第四話 影
ユウトに体を揺さぶられたレイカさんは、う~ん……。とうなってからゆっくり起き上がった。そして、澄み渡った泉のような清らかな声でユウトに答えた。
「ユウト……。ありがとう、助かったわ。隣の女の子は?」
「あー、カレンっていう名前の人間だ。俺がお前を助けに来るのを手助けしてくれたんだ。カレンがいなければ、今頃俺の命はなかったよ。」
「そうなのね。カレンさん、ありがとう。」
「いえいえ。私こそユウトに助けてもらいましたし……。」
そういう私に向かって、レイカさんはきれいなお辞儀をした。
改めてレイカさんを見る。漆黒という色をそのまま表したようなつややかな黒いロングヘアー。後頭部にはあでやかな黒髪に映える藤色のリボンで編み込みがまとめられていた。目は藤の花のような薄紫で、ツバサの左目の色とよく似ている。ユウトと同じようなメガネをかけており、彼女の清楚な雰囲気をより一層際立たせていた。服はオフショルのワンピースを着ていて、ユウトと同じ天使の羽が生えている。
「きれいな人……。」
「本当?うれしいわ。ユウトは照れて私にきれいなんて言ってくれないもの。」
「は?照れてねーし!!美人なのは、まあ、認めるけど……。って、おい、カレン!!なんだそのむかつく笑顔は!!」
おっと、あぶないあぶない。照れ隠しをしているユウトを見て頬が緩むのを抑えきれていなかったか。
そんなことを考えていると、視界の端で何かが光った。そちらに視線を移すと、私やツバサのものとそっくりな緑色のペンダントが淡く光を放ちながら浮かんでいる。吸い寄せられるようにその石を見つめる。
やがて、そのペンダントは地面に落ちた。地面に転がりっぱなしなのもかわいそうなので拾おうと思って石に触れる。そのとき、石に触れた指先に、静電気のような痛みが走った。思わず声を上げる。
「いたっ!」
「カレン、どうした?」
「けがをしたの?私の回復魔法で治しましょうか?」
ユウトとレイカさんがこちらにやってきた。
「いや、けがとかはしてないんだけど……。さっきこの緑色のペンダントが落っこちてきて、拾おうと思って触ったら、こう、パチッと。」
「はあ?石に電気は通らないぞ?」
そう言ってユウトは緑の石を拾いあげる。静電気は起きていないようで、普通に手に持っている。
「ほらな。」
「えぇ……。」
そっかあ、と思ってもう一回つんっと触ったら、やっぱり静電気のような痛みを感じた。
「ねぇ、やっぱり痛いって!!」
「うーん、嘘をついているようには見えないな。ていうか嘘をついたところでカレンにはメリットないしな。おいレイカ、触ってみてくれないか?」
「え、いいけど……痛っ!!痛いわよ、ユウト!!」
「そうか……。それにしてもこの石、きれいだな。なんだか懐かしい気持ちになる。邪悪なオーラも感じないし、お守りとして持っておくのも悪くないか。」
そう言ってユウトはしばらくペンダントを眺めた後、服のポケットにしまった。
「そういえばカレンはホワイトベリーを採りに来たんだったな。そこになってるから、採って来いよ。」
「あ、そういえばそうだった。採ってこなきゃ。」
私は奥に進む。ユウトに教えてもらった場所には、おいしそうに熟したホワイトベリーがたくさんなっていた。うっかり今食べてしまわないように気をつけてベリーの持ち運び用に持ってきた袋に入れる。おやつ用にもいくつかベリーを持ち帰ることにした。
一通り収穫を終えて広場に戻ると、さっき別れたはずのユウトとレイカさんがまだ広場に残っていた。
「二人とも、私のことを待たなくてもよかったのに。」
「そうなんだけどさ、レイカがお前と話したいって言って聞かなくて。悪いけど、少し付き合ってやってもらえないか?」
「ええ、もちろん。」
「カレンちゃん、ありがとう。今日はもう夜になるし、近くの休息所で三人で夜を過ごしましょう。カレンちゃんとお話しするの、楽しみだわ。」
「え、俺も……?」
「ユウト、土地勘ないでしょ?一人でどうするのよ。」
「そりゃそうだけどさ、女二人に男一人って、なんかやりにくいんだよ。」
「何よ、私やカレンちゃんと二人きりで旅してきて今更。それにあなたは、私達三人の中で一番強いのよ?かよわい女の子二人じゃ心もとないじゃない。」
「か、かよわい?とてもそうは見えないが……。」
「失礼ね!!いいからついてきなさいっ!!」
「はい……。」
私は二人の夫婦漫才のような会話に苦笑する。本当に仲が良いんだな、と思ってなんだかほほ笑ましい気持ちになった。
こうして私達は、テンション爆上がり中のレイカさんと共に休息所へ向かった。
*****
「へぇ。あれがアイツらが言ってたあの方が探してたってヤツか。」
上空からずっとカレン達の様子を眺めていた黒い影がつぶやく。
「今のうちに捕獲しておくか?まずは強力な魔法をぶつけて気絶させるか。」
影がそういうと、影の周りに魔法陣が現れる。影が呪文を詠唱しようとした、そのとき。