真っ白のスケジュール帳
学校の机の上で、スケジュール帳を開く。
周りがスケジュール帳を持ち始めているのに憧れて自分も買ってみたけど、これからの予定は真っ白だった。
「これはない。これはないわ」
友達に見せてもらった時は、何かの予定でびっしりだった。
「私ってこんなにつまらない毎日だったっけ?」
そもそも、平日は学校、休日は部活の自分に特別な予定などほとんどない。
スケジュール帳に部活と書き込むだけでも休みは全て埋まるが、何だか違う気がした。
「遊ぶのもいきなり決まるし、もしかしなくても私には不必要だった?」
しかし、せっかく買ったのにこのまま捨てるのももったいない。
「うーん、どうしたものか」
「何を一人でぶつぶつ言ってるんだよ」
後ろから話しかけられる。
振り向くと、隣の席の吉田君がいた。
「おはよう」
挨拶をして、吉田君は席に座る。
鞄を机の上に置き、中身を取り出していた。
「おはよう・・・・・・」
じっと吉田君を見る。
吉田君は男子だから、さすがにスケジュール帳は持っていないだろう。
「何だよ」
見られている事に気が付いた吉田君は、仏頂面で見返してきた。
「スケジュール帳って持ってる?」
「何だよ急に。そんなの持ってるわけないだろ」
中身を出し終えたのか、吉田君は鞄を机の横にかけた。
「ちょっとね」
吉田君を見ていて、髪が少しはねているのに気が付いた。
「スケジュール帳を買ったんだけど」
寝癖だろうか?
気付いてしまうと気になって仕方ない。
「予定がなくて真っ白だから、買った意味があったかなって」
寝癖を直す為に、吉田君の髪の毛に手を伸ばそうか考えつつ返答する。
吉田君が動くたびに寝癖がふわふわとあっちにいったりこっちにいったり。
何だか可愛い。
思わず口もとが緩む。
寝癖って女子に言われるの嫌かな?
同性に言われた方が恥ずかしさも半減するよね。
でも、他の男子に言われるまで恥ずかしい思いをするわけだし、私が言った方が良いかな?
「・・・・・・い、・・・お・・・・・・い!・・・・・・おい!」
吉田君の声にはっと我に返った。
寝癖の可愛い動きについ夢中になってしまっていた。
「ごめんごめん」
吉田君の顔に視線を戻す。
「あれ?風邪?」
心なしか吉田君の顔が赤い気がする。
「違う!ていうか、俺の話を聞いていたのかよ!」
寝癖に気を取られ、全然聞いていなかった。
「ごめんなさい。もう一回お願いします」
軽く頭を下げる。
「だから」
ゴホンと吉田君は咳払いした。
「俺が埋めてやろうか」
「え?」
何を言っているか分からなかった。
思わず聞き返す。
「俺がスケジュール帳を埋めてやろうかって言っているんだよ」
吉田君の顔がみるみる赤くなる。
「え?ええっ?」
吉田君につられて私も顔が赤くなる。
「どうするか考えとけよ」
チャイムが鳴り、教室に先生が入ってきた。
詳しく聞こうとしたが、周りが着席し始めて聞けなくなる。
スケジュール帳を埋めるっていう事は予定を入れるって事で、それを吉田君が埋めるっていう事は・・・・・・。
吉田君の言った意味を理解し、顔がさらに熱くなる。
吉田君の方が見られなくなった。
新たな悩みが出来たが、とりあえず私のスケジュール帳の悩みはなくなりそうだ。
end