第六話 彼へのお土産
次の日、目が覚めていつもと違って天井がないことに驚く。
周りをきょろきょろと見まわして、穏やかな寝息を立ててすやすやと眠っているレイカと、いつの間に起きたのか昨日と変わらずすました顔で本を読んでいるユウトを見て、昨日起こった出来事を段々と思い出してきた。
確か友達にホワイトベリーを採ってくるように頼まれて、そのために向かった森で不思議な女の子と戦ってから、ここで休むことにしたんだっけ。
昨日起きたことを脳内で整理していると、こちらに気がついたユウトが私に話しかけてきた。
「カレン、おはよう。起きてたんだな。そろそろレイカが起きる時間だから、村へ向かうのはその後にしてもらっていもいいか?」
「全然いいよ。」
そう答えた後、なんとなくユウトの隣に座って、袋に入ったホワイトベリーを眺める。
いつも村の青果店で買って食べるホワイトベリーも美味しいけど、自分でとってきたこのホワイトベリーはいつもよりも美味しそうに見えた。
しばらくそうしていると、ごそごそと布の擦れる音がして、レイカが起きてきた。
「おはよー、ユウト。隣の女の子は?」
「寝ぼけてるのか?カレンだよ。昨日ツバサのところに一緒に行くって話になった。」
「あ、そっか!ごめん、カレン。寝ぼけてた。」
「大丈夫だよ。私も起きた時、自分の上に天井がないことにびっくりした。」
「環境が変わるとそうなるわよねえ……。」
「おしゃべりはそのくらいにしておけ、レイカ。カレンはそろそろブロウ村に向かわなきゃいけないからな。」
「そういえばそうだったわね。ジャムを取りに行くんでしたっけ?」
「そうそう。ユウトたちはどうする?」
「とりあえずまだ眠そうなレイカに朝ごはんを食べさせてからノーズホワイト村に向かう。多分カレンがこっちに着く頃にはすでにいるはずだ。」
「わかった。じゃあ、またあとでね!!」
「了解。」
ホワイトベリーが入った袋を宝物のように腕に抱え、私は軽い足取りでブロウ村へと向かった。
*****
数十分後、ブロウ村についた私はかわいらしい鈴の音がなるパン屋の扉を開けて、中に入る。そして、声を上げた。
「戻ったよー!!」
「あっ、カレン!!ケガをしていなさそうでよかった。それじゃあ、ホワイトベリーをもらってもいい?」
「はい、どうぞ。」
私は頼まれた分のホワイトベリーが入った袋を彼女に手渡す。
袋を手渡された彼女は袋の中身を確認すると、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「うんうん、いい感じに実ってる。ちょっと待っててね。仕込みは終わっているから、あとはこのベリーを入れて煮込むだけで完成するから。」
「ありがとう!」
彼女は厨房の奥に入っていき、店主さんに話しかけるとベリーの入った袋を手渡してこちらに戻ってきた。
「お父さんがジャムを作り終わるまで、ちょっと雑談でもしない?」
「いいわね。待っている間やることもないし。」
彼女は店主さんに、家の方でカレンと話してる、と伝えてから私の方に来る。それに合わせて私は店の出口に向かって歩き出した。
彼女の家に来るのは初めてではない。それこそツバサや他の子達と何回も遊びに来たし、あの事件の後も幾度となくお邪魔させてもらっている。
お邪魔しまーす、と言いながら玄関で靴を脱ぎ、揃える。慣れた足取りで一階のリビングを経由し、吹き抜けになっているおしゃれな階段を登って、廊下を歩き、二階にある彼女の私室に向かった。
部屋に着くと、彼女はクッションをベッドから持ってきて部屋の中心に置かれたちゃぶ台の周りに置く。そして私に座って、というと、自分ももう一つのクッションに腰掛けた。そして話し始める。
「そういえば、ツバサって今どこに住んでるの?」
「ライクファイト王国だって。イベント用の魔物を管理しているらしいよ。」
「そうなんだ。でもさ、ライクファイト王国って最近事件があったらしいよ?」
「え、どういうこと?」
「これは旅の途中でうちのパン屋に寄って行ってくれた旅人さんから聞いたんだけど……。」
「うんうん。」
「数ヶ月前のある日の夜、ライクファイト王国の空に急に雷が走ったと思ったら、何かと何かがひたすらぶつかりあう音が聞こえてきたんだって。数分後にその音は収まったらしいんだけど、その晩に三人行方不明になってるらしいのよ。」
「え、そうなの?ツバサ、大丈夫かなあ……。」
「まあ、巻き込まれている可能性は限りなく低いし、巻き込まれていたとしてもアイツならなんだかんだ生き延びてる気がする。」
「確かにね。」
他にも彼女の恋人のことや魔法の先生の授業のことなど、いろいろなことを彼女としゃべった。ふと時計を見ると、数時間経っていた。
「うわ、もうこんな時間!!カレンと話すの楽しいから、つい話すぎちゃった!!」
「わかる。私も友達と話してるとそうなる。」
二人で笑っていると、部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。彼女がはーいと返事をすると、店主さんが入ってきた。
「カレンちゃん、どうぞ。この村限定のあのジャムだよ。ツバサ君が好きだった甘めのベリーを少し多めに入れておいたんだ。材料を持ってきてもらったから、もちろん代金はなしでいいよ。ありがとう。」
「いえいえこちらこそ!!おじさん、ありがとうございます!!」
「カレンちゃんはそろそろ出発するのかい?」
「はい。そろそろ行こうかと。」
「カレン、気をつけて行ってきてね!!ツバサに会えたら、私たちにも教えて。いってらっしゃーい!!」
「うんっ!!」
見送ってくれた彼女と店主さんに手を振りながら、私はこの村を後にする。そして、ノーズホワイト村に向かった。
ツバサへのお土産のジャムが入った小瓶を、そうっとカバンに入れながら。