一八〇六年 (一)
あなたの好きなものは、きっと残らずいえます。
季節は秋。鹿の鳴き声がひっそりと響くような、色づいた葉が落ちる音が聴こえるような、そんな静かな森に立って、あなたは往く秋を惜しむのです。あなたにとっての秋は、永遠に、その瞬間であるのですね。
花なら、薄紅色の花。これらはもう、諳んじていえるくらい、わたしにとってはお手のものです。
飲み物なら、薄いコーヒー。紅茶には、ミルクをあまり入れずに、苦味を残したものがよいですね。
食べ物なら、ニンジンのスープ。わたしたちの食事は、かならずスープで始まりましたね。それから、パプリカ風味のシチュー、鶏ひき肉のパイ、干しブドウ入りのオムレツ。それには、もちろん、すももの砂糖づけを添えます。
わたしは、今朝は、オムレツをとてもとても薄くしたようなものを食べました。鶏ひき肉のパイなどは、宮廷では食べないそうです。(これは、ノルディア様に聞きましたの。“そのようなものは、こちらの宮廷では食しません”と、わたしはまた怒られてしまいましたわ)
いけません、話が逸れてしまいました。大切なことを、わたしは、考えたのです。
知らないことが、わたしにはたくさんあるのではないかと思ったのです。
結婚式のときにあなたと話したあと、去年の秋の初めにいただいたあなたからの手紙をもう一度読んで、そう思いました。何度も、読みました。
それから、あなたのお知り合いの方がくださった本も読んだのです。あなたは、お読みになったのでしょうか。
わたしが考えた大切なことは、あなたの、大切なひとのことです。
あなたの大切なひとは、あなたの、お兄様。わたしの、お父様です。
お父様がどうしてお亡くなりになったのか、わたしは今まであまり考えたことはなかったのです。
けれど――。同じ争いを経験したひと同士が、同じことを考えていないのは、なぜなのでしょう。あなたの知り合いの方は、わたしがあなたから教わらなかったことを、たくさん書いていらっしゃいました。
たとえば本は、こんな風に書かれていました――――