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十目惚れ 有森なる女

 暗くなると共に曖昧になった街中をトボトボを帰っていた。

 ワザと遠回りになるように帰宅している。家に帰って安心感を得ている暇はない。

 早く、柿崎に有森の性格の良いところをプロパガンダらないと。


「……何やってんだろ、俺」


 有森の性格の良いところ、つまり、外見に負けない内面の惚れるべき部分探しか。

 随分と回り道をしてしまったが結局はそこに行く着いてしまう訳だ。

 俺が有森に一目惚れなんてしてしまったがゆえに、あるかどうかも分からない有森の良いところを探す破目はめになってしまった。


「他人を査定しようなんて、思い上がりもはなはだしい」


 有森はどういう人間なのだろう。


 顔ばかり自画自賛する妙な女。

 顔だけを自画自賛する妙な女。


 他の情報は、有森は自分に一目惚れする人間を毛嫌いしているが、有森が他人に一目惚れする事は特に何とも思っていない事。

 ……たったこれだけ。いや、知り合って数日。会話した時間は二時間に満たない中、善戦した方だろう。

 ここから考察できる何かがあるというのか。

 たとえば、俺の場合は頭蓋骨にドリルで穴を開いても、これといった深い情報は出てこない。凡人凡庸であり空気の大部分の窒素のような男だ。

 だいたいの人類が同じようなものだろう。深いバックグラウンドや過去からの因縁がなくとも人生は生きていける。何か特別なものがある方が珍しいのである。

 有森も深い理由があって顔だけを強調している訳ではない。

 柿崎の感想通り、有森はただただ性格が悪いのかもしれない。



「駄目だな。思考が脱線しまくる。有森の良いところ探しをしないといけないのに考えがまとまらない。……ここは有森を知っていそうな有識者に聞いてみるか」



 スマートフォンを取り出すとLIFEアプリを機動した。昨日追加されたばかりの友達を選択する。

 有森の方ではなく山畳さんじょうの方だ。追加した覚えはないのだがいつの間にか登録していた。ファミレスでは浮かれ過ぎていたな。

 山畳と有森は友人関係にある。

 俺などより有森に詳しいと思い、直球で柿崎にアピールできる何かがないかをたずねてみた。


『青森:有森の良いところを教えてくれ』

『山畳:先輩、頭大丈夫です?』


 ……どうして有森の良いところをいただけだというのに、頭の心配をされてしまったのだろう。

 近頃の女子学生らしくレスの早い山畳に追加で質問だ。


『青森:あ、有森ってそんなに酷いのか?』

『山畳:ちゃいます。先輩の頭を救ったのが、アリサです』


 山畳は有森に含むところがあった訳ではなかった。現代日本の学生生活に横たわる人間関係の闇に触れなくて済みそうだ。

 だが、俺は有森に頭を救われた記憶はないのだが。よく分からない。


『山畳:先週、先輩って窓から落ちていましたよね?』

『青森:色々と落ちた』

『山畳:その瞬間を最初に目撃したのがアリサ』


 山畳の言葉は真実で間違いない。俺がその証人になろうではないか。


『山畳:その時、アリサはスマフォ持っていなかったので、近場の先生に人が落ちた事を伝えたという訳です』


 バツイチの現代社会の男性教諭、佐々木先生が救急車を呼んでくれたらしいが、俺を最初に発見して佐々木先生に知らせてくれたのは有森だったのか。

 これは確かに良い話だった。人間が窓から落ちれば通報したり助けるのが当たり前という反論はありそうである。が、我が校に大量に生息している学生の内、最も早く動いてくれたのが有森だったという実績は称賛に値する。

 この話は切り札になりそうだ。


『青森:想定していたより良いエピソードだった』

『山畳:アリサはアレでもギリギリ友人続けられる程度にマシなので』


 え、ギリギリ友人続けられるような瀬戸際な関係なの、君達。



『山畳:言動から誤解され易いですが、アリサの自己評価はかなり低い』



 もたらされた新情報に戸惑って指の動きを止めた。

 有森の自己評価が低い。挑発的な顔付きからは想像できない評価だろう。


『青森:詳細をソースも含めて』

『山畳:私の家は醤油派って言いませんでした?』

『青森:有森の自己評価が低いって何かあるのか?』

『山畳:田んぼの水を見に行かないと、じゃっ』


 はぐらかされてしまった。まあ、他人の内面についてあれこれ噂するのはマナーが悪いか。

 山畳から得られた情報は大きかった。ギリギリ友人なだけはある。

 料理下手で、かつ、変な料理を食っているだけの女ではなかった。山畳には今度、何かを奢ってやらねばなるまい。


「有森、有紗の人物像か……」


 柿崎いわく、有森は自分の性格は評価していない。

 山畳いわく、有森の自己評価は低い。

 別々の人物による感想がかなり似通っているからには、俺だけがまだ気付いていない何かが有森にはあるのだろう。

 少しくやしい気持ちになってしまい、夜空を見上げて口を開く。叫ぼうかなと思った寸前に恥ずかしくなって口を閉じ、とりあえず家まで走る事にした。




 ◆翌日 二年C組 放課後◆


 若干の筋肉痛を覚える高校二年男子。大丈夫、来週からはお料理クラブ所属になるので足腰が多少は鍛えられるはずである。

 昨日からずっと有森について考え続けているのに明確な答えはまだ出ていない。人を分かった気になるのに半日は少な過ぎる。

 俺のこうであって欲しいという願望染みたものにならないように、正しく有森について考えたい。



「カンジ先輩っ、お時間よろしいでしょうか!」



 ――俺の思いを踏みにじったのは、教室に入ってきた有森本人だ。

 待ってくれと頼んでいたのに一日しか待たないなんて。俺のお願いって有森の中ではそんなに軽いの?

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