第三話 悪あがき
その背中にツバサと同じ魔族の羽が生えた女の子は、こちらを一瞥した後にもう片方の人影に話しかける。
「ちょっとクロトぉ、おじゃま虫さんが二匹入ってきちゃったよぉ?」
「は?お前の結界がショボいからだろ、アカリ。結界を張ると他人の侵入をいち早く知れるとはいえ、術者がショボいと意味ないからな。」
「何よ。アンタが手伝えっていうから結界に集中しないでこっちも手伝ってあげてんじゃない。それに結界はショボくないわよ。だってこの子達以外だーれもここに近づいてきてないもの。」
「はあ。どれどれ……。」
クロトと呼ばれた人影がこちらを振り向いた。
その人は、黒くて長い髪の毛をうなじのところで一つにまとめて横に流している、男の子の姿をしている。木漏れ日にあたって、彼の胸元にある黒い星のペンダントがきらりと輝く。よく見てみると、アカリも同じペンダントを持っているようだ。クロトの背中には、アカリやツバサと同じ魔族の羽が生えている。
彼は私達にぱっと目を向けた後、アカリに向かってこう告げた。
「このくらいの力量の天使と人間くらいならお前ひとりで相手できるだろ?アカリ。」
「まーそうだけど。アタシがこいつらを始末すればいいの?」
「ああ。」
「はぁ~い……。」
アカリは面倒くさそうに返事をすると、ため息をついて魔法を詠唱した。
「ダークマター」
ダークマター?何その魔法聞いたことない。
私が戸惑っていると、ユウトが教えてくれた。
「闇属性の最上級魔法だ!今の俺たちの力量だと一撃でやられるぞ!!」
「私たちがよく使う基礎的な闇属性魔法のダークの進化バージョンってこと!?」
「そういうこと!!」
それはやばい。モロにくらうのは避けないと。
でも、アカリの詠唱は完了していて、今すぐにでも打ってきそうだ。
最後にちょっと、悪あがきをしてみる?種類は違うけど、あの時と同じように。
闇属性の魔法は光属性の魔法に弱いから、シャインを打てば少しは彼女の魔法の威力を弱めて、死ぬのは免れるかもしれない。ユウトに視線を向ける。すると、ユウトはニヤッと笑ってムチを取り出した。
どうやら、私達は同じような悪あがきを考えているようだ。
「シャイン!!」
そう魔法を詠唱した瞬間、ツバサとおそろいのあの桃色のペンダントが、強く、まばゆく輝いた。普段私の心を落ち着けてくれる、蛍の光のような淡い輝き方じゃなくて、もっと力のこもった輝き方で。
すると、ペンダントの石から桃色の光が放たれて、私が詠唱して出した光の玉を一回り以上大きくする。びっくりして集中を切らしてしまいうまく光の玉を発射できなかったが、ユウトは器用に私のシャインをムチで絡めとる。そして、こう叫んだ。
「シャイニングウィップ!!」
私の打ったシャインをまとったムチをユウトは慣れた手つきで扱い、膨張直前のダークマターをムチでしばりつける。
私の他人よりはちょっと優れているけどアカリ達には遠く及ばないはずの光魔法とユウトのムチさばきの合わせ技は、私のペンダントの影響なのかとても強くなった。それはアカリの闇魔法の威力を弱めるどころか飲み込み、さらに輝きを増してアカリを襲う。そして、アカリの体に軽いやけどを負わせた。
これでも軽いやけどか。アカリはとても強いのだろう。きっとクロトはそれ以上だ。私達の合わせ技をくらったアカリが金切り声をあげる。
「なっ、何よこれっ!!これ、ほんとにただのシャイニングウィップ!?クロト、何かわかる!?」
「とてつもなく明るい輝きを放つ桃色のペンダント、オーラだけではわからない秘められたチカラ……。まさか!!」
「どうしたの、クロト!!」
「こいつ、アレだ!!あの方が探していたヤツだぞ!!でも、大天使の気まぐれが発動してるみたいだな。この状態でこの女に勝てるのはアイツくらいだぞ。」
「は!?アイツだけ!?それやばいじゃん……!!でも、アイツ今来れるかなぁ?アイツ、あの方に結構仕事任されてるよねぇ?」
「ああ。仕事の時間も押してるし、今回は一回見逃そう。」
「クロトが言うならアタシもそうするわ。」
二人はちょっと私達には理解しがたい会話を交わすと、こちらを見てこう言った。
「オレ達はこのあともやることが大量に残っているし、アカリがお前らを仕留めそこなった以上もう時間がない。今回はここで失礼する。お前達とオレ達は、そう遠くない未来に再会するだろう。」
「そこのレイカちゃん?だっけ。その女の子は見逃してあげる。それと、そこのツインテールの女の子とメガネの男の子。アンタ達の合わせ技、結構よかったよ。まったねー!!」
そういうと二人は黒い霧を放ちながら消えていった。
「なんだったんだろう……。」
「俺もよくわかってない……。そんなことよりもレイカだ!!」
そういってユウトはレイカさんの元に駆け寄り、倒れている彼女の体を揺さぶった。
「おい、レイカ!!大丈夫か!?俺だ、ユウトだ!!」