第082話 消えたお姫様
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「俺は神になったんだ。俺が今日からスルトだ!あははは!!!そうだ、神だ!力が漲ってくる!」
「反動で脳が持っていかれたみたいだな。これが本物のスルトなら、興醒めも良いところだ。そもそもだな、ニヴルヘイムと対極のムスペルヘイムの入口を守る巨人であってだ。」
「ごちゃごちゃとうるせー!俺が言った事が絶対だ。何故なら俺が神だから。」
相手をするのも面倒になって来た。
一層殺してしまった方が楽か。
いや、待て。
この体を乗っ取れる条件を知る為には、コイツが良い教材になる。
今回はどれだけの時間持つのかを調べる為のテスト。
殺してしまっては勿体無い。
「『火炎神』"炎"」
「馬鹿だな。」
「馬鹿はお前だ!俺の力を見て恐れ慄いたか!」
無限に湧き出る炎。
それも1つ1つが最上級スキルとやらに匹敵するだろう。
だけど、その程度。
神を名乗る割にはそこが知れている。
何故、こんな事になっているか。
理由は単純だ。
俺達人間は神じゃない。
どれだけ力を付けようともな。
憧れるのはやめた方が良い。
神で無くとも、神を穿つ方法ならあるのだから。
神になったとしても、いつか足下を掬われる事になる。
ほら、この様に。
「このまま灰になって死ねぇーーー!!!」」
「灰を見たいなら見せてやろう。己に帰せ。」
タムタットの攻撃は竜真の言葉1つで矛先を変える。
咄嗟にスキルを解除する事で一命を取り留めたみたいだ。
死ぬ事は免れたとしてもタムタットは悟ったはずである。
これが黒沢竜真の真価、隠された実力であると。
雰囲気が変わるまでは勝てると確信していたのに、それがあの一瞬で変わってしまった。
最早、彼に残された時間で出来る事は何も無いだろう。
「あの魔族に匹敵するかとも思ったが残念だな。」
「俺は強い。強いんだ。それを邪魔するな。俺は、俺は。」
「それでその薬の力は終わりか?終わりなら死ね。」
「俺はまだいける。『火炎神』"大炎常"」
彼の体が炎に包まれる。
苦しみ悶えている姿はまさに地獄絵図。
彼は自分に火炎耐性があると思っていたみたいだが、どうやらそうでは無いらしい。
体は取り返しの付かない程に焼け焦げているのが、炎の奥からでも分かる。
これだけの代償を払えば、何か威力の高い技の1つくらいは来るものだと思っていたがそれも無い。
恐らくは力の暴走と考えるのが妥当。
俺が直接手を下すまでも無かったという訳だ。
「もう十分に楽しんだ。後はゆっくりと眠れ。消えろ。」
火の奥に見えるタムタットは少しずつ消えて行く。
彼がどうして王族を裏切ったのか。
それ程の憎悪をどうして抱いていたのか。
気になる所はまだあるが、謎を紐解くのは俺の役目では無い。
「時間にして2分。呆気無いな。そろそろアイツの精神も安定し出す頃合いか。体を返すのは癪だが、約束は約束だ。」
体から一気に力が抜けて行く。
眠る時に意識が抜けていく感覚だ。
その後、視界がクリアになる。
視界の先にはタムタットがいない。
きっと俺が倒したのだろう。
どうやれば、あんな相手に勝てるのか。
同じ人物なのだから、俺でも倒せる可能性はある。
進化の可能性を喜ぶべきか、あの力を使ってしまった事を悲しむべきか。
複雑な感情だ。
今はエルマード達と合流して、事の顛末を報告しなければならない。
この戦いで敵は壊滅。
ほとんどの敵が死んだと思って良い。
後は避難所に戻り、数週間の様子見。
それで何も起こらなければ、また元の生活へ戻れる。
早くネムリの下へと戻って知らせて上げたい。
「終わったみたいだな。」
「あぁ、何とかな。そっちも無事みたいで良かった。」
「俺達4人はだけどな。騎士団は重傷者3名、死者2名。複雑な感情だ。」
「仕方ないわ。犠牲は付き物よ。」
「・・・すみません。今、起きました。」
魔素欠乏を引き起こしていたイリミが目を覚ます。
とりあえず起きて来れて良かった。
あのまま目が覚めない可能性だって十分にありあるからな。
俺達は負傷者を背負い戻る事にした。
本来ならば、施設内を隈なく探して敵を見つけ次第倒すのが最善だが、こちらの戦力が減り過ぎている。
想定よりも負傷者がいるので、一度戻って体制を立て直す。
◇◆◇
「これはどうなっている。」
避難所に戻って来た俺達の第一声。
目の前の光景が信じられない。
半数の騎士団をここに残したにも関わらず、全員赤い血を地面に広げて倒れている。
魔素欠乏を引き起こしたばかりのイリミも、この状況を見て慌てて回復魔法を発動。
ただ、回復魔法は騎士団の前には意味が無かった。
息を吹き返す者は1人も。
注目すべき点は他にも。
イリミと専属で護衛を任されているアレンテの姿が見えない。
アジトを襲撃している間に敵も動いていた様だ。
俺があんな事を言わなければ、こうなる事を防げていたかも知れない。
いや、防げていた。
「・・・ネムリを助け・・・て、くれ。場所は王城・・・だ。」
唯一、息のしていた国王がイリミの回復魔法を受けながらも懇願する。
藁にも縋るような思いで頼んでいるのだろう。
助けたいという思いは俺や他の3人も同じだ。
だから、その約束は絶対に果たす。
今からでも乗り込もうとしている俺を手綱をエルマードが握る。
感情的になっている場面で冷静な人間が1人でもいると助かる。
一刻を争う状況と同時に選択を間違えられない状況だ。
呼吸を整えて冷静に考えよう。
「何故、相手は場所を指定して来た。ネムリの奪取には成功しているはずだ。わざわざ敵を招く必要性も無い。」
「俺を誘い込んでいるんだろ。俺の固有スキルの力を欲していてからな。」
「それなら尚更罠を仕掛けている可能性が高い。」
「どちらにせよ、助けには行かないといけませんよ。罠を恐れて慎重になるより、ネムリちゃんとアレンテさんの安否をいち早く確認する方が良いと思います。」
気持ちはイリミの意見と同じだ。
だけど、エルマードの意見も分かる。
一歩間違えれば、取り返しの付かない状態だからこそ悩む。
「迷ってるなら行けば?これだけ悩んで思いつかないなら、どうせ碌な策を思い浮かびはしないわよ。」
「俺は気を引き締めろよという意味で言っただけだ。時間が無いなら指定された場所に向かうべきなのは同意している。」
「よし、決まった。王城へ向けて出発するぞ!」
ここで待ったを掛ける男達がいた。
「私達も同行させて欲しい。」
ボロボロの傷を負った騎士団が揃いも揃って行手を阻む。
俺達の前の行手を遮って交渉してくるのは、断られるのを分かっているからだ。
「悪いがそれは無理な相談だ。言っちゃ悪いけど、さっきの戦いでお荷物だった。これから先の戦いでそんな奴らは必要無い。」
「貴様、下手に出れば。」
エルマードは問答無用で殴った。
1人が殴られたのを見て、エルマードへ襲い掛かる騎士団。
しかし、殆どのメンバーが傷を負っていた事もあって一方的に殴って終わった。
「行くぞ、時間が無いんだろ。」
「すまない。俺がやるべきだった。」
「いや、これで良い。俺が代わりに手を汚す。それが役目だ。」
頼もしいと思うと同時に、俺もそれにこの仲間達に見合う男になろうと決意した瞬間だった。
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