第四十話 魔草の守護者と黒い人形
『ここがおくすりはっぱがいっぱいはえているところだよ!!』
ライについて歩いて行くと、魔力濃度が極端に高い場所に辿り着いた。
そこだけ木々がなくぽっかり空いているその場所は、太陽光がよく届いて明るいのになんだか不気味な気配がした。
視覚だけだと何の変哲もない明るくて開けた場所にしか見えないのに、本能で危険を感じる。
ぎゅ、と俺の服の裾を掴むレイカの手は、少し震えていた。
俺たちの少し後方にいるサヤカもぷるぷると震えていて、アユムは話しかければ答えてくれるが、どこかぼーっとしている。
ぷるりんとライは先ほどとなにも変わらない様子で2人で楽しそうに話していた。
ライは「おくすりはっぱ」と呼ぶだけあって定期的にここにきているようだし、ぷるりんは中身がプディン様なので自分より格下の魔力は感じていないのだろう。
それに対して、俺たちは自分たちより格上の魔力を感じている。
物理攻撃で通しているため他の魔族と比べ魔力が低いアユムやサヤカは特に顕著である。
俺は出自の問題で使用するか否かに限らずそれなりの魔力を保持しているため、2人に比べれば本能的な危険は少なめに感じるが、やはり怖い。
レイカは4人の中で一番魔力を持っているはずだが、それでも軽く震えているということは相手は相当強いと考えられる。
まさに、チームワークが必要な戦いだ。
開けた場所まで走っていってぴょんぴょん跳ねているライの後に続いて、数回深呼吸をしてからそこに足を踏み入れた、そのとき。
【ここに辿り着く人型のものがいるとは……。この山の住人の紹介があったようだが、まずは途中で立ち止まることをしなかった勇気を讃えよう……。】
どこまでも低い男の声が、脳に直接響いてくる。
その声が聞こえたのは、どうやら俺とレイカ、アユムとサヤカの4人だけのようだ。
急にビクッと動きを止めた俺たちを見て、ライとぷるりんは不思議そうな表情を浮かべている。
【ところで、汝はなぜ自分よりも格上の魔力を持つものがいる場に足を踏み入れた? 自分の命が何よりもかわいい天族や魔族にしては珍しい……。】
「な、仲間を助けるために解呪の魔草が必要だから……。」
一番最初に震えを克服したレイカが答える。
ふむ。とその声が考え事をしている間に、俺たちも徐々に震えをおさめた。
【これだけの時間己を超える魔力を受けてもなおその地に足をつけるか……。その仲間とやらへの想いは相当なもののようだ。だがしかし……。】
俺は“何か”の気配を感じて反射的にその“何か”を避ける。
俺の真横を通り抜けていったのは、一本の炎の矢だった。
【そこにいる者に勝てる力がないと、その仲間を助けたとしてもその先に進めないであろう。これは私からの汝らへの試練だ。その矢を放つものに勝つことだな。】
俺が目の前の燃えさかる矢を放ったものがいるであろう場所にばっと目を向けると、そこにいたのは。
「……。」
「え、どういうこと……? どうして彼が今ここにいるのかしら……?」
「いや、あれはあの男ではないみたいね。さっきまで話していた人が作った人形ってカンジ?」
特徴的な魔族の羽を羽ばたかせた、人騒がせなアイツ……もとい、ツバサの姿形を模した黒い人形だった。
しかし、前回花畑で出くわした時彼の肩くらいの高さのところをふよふよと動き回っていたあの黒い人魂は見当たらない。
【ご名答。そこにいるのは私が魔力で生み出した人形だ。その仲間を助けたあとに汝らを襲う災難の姿をしている。まあ、私にはそれが何かはわからないがな。この人形を打ち倒すことができれば、解呪の魔草を汝らに授けてやろうではないか。】
そう言い残した後、声は聞こえなくなった。
直後、ライとぷるりんの体が広場の外に放り出される。
呆然としている2人(2匹?)をよそに、ツバサと似たような見た目をしている黒い人形は俺たちの姿を見つめながら、無言で火の玉を生み出し始める。
「ちょっっっっと待って? ツバサって確かこの世界でもトップレベルの魔力を持っているのよね? そんなヤツに私たちが勝てるの?」
戸惑いの声を上げるサヤカに、「いいえ」とレイカがはっきりと告げる。
「これがツバサだと言うならおかしいわ。だって、花畑で見た彼、こっそり魔力測定をしてみたんだけど、私が測ることのできるギリギリというレベルの膨大な魔力量を保持していたの。でも、目の前にいるこいつの魔力量は、あの量の3分の1あるかないかというくらい……。つまり、本来のツバサと比べると弱すぎるのよ。それにしても私たち4人の合計よりは多いのだけど……。」
「何が起きているのかはよくわかりませんが、とりあえずこの人形を倒さないと何も進みません。なんとかして打開する方法を……。」
「そんなことを考えている暇はないわよ!! だって……。」
サヤカがそう叫んだ瞬間、大きな火の玉が俺たちを襲った。
「アイツの魔法の発動速度、えげつないんだから!!」
話し合う時間など与えてたまるか。
そう言っているかのように、黒い人形は俺たちに向けて次々と火の玉を放つ。
「こんなものが当たったらたまらないわね。だけど、なんでかしら。」
レイカが華麗に人形の放つ火球を避けながら、こういう。
「魔法の軌道がかすかにブレているわね。本当に少しだけ。油断したら間違いなく当たってしまうけど、ものすごく的確、というわけではないわ。彼の技術を考えれば私たちに魔法を命中させることなんて造作もないはずよ。」
確かに、その通りだ。
あれだけの魔力を保持しているにしては、魔法のコントロールが杜撰すぎる。
今戦っているのが彼を弱体化したものだったとしても、その技術やクセまでもを変えることは現在の魔法では困難であるはずだ。
ということは、このコントロールの杜撰さは彼のクセだということだろうか?
それとも、何かの要因によって今のツバサは本来のコントロール能力を発揮できていない?
「確かにコントロールは少し杜撰ですが、あの人形に勝つということはこちらからも攻撃しなければなりませんよね? 向こうは人形です、体力のことも考えると避けるだけじゃ私たちが圧倒的に不利ですよ?」
「それはそうだけど、あの魔法発動速度じゃ攻撃は愚か近づくのも難しいわよ? 一体どうやって……。」
「とりあえずツバサの得意分野が炎魔法だってことは氷属性の攻撃とかが苦手なわけだが……。」
俺が迫り来る炎たちを避けながら相手を分析していると、とあることに気がついた。
「あれ? そういえば。」
「どうかしたの?」
「あいつ、さっきから単体攻撃魔法しか使っていないよな? ツバサの力量なら広範囲に比較的低火力の魔法を打って俺たちの体力を徐々に削るってやり方もできるし、そっちの方が仕留める確率が高い。なのに、あいつは高火力すぎる単体攻撃魔法しか使おうとしない。」
「意識が誰かに集中しちゃうってこと? 確かにこの前会ったツバサはカレンへの執着が異常だったけど、そういうことかしら?」
「攻撃パターンが彼の精神面の影響をうけているということですか? 個人の攻撃のクセやパターンがその人自身の性格や価値観を表すというのはよく聞く話ですが……。」
「と、いうことは?」
「誰か1人があいつの意識を引きつけられれば、その隙に向こうに攻撃を加えられるということだな。ただ、サヤカとアユムが先ほどライガーを倒した時みたいに単純ではない。」
「私がこいつを観察していて感じたこととか例のツバサの家での件の用心っぷりを考えると、こいつもきっとミヤビ兄様のように常時魔力探知を使用しているんだと思うわ。死角にいる私にも気がついて攻撃を飛ばしてくるし……。まあ、範囲は兄様ほどではないけど。」
「つまり気配や魔力を消すことさえできれば不意をつける可能性があるということですよね?」
「……気配や魔力を消す、か。」
「アユムってこういうこと得意だったわよね? 私昔アユムとかくれんぼしたときにずーっと同じ部屋にいたのに全く気が付かなかったもの。」
「確かに魔力を抑えることは可能ですが、魔力探知は少しでも魔力が漏れてしまえば居場所がバレてしまうので少々難しいかと……。」
「あいつが常時魔力探知をしていることを逆に利用するか。」
「どういうこと?」
「あいつは魔力探知で周りの敵の数を確認しているし、位置も確認している。つまり、俺たちの位置をそれで判断しているということだ。」
「そうだけど、それが何か?」
「そのうちの1人が……。」
急に消えたら、向こうも混乱するんじゃないか?
俺は昔、ずっと冷たい目にさらされる王宮に疲弊したあの頃の、まだ幼かった自分がよく使っていた気配を消す方法を実行する。
「「「!?」」」
「……。」
ぴた、と人形の動きが止まる。
予想通り。
俺の気配が急に消えたものだから、流石のこいつも混乱しているのだろう。
「今のうちに攻撃するわよ!!」
サヤカの掛け声を聞いたアユムの目が、獲物を仕留めんとする獣を思わす様子でぎらりと紫に光った。
「……りょーかい。」
アユムが自身が愛用しているレイピアを何かをぶつぶつ唱えながら強く握りしめると、その刃が氷の衣をまとう。
その影響なのか、周りの温度が少し下がった。
戦闘モードになったアユムを見て、サヤカもニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ユウトが使ってくれた作戦が、何回もできるかわからないから……できるだけ高火力で行きましょう!!」
「わかってるっつーの。」
俺が消えたことに混乱しているツバサの形を模した黒い人形に向かって、2人は攻撃を加えた。
みなさんお久しぶりです、羽畑空我です。
今回のブランクえげつないですね。すみません。
3ヶ月ちょっとくらい空いてしまいましたが、見に来てくださった読者の皆さん、本当にありがとうございます。
これからも合間の時間を使いつつちょこちょこ書き進めていきますので、何卒よろしくお願いいたします。




