表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

第四章 悪の軍団、創設

 翌朝、ネクロヴァリアの広場には妙な緊張が漂っていた。


 前夜の盗賊捕獲はすでに街中に知れ渡っていた。壁があっても、鐘があっても、それだけでは終わらない。噂を嗅ぎつけた連中は、これからもっと来る。


 その現実が、住民たちの浮ついた希望を少しだけ引き戻していた。


 ゼノスは木箱を重ねた仮の机の前に立ち、集まった者たちを一瞥した。

 二十名弱。昨日までの名簿組に加え、新顔も混ざっている。


「聞け」


 声は低く、飾り気がない。


「この街は俺のものだ。

 壁も、水も、住居も、全部俺の資産だ。

 お前たちも、広い意味では俺の資産に入る」


 新顔の何人かが面食らった顔をしたが、元からの住民は誰も驚かない。いつものゼノスだ。


「資産は守る。奪わせない。壊させない。

 だから番犬を増やす」


 ヴェスが後ろで薄く笑った。


 ゼノスは構わず続ける。


「勘違いするな。

 誇りも、英雄も、忠誠も要らん。

 役に立つことだけだ」


 一拍置いて、視線を全員に突き刺す。


「守るものは二つ。街と秩序だ。

 盗賊も、魔獣も、帝国の犬も、好き勝手させるのは気に入らん。

 だから噛み殺す。そのための牙が要る」


 ガウェインが木板を掲げ、淡々と制度を読み上げた。


 前衛・壁上補助・遊撃・後方補助の四区分。

 命令遵守、持ち場放棄禁止、住民からの略奪禁止。

 その代わり、寝場所・食事・治療・遺族支援。


 理屈は徹底して冷たい。

 だがその冷たさが、逆に皆の胸に刺さった。


 ベラムが最初に前へ出た。


「入る」


 続いてセラ、ヴェス、ドラン、そして若い流れ者のルカまでもが。


 ゼノスは最後に短く言った。


「弱い私兵は役に立たん。

 腹を空かせた犬は主人より先に餌に飛びつく。

 だから整える。それだけだ」


 ガウェインが最後の木板を掲げる。


「本日より、旧倉庫を兵舎とする。

 訓練は朝夕。昼は街の作業に参加。

 文字も最低限覚えろ」


 ヴェスがにやにやしながら手を挙げる。


「俺は遊撃でいいぜ、飼い主」


 ゼノスが即座に返す。


「次その呼び方をしたら檻に入れる」


「餌は?」


「石でも齧ってろ」


 広場に、乾いた笑いが小さく走った。


 軍団創設の場には似つかわしくない笑い。

 だが、それでネクロヴァリアの空気は少しだけ軽くなった。


 ゼノスは踵を返し、旧倉庫へ向かう。


 背後でガウェインが追いつき、低く言った。


「総督、負荷は大丈夫ですか」


「倒れるつもりはない」


 ゼノスは答える。


「俺はただ、番犬小屋を広げただけだ」


 後に人はこの日を、灰都守護軍の前身、黒鎖軍の起点と呼ぶことになる。

 だがゼノス本人だけは、最後までこう言い張るだろう。


 ――俺はただ、番犬小屋を広げただけだ、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ