波間の自分
東京の駅前は今日も騒がしかった。大きなビルのネオンが夜空を赤や青に染め、スマートフォンを片手に歩く人々の群れが次々と交差する。
そんな中、19歳の悠は立ち止まったまま、周囲の速さについていけない自分を感じていた。
「みんな、どうしてあんなに早く進めるんだろう…」
独りごちるように呟いた悠の手元には、半年前から書きためている小さなノートがあった。そこには、日々の感情や思ったこと、読んだ本の感想、聴いた音楽のことがぎっしりと綴られている。
その夜、悠は駅前のベンチに座り、ノートを開いた。
「世界はどんどん変わっていく。でも、僕の心は、僕の感覚は…?」
ページをめくるたびに、昨日感じた喜び、少しの不安、突然胸を打った歌の一節。どれも他人には見えないけれど、悠にとっては確かな存在だった。
「僕は僕の速度で、僕の色で生きていいんだ」
そう思うと、少し肩の力が抜けた。周りの世界が早すぎて焦る気持ちは残るけれど、自分自身を確認できる方法がある。それは、ノートを書くこと、歩くこと、音楽に耳を澄ますこと、そして深呼吸して今を感じること。
その夜、帰り道の街灯の下で悠は思った。
「目まぐるしい世界の中でも、僕の心は波のように揺れている。でも、その波を感じることで、僕は迷子にならずにいられるんだ」
翌朝、悠はノートを胸に抱え、ゆっくりと駅のホームを歩いた。世界は相変わらず速く動いていたけれど、悠は自分のリズムを忘れずに、確かに前へ進んでいた。




