兎が収まる程度の青白い光が出現し、彼女を包み込んで瞬間移動へと誘う。

 (3)


 誰か助けてくれる人を見つけなければ。

 こんな状況は二度目だ。あのとき、古城に謝ったのはよかったが、それから彼がどうなったかが心配だった。

 あの時と似ていた。

 しかし今は、それが発展している。心配して終わるのではなく、心配を打ち消すために助けてくれる人を探さなければならない。

 

 望美はフィートンアップによってデッドエンドロッキューに飛ばされていた。

 ここは上級者が集う街として有名だ。ある程度なら強いプレイヤーがぞろぞろ集まってくる。

 だが問題は話しかけてくれる人がいるかどうかである。いないからと言って話しかけるのは気味が悪い。よりによって指名手配中のクリムゾンヒーロー、そして兎が喋るのはもっとおかしいだろう。

 諦めて終わってしまうのだろうか。どうも男性と付き合うのは難しいな。もう、無理なのだろうか。

 その時、日に当たっていた望美の体が、急に巨大な影に覆われる。たまたま人が通っただけだろう。だがその影はやけに滞在時間が長かった。

 一分ほどしたところで、望美は顔を上げた。

やはりそこには男が立っていた。

 突っ張った前髪、ラフな半袖にサルエルパンツ。武器は背中に背負っている大剣だろう。OTAがあるかどうかはわからないが、この人なら強そうだ。

「・・・兎」

「えっ、あっ」

 彼の声に反応して、望美は思わず声が漏れてしまった。そして焦りに焦る。正体がばれたらどうしようと迷った挙句、望美は足を動かし始めた。

「待てよ」

 その一言で望美の動きはピタリと止まった。まるで冷凍保存されたかのようである。

「お前、ただの兎じゃねえだろ」

 望美はまだ振り向かない。何か言うのを待っている。

 しかし彼は喋る前に左手を動かした。気配を感じさせずに兎の体を掴み上げる。

 急に持ち上がった体に不安を覚えた。

 徐々に視界に男の顔が映っていく。そもそも一発で怪しいと判断したことから、タダものじゃないことが分かる。

 ついに彼と目が会った。緊張感が一気に湧いてきて、体中を満たした。顔を伏せて関わりたくない雰囲気を醸し出す。内心は喋りたくないだけだが。

「俺ニヒル。お前は?」

 まるで望美が望んでいることを読み取って、それでも無視するような行動には仰天した。なんかすごい。その一言しか言えない。

 この人の辞書にはおそらく人見知りという言葉がないのだろう。それくらい初対面の相手に対して、無緊張で話すことができる。尊敬しちゃう。

 烈怒に助けてもらった時、自分はここまで話すことができなかった。自分は人見知りな半面、慣れている人とじゃないとろくに話すことができない。そのため烈怒とはああやって平然と喋っていたが、かなり緊張していた。あんまし話す気などなかったのも一つの理由だったが。

 そもそもこんな非常事態に巻き込まれたのはお互い様だということを改めて思い出した。その分、彼とは助け合っていかなければならない。今、烈怒を助けるためには、ニヒルの力を借りなければならない。

 選択肢があるわけではない。ただ、“助けて”と一言言えばいいのだ。

 自分の性格にいつまでも足手まといになってもらっていては困る。

「あ、あたしは、波村望美。分け合ってこんな姿になっちゃってるの。もとは、普通の―だよ」

「ふーん。で、なんか騒がしい様子だな。ばれたくないことでもあるのか」

 どうやら彼にはもう一つ力が備わっているようだ。

 ―人の心を読むことができるということは、・・・サイキッカー!?

 などと望美はアホらしい勘違いをしていた。

 そんなこと、望美の声をかけられた時の言動を見れば誰だってすぐに見抜ける。天然な所は兎になっても変わらないようだ。

「・・・言いたくないんだけど」

「俺はお前の力になりたい。これはあくまで善意だ」

 最後の一言はなんだか余計な気もする。矛盾している。

 それを聞いて望美は期待を持てばいいのか疑いを持てばいいのかよくわからなかったが、迷った挙句、前者を選ぶことにした。

「・・・実は、クリムゾンヒーローっているでしょ?そいつ、あたしの知り合いなんだ。

・・たまたま出会ったところに、あたしがこんな姿になっちゃってさ。あいつが元に戻そうとしてくれている時に、・・・ネットポリスに捕まっちゃって・・・・・・・」

 そこで望美の言葉は途切れた。話はそれだけだか。兎は徐々にうつむいていき、ついには絶望した。ニヒルは泣かせたのを誤魔化すかのように空を仰ぎ見た。

 ニヒルはそんな重要な事態に関わってしまうことを承知した。

「要するに・・・クリムゾンヒーロー、助ければいいんだろ」

 今起きたことの罪は償うつもりだ。いや、これから罪が積もっていくのだろう。犯罪者に関わることになるのだから。

 望美が顔を上げるまでには数秒かかった。

「えっ、・・・今、なんて」

 ようやく立ち上がり、対照的な表情へと望美は変化した。

 安堵の息を浮かべ、決意を示した男は目を合わせた。

「俺が手伝う。それでいいか?」

 少しずつ、兎の顔には希望が満ち溢れていった。


 赤い服を着た金髪の青年の体が今、自らの部屋に転送されてきた。

 ここはD&C本社ではなく、ヒロリア自らがログインし、彼専用に用意された真っ黒な空間が広がった個室にいる。一つのデスクの周りには、巨大なカプセルベッドが十個用意されていた。そのひとつに、―やられたクリムゾンヒーローの体が転送されてきた。これは本物である。レプリカなどではない。

 マグナムたちが烈怒を意識不明にさせて立ち去った後、ヒロリアが回収したのだ。

 烈怒の体を見るのは久しぶりだった。フィートンアップのカードを渡したのはヒロリア本人であって、彼をログアウトできなくしたのも―である。

 そして本来はゲームから消滅するはずだった彼の体も、今こうして保管されている。現実世界でいう植物状態を保っているのだ。

 両手を組み、指が重なったところに顎を乗せる。モニターに表示された新たなイベントの企画。

 これにより烈怒を生き返らせる。そうでもしないと、この世界は成立しない。面白くない。いつものように、不敵な笑みを浮かべる。

(あなたに救世主派遣します AGITOキャンペーン AGITOが願いを叶えます)


 (4)


 望美と同じように、人を求めている者がいた。

 初心者プレイヤーの町田美帆であった。

 ヴァンに言われたとおり、まずは話しかけることが肝心だと。この前みたいに上手くいくかどうかはわからない。人がよさそうな人に話しかけるのが一番の得策だろうが、ぱっと見だけで人の中身を判断するのは、美帆にとっては悪趣味な気がしてならなかった。

 いまだにレオ・ルードをきょろきょろしているだけで、一向に彼女のレベルは上がっていかない。だからと言って独り身になるのは嫌だった。

 こんなわがままを聞いてくれそうな人は、・・・他にいるだろうか。

 その時、目に映ったのが一つの看板だった。

 黄色いコートに身を包んだ長身の男がその看板を一人掲げて突っ立っていた。

(用心棒 一回20000)

 金額は少々高めだが、最近アイテム収集ばかりをしていて、それを売り払った金額が20000を超えていたのを思い出す。レベルが貧相なくせに金だけはある。というのはまるで戦うプレイヤーではなく、商売を営むプレイヤーのようだ。

 早速彼に話しかけようと、美帆は歩き出した。だがヴァンの時とは違った何かが彼女に押し寄せていた。

 歩を進めるにつれて、緊張感が増してくる。そして意外にもイケメンなルックスに、―がさらに増してくる。美帆は意外とイケメンに弱かった。

 美帆の足音に気付いたのか、長身の男は振り向いた。

「あ、あのー」

 まさに緊張そのものの一声が口から洩れた。

「20000あるの?」

「ああ、・・・はい。ここに、ちゃんと」

 唇を震わせながらスタートメニューを開いた。自分のプロフィールが書かれた画面を開き、男に見せる。

「町田、美帆。・・・すっげえ、所持金40000!?・・・で、レベルは?」

 男はもういいかのようにプロフィールを閉じ、顔を見せた。

 そんな恥ずかしい数字、こんな人の多い所で言いたくなかった。

 冷や汗をかきながら、美帆は緊張して震えた手で、指を懸命に開いてジャンケンのパーを作った。

「五十?」 

 期待されたような声が、美帆にプレッシャーをかける。言いたくない。言いたくない。しかし世話をしてもらう者にとって、こんなことで弱音を吐いていたらもうおしまいだろう。

 勇気を振り絞って、男が言った数字を首を横に振って否定した。

「・・・・・・・・・えっ、もしかして」

 反射的に指を指されたが、仕方がないことだろう。笑い物だ。

「・・・一桁?」

 震える首をゆっくりと縦に動かした。


 話を聞くと言って、ネットカフェに連れ込まれた美帆。

 長身のイケメンは、なんだか胸糞悪そうだった。それもそうだろう。用心棒を宣言するくらいのレベルの高い男と、何にもできないレベルが一桁の女。

 三桁くらいのレベルを期待していたのだろうか。誤っても許されることはなさそうだ。

申し訳ない恰好で美帆はティーカップのコーヒーをすすった。

「・・・本当に、レベル5なの?」

 再度美帆は首を縦に動かした。

「すみません。こんなあたしと、パーティーなんて組みたくないですよね」

 状況から脱出したいという思いが、美帆をマイナス思考に陥らせた。さっきから何か喋ってはコーヒーをすするということを繰り返しているだけだった。これで緊張を少しでもほぐそうとしたのだが、ちっとも―は去らなかった。

 男はため息をついて、自身にも配られたティーカップを手に取り、口元まで持っていった。

 彼のコーヒーをすする音が鳴り響く。

「俺は、・・・天野川弘明。レベルは・・・154」

 ヴァンよりかはレベルは高くないようだ。っていうかヴァンのレベルが高すぎるのだろう。150代は平均的なレベルと聞いている。

 ここでまた、レベルの差を計算する。また三桁差が開いた。・・・なんだか恥ずかしいし、申し訳ない。

「・・・別にレベルのことは気にしないよ。ただ・・・まともに戦えるかどうか・・・」

「どうやったら、強くなれますか?」

 初めて聞かれたような質問に、弘明は驚いた。しばらく考えるのに時間がかかり、沈黙が訪れた。

 数分後、弘明は首をひねりながら口を開いた。答えが出たかどうかは定かではなさそうだ。

「・・・とりあえず、OTA持ってる?」

 OTAと聞いて思い出すのは、速人の存在だった。彼から頂いた初心者救済としての善意のOTA、シャクネツ。

「ああ、・・・一応。持ってます」

 美帆はスタートメニューを開いてアイテム欄からOTA:シャクネツのカードを取り出した。

 そのカードの姿を見た弘明が絶句した。美帆には理由がさっぱりわからない。

 美帆はまた初心者らしい一面をだして、笑って誤魔化した。

「ど、どうかしました?」

「・・・なんでダウンロードしてないの?」

 OTAのダウンロードとは、OTAを自身の体に取り込むことである。基本的にはOTAは一人一つしか所持できないため、手に入れた者は一つ目ならカードを破ってすぐさまダウンロードをする。二つ目ならば売るということがこの世界の常識だった。

 しかし美帆はそのどちらでもなかった。

「・・・なんですか、ダウンロードって?あたし、使い方よくわからなくて」

 口元が引きつりそうになりながら、世辞をかますかのように弘明は続ける。

「ああ、そうなんだ。・・・所でこんな高価なもの、どこで手に入れたの?」

 OTAはレベルが高いほどモンスターを倒した時のドロップアイテムで出現しやすい一桁のレベルで出現するアイテムではなかったのだ。

「これは、なんか趣味で初心者救済をやってる人が、くれたんです」

 思い出を語るように言葉をつないでいく。楽しかったのはあの時くらいか。

「なんて名前の人?」

「確か・・・風間、速人とかいったような」

「えっ、・・・マジで!?・・・速人、そんなことやってたのか」

 ソファーの背もたれに体を預けて、弘明はコーヒーを飲んだ。

 下の名前で呼んでいるといことは、知っているのだろうか。

「知り合い、ですか?」

「まあ、・・・ちょっとした出来事以来あんま連絡取ってないけど」

 意外なめぐり合わせに、美帆は少し感動した。

「で、どうやって使うんですか?」

「カード破ればいいよ」

 唐突に告げられた一言を半信半疑になりながらも、美帆は言われたとおりにやった。

 カードの破れた裂け目から、“OTA:SYAKUNETU”と書かれた青い活字が出現し、その奥には灼熱を意味する炎がぱちぱちと火花を散らしていた。

 数秒後、炎が活字に囲まれながら、ゆらゆらと美帆の周りを漂う。驚きのあまり、美帆は固まった状態が続いていた。

 炎は美帆の胸部までやってくると、瞬間的に彼女の中に入り込んだ。

 彼女の手元にあったカードは光となって消滅した。

 以後、何も変化がないことに美帆は戸惑った。

「えっ、えっ、あたし何か変わりました?」

 弘明が咳払いをした後解説を始める。偉くなった気分を味わっているのだろう。

「OTAをダウンロードするとレベルが30上がる分の経験値が入る。だから君は今、35になったんだ。それと、もう炎をいつでもどこでも出せるようになったから・・・」

 弘明のせっかくの解説を、美帆は指を指して遮った。自分に向けて指された指から、炎が出現した。

 その炎が、弘明めがけて飛んでいく。


 ―は運よく弘明の顔をすれすれにかすっただけで終わった。破壊することのできないオブジェクトのソファーに当たって終わった。

 今度は弘明の体が震えていた。

 いくらプレイヤーレベルの高い者でも、不意に炎が自分の真横をかすめるとなると驚くことに間違いはないだろう。

「あっぶえねえ。マジ勘弁してくれよ」

 すると美帆はまた申し訳なさそうに頭を小刻みに下げ続ける。

「ああ、すみません。ほんと素人なんで。なにもわからなくて・・・」

「まあ、これから理解していけばいいよ」

 弘明の慰めの言葉を聞いて、ほっとした。切り替えの早い美帆は、すぐに立ち直った。

顔をはっと上げて、また敬語の口調で話しだした。

「ほんとありがとうございます。これからお世話になります」

「用心棒だから、・・・君を守ることになるのか・・・大変だな」

 捨て台詞が再び美帆の心にぐさりと突き刺さった。弘明は、そろそろこのくだらない繰返しには飽き飽きしていた。

「わかったからもういいよ。他に質問とかある?」

 さすがにゲームについての質問はここまでくればしてこないだろうと思っていた。美帆は先ほどから気になっていたというような表情を用心棒に向けた。

 少し緊張気味になりながらも、弘明は飛んでくる質問に対して心を身構えた。

「なんて呼べば・・・」

 いたってシンプルかつ望んでいた質問だった。反射的に何か特別な感情が湧くわけでもなく、難なく軽く答える。

「弘明でいいよ」

「年は・・・?あたしは十七です」

この質問も今と同じ要領で答えればいいと思っていたが、それも上手くはいかないようだ。

 まさかの彼女が・・・。

「なんだ・・・同い年だったんだ」

 それにしてもレベル、ゲームのテクニックに差が出すぎじゃないかと疑問に思った。説明書を読めば乗っていることなのに。

 ふと思いついた疑問を弘明は口にした。

「説明書読んでないの?君は、・・・ちょっと知らなさすぎるっていうか」

「速人さんにも同じこと言われました」

(どういうオチだよ・・・)

 内心馬鹿にするほどに爆笑しながら、弘明は咳払いをして黙り込んだ。

 二人の間に、沈黙の空気が舞い降りた。

(あたし、どれだけアホなんだろう。恥ずかしい)

 わかってて赤面するのなら、最初から対策を打ってほしいものだ。


 (5)


 管理組織連合軍。ヒロリアがそう命名した。正式名称である。略して連合軍。管理組織とは、ヒロリアなどゲームを作った人々のこと、D&Cの社員などを指す。彼らはその証に、特別なアイテムを所持している。特別なアイテムと聞くと、誰も持っていないようなアイテムを想像するが、いたって希少価値が高いだけのOTAである。希少価値が高いOTAは、もちろん高値で取引されるし、能力自体も超強力だ。

 その管理組織と連合して作られた組織が連合軍だった。

 まだメンバーは二人しかいない。と言ってもそれだけでもかなり十分な戦力になっているのだが。足りない分は、支給されるバーチャルソルジャー(コンピューター)でカバーできる。

 そのメンバーの一人、言い直すと連合軍の長、風間速人の元に一通の電子メールが届いた。

 送り主は、予想どうりヒロリア・B・レイダムだった。

 何かの報告と思いきや、目の前に飛び込んできたのは意外なものだった。

 それは、一枚のポスターだった。

 イベントの開催を示している。イベントと聞くと、この前、凛に一人で行かせて怒られたのを速人は思い出していた。

 さすがにこのイベントに参加命令が出ているとすれば、参加せざるを得なくなるだろう。彼女が怒ったときの顔は見てみたいものでもあるが、旧友に会わせる顔がないので止めておくことにした。

 そんなことを妄想しながら、ポスターを眺めていると、ドアの開く音が部屋全体に鳴り響いた。

 入ってくるのは、―しかいない。

 そう思うと、不意に足音が消えた。

 もしかして侵入者か?

 速人は警戒しつつも敢えて背後を振り向かなかった。

 そして、急に地を蹴る音が聞こえる。振り向く前に首元に攻撃を仕掛けられた。

 しまったと思った瞬間、やられたのは首ではなかった。

 視界が急に悪くなったかと思えば、何かで塞がれているのだ。もしや本当に侵入者じゃ・・・。

 しかしそれも安心していいようだ。

「だーれだ」

「そんなことして絆に怒られねえのかよ」

 すっかり騙されたことが恥ずかしかった。

 凛は両目を覆い隠していた手を放したが、速人は赤面した顔をよっぽど見せたくないようだった。

「うるさいなあ。古城君のことは話題に出さないでよ」

「それは置いといて」

 負け惜しみかそれとも単に話を変えて誤魔化そうとしているのか、天然な凛には判断がつかなかった。

「新しい任務来てたから、メール読んでおいて。俺は・・・ちょっとウエディオー行ってくる」

 そう言って速人は席を立った。下がった椅子が、凛の腹部に押し寄せる。さっと身を引いた凛は立ち上がったパートナーを見つめる。

「そんなにあたしと二人きりになるの嫌?」

 どこまで天然を貫きとうそうとしているのかはよく分からないが、速人は言葉に詰まって返事が返せなかった。

「誰もそんなこと一ミリも考えてねーよ」

 直後、口をとがらせた―が出現したが、即刻速人は無視して部屋を出ていこうとした。

 メールに目をやった凛は、あることに気付いた。

「・・・風間君。・・・送り主」

 急に速人の足が動きを止めた。今まで後悔していなかったことである。それにしても、今の質問は相当ヤバそうな事態を招きそうな気がしていた。

 申し訳なさそうに速人は凛の方に向き直った。

「ヒロリアって・・・」

「悪かった」

 絆を殺したのはヒロリアと言っても過言ではなかった。あんな悲劇を起こした張本人は、現在の雇い主でもある。

 このことは、いくら誤っても済みそうにはない。況してや、相手は凛だ。あの悲劇で一番傷ついていたのは凛だ。そしてまた、速人は凛を傷つけてしまった。

「・・・ひどいよ。黙ってるなんて」

 一瞬にして凛の顔は深刻な―に陥った。

 この場をどう乗り切るか、速人にはわからなかった。また凛を泣かせてしまうのだろうか。そんなのはごめんだ。そうなると本格的に自分は絆と縁を切らなければならないくらいのレベルにまで到達する。

 さすがにこの状況は反省していた。

「凛、・・・許してくれ。俺だって絆を、助けたかったんだ。そうするには、・・・・・・この方法しかないと思って」

 こんなもの、躊躇うようなものではないことはわかっている。

「あたしはうれしくない!!」

 凛は涙目になりながら訴えた。気持はわかる。しかし絆は今どう思っているかわからない。

 今生きているのかさえ分からない。誰も教えてくれない。何もわからない。自分には何ができるか。何をすればいいのか。

 ヒントも無にどうやって―すればいいのか。

「わかんねえんだよっ・・・!俺だって、どうすればいいか。俺だってあいつを助けてえよ。凛はわかるのかよ」

 抵抗力のない凛はその場で膝まづいた。そして顔を隠して泣くのかと思いきや、思わぬ邪魔が入った。

 よかったのか悪かったのか、速人には考える力もなかった。

 メールを映し出していたモニターに、金髪の男が映った。

「やあ、ごきげんよう」

 速人は目も合わせようとせず、うつむいたままだ。

「・・・国川さん。久しぶりだなあ。実に、二年ぶりと言ったところか」

 凛も当然同じ態度であった。彼女の方が精神への傷は深い。なにもかもこいつのせいだった。

「重要なお知らせだ」

 ヒロリアはただ今の空気の現状を確認した。無理やり風穴を開けようと、続ける。

「君たちはキングオブビースト。というプレイヤーを知っているかね?」

 少し興味を持ったのか、凛はゆっくりと顔を上げた。鼻をすすって、見たくもないモニターを我慢して見つめた。

「巷で噂の彼が、ネットポリス本部を襲った。今からその時の画像を転送する。・・・もしかして映像の方がよかったかい?」

 空気を読んでいないを質問に速人はぶっきらぼうに答える。

「別にいいよ」

「・・・結構だ」

 ヒロリアの映っている画面が左にずれると、新たな画像が転送され、ヒロリアの右隣りに出現した。

 画像に映っていたのは、キングオブビーストと思われる人影と、その周りを覆い尽くす白い光のエフェクトだった。背景にしては、なんだか自然現象とは思えないものだった。

「何これ」

「周りはどうなってんだよ」

「気になると思っていたよ。まるでCGのようだろう。だが違うんだ。・・・これはOTAだ」

 最後の一言を聞きつけた瞬間、速人の顔が上がった。

「んな馬鹿な!レアOTAじゃねえのか」

 レアOTAとは、管理組織のようなプレイヤーが持つ珍しくて強いOTAの通称である。

「ちなみにこの背景は、温度が高すぎて壁などが溶けていると思ってもらいたい」

 凛はそのOTAを疑問に思った。

「壁とか天井って壊せないんじゃ・・・」

「できてしまうようだな」

 恐ろしいことをヒロリアは簡単に述べた。

 普通なら身震いをするくらいの常識をぶち壊したことだ。速人はもう既にそうなっている。

「防ぐ方法は?」

「風間君、君のOTAなら可能だろう」

「・・・確かにな。っつても、こいつと会っても戦うかどうかわからないだろ?」

 速人の身震いもようやく治まったようだ。

 今やっとどうでもいいような話をしていると気付いたのは彼だけだろう。凛はもうとっくの間に気付いていた。なぜか肝心な場面で彼らの性格は逆転していた。

「いいや、君たちの本来のクリムゾンヒーローの捕獲という本来の目標に追加だ。キングオブビーストの捕獲を命じる」

「なんか強そう」

「そのための戦力の補充としてAGITOキャンペーンを用意した」

 何も知らない二人には嘘をどれだけついても大丈夫だ。内心高らかに笑いながら演技を装った。

「なるほど。それで優勝すればなんか強い奴が仲間になるわけだ」

「そう言うことだ。・・・ああ、後一つ言い忘れていたことがあった。・・・彼は、古城絆である可能性が高い」

「は?」

 速人は思わず顔をゆがめるほどに問いかけた。ヒロリアはいつものように平然としている。どうせまた演技をかましているのだろう。だがそれが嘘とは思えなかった。今回はたまたま事実を述べているだけだ。


 凛はいきなり述べられた驚愕の真実に希望を持った。彼を捕まえれば絆に会える。

 この任務はうれしいの他に湧いてくる感情はないほどだった。凛は気分を変えて立ち上がった。

「OTA:ボディパラメイト。自らの体温を自在に変化させるレアOTAだ」

 


 



 

 







 他の小説にはない展開になってきた

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