ゴールデンウィークに誘われない
GWスペシャルです。
短話ですが、筆が乗りましたので投稿です。
一目惚れなどという精神病に罹患してしまった真っ青な四月が終わると、次は金色に輝くウィークが始まる。何で青が金色に変化するのか分からない。ぜひ、パラケルススに訊いてみたい。
長期休暇前にあった小テスト、長期休暇中の家族団欒――久しぶりに伯母とも再開――など公私共に様々なイベントがあったものの、特に語るべき出来事はなかった。
具体的に言うと有森とのイベントは一切発生しなかった。何故だろう。
「なあ、俺の人生ゲームに恋愛マスの実装が漏れているんだが。どこの運営にクレームを入れるべきだと思う?」
「パラケルススだな。きっとそうだ」
右耳から左耳へと俺の言葉を貫通させながらも柿崎は受け答えする。一切聞いていない癖に一部は以心伝心しており、ゴールデンウィークというブランクを感じさせないコミュニケーション能力を柿崎は発揮する。
ホームルームが始まるまでの合間に、定例の悩み相談に乗ってくれる我が友、柿崎。
俺が一年の女子、有森に心惹かれている事を熟知しているため、存分に恋愛相談のサンドバッグにさせてもらう。
「休み明けに戯言を聞かされて、ただただ迷惑だ」
「またまたー。ご冗談を」
「だいたい、休み明けに喚いても今更だ。ゴールデンウィーク前に遊びに誘わなかったのか、お前?」
「年下の後輩を遊びに誘うなんて、明石大橋くらいに巨大で高いハードルだ」
有森とは四月に知り合いとなったとはいえ、顔見知りに毛の生えた程度の間柄である。
そんな俺が有森を遊びに誘うのは違うのではなかろうか。学校限定の交友関係を休日というプライベートタイムにまで適用しようとするのは、巣の中に勝手に入ってくる図々しいタヌキくらいに顰蹙を買わないだろうか。
「学生なら十分に遊びに誘える間柄だろ?」
「どこかだよ。有森とは学年も違うし、異性をいきなり遊びに誘うのは不審に思われるだけだ」
「いや、お前だからこそ誘える可能性が高かったはずなんだが」
「俺だから??」
「窓からフォーリンした時に真っ先に助けを呼んでくれたお礼とか、有森の良い所探しをしたいからとか。口述の用意は簡単だっただろ?」
「……どうしてゴールデンウィーク前に教えてくれなかったんだ」
柿崎のアドバイスが一週間遅かった所為で、俺のゴールデンウィークは無価値に終わってしまったではないか。
ぐったりと俯いた俺。
陰気な気配を漂わせる中、空気を一切読まない軽快な着信音がスマートフォンより響く。液晶の上部付近に表示されているポップアップはSNSアプリの代表、LIFEであり、メッセージが届いた事を知らしめている。
「……なんだ、山畳か」
いつ友達登録したのかさっぱり思い出せないくらい、大した相手ではない後輩からのメッセージだ。
『山畳:先輩、昨日の立て替えですが、何円でしたっけ?』
『青森:一九〇〇円くらいだったはずだ』
『山畳:先輩、今は何時です?』
『青森:ホームルーム直前だから七時五十五分だな』
『山畳:分かりました。七五五円ですね。五円おまけして八百円を用意しておきます』
『青森:おいコラ待て』
ごり押しな時そばで千円以上の減額を謀ってきたぞ、この後輩。
「おいコラ待て」
「柿崎? 俺の肩を突然掴んできてどうした。止める相手は山畳の方だぞ」
「昨日の立て替えってなんだ?」
「山畳と昼を食べに行ったら、あいつ財布がないっていうから仕方なく。見間違いかもしれないが、ラーメン屋を出た後にコンビニでスマフォを使って電子決済していた気もするけどな」
奢りになるつもりはないって言いつつ、俺が立て替えるといった後にラーメン単品をラーメン定食に変更して餃子まで追加注文していたからな、あいつ。
「柿崎、おかしい後輩だと思わないか?」
「お前がおかしいだろ。後輩の異性を休日に誘ってんじゃねぇよ。誘うなら有森を誘えよ」
「……山畳は異性の前に後輩だろ?」
山畳の所為で柿崎に誤解されてしまったではないか。
確かに山畳は生物学的には異性であるが、その前に後輩である。後輩の異性ポジションだ。肌に住む常在菌みたいなフランクな距離感にいる。
一方の有森は異性の後輩である。異性を最初に意識しつつ後輩でもあるポジションにいるため、距離感が果てしない。
「何となく理解してしまいそうになる奇妙なカテゴライズは止めろ。俺にまで感染を広げるな」
「山畳とは近場にある俺おすすめのラーメン屋で食事しただけだぞ」
「気軽に食事するだけなら普通に遊ぶよりもむしろ親密だ。どうして、有森を誘えない初心なお前が月面着陸くらいに偉大な一歩を別の後輩女子で達成してしまっている??」
「でも、山畳の奴、ラーメン屋で餃子を食っていたんだぞ。異性と遊ぶ時に餃子を食うか?」
『山畳:ニンニクマシマシラーメン、良かったですね。私の知らない穴場でした。また、別の店を奢ってくださいね』
「……お前等の距離感、何なんだ?」
同じお料理クラブの先輩と後輩ですが、何か。
言葉を失った柿崎は、俺を見捨てるように背を向けた。
スマフォの電子決済にて、今朝のコンビニで購入した口臭清涼剤をもぐもぐと噛んでいる一年女子、山畳。
「ミント系の味しかしないから、食べ物を口にした気分にならないのよね、これ」
「食べ物の臭いを消すためのものだからじゃない、ミキ? てか、次の日が学校って分かっていた癖にニンニクを食ってんじゃないわよ」




