【第2章 裏社会への指令シーン
【第2章 裏社会への指令シーン 】
夜。
再び、王城の裏庭にある古びた離れ。
そこは“表”の人間が決して足を踏み入れぬ、静かで冷たい場所。
「――集めさせたか」
低く、乾いた声が部屋に響いた。
そこにいるのは、ゼンただ一人。
その前に、怯えた顔の裏社会の重鎮たちが膝をついている。
盗賊団の頭領、密輸商人の親玉、賭博屋の胴元――
先日の祭りで儲けたばかりの連中だ。だが、誰一人として浮かれた顔はない。
「はい……紙の職人、印刷職人、書記官崩れども……可能な限り、かき集めました……」
震える声の報告に、ゼンはゆっくりと頷いた。
「よし。それで十分だ」
指先でコツコツと机を叩く音が、やけに耳に響く。
「これから、お前たちに“紙の金”を作らせる」
「……は?」
一瞬、頭領たちの顔に戸惑いの色が浮かんだ。
だが、ゼンは構わず淡々と続ける。
「見た目はただの紙切れだが、国がそれを“金として認める”形を取る。まずは屋台祭りの余韻を利用し、“祭り専用の通貨”って触れ込みで流通させる」
「そんなもん、誰が信じ――」
「信じさせるんだよ」
ピタリと全員が黙る。
ゼンの目が、まるで冷たい獣のように細められていた。
「最初に流すのは、民じゃねぇ。裏社会の連中からだ」
「……!」
「これを使えば、“屋台で特別に安く買える”と噂を流せ。賭場で使えば“特別な倍率”で遊べるようにしろ。そうやって紙を欲しがる連中を増やせ。欲望は、火をつけりゃ勝手に燃え上がる」
誰も逆らえない。ゼンはすでに“完成した未来”を見ている顔だった。
「すべての流通経路は、俺が握る。裏で使うもんだと思わせりゃ、上等だ」
「……その“紙”は、どうやって作るのですか?」
おずおずと尋ねた賭博屋の胴元に、ゼンはにやりと笑った。
「簡単な話だ。絵を描ける奴と、字が書ける奴を集めろ。あとは“偽造できねぇ工夫”を一つ加えりゃいい。なに、裏社会にはそんな奴がゴロゴロいるだろう?」
まるで玩具を作る子供のような無邪気さで、ゼンは告げる。
だが、その言葉の裏にあるのは――とてつもなく冷たい支配欲だった。
「……命令だ。“紙の金”を、三日で用意しろ。逆らえば……言わなくても、わかるな?」
沈黙。全員が無言で頷くしかなかった。
ゼンは最後に、静かに笑う。
「さあ、次の“祭り”の準備だ。今回はもっと派手に踊らせてやる」
夜の闇に溶けるその声は、まるで悪魔のささやきだった。