1.破滅中の悪役令嬢、異世界転生を添えて
「シャーラル・スカーレット。貴様は我が王国貴族の恥だっ! たった今、我、アルファ・モルトーはシャーラル・スカーレットとの婚約を破棄する」
私が目を覚ますと、そこは異世界だった。
舞踏会の一幕。目の前には私のよく見知ったキャラクターが立ち、動き、喋っていた。金髪の美少年。私がプレイしていた乙女ゲーの攻略対象、アルファ・モルトー。乙女ゲーの舞台となっている国の第一王子である。
そして、私は今、どうやら婚約破棄を言い渡されたらしい。
近くの窓に反射する私の姿を確認する。
そこに見えるのは、赤髪の令嬢だった。つり上がった目、華奢な身体、気品のある佇まい。シャーラル・スカーレット。
乙女ゲーの悪役令嬢にして、どのストーリー展開においてもヒロインの邪魔を必ず行い、そして絶対に破滅する悪役だ。
「わ、わたくしがなにをしましたの?」
取って付けたようなお嬢様言葉を並べて、状況を整理する。とにかく今私は破滅イベントを歩んでいるらしい。これはあれだ、悪役令嬢ものだ。きっとそう。最近流行ってるから。悪役令嬢に転生して、逆転優勝する作品。
きっとこれもそう。
だから、破滅イベントだからってあきらめる必要はない。
むしろ、ここから私のビクトリーロードが待っている。
「なっ……今になってなお言い逃れしようとするか。見苦しいッ!」
「記憶にございませんので。なにを言われても困りますわ」
「慈悲をかけたというのに、そこまで哀れだとは……。仕方ない。今、シャーラルが行ったことを言葉にする。いいか」
「構いませんわ」
悪役令嬢ものの場合、こういう断罪は誰かが仕組んだもの。実は私は悪くありませんでした、というオチが待っている。場合によってはヒロインが悪者パターンもある。
私は余裕だった。
「シャーラルのマーシャへの悪行。それは今回に限った話ではない。だがどれもこれも現行犯ではなかった。だが、今回は現行犯だ。誰もがマーシャの頭にワインを一瓶丸々かける姿を見ている」
見渡す。
アルファの近くにはヒロインのマーシャが力無く座り込んでいた。紫色の液体塗れになっている。ワインを誰かにかけられたというのは本当らしい。
だがこれはシャーラルを貶めようとしている誰かの陰謀。
「それになによりも今、シャーラルが持っているワインの瓶が証拠だ」
「……ッ!?」
私はたしかにワインの瓶を持っていた。
つまり、マーシャを虐めている最中にアルファに見つかり、それで断罪を受けているタイミングで私はこの悪役令嬢に転生してしまった……と。
ここまで状況証拠が揃っていると、いくら転生したとはいえ私の力ではどうしようもない。こんな破滅イベントは回避不可能だ。
こうして、私シャーラル・スカーレットは為す術なく破滅を迎え、国外追放となった。
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