第三十六話 人間界の霊峰
ビューティー様に道を丁寧に教えてもらったというのに何故か迷子になってしまった俺たちは、若干呆れ顔のアユムに地図を読んでもらうことでなんとか人間界の霊峰、というやつに到着した。
基本ニコニコと微笑みを貫いているアユムが呆れ顔になるほどに俺たちは方向音痴らしい。
「お嬢様は存じておりましたがユウトさんとレイカさんも地図を読み解くのが得意でないのですね……。カレンさんと出会う前はどうやって行動していらっしゃったんですか?」
「どうだったかしら……。もう覚えてないわ。」
「俺も覚えていない。」
「別に私はアユムが地図読んでくれなくても一人で歩けるし!!」
「迷子になってカレンさんに町まで連れて行っていただいたのはどちらのお嬢様でしたっけ?」
「あーれーはー!!」
また騒いでいる二人を見ながら遠い目をしているのはプディン様である。
「今からあのか弱い魔物になるのか……。まあカレンのためなら致し方ないが……。」
「なんか色々心配だけどそろそろ行きましょうか?いつカレンの状態が変わるかわからないし、早いに越したことはないわ。ツバサの行動も意味不明だし、次は何をしでかすかわかったものじゃないもの。」
「それはそうね!!アユム、私たちも喧嘩してないで頑張るわよ!!」
「喧嘩したつもりなどありませんでしたし、先に言い出したのはお嬢様では……?」
「いーから!!それじゃあしゅっぱーつ!!」
「あ、みなさんなかなか地図を読むのが得意でないようですので、とりあえず私がお伝えする方向に向かってくださいね……?」
「わかったわ。」
「よろしく頼む。」
「任せて!!ちゃあんとアユムの言うことを聞くわ!!」
「足跡を残す魔法は今使用しておこう。とりあえず今回は普通に地図が読めるアユムにかけていいか?」
「かしこまりました。」
「それじゃあ入るわよ?」
お互いの顔を見合わせて頷いた俺たちが霊峰に足を踏み入れると、ポンっと音がしてプディン様はぷるりんに変わった。
「わっ、可愛い!!」
「お嬢様好みの見た目なんですね。確かに可愛いな……。」
どうやらぷるりんの可愛さはアユムのタメ口すら引き出してしまうほどらしい。
羨ましそうな目でぷるりんを眺めるサヤカを見たレイカは、「早く進みましょう」と強引に話題を変えた。
「空気中の魔力の濃度が濃いですね。通常のフィールドより強力な魔物が生息しているようです。」
「普通より強い魔物がいるってこと!?今からテンション上がってきたわ!!」
「無理はしすぎずに進みましょう。今までと同じ通り、共闘を心がけながら魔物を処理するので良いわよね?」
「ああ。」
「むむむー!!」
「出発、だとさ。」
「あ、そっか!!レイカは天族だから魔物の言葉を使う機会がないのね!!」
「魔族は基本全員わかるんでしたっけ?」
「そうそう!!魔界は魔力が強いから、その分自我を持っていたり高い知能を持っている子が多くて、小さいうちから魔物の言葉を使ったりするからね。小さい頃のアユムは魔物の言葉のお勉強が苦手だったけど。」
「私は幼少期の生活地がなかなか魔物が寄りつかない場所でしたので、小さい頃から魔物に触れていた方々と比べて魔物の言葉を習得するのに時間がかかったのです。今はそれなりに使用できますがやはりお嬢様と比べると苦手ですので、ユウトさんの通訳はとてもありがたいです。」
「慣れてるから気にすんな。そういえば、レイカは魔物の言葉の勉強だけはやる気がなかったよな。」
「外国語が苦手なのよ!!まあ将来皇妃になるんだからもっとちゃんと勉強しないといけないんだけど……。」
「まあ魔物の言葉は覚えていて損はないが、天界で政治を行うのにはそこまでたくさん使うわけじゃないし、基本の受け答えは問題なくできるんだから大丈夫だろ。天界の一部の国が使っている特殊言語も全然使えるんだし。」
「でも勉強はやめないわよ!!将来ユウトの仕事を少しでもたくさん手伝いたいもの!!」
「レイカって健気で可愛いわよね。ユウトの婚約者にしておくのはもったいない気がするわ。」
「お前なんかアユムとは別の意味で俺に当たり強くね!?」
「だってずっと一緒にいるからでしょうけどカレンとすっごく仲良いし、私の方がずっとアユムと一緒なのにアユムとも最近仲良くなってるらしいじゃない!!ずるいわよ!!」
「いやどう見てもお前の方がアユムと仲良いだろ!?」
「サヤカって、若い芽は潰しておきたいタイプの女の子なのね……。その独占欲、尊いわ!!」
「すいません、レイカさんが何を言っているのかいまいちよくわからないのですが……。」
「とにかくサヤカが尊いって意味よ!!」
「とうと……?」
「レイカお前アユムに変な言葉教えんな!!」
「尊いはまだマシな方じゃない!?」
「むむむー……?」
「尊いって何だろう……?だって。こいつアユムだけでなくぷるりん?プディン様?にも変な言葉覚えさせやがって……。」
「ごめんなさーい」
「ユウトとレイカは本当に仲がいいのね!!一応確認なんだけど、指定された素材は何だっけ?」
「今の会話のどこに仲がいい要素があったんだ?頼まれた素材は覚醒の聖花、解呪の魔草、魔力結晶の三つだな。レイカ、覚醒の聖花と解呪の魔草が生息してそうな場所はどういうところだ?」
「覚醒の聖花は日光のよく当たる魔力濃度が比較的低い場所、解呪の魔草は日光のよく当たる魔力濃度が比較的高い場所ね。」
「魔力結晶は日光の当たらない場所にあって魔力濃度は高い方が質はいいが、中級昏睡魔法程度なら質は問わないってビューティー様がおっしゃっていたな。これを攻略難易度が低い順に並べると……。」
「魔力結晶、覚醒の聖花、解呪の魔草ですね。この霊峰は見た感じ日光が当たる場所が少なく、地図では日光の当たり具合までは分かりませんから、探索をしていく中で日光が当たりそうな場所に目星をつける必要がありますし、魔力濃度が高い場所には強い魔物がいます。人間界の魔物は基本理性を持っていないようですから、どうしても撃破しなければなりませんからね。」
「んー、じゃあ魔力結晶から探しに行くって感じ?」
「そうだな。その途中で日光が当たりそうな場所も見かけたらそこも探索していこう。」
「しかし、魔力結晶を探すということはほぼほぼ適当に歩くようなものですから、地図を読む必要性が出てくるのは帰り道ですかね?」
「確かにそうね。でも不安だから一応行きたい方向をアユムに伝えて了承をもらってから進むっていう感じにするのはどうでしょう?」
「じゃあそうするか。とりあえずあっちの方に……。」
「ユウトさん、そちらは来た道なので霊峰から出てしまいます。」
「まじか。」
「ユウトはバカね。こっちに行きましょうよ。」
「レイカさん、そこはどう見ても獣の巣では?」
「あら?」
「2人とも進む道を決めるのが苦手なのね。私はあっちがいいと思うわ。」
「お嬢様、あなたが指差しているのはユウトさんが先ほど選んだ方向と同じ方向です。」
「あれっ、ほんとだ!!」
「むむむ?」
「どうしてそうなるの?ってぷるりんさんがおっしゃっているではないですか。ユウトさん、混乱して固まらないでください。」
「悪い、完全にぷるりんが言ってること訳すの忘れてた。」
サヤカは知っていたけど残りの2人も割と本格的に方向音痴かもしれない。これ自分1人だけで何とかできんの?
このときアユムがそんなことを考えていたというのは、後の俺が本人から聞いた話だ。
そんなこと、当時の俺たちが知る由もないが。
「魔力結晶ってなんか探す方法があったかしら?とりあえず探しまくる?」
「脳筋かよ。魔力探知である程度魔力が集中している動かないものがあったら結晶の確率が高いって聞くが……。俺は魔力探知は本能で理解できる部分しかできない。あっちの方にこれくらいの魔力を持つ何かがあるってことくらいしかわからないからなあ……。」
「私とお嬢様は魔力探知ではなく気配で周囲の敵を確認するので魔力探知は使えませんね……。」
「そうね。レイカは使える?」
「うーん、魔法使いとかほどは流石に使えないけど、一応魔法は結構扱うし動いているか動いていないかくらいは把握することができるわ。」
「それでは魔力結晶の位置はレイカさんに探知していただきましょう。しかし、その前に……。」
「早速ケンカを売りに来た魔物さんがいるみたいね?」
獲物を捉える獣のような鋭い目をした攻撃派の2人は、後ろを振り向いてニヤリと笑った。
そこにいるのは、大型のトラのような出立をした魔物。
もちろん俺も魔力を感じたため何かがいることには気づいていたのだが、気配だけで相手を察知する2人はすごいと思う。
血の気の多い2人は、さすが魔族と言いたくなる殺気で相手を威嚇する。
「それでは宴を……。」
「始めちゃいましょうか?」
戦闘によって割と性格が変わる王女と従者は、それぞれの武器を出して戦闘体制に入った。




