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6人の継承者と時を超えた復讐  作者: 羽畑空我
第二章 諦められない存在
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第三十八話 無事、フラグ回収。

軽い流血表現があります。

苦手な方はご注意ください。

先ほどレイカが立てやがったフラグのせいで少し嫌な予感を感じながらしばらくアユムについていくと、少しずつ霊峰の中が明るくなってきた。

徐々に南側に近づいてきているのだろう。


「この辺りから霊峰の南側になると思うのですが、見渡す限り日光がよく当たる場所はなさそうですね。日光がよく当たる分木々の成長も盛んなようで、ほとんどの場所が木陰になっています。」


「日光が当たる場所ってどう探せばいいのかしら?」


しばらく日光が当たる場所を探す方法を考えていると、なんだか甘いにおいがしてきた。

でも、甘いにおいの中に異常なまでの獣の匂い、鉄臭い匂いがする。


急に動きを止めた俺を見て、アユムが怪訝そうな表情をした。


「ユウトさん、どうかなさいましたか?」


「いや、なんか変な匂いがするなって思って。なんか、甘い匂いの中に獣の匂いと、ちょっと鉄臭い感じも……。」


「鉄臭い匂い、ってことは、血とか? 誰か怪我人がいるのかな?」


「それなら手助けに行った方が良さそうですが、甘い匂いですか? 誰かが怪我をしているなら甘い匂いなどしないはずですが……。なんでしょうかね?」


「誰かが怪我をしているなら放っておけないわ。ねえ、様子を見に行ってはいけないかしら?」


お人好しのレイカが心配そうにそう言うのを聞いて、アユムがサヤカの護衛として培ってきた判断力を総動員して判断をしようと頭を回転させる。


軍人らしく判断の早いアユムが俺たちに指示を下す前に、ぷるりんが数十分前に魔力結晶のある広場に向かった時とは比にならない速度で飛び出して行ってしまった。


「えっ、ぷるりんさん!?」


流石に、この霊峰の中では何もできない彼女(で合ってるよな?)をそのまま孤立させるわけにもいかないし、そもそも別行動をする気がなかった俺たちは、ぷるりんを追って走り出した。


しばらくぷるりんの通った道を走り続けると、開けた日光が当たっている広場の前でぷるりんが急に止まった。

それに合わせて俺たちも止まる。


乱れた呼吸を整えようと息を吸い込むと、むせかえるような鉄の匂いと頭がくらくらするような甘い匂いと、その場に獣がいるとわかるような獣の匂いが一気に入ってきて俺の脳みそを刺激した。


「っ!!」


今まで走るのに夢中で意識していなかった異常な匂いに元々異臭に弱い俺の脳みそは処理が追いつかなくて、思考回路がショートしそうになる。


急に顔を青ざめさせた俺に気付いたレイカが、慌てたように俺の方へ寄ってきて、ポケットからハンカチを取り出して俺の口元に当てる。


そのハンカチからはかすかに藤の花の香りがして、今にも途絶えてしまいそうだった俺の意識を引き戻した。

異臭に対しての拒絶反応としていつも現れる動悸はまだ落ち着かないが、気分の悪さは少しはマシになってきた。


「ユウト、昔からこういうにおい苦手だものね。しばらくそのハンカチを当てておくといいわよ。」


「さんきゅー……。」


俺はレイカから借りたハンカチを当てながら、広場の様子を伺う。

するとそこには、覚醒の聖花らしき鮮やかな赤色の花と、その花畑の前でうずくまっている小さなライガー(少し前にアユムとサヤカに倒されたやつと同族だ)、そしてそのライガーを囲むようにたくさんの魔物がいた。


おいレイカ、絶対お前が立てたフラグのせいだろ。


まあ、いつもレイカには助けてもらっているし、どうこう言うつもりはないんだが。

現に今もレイカのハンカチのお陰で異臭対策が取れているし。


それはともかく、魔物同士は本来対立しないはずだというのに、一体どういうことだろうか。


「たくさんの魔物が一匹の子ライガーを襲っているみたいだけど……魔物同士が対立するなんて、どういうことかしら?」


「レイカさんが先ほど覚醒の聖花は魔物たちの大好物であるとおっしゃっていましたが……。だとしたら大方彼らは覚醒の聖花に引き寄せられた魔物でしょうか? 子ライガーが蜜を独り占めしようとしているとかですかね?」


自分の欲望に忠実な魔物たちの中ではあり得ないことではないと思うが、それにしても子ライガーが密を独り占めしようとしているのはおかしい。

そんな俺の疑問を、レイカが代弁してくれた。


「覚醒の聖花の蜜を好むのは羽の生えている魔物たちのはずよ。ライガーは肉食の魔物で蜜は食料ではないわ。なのに、独り占めしようとしているなんておかしいと思うんだけど……。」


「とりあえず、私たちもこの機会を逃したくないし、倒すしかないかしら?」


「あれだけの魔物の量でしたらムチが有効だと思われますが……。ユウトさん、大丈夫ですか?」


「ここぐらいの匂いならなんとかならなくもないが、ムチを使うならもうちょっと近づかなければいけないよな。だとしたらキツイか……。だからと言ってあの量じゃレイピアと拳法は不利だしなあ……。」


どうしようかと悩んでいると、子ライガーが悲しそうな鳴き声をあげた。


「クゥーン、クゥーン……」


『パパぁ、僕にはむりだったかも……ごめんなさい……。』

魔物の言葉に置き換えれば、この子ライガーは父親に何かを謝っているらしい。


ライガーの親は、基本的に過保護である。

自分の子供を溺愛し、狩りの基本を抑えるまで1人きりにしたりは絶対しない。


それなのに、まだ狩りを覚えていないはずの幼い子ライガーをこの場に残している。

ということは、この子の親はライガーではないのだろうか?


それなら、どうしてここに……?

思考の海に沈み始めた俺の頭を、レイカが現実に引き戻した。


「ユウト、あの子ライガーは何かを言っているみたいだけど、なんて言っているの?」


そういえば、レイカたちにあの子の言っていることを伝えていなかった。


「どうやら父親に謝っているみたいだな。『パパぁ、僕にはむりだったかも……ごめんなさい……。』を繰り返しているが……。」


「ユウトの声でその喋り方きっつ」


そんなこと言われなくてもわかる。

聞いたくせに失礼なことを言ってくるレイカをことごとくスルーしていると、サヤカが口を開いた。


「あの子は父親に謝っているんでしょ? でも、父親らしきライガーの姿は見えないし、気配も感じない。ライガーの性質的にあんな幼い子ライガーをひとりぼっちにするのはおかしくない?」


「そのことについて考えていたんだ。それであの子ライガーの育て親はライガーじゃないのかってところまでは予測したんだが……。」


「お嬢様、ユウトさん、考えることも大事なのはわかりますが、そろそろたくさんの魔物たちを始末しないとあの子ライガーの命も危ういですよ? とりあえず全く理性を感じない大量の魔物たちを倒して、考えるのはそれからにしてはどうでしょう?」


確かにそれもそうだ。


「ユウト、プロテクティア*の準備できたけど……。」

(*第十一話参照)


「レイカ、悪い。無理そうだったらすぐやめていいからな。」


「大丈夫よ。ちゃんと練習しているもの。」


レイカは静かに前へ歩み出て、俺のムチが敵に届く範囲まで行き、すぅっと息を吸い込んだ。

彼女ははっきりとした声で呪文を唱える。


「プロテクティア」


すると、彼女の周りを白い光のヴェールが包み込む。

俺は自分の服のポケットにハンカチを押し込みながら急いでその中に入り、向こうがこちらに気がついていないうちにムチを使って魔物達をしばく。


ほとんどの魔物達を撃破し、残っているのはあと一匹。

最後だ。と、思った時。


「!?」


その魔物が、最期の足掻きと言わんばかりに少しヴェールから出てしまっていた俺の腕を切りつけた。

切り口から、つぅっと赤い血が一筋流れる。


これだけならばただの切り傷かもしれないが、相手は羽を持つ魔物。

彼らは、攻撃力が他の種より劣る代わりに攻撃と共に相手の体内に毒を打ち込む性質があるのだ。


相手を討つことには成功したものの、体内に毒を残されてしまった。

軽くうめき声を出しながら腕をぐっと掴んでうずくまった俺に、レイカが心配そうに手を当て、傷の周りを優しく撫でる。


「魔物の毒を喰らっているわね。大丈夫?」


「これくらいなら比較的短時間で治るが……。ちょっと腕が痺れるような感覚が……。」


レイカに自分の状況を説明しながら、ビリビリと痺れる腕をもう片方の腕で支える。

この程度の毒なら、俺の耐性で30分後には効果がなくなるだろう。


少しの間不便になるな、と思いながら痺れている自分の腕を見下ろしていると、ぽう、と何かが青く光って、俺の腕についた傷と毒の感覚を消していく。

俺がレイカの魔法だろうかと考えた数秒後、はてと気がつく。


彼女の魔法で傷が塞がったり毒の効果が和らいだりすることはあれど、毒が消えることがあっただろうか。

毒が消える魔法もないわけではないが、そのためにはそれなりにたくさんの修行が必要である。


人間と比べれば、天族や魔族は非常に体が強い。

よって、毒は致死量でなければ魔法で消さなくても勝手に分解される。

だから、いずれ天界の国で皇妃として君臨する予定のレイカは、毒の効果を和らげる魔法さえ覚えていれば十分なのだ。


だが、俺も別にレイカの全てを把握しているわけではないので、本人に尋ねてみることにした。


「なあレイカ、お前毒を消す魔法でも覚えたのか?」


「えっ、そんな高位の魔法、私覚えてないわよ? そもそもプロテクティアで大量の魔力を消費してそんな魔法とても使えないし……。どうして?」


「だって、今俺の体の中から毒が消えた気がしたからさ……。俺の耐性だと分解に少なくとも30分はかかるはずなのに、もう治るのは魔法しかありえないと思ったんだが……。」


「魔法なんか使っていないけど……あら?」


何かに気がついたらしいレイカに目を向けると、彼女はひらひらした白色のスカートのポケットからアリアル神殿を出る時にビューティー様から譲り受けた青の天魔石を取り出す。


その天魔石は穏やかな青い光を放っており、あたりの枯れている草花も生命の息吹を感じる鮮やかな緑に若返っていく。

その光はやがて子ライガーの元まで届き、その身に受けていた傷を治した。

その後青い輝きは次第に弱まっていき、数秒経つ頃には元の青色の石に戻っていた。


「何かしら、これ。」


レイカはゆっくりとつぶやいたが、その声を拾って回答することができる人はいなかった。

唯一何か分かりそうなのはぷるりん(というかプディン様)だが、彼女は子ライガーに駆け寄ってむーむー鳴いており、レイカのつぶやきは届いていないようだ。


とりあえず、あの子ライガーについて考えるか。


俺は覚醒の聖花がつくる花の絨毯で丸くなっている子ライガーに意識を向ける。

レイカも考えても何もわからないと判断したようで、意識の対象を天魔石から子ライガーに切り替えた。

アユムとサヤカもこちらにやってくる。


どうやら理性を持っているらしい子ライガーは、つぶらな瞳をこちらに向けてクゥーン、と鳴いた。

みなさんお久しぶりです。羽畑空我です。

新年初投稿、思ったより早めにできてよかったです。

相変わらず前回の話とのブランクはめちゃくちゃ空いてますけど……。すみません。


前回の投稿とだいぶ時間が空いたのに見にきてくださった皆さん、本当にありがとうございます。

カレン達の物語を見守ってくださっている皆さんには、本当に感謝してもしきれません。


今後もゆるっと投稿だとは思いますが、一緒に彼女達の冒険を見守ってくださると嬉しいです。

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