2.入浴
数日もすると、宏尚は看護師に掴まり立ちしてトイレに行けるようになった。
そうなると風呂にも入りたくなるのが人情だ。
夏の暑さで昼も夜も汗びっしょり。髪の毛も体中が汗臭いから、シャワーだけでも浴びたいと要求した。
すると翌日の三時ごろ、前嶋苑香が車椅子を押して部屋に入って来た。ベッドの上でTシャツを脱がされ、パンツも脱がされて素っ裸にされた。
今西も居なくなった今は一人部屋状態なのだが、せめてカーテンぐらい閉めて欲しいものだ。廊下を行き来する人から丸見えじゃないかと、思わず口から不満が出そうになった。
本当は美鈴さんにやって欲しかった……などまでは言うまいが。
だが、そうも言っていられない状況だ。とにかく体を洗いたい。
いや、まだ一人では無理なので、洗ってもらえるのは有り難かった。
大きなバスタオルでグルグル巻きにされて、車椅子に乗せられるとき、ふいに杉本美鈴が現れた。そう、彼女は基本的にこの部屋の担当なのだ。
宏尚は二人に連れられて廊下の奥の風呂場に入った。
両脇から抱えられて鏡の前の洗い椅子に座る。苑香が珍しく気遣うように言った。
「下着の着替えって、どうしてるの?」
「は? ないです」
「やっぱりね。この前来たのは、会社の人? お友達?」
「会社です」
「着替えを頼める人って、いないの?」と、美鈴が割り込んだ。
宏尚は押し黙った。
気が付くと、風呂場から出ていく苑香の後姿が鏡に映っていた。
「彼女、ナースセンターへ戻ったの。向こうも人手が足りないから。大丈夫よ、あとは私一人で出来るから」
と、鏡の中で美鈴は言った。
シャワーを頭からかけ、シャンプーで髪を洗ってもらう。床屋のようなきめ細やかさはないが、それでもすっきりとして気持ち良かった。なにしろ二週間ぶりなのだ。
「目を閉じててくださいね」
ざっとではあるが顔を洗う。脂ぎってしまった肌がキュッとした。
背中にお湯を掛けて洗い始めたとき、美鈴は言った。
「町田さんって、こっちの人? 一人で暮らしてるの?」
会社の人しか見舞いに来ないのだから──しかも営業がひとり──、誰だってそう思うだろう。
「はい」
でも、『寮を追い出されました』とは、もちろん言い辛い。
退院したら寝る場所がない。かといって、ここに長居すると請求書が怖い。
ああ! なんて俺は不幸なんだ!
けっして丁寧ではないが、美鈴は胸や腹を洗ってくれている。
「ご家族は? 家は遠いの?」
「遠いです」
「連絡したの?」
宏尚は足を洗っている彼女を見ながら、首を振った。
「家の人に来てもらうわけにはいかないの?」
「着替えの下着のことですか?」
「ええ、たとえばだけど」
「田舎は兄貴の家族と、年老いた両親で手一杯なんで。迷惑かけられないし……下着買います。コンビニで。近くにありますよね?」
美鈴が頷いたところは見えなかった。彼女は桶の湯を肩からかけた。