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6人の継承者と時を超えた復讐  作者: 羽畑空我
第一章 彼の元を目指して
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第七話 黒い霧

ユウト視点です。

*****


「はあ、やっと着いた……。レイカ、お前方向音痴すぎだろ!!」


「うるさいわね!!ユウトだって人のこと言えないじゃない!!」


俺、ユウトはカレンと休息地で別れた後、レイカと共にノーズホワイト村に向かい、今ちょうど到着したところだった。休息地から一時間で到着するはずだったのに、どうして三時間もかかっているんだ……。


「そんなことより私、今とてつもなく眠いわ。早く宿をとって、カレンがこの村に着くまで待っていようかしら。」


「昨日遅くまで起きてはしゃいでいたから疲れているのかもしれないな。寝不足は体に良くないし、カレンが来たら起こしてやるよ。」


「ありがとう!!」


レイカと他愛のない雑談をしながら宿屋へ向かって歩いていく。


それにしてもおかしいな。小さな村にしても、外出をしている人が少なすぎる。でも人の気配は感じるから、人がいないというよりは村人が外出を控えているといった感じだ。


何か事件でもあったのだろうか、と思いながら村の中を移動していると、後ろからしわがれた男性の声がした。


「お二人さん、夫婦かい?」


振り向くと、そこには年老いた男性がいた。


「いえ、夫婦ではありませんが……。」


「そうかい。ならば気を付けた方がいい。最近、若い独身の女性がどんどん行方不明になっているんだ。そこのメガネのお嬢さんはべっぴんさんだからねえ。もしかしたら被害にあってしまうかもしれん。」


「ご忠告ありがとうございます。気を付けますね。」


「うむ。」


にこにこと笑って会釈をした老人にこちらも会釈を返し、そのまま別れる。


それにしても俺たちは、カレンとの集合場所としてあまりよくない場所を選んでしまったのかもしれない。とはいえカレンに何も言わずに集合場所を変更するわけにもいかないので、俺たちは細心の注意を払ってこの村で時を過ごすことにした。


宿屋につくと、レイカが不安そうに告げる。


「私、起きていた方がいいかしら。」


「俺が見張っているから大丈夫。そこらのヤツに、俺が負けるわけないだろ?ただ、部屋の窓のカーテンを閉めてから寝ろよ。」


「確かに、普通の人にユウトが負けるわけないものね。わかったわ。」


「ああ。」


部屋を一部屋予約してから、借りた部屋に入る。


レイカが眠りについたのを見届けてから、俺は個室の玄関に座り、目をつむって集中する。こうすると、視覚が閉ざされたことによって他の感覚が冴え、他人の気配を感知しやすくなるのだ。


え?うっかり眠ってしまったりしないのかって?

目をつむってはいるが脳は冴えているため、全然眠くならないのだ。


しばらくそうして神経をすましていると、自分のものでもレイカのものでもない気配を感じた。魔物だ。閉じていた目を開ける。


気配の正体が普通の人間だったら、扉に鍵をかけているので何も問題はないのだが、魔物となれば話は別だ。奴らは魔法で壁をすり抜けることができるから、無視するわけにはいかないからだ。


魔物の中でも壁をすり抜けることができるのは限られた奴だけだが、今まで何人もの人々をさらってきたということだから、その手を使ってくる可能性が高い。


用心しないで損することはあれど、用心しておいて損をすることはほとんどない。


向こうがこちらに到着する前に、俺は急いで個室の扉を開けて部屋の外に出たあと、すぐに扉を閉めて鍵をかけた。


気配を感じた方向に目をやると、先ほど気配を感知した魔物と目が合う。そいつはしばらく俺を見つめた後、ほう、とつぶやいた。


男の声だ。しかし、姿形は輪郭があやふやで黒いということしか認識できなかった。黒い霧の塊みたいな見た目だ。


そいつの力量調べの意味も兼ねて、黒い霧をにらみつける。それでも男は全く動揺しない。


普通の魔物なら天族の中でも特に強い力を持つ家の血筋である俺ににらまれた時点でおびえて足がすくむのだが、この男は堂々としている。


俺よりもはるかに強いのか、己の力を見誤っているのか。

そいつから発せられるオーラから推し量るにおそらく後者だが、油断は禁物だ。


「これは都合がいい。」


男はつぶやく。


「俺が弱いと言いたいのか?」


「違うな。私の狙いは部屋の中にいる女ではない。」


「それならば、どうしてここに来たのか?」


「貴様を捕まえるためだ。私の狙いは始めから貴様だ。」


訳が分からないが、どうやら狙われているのはレイカではなく俺らしい。大方他人からエネルギーを奪い取って簡単に強くなろうとしている、といったところであろうか。


それならば俺が狙われているのも納得がいく。なんて言ったって俺は……いや、今は関係ないことだな。


「そんな簡単に捕まるわけにはいかないんでね。」


そう男に告げながら、俺はムチを操って男に攻撃を加える。それが男に当たると、それなりのケガを負わせることができた。この調子であれば余裕でコイツに勝てるであろう。


二度目の攻撃を繰り出すと男は身をよじってムチをよけたが、軌道を変えて男の体にムチを命中させる。


「なかなか強いな。だが、これならどうだ?」


三度目の攻撃を加えようとしたその時、男がそう告げる。構わず攻撃を続行しようとすると、男の手からイバラが伸びてきて俺の足をからめとろうとしてきたが、反射でよける。


すると、男がこう言った。


「ふむ、反射神経も申し分ない。しかし……。」


男がニヤリと不敵な笑みを浮かべると、辺りに甘ったるい香りが漂った。


「!!」


幼少期の生活環境上の都合で状態異常への耐性はそれなりにつけてきたはずだが、生まれ持った体質はどうしようもない。それに加え昔からほとんど無臭の環境で育ってきたということも相まって、俺は異常なにおいに人一倍敏感なのだ。


力が抜けていく。


コイツの思う通りにはさせまいと力を入れなおそうとしたが、さらに強まった甘ったるい香りの前ではほとんど無意味であった。


遠のいていく意識の中で、自分の体に何かが巻きつけられる感覚を感じたと同時に、コイツのターゲットがレイカでなくてよかった、とぼうっと考えていた。


意識が飛ぶ直前、レイカが自分を呼ぶ声がしたのは、きっと気のせいだ。

だって彼女は、一度眠ったらめったに目を覚まさないのだから。


そう思ったのを最後に、俺の意識は彼方へとんでいった。



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