第五話 レイカの探し人
まばゆい光が影を襲って、影の呪文の詠唱を中断させた。
「くそ、またコイツか……!」
影は忌々しそうにそう吐き捨てる。人を殺そうとする度にこの光が呪文の詠唱を中断させてくるものだから、腹が立ってしょうがないのだ。
「いいか。この体はもうあの方のものだ。以前のお前はもう死んだ。今ここにいるのは、悪に染まりきった俺のみ。邪魔をするな。」
光は、抗議するように点滅する。
「ったく、面倒くさい。今日も殺せずじまいか。また出直すとしよう。」
月の光に照らされて、その影が身につけているアクセサリーがきらりと光る。やがて影は、夜の闇と共に溶けていき、消えて見えなくなった。
*****
「それで、どうしてノーズスノー密林にホワイトベリーを採りに来たの?」
「五年前、私の出身の村で処刑された魔族の男の子がいるの。私の大事な人よ。それで、本人から手紙が届いたから会いに行くことにしたんだけど、お土産にその子が好きだったジャムを持っていこうと思って。それで村のパン屋さんに買いに行ったら、ホワイトベリーだけ切れちゃってて、ジャムが作れなかったから、森に採りにきたってわけ。」
「へえ!!その男の子、カレンと同い年なの?」
「そうよ。ツバサっていう名前なの。」
私がツバサの名前を出すと、ユウトとレイカさんが硬直した。
「ツバサ……?」
「ええ。」
「もしかしてその子、茶髪のショートヘアで黒と藤色のオッドアイだったりする?」
「そうだけど、どうして知ってるの?」
私がレイカさんの質問に答えると、二人はますます目を見開いた。
「二人とも、どうしたの?」
雷に打たれたように固まって静まり返ってしまった二人に私が恐る恐る声をかけると、レイカさんがばっと立ち上がった。心なしか瞳が光り輝いている気がする。
「運命!これは運命だわ!!きゃーーーーー!!!小説みたい!!」
「れ、レイカさん……?」
「レイカでいいわ!!」
「あ、はい……。」
レイカの豹変ぶりに驚いていると、やれやれとでも言いたそうなユウトが補足説明をしてくれた。
「悪い。俺の姉の影響で、コイツかなりオタク気質なんだ。ここから先は俺が説明するよ。」
「よろしく。」
「さっきカレンがツバサって言った時からそうなんじゃないかな、って思ってたんだけど。俺、お前と会った時に大事な奴が人を探しているって言っただろ?」
「うん。言ってた。」
「それで、そのレイカが探しているヤツが、ツバサっていう魔族の男子なんだ。レイカのいとこでさ。早く行方不明になった自分の息子を見つけ出して妻を安心させて欲しい、っていうレイカの叔父さん……もとい、ツバサのお父さんの遺言なんだ。それで、同じ人を探しているカレンに会ったから、レイカが運命だって興奮してるってわけ。」
「なるほどね、そうだったんだ。ツバサのお父さん、いい人だったんだね。きっとツバサの優しさはその人から受け継いだものもあるんだろうなあ……。」
「ツバサも、いい奴だったのか?」
「うん、すごく。私が今幸せに村で暮らしていられるのは、ツバサのおかげ。私の初めての友達で、一番大事な人……。」
「そうか。」
「それにしても、レイカさんってツバサのいとこなんだね。目の色が似てるな、って思ってたけど、それは血が繋がってるからだったんだ。」
「そーゆーこと。」
ユウトの解説を聞いてこの状況に納得していると、レイカが私に呼びかけてきた。
「ねえねえ、カレン!!」
「どうしたの?」
「私達、そのツバサって子を探しているんだけど、全っ然手がかりがないの!!」
「はあ!?お前、何も知らないまま俺のことを連れまわしていたのかよ!?」
ユウトの盛大なツッコミを華麗にスルーして、レイカは続ける。
「ジャムを取りに行ってからでいいから、私達と合流してツバサがいるところに案内してもらっていいかしら?」
「いいけど……。私が二度と会えなくなるような場所に、ツバサのこと連れて行かない?」
「ええ、もちろん!!親の元に戻るかどうかは本人の意思に任せるし、たとえ魔界や天界に行ったとしても、割と簡単に行き来できるのよ?」
「そうなの?わかった。じゃあ一緒に行こう!!」
「おいレイカ、無視すんな。」
「この近くにノーズホワイト村っていう村があるわ。私は村にジャムを取りに行っている間、その村で暇つぶしでもして待っててくれる?」
「わかったわ!!」
「はあ。レイカ、全くお前というやつは……。」
ユウトのお説教をしゅんとして聞いているレイカがなんだかおもしろくて、くすくすと笑う。そんな私達三人を包み込むように、その日の夜は更けていった。