三日目―冒険者登録
トントントン。
「…ん?なんだ?……おはようございます」
「おはよう!ゆっくり眠れたかい?」
「はい、よく眠れました」
「申し訳ないが、昨日、宿の井戸の場所を伝え忘れていてね。今日は水差しに入れてきたから、これを使っておくれ」
「水を…ありがとうございます」
徒歩と野宿の初旅行は、思ったよりも身体に負担だったらしい。おかげで、扉がノックされるまでぐっすりだった。
「茶髪に、濃い紫の瞳……光の当たり方では、黒に見えるな」
顔の造りは全然違うが、髪と瞳に違和感がなくて良かった。タライに入れた水で、顔を洗い、頭をはっきりとさせる。
用意を済ませた俺は、宿の一階の食堂にいた。
「今日はどうするんだい?」
タバサさんも気遣ってくれたらしい。この世界では、遅い目覚めとなる時間。食堂で朝ごはんを食べる人も疎らだ。
「今日は、冒険者ギルドへ登録に行きます」
「そうかい。冒険者ギルドは、広場のすぐ近くだよ。冒険者が出入りしているからね。広場で周囲の建物を見ていれば、すぐに分かるよ」
「ありがとうございます」
早寝早起きの生活をする国民たちだが、それは、灯りの燃料が貴重で高価なことも関係している。
「さて……冒険者、冒険者」
広場の噴水の縁に座り、人々を観察する。商人や主婦、冒険者や旅人など、様々な職種の人々が行き交い、賑わっている。
「なるほど、確かにすぐ近くだな」
目当ての建物は、すぐに見つかる。俺はタバサさんの言葉に納得し、立ち上がった。
キィ~。
スイングドアの滑りが悪いのか、多少眉を顰めるような音が辺りに響く。是非、油を注すべきだろう。
宿屋は二階建てだが、ここは三階建ての立派な建物だ。外壁は煉瓦造りで、頑丈そうである。
扉をくぐれば、受付カウンターにいる受付嬢と目が合った。
「当ギルドへようこそ。なにかご用でしょうか?」
「冒険者登録をしたいのですが…」
「かしこまりました。こちらの申請用紙に、あちらで必要事項をお書き下さい。全部埋める必要はありません。虚偽申告は、罰則が発生しますので、お気を付け下さい」
「分かりました」
受付嬢に手で示されたのは、銀行などにもあった記帳台だ。
(申請書の欄は、名前・年齢・性別・出身地・得意技・使用武器・魔法属性・スキルか。全てを埋める必要はないが、虚偽は駄目と言っていたな)
名前 ルイ 年齢 10 性別 男
出身地 アーノルド王国ベーラン領ギナン村
得意技 なし 使用武器 なし
魔法属性 無 スキル ――
(武器はナイフを買うつもりだけど、今は持ってないからな。スキルは、手の内を晒すようなものだし。勿体ぶるものでもないが、バレるまで空白としておくか)
「出来ました」
「拝見します……武器はどうするつもりですか?」
「ナイフを買うつもりですが、今は持っていません」
「なるほど。この使用武器は、依頼遂行の際に使用する武器の項目になりますので、『ナイフ』とご記入下さい」
「……出来ました」
「確認致します……では、カードを作成して参ります。後ほどお呼びしますので、椅子に掛けてお待ちください」
「はい」
椅子と言っても、ギルドお約束の酒屋のイートインスペースにしかないんだが、ここは共有なのだろうか?
取り敢えず、受付嬢に言われた通りに座るか。なにか言われたら、謝ればいいだろう。
「ルイ様~」
「はい」
受付嬢に名前を呼ばれ、俺は腰を上げ、返事を返す。
「こちらが、ギルドカードとなります。ランクはFからスタートとなります。再発行にはお金が掛かりますので、無くさないように注意してください」
「分かりました」
カードの端に小さな穴があるから、紐を通して首から下げておこう。
「ルール説明はご必要ですか?」
「お願いします」
「ランクはFからSSSまであります。依頼達成のポイントが、ランク昇格に定められたポイントまでくれば、昇格試験の受験資格が与えられます。昇格には筆記と実力試験がございます。それに合格すれば、晴れて昇格となります。ルイ様の次のランク昇格には、初心者講習の受講とそれに伴う筆記試験。それと、試験官との模擬戦。依頼達成ポイントが30ポイント必要になります」
「達成ポイント?」
「はい。依頼達成一件につき、3ポイント差し上げていますが、街中依頼は1ポイントとなっています。依頼主の追加報酬などの達成状況により、ポイントが加算されます。依頼失敗には違約金が発生しますので、お気を付け下さい」
「分かりました」
Eランクに上がるには、依頼達成がかなり必要だな。それに万が一を考えて、違約金も考慮に入れて考えなければならない。
「それとルイ様は10歳ですので、成人の方とは違うルールが存在します」
「なんでしょうか?」
「10~14歳のEランク冒険者は、街中依頼はソロでも大丈夫ですが、草原と森の浅い場所の採取は、3人以上のパーティー以外での受理は出来ません」
「……それは、ゼント支部特有のルールですか?」
「いいえ。アーノルド王国の冒険者ギルドでは、共通のルールです。『将来ある若者の命を無駄に散らすべきではない』との声が上がりまして、10年前に全土に施行されたルールです」
「そうだったんですね」
『命だいじに』は、仕事をするうえで大事なスローガンである。工場などでは、いつでも目に入るように、幕が垂れ下がっていたりする。
「人員を募集する掲示板スペースを設けています。条件が提示された紙が貼り出されていますので、それに合致する人員がいれば、その方たちとパーティーを組むことも出来ます。ですが、14歳未満の多くの子たちは、スラムや孤児院の子どもたちが大半です。14歳に近い子は、初期講習で文字の読み書きを習いますが、10歳ではそれも難しく、受付嬢が条件を聞き出し、それらをすり合わせて、グループの生成を助けているのも実情です」
「そうなんですね」
教会で文字の読み書き・計算を教えていると思うが、スラムは対象外かもしれないな。
「もし、草原や森の採取希望の場合は、朝6時までにギルドにお越しください」
「分かりました」
「……また、先輩の冒険者を一人護衛に付けることで、パーティーを組む必要がない決まりもあります。その場合、同伴者には、ギルド貢献ポイントと実績情報に加味され、ランクアップの判断に寄与します。同伴料は、その時の依頼料の3割を納めることになっています」
「……なるほど」
そんな慈善事業を受理する冒険者がいるのか?彼らだって、生活がかかっているのだ。安全保障のない冒険者稼業だ。いつ大怪我をして働く事が出来なくなるかわからない。
まさに『明日は我が身』を体現する職業である。
「Eランクだと、またルールは変わるんでしょうか?」
「Eランクになると、ラビットやマウスなどの討伐が可能になります。その場合も、パーティーを組んで頂く決まりですが、採取に限り、ソロでの活動が可能になります」
「そうなんですね」
ランクが一つ上がるだけで、依頼の行動範囲が広がるな。採取でも、3ポイントはあるからな。昇格の達成ポイントも得やすい。
「冒険者同士の争いの仲介はしておりません。但し、ギルド規約に違反した者には、除名処分などの罰則を科されます。こちらは、ギルド規約の冊子となります。後ほどお読みください」
「ありがとうございます」
ざっと見で、10枚ほどの羊皮紙が簡易に綴じられていた。宿屋に帰ったら、目を通そう。
「動物や薬草の分布地図を見たいのですが、資料室はありますか?」
「はい、二階にあります。資料本の場所は、管理者がいますので、そちらに聞いてください」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は親切に教えてもらった受付のお姉さんに頭を下げ、礼を言った。
(二階に上がる階段は……と、あれか)
受付のカウンター横に、少し奥まった廊下があるかと思えば、二階に上がる階段があった。
俺は階段を上るため、その廊下に歩を進めた。
☆長くなるので、分けます☆




