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灰色の姫と曇りなき下心~ニジ神さま、これって恋ですか?~

作者: 詠出 歩詩乃

レゾナ: 森で生きる不思議な娘

ソラ: 曇りなき下心を持つ放浪者

カラー: 魔法で街を築きし者

ゴンザ: 街の衛兵

タゴサク: 館の庭師


ニジ: 神聖な神

シロ: フェンリル(狼)の女神

クロ: ヴァラハ(猪)の男神

アカ: ハヌマン(猿)の長老


■プロローグ


この世界には、かつて森と山の魂を束ねる存在――ニジ神がいた。生と死の境を漂い、魂の共鳴を束ねて「形ある愛」へと導く、神々の中でも特異な神。だが今やニジ神の姿は伝説となり、森は荒れ、山は黙した。


一方、山のふもとには、人の手で築かれた街がある。その中心に立つのがカラー女史――魔法の力で街を支え続ける女。知と力を兼ね備えた彼女は、多くに敬われながらも、誰にも心の奥を知られぬ孤独を抱えていた。


神々の野生と、人の知性。愛と下心。森と街。その全てが、いま――灰色に響き合う。


■洞穴の中で


曇りなき旅人ソラは食料もつき困り果てていたところを、森にすむ不思議な少女レゾナに救われていた……


「……ニジ神様が導いた。だから助けた。でも…礼を言いたいなら……言ってくれてもいいよ……」


「何をだい?」


「そっ、そなたは…美しい……って」


レゾナは顔を真っ赤にしてつっぷした。ソラは何も言わずに、ただニマニマしながら……レゾナの肩を優しく抱いた。レゾナは顔を上げてソラを見ると、そこには、曇りなき下心で真っすぐに見つめる視線……


「ソッ、ソラ……」


その視線を浴びているだけで胸の高鳴りが抑えられなくなってくる。血が音を立てて全身を駆け巡り、肌がピリピリしてくる。だが、それでも、ソラは何も言わない……ただ沈黙と呼吸だけが二人を支配した。レゾナの頬を涙が伝い、彼女の声は震えていた。


「どうして…言ってくれないの…ソラ……」


その言葉は、まるで森の風のように儚く、しかし熱を帯びてソラの胸に突き刺さる。ソラは、レゾナの肩に置いた手をそっと強め、彼女の揺れる瞳を真っ直ぐに見つめた。


「レゾナ……」


彼の声は低く、静かだったが、まるで大地のように揺るぎない。


「私は…この森も、お前の心も、全て大切にしたい。そなたは…美しい……」


レゾナの瞳が、驚きと熱いもので揺れる。彼女は再び言葉を失い、ソラの顔を見つめる。その曇りなき下心に、嘘も飾りもない。ただ純粋な想いだけが宿っている。


「ソラ…信じていいんだよね……」


レゾナの声は囁くように小さく、しかしその一言には彼女の全てが込められていた。彼女はゆっくりと身を寄せ、ソラの胸に顔を埋める。その瞬間、洞穴の冷たい空気が、二人を包む温かな何かへと変わった。ソラはレゾナをそっと抱きしめ、言葉の代わりに、彼女の髪に唇を寄せる。それは、口づけよりもなお深い、魂の約束だった。


「あぁ、レゾナ…俺はここにいる。ずっと。」


どれほどの時が流れただろう。二人はただ、互いの鼓動と呼吸を感じながら、静かに寄り添った。洞穴の外では、レゾナに共鳴した夜の森がざわめきを強くし、星々が瞬いていた。


(チョロいな……ニマニマ)



■灰色の姫

遥か昔、森と山がまだ若かった頃。その時代、森の神々は今よりもっと自由に、激しくこの大地を駆け巡っていた。シロ、若きフェンリル――狼は、白い毛並みに月光をまとって夜の森を支配する誇り高き存在。一方、クロは、ヴァラハ――猪の中でも特に巨大で、雷のような咆哮で山を震わせる猛々しい王だった。二人の出会いは、森と山の境界での衝突だった。人間が神々の領域に踏み込み、自然を荒らした夜。シロはフェンリルの群れを率いて人間を追い詰め、クロはヴァラハの軍勢を連れて突進してきた。だが、互いの領域を侵犯したと誤解し、二人の神は激しく対峙する。


「くぉの!バカヴァラハ!なぜ我が森を踏み荒らす!」


シロの金色の瞳が炎のように燃え、鋭い牙を剥く。


「シロスケ、貴様こそ我が山の静寂を乱したな!」


クロの巨体が地響きを立て、巨大な牙を突き上げる。だが、戦いのさなか、シロの俊敏な動きと、クロの圧倒的な力に互いが惹かれ始める。夜明けまで続く死闘の末、二人は共に人間の軍を追い払い、血と汗にまみれて森の清流のほとりに倒れ込む。


「…フン、バカヴァラハ、けっこう頼りになるじゃないか」


シロは息を整えながら、初めて柔らかい笑みを浮かべる。


「グハハッ、シロスケ、お前も可愛いところがあるじゃないか」


クロの声は低く響き、巨大な瞳にシロの姿が映る。その夜、月下の清流で二人は初めて心を通わせた。シロはクロの剛直な魂に、クロはシロの気高い美しさに惹かれた。二人は神々の掟--森と山の神境--を越えた。夜ごとシロはフェンリルの遠吠えでクロを呼び、クロは山を揺らす地震で答えた。里の被害は甚大だった。それは、神々にしか許されない、荒々しい純粋な魂の象だった。だが、運命は残酷だ。人間の侵略が激化し、森と山の神々の領域が分断されていく。シロは森を守るため、クロは山を守るため、それぞれの戦いに身を投じた。最後の夜、二人は清流のほとりで別れを告げた。


「クロ…お前は山の誇りだ。決して屈するな」


シロの声は静かだが、瞳には涙が光っていた。


「シロ…お前の遠吠えは、俺の心に永遠に響く」


クロはシロの額にそっと鼻先を触れさせた。月光の下、二人は激しく魂を震わせた。森と山の神々の力が交錯し、奇跡が生まれた。それは、一つの命。フェンリルの誇りとヴァラハの不屈を宿し、しかし人間の姿を与えられた子――レゾナ。シロは、レゾナが生まれた夜、月を見上げて遠吠えした。その声は喜びと哀しみを同時に響かせ、森の全ての生き物を震わせた。


「この子は…我々の魂を継ぐもの。そして、森と山の未来だ」


だが、シロの金色の瞳には、予感があった。この子は神々の子であると同時に、人間の世界とも関わらざるを得ない運命だと。シロはレゾナをフェンリルの群れの中で育てた。レゾナがソラと出会い、森と人間の間で新たな道を選ぶとき、遠くでシロの遠吠えが、クロの地鳴りが、静かに響き合った。


「お前は…私たちの子だ。進め、灰色の姫よ」


■レゾナの真実

レゾナとソラは、洞穴での親密な夜を越え、ついに昼の森で互いの全てをさらけ出す。清流のほとり、木漏れ日が二人の肌を照らす中、情熱に身を任せる。だが、共鳴の最中、ソラがレゾナの響きに違和感を感じた。彼の目が驚きに大きく見開かれる――レゾナの胸には、フェンリルのような、六つの乳首が並んでいた。


「なっ、なに急に眼を開けてるんだよ!エッチ!!」


「レゾナ…! お前は…人間ではないのか…?」


ソラの声は震え、驚きと戸惑いが混じる。レゾナは一瞬、動きを止める。彼女の金色の瞳が鋭く、しかし、どこか傷ついたようにソラを射る。


「何度も言ってるだろう…私はシロの娘。森の民だと」


その声は静かだが、誇りと痛みが滲む。彼女は身を引いた。ソラはその手を握り止めることができなかった……


「レゾナ…すまない…」


ソラの言葉は途切れ、曇りなき下心に罪悪感が宿る。レゾナはそっと森の奥へと消えた。ソラは人の街へ戻った。彼の心は乱れ、森と人間の間で揺れていた。レゾナの野生の美しさは彼を捉えて離さないが、彼女の「人間ではない」部分に、初めて恐怖と隔たりを感じたのだ。人の街で、ソラはカラー女史と再会する。カラーは、魔法で街を築き、人の未来を切り開く強い女。その姿は気高く、美しい。だが、彼女の眼差しには、誰にも見せない孤独が潜んでいる。ソラは、その孤独に惹かれる自分を感じる。カラーはレゾナのような野性を持たない。だが、彼女の知性と、人のために戦う姿は、ソラの心に別の火を灯す。夜、街の灯りが赤く揺れる中、カラーはソラと酒を酌み交わす。


「ソラ…お前は、なぜここに戻ってきた? 森の姫に心を奪われた男が、人の街で何を求める?」


カラーの声は鋭いが、どこか試すような柔らかさがある。ソラは杯を握りしめ、言葉を探す。


「カラー殿…レゾナは…人の手の届かぬ存在だ……」


ソラの言葉は途切れた。


「フン…愚かなものだな。ソラ、お前も結局、私の街の温もりを求めたか」


ソラは、黙ってカラーに近づいた。


「カラー殿……ソナタは、人の心を、そして孤独の痛みを、知っている…私は……」


その曇った曇りなき下心は、カラーの孤独を捉えていた。カラーは小さく笑い、杯を置く。カラーは孤独だった。誰よりも優れる知性は誰にも理解されることがなかった。人のために戦い、未来を築く彼女だが、心の奥では、誰かに寄り添われることを密かに渇望していた。ソラの手が、そっとカラーの肩に触れる。


「カラー…ソナタは一人で戦いすぎた。私に…そばにいさせてくれないか?」


その言葉に、カラーの瞳が揺れる。彼女は一瞬、拒絶するように身を引くが、ソラの真っ直ぐな眼差しに抗えなかった。


「…愚か者め。いいだろう、せいぜい私と共にあって見せるがいい……」


(こいつもチョロいな……ニマニマ)


灯火の影で二人は互いの孤独を埋めるように寄り添った。だが、ソラの心の奥では、レゾナの金色の瞳と、六つの乳首が宿す神聖な野性が、消えることなく燃え続けていた…。



■レゾナの襲撃

人里、街の灯りが揺れる夜。ソラとカラーは、互いの孤独を埋めるように寄り添い、静かに視線だけを交わしていた。カラーの鋭い瞳に、初めて見せる柔らかさが宿り、ソラの曇った曇りなき下心は、彼女の心の傷にそっと触れる。


――ドガァン!


カラーの屋敷の戸が勢いよく蹴破られ、けたたましい怒号が響く。


「カラー様ぁ! ご無事ですかぁ!!?」


ゴンザだった。でかい体に汗と鉄の匂いをまとって、ドスドスと突進してくる。カラーを信奉する街の衛兵だ。手に持った巨大なグレートソードが魔法の火花を散らし、目は血走ってる。どうやら、夜の見回り中に「怪しい雰囲気」を嗅ぎつけて、衛兵魂に火がついたらしい。ソラは咄嗟にカラーから離れ、剣の柄に手をやるが、カラーは冷静に手を上げて制する。


「ゴンザ、騒ぐな…ただ話していたのだよ」


カラーの声は落ち着いているが、目にわずかな涙が浮かんでいるのがバレバレだった。ゴンザはそんなカラーの様子に余計に熱くなる。


「話ですと!? 貴様!カラー様に何をした!? 怪しいぞ、怪しすぎる!お前、森の魔女だけでは飽き足らず、カラー様までたぶらかす気か!?」


ゴンザの唾が飛ぶ勢いで、ソラにグレートソードの先を突きつける。


「ゴンザ、それは誤解だよ……私は……」


そこでソラの脳裏に「六つの乳首」の衝撃がフラッシュバックした。ゴンザの「森の魔女」発言と、レゾナの「私は森の民だ」という言葉が重なり、ソラの心が揺れる。その一瞬をゴンザは見逃さなかった。


「やっぱり怪しい目だ! カラー様、こいつは危険ですぜ!」


ゴンザは、グレートソードを振り上げてソラに襲いかかる!ソラは素早く身を翻し、地面を砕く音が響く。


「ゴンザ、止めなさい! ソラは敵ではない!」


だが、ゴンザの忠誠心は暴走モード全開。彼は止まらなかった。いや、もうその身の嫉妬に全てを委ねてしまいたかった。


「カラー様、こいつは街を乱す! 俺が叩き潰してやる!」


その時、遠くから鋭い遠吠えが夜空を切り裂く。


――フェンリルの咆哮。


街の外、森の闇から、まるで嵐のような気配が迫ってくる。ゴンザがハッと振り返ると、木々の間から金色の瞳が光る。レゾナだ。彼女はフェンリルの群れを従え、まるで復讐の女神のように館の庭に立っていた。


「ソラーーー!!」


レゾナの声は、怒りと傷心で震えている。ソラがカラーと過ごした「裏切り」の響きを、フェンリルの鋭い感覚で嗅ぎつけたのだ。


「お前も結局、ニンゲンの血に縛られたか!」


レゾナの手には短刀が握られ、彼女の体は、神聖な灰色の血をたぎらせていた。ソラは、レゾナの瞳を見て言葉を失う。


「ソラ!?騙したのか!?」


カラーは静かに剣を手に取る。街灯の火が、まるでこの四者の葛藤を煽るように揺らめいていた。



■レゾナとゴンザ

街灯が混乱を照らす夜。ゴンザのグレートソードが地面を叩き、レゾナの短刀が月光を切り裂く。ソラはレゾナとの間に割って入ろうとするが、カラーの鋭い視線に動きを止められる。まさに一触即発の瞬間、扉の奥からヨロヨロと現れたのは……タゴサク!


いつもビクビクしてる小男のタゴサクが、震える声で叫ぶ。


「み、みんな、や、やめなよぉ! ケンカなんて、みっともないって! カラー様も見てんだからさぁ!」


汗だくで手をブンブン振って仲裁に入るけど、その情けない姿が逆に場を凍らせる。


「なんだぁタゴサク!庭師の分際で!」


ゴンザが一喝するが、彼の純粋なビビりっぷりに、なんか毒気が抜かれてしまう。レゾナも、短刀を握ったまま動きが固まる。


「……なんだ、この人間は?情けない……」


彼女の金色の瞳に、初めて見る「弱いけど必死な人間」の姿が映る。タゴサクは、震えながらレゾナに近づき、なぜか彼女の前に土下座。


「森の姫さん! 怒らないでくれよぉ! ソラのヤツ、きっと悪気はねえんだ!ヒトってさ、みんなくそくらえだけど、なんか…いいとこもあるんだよぉ!」


(いいぞ、もっと言え……ニマニマ)


タゴサクの情けない言葉に、場が一瞬静まり返る。レゾナの瞳が揺れ、ふと、森での孤独が脳裏をよぎる。彼女は短刀を下ろし、目に光るものを浮かべる。


「人間は…いつもこうやって私を惑わす……希望を見せて、そして、また裏切る……」


すっと、一筋の涙がこぼれた。それは、少女の脆さを初めて見せるものだった。ゴンザは、強敵の突然の涙に完全に動揺していた。


「な、なんだよ…泣くことねえだろ!生きてりゃ良いことあるってよ!!」


今更ながらに、ゴンザはレゾナがまだ年若い少女だったことに気がつく。そのか弱い姿は、大男のゴンザの心には、チクッとくるものがあった。


「……チッ、しょうがねえ。森の姫、腹減ってんだろ? メシ食ってけよ。一晩くらいなら泊めてやるからよぉ!」


ゴンザは、照れ隠しにガハハと笑いながら、街の食堂にレゾナを連れていく。ゴンザは通りを過ぎゆく中で何人もの人と軽妙な挨拶を交わしていた。彼は衛兵として街から愛されていた。そして、粗末な明かりの下、ゴンザがドカッと置いたのは、焼いたイワシと握り飯、そしてゴンザ秘蔵の手作りタクアン。


「どうだ?俺のタクアン、旨いか?」


レゾナは最初、警戒しながらタクアンを齧っていたが、ゴンザの不器用な優しさに、温かさを感じ始めていた。


「……あぁ、悪くない。悪くないよ……」


レゾナは俯いたまま小さく呟く。ゴンザは、ムキムキの腕を組んでにんまりした。


「そりゃ、俺様が守るこの街のメシは最高だからな!」


その無骨な笑顔に、レゾナの胸が、なぜかソラの「曇りなき下心」とは違う高鳴りを感じた。ソラは優しかった。だが、彼は里に下り、カラーの孤独に寄り添った。ゴンザは…違う。この大男は、粗野で、うるさくて、でも、ただ真っ直ぐに自分を見てくれる。シロとクロの灰色の血が、レゾナの内にたぎる。彼女は、野生の衝動に突き動かされる。


「…ゴンザ。私は、人里に降りた理由が今わかった」


レゾナの金色の瞳が、まるで獲物を捉えるフェンリルのように光る。街角の納屋、夜の闇の中、レゾナはゴンザを納屋の奥に引きづり込む。


「な、ななっ!? 何だ!?」


ゴンザの巨体が初めてフェンリルの輝きに狽えるが、レゾナの力は神獣の血を宿し、まるで嵐のようだった。


「黙れ! 私は…お前を私のものにする!」


レゾナの野生と神聖さがゴンザを圧倒する。ゴンザは、最初は抵抗するが、レゾナの情熱と、少女の脆さを宿した瞳に抗えなかった。


「…くそっ、テメェの好きにしやがれ!」


レゾナは初めて触る大男の肉体に、筋肉に、興味津々だった。


「なんて…硬いの…!これが、筋肉?」


レゾナは、ゴンザをじっと見つめながら赤面する。そして、レゾナは納屋の藁の上で共鳴を始めた。


「…なっ、なんだっ!?身体が……光っていく!?」


それは、フェンリルと鉄の男の、荒々しくも美しい魂の共鳴だった。


「ぬああああ……何をした!?ぬっ、乳首が、乳首が増えている!?貴様ぁ、ニジの呪いか!?」


レゾナの乳首が2つ減り、ゴンザの乳首が2つ増えて、それぞれ4つになっていた。


「ふふふ、契りは成った……お前は私のものだ!」


その瞬間――納屋の隙間から、凍りついた瞳が二人を捉える。ソラだ。彼は、レゾナを追い戻ってきた。だが、そこで見たのは、レゾナがゴンザが響き合う、信じられない光景。ソラの手が震え、あの洞穴の記憶が、粉々に砕ける。


「レゾナ……その笑顔を、俺だけに見せてほしかった――」



■アガペ、包む。~神も下心もまとめて~

夜の闇が狂気と神聖に染まる。レゾナはゴンザのムキムキな体と荒々しい魂を前にして、野生の衝動に激しく倒錯していた。


ソラ「レゾナーーーー!!」

レゾナ「ソラーーーーーー!!!」


彼女の叫びは、ゴンザとの共鳴の中で、なぜかソラの名を連呼。金色の瞳は涙と情熱にあふれ、レゾナの輝きは留まるところをしらなかった。ソラは、完全に心が砕ける。


「レゾナ……なぜ…」


彼の「曇りなき下心」は真っ黒に染まり、胸の奥からドロドロの憎悪が湧き上がる。


「ニジ神様が許したとて…俺が許さぬ! その穢れた魂、この俺が断つ…!」


突然、ソラの全身から黒い煙が吹き出し、全身から黒いブニュブニュの腕が生えた。それは、カーズ--呪詛そのもの。彼の体はカーズに覆い尽くされた。


「おっおっおっ堕神だーー!」


通りすがりの衛兵の絶叫が響き、市民が慌てて集まってくる。ゴンザはレゾナを庇いながら「堕神だとぉ!?」とグレートソードを構えつつも、初めて対峙する堕神に神経が張り詰める。


「まさか伝説の堕神とはなぁ…カラー様の魔法剣、使わせてもらいますぜぇ!」


一方、レゾナは呆然とソラの変貌を見つめていた。そこへ、タゴサクの妻、アガペがドカドカと前に出て、豪快に笑う。


「なんだいソラ!女と響きたい?レゾナの薄っぺらい響きじゃ満足できなかったのかい?そうだ、私のおっぱい揉むかい?だはははは。でも、本当に、私には甘えてもいいんだからね?」


アガペはソラの手を取って自分の胸に導く。


「ほら、私の音鳴り、感じるかい?」


ソラの黒の腕は何故か動きを止めた。


「あああああ、アガペに、アガペに、包み込まれたい……私の曇りなき下心は、曇りなき愛を、愛を求める、心の渇望だったんだ……」


その声はまるで赤ちゃんの泣き声のように、世界に鳴り響く声だった。


「ソラ。だいじょうぶ。分かってる。その曇りなき下心にあるのは“無私の愛”ではないけど、でもそれは悪いことでもないよ。」


「俺の曇りなき愛を求める心を…受け止めてくれるのか…?」


「あなたのぜんぶ、ここで眠っていいんだよ……わたし、あなたを食べちゃってもいいんだよ」


アガペの母性の奥には、全人類の孤独と、幾億もの祈りが宿っていた。ソラの黒い腕が、赤子のように震えた。ソラは泣き崩れた。いつまでも満たされない思い。森の中まで追いかけたその憧憬の答えがここにあった……バブみが。


タゴサクが叫ぶ。


「アガペ、そりゃねえよぉ! 」


アガペは一喝。


「うるさい、黙ってな! いい男が響き合いたいって言ってんだからさ!私の旦那なら、男らしくドンッとしてろってんだ!」


その時、闇から新たな気配が。


「堕神をよこせ……堕神を………よこせぇ!!」


年老いたハヌマン--猿の長アカが、ヨタヨタしながら現れる。息も絶え絶えに見えたが、その眼光は研ぎ切った真剣のように鋭く瞬いていた。そして、その後ろには、赤い顔のハヌマンの群れがゾロゾロと続いていた。


「黒の腕ぇ、堕神の力をぉ」


ハヌマンたちは、ソラに群がり、まるで饗宴のようにガツガツと食らい始める。レゾナは呆然とその光景を見ながら呟く。


「んー、黒のブニュブニュなら…大丈夫かな?食べても」


彼女の野生の感覚は、ハヌマンの行動をなぜか受け入れる。


「おい、なんでそんな冷静なんだ!?」


ゴンザはツッコむが、レゾナはゴンザの腕にしがみついた。


「ゴンザ…お前、嫌いじゃないぞ」


レゾナはニヤリと視線を送る。ハヌマンたちが黒の腕を食らい尽くすと、ソラはもう瀕死だった…ハヌマンの長老、アカがぼそっと何かを唱えたその瞬間――街の空が虹色の光に包まれる。地面から何本もの巨大な光の奔流が駆け狂い――そして、ハヌマン達は1つになった。新たなニジ神様の誕生だった。新たなるニジ神の光が黒の煙を浄化し堕神は完全に消滅した。そして、ソラは……なぜか赤ちゃんの姿に。


「バブー!」


ソラは、ちっちゃな手足をバタバタさせて泣き出す。アガペが爆笑しながら抱き上げる。


「ハハッ、なんだいこの子! まあ、私が育ててやるか!おーよちよちソラ、かわいいねぇ。私が包み込んであげるからねぇ」


レゾナは、ゴンザの手を握りながら、ニジ神の光を見つめる。


「…私は、ヒトの里に降りた。ゴンザ、お前と生きるためだ」


ゴンザ、ムキムキの胸を叩き、


「ハッ! 俺はテメェを守るぜ! 街と合わせてな!」


二人は4つの乳首を合わせるように抱き合った――その瞬間、乳首から虹色の閃光が走り、ニジ神は静かに微笑んだ――そこには、かつてのアカと、ソラと、すべてのハヌマンの魂を宿していた。やがて七色は夜空に溶けて消えた。


「響き合うこと――それこそが、曇りなき下心という名の、透明な心の調べ」


その声が誰のものだったのか、誰にもわからなかった。街には、混乱と情熱の残響が残った。レゾナはゴンザと魂の契りを結んだ。ソラはトキの腕の中で曇りなきうんちを漏らした。


灰色の姫の新伝説が刻まれた。


――完


■ 後日談


静かな夜の残響。全てが終わった。ニジ神の光が街を浄化し、レゾナはゴンザと新たな道を歩み、ソラはトキの腕の中で赤子として新たな生を始めた。まるで何事もなかったかのように夜は過ぎていく。だが、街の中心、魔法の灯り揺れる館に、一人残された女がいた。カラー女史。街を築き、人の未来を切り開いた女。彼女の瞳には、かつての鋭さは残るが、どこか深い影が宿っていた。


「ソラ…お前は私を孤独から救ってくれたのではなかったのか……」


カラーの呟きは、火に掻き消される。ソラの手が彼女の肩に触れた瞬間、孤独な心が初めて温かさを知った。だが、彼はレゾナの野生に心を奪われ、ゴンザの情熱に敗れ、ついにはニジ神の光に飲み込まれた。カラーは、また一人になった。そこへ、ヨタヨタと現れたのは、いつもの開発者――街の道具屋だ。


「おぉ、カラー様…悲しいことを言わなさんな。今日は新しい開発品をお持ちしましたよ。ほほほ、これならもう男なんか不要です」


男か女かも分からない――全てが曖昧な道具屋が差し出したのは、妙に滑らかな木と鉄でできた「共鳴オルゴール」。人里の技術を結集した、巻バネ式の共鳴するオルゴール。


「ほほ。使い方を教えて差し上げましょう」


道具屋の声は軽やかで、どこかカラーを気遣う優しさが滲む。カラーは一瞬、道具屋を睨むが、すぐに小さく笑い、力なく首を振る。


「…愚かなものだな、ヒトとは」


彼女はオルゴールを受け取り、冷たい鉄の感触を掌で確かめるように…一巻き。そして、火を見つめながら、そっと身を預けるように目を閉じた。涙が一筋、頬を滑る。孤独も、悦びも、憎しみも、全てをないまぜにしたまま。カラーは思う。ソラの温もりも、レゾナの野生も、ゴンザの忠義も、誰も彼女の心を完全に埋めることはなかった。だが、それでもいい。彼女は魔法で街を築き、人の未来を照らす。


孤独とともに。ただ、生きる。


――完

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