表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

地獄に舞い降りた天使

作者: 亜差覇蚊

どうも〜

亜差覇蚊です


今回は路傍之杜鵑さんの企画「殺し愛・空」に参加させていただきました。


正直にいうと私のような駄作者が入っていいのか?と言う面々が揃っていましたがこれを機に勉強させていただこうと思っています。


では

どうぞ

 俺はことのなりゆきとは言え、友人1人の命を奪ってしまった……。


俺の手は小刻みに振るえ、歯が噛み合う音も次第に大きくなりだした。

訳もわからなくなりいつもの居酒屋を飛び出し、行く宛もなく走りつづけた。

近くからは電車が走る音が聞こえてくる。

だがそれ以外には特に人の声もなく、自分が1人だけ孤独にいるような感覚を覚えさせた。


「はは……20ちょっとで犯罪者かよ……」


俺は顔に手を当て、うずくまる。

誰にも見えないように塀に背を預け、小さな呻きを漏らす。


その頃現場となった居酒屋では早くも現場検証が始まっていた。

その居酒屋の前でパトカーが1台停まり、中から無精髭を生やしたけだるそうな男が出てくる。

その男は店の暖簾を分け、店内に居た別の男に声をかけた。


「おぅ、佐田。現場はどうだ?」


佐田と呼ばれた男は手帳を手に取り、男の前に歩み出た。


「お疲れ様です。後藤さん。……被害者は近くに住む杉田 次朗さん、23歳。電気チェーン店で働いていたようです」


佐田が後藤に殺害現場の状況説明に入る。

それを聞きながら後藤は遺体の周りを見て歩く。


「死因は後頭部を尖った物か何かで損傷し多量の血液が流出していることから出欠性のショック死だと思われます。」


「多分、その柱の物置の角でやったんだろうなぁ」


後藤が見つめているのは被害者が倒れているすぐ横、座敷と座敷を仕切る壁があり高さはさほどない所に切り抜きがあり小物を置ける仕様になっていた。

その左前の角は血が染み込んだのか赤黒く染まっていた。


「多分そうだと思います。店主や他の客は少し離れた所にいたようで、怒鳴り声は聞こえていたようですが犯行自体は見ていないようです。ですが検証係もそう見てるようですので間違いないかと」


また佐田は手帳に目を落とし、報告を続けた。


「加害者は杉田さんと飲みに来ていた平田 真治さんで、飲酒中に口論に発展し掴み合いになり振りほどいた結果こうなったようです」


佐田が報告を終えると、それまで聴き入っていた後藤が口を開く。


「なら平田を容疑者として捜査開始。現場検証は検察もすぐ来るはずだからな。佐田お前は後1人誰か見つけて平田の家張り込め」


後藤はさっと全体に指示を与えると踵を返し、先に店外に出た。

懐からタバコを取り出してくわえ、火をつける。


「まったく……面倒ばっかかけやがる」


後藤は前に停めてあったパトカーに乗り込むと、サイレンを鳴らしながら走り出した。




 どれくらい時間が経っただろうか……。

俺はずっとうずくまって泣いていた。

今は涙も枯れ果てたのか、1滴も流れて来ない。


「そろそろ俺の事探し回ってる頃だろうな……」


また幾度目かの電車の走る音が聞こえた。

俺は立ち上がり塀に向かい合うように立った。


「……俺、どうすりゃいいんだ?」


誰に問い掛ける訳でもなく、ただ叫ぶことしか出来なくなってしまった。

やみくもに走り出してもまたどこかにぶつかり、立ち止まるのは目に見えていたから。


「……畜生、畜生」


俺は塀に額を預け、右手を握りしめ何度も何度もたたき付ける。


「あの〜」


不意に声をかけられ俺は振り向きつつ後退る。


「あの、そんなに怯えないで下さい。その、こっちが無性に申し訳なくなってくるんで」


そういうのは俺より1つ2つ歳が下に見える女の子だった。

長い髪を髪留めで束ね、頭の上に2本だけ飛び出てはねた髪の毛が印象に残る女の子。


「それはそうとこんな所でそんな薄着で寒くないんですか?」


そう言われ、俺はジャケットを着ていないことを思い出した。

逃げることに夢中になって忘れていたみたいだ。


「逃げ出すのに夢中だったんだな……忘れてきたか」


「えと……どこに忘れてきたんですか?」


彼女は何がしたいのかわからないが、俺に突っ掛かってくる。


「ちょっとね……さっき寄った喫茶店かな」


「そうなんですか? 取りに行かないんですか?」


ほんとに何がしたいんだろうか?

ますますわからなくなってくる。


「多分置いといてくれますからまた取りに行きますよ」


「じゃぁ一緒に取りに行きませんか?」


「はい?」


思わず口から出たのは疑問形。


「いや。今なかったら寒いじゃないですか? だから早く取りに行けば寒くないでしょ?」


「言ってることはわかりますが……別にそんなに急がなくても」


「でもでも、お店の人が間違って捨てちゃったらどうするんですか?」


「それは大丈夫ですよ。2、3日くらいなら置いといてくれますよ」


俺がそこまで言い切ると、彼女は俯き黙ってしまった。


「はぁ……。そういえば君はどっか行くんじゃなかったんですか?」


俺の問い掛けに顔を上げた彼女は、首を横に振った。


「どこに行く訳でもないんですけど……。少しお散歩しようと思って家を出たらあなたが悩んでいた様だったんで」


「つまり散歩に出たらたまたま俺に会ったって事ですか?」


「はい……。でも何だかすっごく悩んでたみたいで見てられなくて」


俺は彼女を邪険に扱っていた自分を叱責した。

彼女は会ったこともない俺が悩んでいるのを気にかけ声をかけてくれていたのに、俺は欝陶しいと言わんばかりに言い放ち彼女を遠ざけようとしていた。


「なんかゴメン。俺、君の気も知らないできついこと言ったな」


「あっ、八代 美樹って言います。」


彼女は、やっぱり変わっていた。

でも何故だがその変わった所が心地良く思えた。


「あっ、俺平田 真治です」


「では平田さんでいいですね? 私の呼び方は何でもいいですよ」


「じゃぁ、……八代さんで」


「はい。これでお友達ですね」


「は……はは。八代さんて変わってるって言われませんか?」


「よく言われるよ。テンポズレすぎ〜とか」


俺は「やっぱり」と口に出し、口元を押さえて笑い出す。


「ちょっと平田さんまで酷いですよ。私どこも変わってないですよ?」


「はいはい。すいませんでした〜」


と俺が冗談混じりに謝罪すると彼女も笑ってくれる。


「よかったです」


そんな中で唐突に彼女が口を開いた。

俺はすぐに向き直り「何が?」と聞き返す。


「私なんかでも、悩んで落ち込んでいる人を笑わせてあげられるんだって事がです」


その言葉は俺の体に入り何度もこだまし、体中に響き渡った。


「平田さんが何に悩んでいるかは存じ上げませんが、悩んでしんどいとき私なんかでよかったらいつでも相談してください。いくらでもお話、付き合いますから」


俺はそういわれたことで、肩の荷が下りたような感覚になった。


(この人になら受け入れてもらえるのだろうか?)


そんな事を思う様にさえなってきていた。

俺は意を決して話すことにした。


「八代さん」


「はい? 何ですか?」


口に溜まった唾を飲み込む。

その音が大きく聞こえた。


「俺……俺は大きな間違いを犯したんです。それも他人の人生をも巻き込むほどの大きな間違いです。それで俺逃げ出しちゃって、謝る程の覚悟もなくて……。俺どうしたらいいんですかね……」


俺は少し俯く。

胸の奥にしまい込もうとしていた話。

自分から他人に打ち明けるなど、微塵も思っていなかった。


でも彼女はしっかり頷きながら聞いてくれた。

多分、世界中探してもここまで他人に親身になって話を聞いてくれる人はそうはいないだろう。

そんな人物に今まさに巡り会えている事に感謝した。

すると彼女は口を開いた。


「平田さん、人は誰でも間違えます。ただ、それをどう取り戻すかが大事なんです。取り戻すのがどれだけ難しくても、努力して努力して精一杯取り戻そうとすれば人はわかってくれます。平田さんは大きな間違いを犯したと言いました。他人を巻き込むような大きな間違いを……。私はその他人の事をよく知りません。ですけどどれだけ気難しく怒りっぽい人でも平田さんなら大丈夫ですよ」


そういうと彼女は俺の手を取り、2人の視線の間に来るように持ち上げた。

それから彼女は目を細めてあやすように口を開いた。


「それに平田さんはとっても優しい方なんだって思います。見ず知らずの私が声をかけたらちゃんと返事してくれました。こうしてお話もしてくれました。それだけ人の事を理解して受け入れられるなら大丈夫ですよ。私は平田さんの事信じてます」


彼女の言葉のひとつひとつが、俺の心に突き刺さっていく。

俺の目から枯れ果てたと思っていた涙が溢れ出す。

その間も彼女はずっと笑いながら俺の傍に居てくれた。

少しして俺は涙を拭い去り、彼女に向き直った。


「八代さん……ありがとうございます。なんか俺頑張ってみようかなって思います。どんだけ難しくても償っていきます。正直上手くいくかなんてわからないですけどね」


俺がハハッと頭を掻きながら笑う。

彼女も小さく笑う。


「よかったです。私、平田さんの事助けられましたね」


彼女はまた俺の手を取ると前後に振り出す。

俺はもう暗い顔になることもなく笑いだす。


「えと八代さん……。最後にお願いがあるんですよ」


だから余計に申し訳なくなる。


「はい? 何でしょうか?」


「寒くなってきたんでジャケット取りに行くんですけど……。一緒に来てもらえませんか?」


もちろん寒くなってきたなんて真っ赤な嘘だ。

だけど今行かないとまた逃げ出してしまいそうだったから……。

だから彼女に見届けてもらおうと思った。


運任せな賭けだと思った。

断られたらちゃんと自分は言い出せるのだろうか?

断られたら自分は逃げ出さずに生きていけるのだろうか?

そんな事をずっと思っていた。


だが彼女は笑いながら2つ返事で承諾してくれた。



 俺達は逃げ出してきた居酒屋の前に来た。

さっき彼女には喫茶店と言ってごまかしたから何か言われるかと思ったがそんなこともなくニコニコしていた。


「すいません……さっき喫茶店なんて嘘ついちゃいました……」


「かまいませんよ。悩んでる時には対外嘘が出ますから、私もですし」


そんな会話をしている時だった。

向かいからパトカーが走ってきたと思ったら居酒屋の前で停まり、無精髭を生やした男が降りてきた。


「久しぶりだな……。真治」


「後藤か。久しぶりだな」


後藤はチラッと八代さんの方を見るが、すぐに俺に向き直る。


「よく戻ってきたな」


「どこかのお節介さんにお説教されてね。安心してもう逃げないから」


俺は八代さんに目配せすると、繋いでいた手を解き前に出た。

もう迷う事はなかった。


「そうか……。11時37分。容疑者平田 真治傷害致死の容疑で連行する。」


「はい」


俺はすっと両手を差し出す。

どれだけ大きな壁でも乗り越えると決めたから……。


 俺は後藤の案内でパトカーの後部座席に座らされた。

顔を上げると、車内のバックミラーに八代さんが立っているのが見えた。


俺は乗り込んできた後藤にお願いして後部座席の窓を開けてもらった。

少しだけ顔を出し、彼女の方を向く。


俺はすっと息を吸い込む。

そして口を大きく開き1言だけ言った。


「ありがとう」


彼女はちゃんと聞き取ってくれたようで笑いながら頷いた。

そして口元に手を当てしゃべりだした。


「また、またいつか会おうね」


俺はその言葉に首だけを振った。

そしてもう1度見つめ合い笑い合う。


俺は気が済むと首を車内に戻し、後藤にありがとうとだけ言った。

それを合図にパトカーは走り出す。

その車内のバックミラーには手を降り続ける八代さんの姿が映り続けていた。


俺は心の中でまた会う約束をし、目を閉じた。


ありがとう。

八代さん。

俺にもう1度、歩き出す勇気をくれて……。

ありがとう……。


いかがだったでしょうか?


私のレベルでは、これで頑張ったと思っています。(汗

ただ色んな所であやふやな事を書いている気がするのでダメ出しや注意等お願いしますf^_^;


なかなかに限られたシチュエーションで書くと言うのは難しかったですねf^_^;


ではまたノシ


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 何だか不思議な話でしたね。 殺人事件が起きたにも関わらずふわふわした感覚で、楽しめました。 でもそんなふわふわさが、自首に向かわせたんだと思うとどこか微笑ましくなりました。 …
[一言] はじめまして、企画参加者のつるめぐみと申します。 拝読いたしました。 固定シチュエーションをしっかりとクリアされ、物語の流れもよいと感じる物語でした。 犯人と後藤の関係がいいですね。好みで…
2012/02/19 12:03 退会済み
管理
[一言] 八代さんの登場とキャラにちょっと違和感を覚えましたが、「駄作者」なんてご自分を蔑むほど酷くはないと思いますよ。 シチュエーションはきちんとクリアされてると思います。 全体的な流れもよく、八代…
2012/02/18 20:54 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ