『紙の札で世界を回せ』
【第2章冒頭 書き起こし】
『紙の札で世界を回せ』
祭りの熱狂が去ったあとの城下は、まるで夢から覚めたように静かだった。
「……ほんと、バカみてぇな騒ぎだったな」
王城の高台にある離れ。
酒瓶を片手に、ゼンは夜風に当たりながら独りごちた。
祭りは大成功――それは、疑いようのない事実だった。
屋台の売上は膨大で、国庫の税収も跳ね上がった。
裏社会の連中はガッポリ儲け、民衆も腹いっぱい食って満足。
そのすべてを動かしたのは、たった一本の“夢のヒント”だけ。
「……焼き鳥と酒で国が回るとは、俺も思わなかったぜ」
ゼンはククッと笑い、ぐいっと酒を煽る。
だが、脳裏にはすでに“次の夢”の残像がちらついていた。
――白い紙に描かれた数字。
――それを差し出せば、どんな物でも買える世界。
「紙の金……あれは、なんだったんだ?」
焼き鳥の夢より、さらに現実離れした記憶。
けれど、どうしようもなく心がざわつく。
もし、あれを再現できたら――この国はどうなる?
「……試してみる価値はあるな。暇つぶしには、ちょうどいい」
ゼンはゆっくりと立ち上がり、薄暗い夜道に消えていく。
その足は、すでに次の祭りの準備に向かっていた。
――翌日。
「ゼン! 早く、こっちへ来なさい!」
女王ヴェリシアの声が、城中に響き渡る。
今日もご機嫌なその声に、城の者たちは顔を引きつらせる。
「ふふん、昨日の祭りの大成功で、私の人気はうなぎ登り。貴族たちも民も、みんな私にひれ伏してるわ」
「さすがは女王陛下、天下無双の麗しさと先見の明にございます」
いつもの太鼓持ち芸で受け流しながら、ゼンは心の奥底で別の計算を巡らせていた。
(さて、“紙の金”の実験、始めるか)
表の顔は変わらぬ太鼓持ち。
だが、ゼンの裏の顔はもう次の獲物を見据えていた。
新たな“祭り”が、今まさに動き出そうとしている――。