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6人の継承者と時を超えた復讐  作者: 羽畑空我
第二章 諦められない存在
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第三十五話 彼女の目を覚ますために

「まず、中級の昏睡魔法を解くには、『めざめの霊薬』という特別な薬が必要なの。それは自然界には存在していない代物で、正しいレシピを知っている人が調合しなければならないわ。素材さえあれば私が作ることも可能なのだけど、限られた場所にしか素材はないし、この通り私はこの大広間に封印されているから、広間の外を出歩くことは不可能に等しいわね。だからあなた達に素材を集めてきてほしいのだけど、それは大丈夫かしら?」


俺達は目を見合わせてうなずく。

満場一致で問題なしだ。


俺達の意思を確認したビューティー様は、言葉を続ける。


「霊薬の調合に必要な素材は、清らかな水、覚醒の聖花、解呪の魔草、魔力結晶の四つ。清らかな水はこのアリアル神殿の周りの湖の水で代用可能だから、新しくとってきてほしいのは残りの三つ。これらはどれも貴重なもので、お店とかには基本的に売られていないわ。三つの素材は天界、人間界、魔界に一つずつある”霊峰”という場所にあるのだけど、その霊峰はなかなか実力が試される場所が多くて、天界の霊峰なら知恵、魔界の霊峰なら戦闘力、人間界の霊峰ならチームワークが試されるの。今はあまり時間がないから必然的に人間界の霊峰に行くことになるわね。あなた達のチームワークがカギになるわ。」


「チームワーク……。確かにみんなから感じる魔力的に、私達は個人個人にはそれなりの実力があるけど、息を合わせて協力で戦った経験があるのは限られた組み合わせね。私とアユムとか、ユウトとレイカとか……。」


「そうですね。ビューティー様のお話を拝聴しただけでの予想ですが、試されるのはおそらくパーティ全体の統率力……。仮にタッグで協力すれば実現可能であるものであったとしても、レイカさんとユウトさんはともかく私とお嬢様では攻撃役ばかりであまりバランスが良くないですし。」


「そして注意しなければならないのが……。」


ビューティー様が俺達に目を向けて注意事項を話す。


「霊峰では基本的に、精神体は霊峰にあるものに干渉することができないということ。霊峰に入った人と話すとかなら可能なのだけど。つまり、プディンは戦闘面においてはあなた達にほとんど協力できない……。おそらく省エネモードになってしまうわね。」


「またあのぷるぷるしたかよわい魔物にならなければならないのか……。」


プディン様が若干遠い目になっている。

せっかく本来の姿を取り戻して力も元に戻ったのにまたぷるりんになってしまうのがやるせないようだ。


「要するに、俺達四人だけの力で霊峰を探索して素材を手に入れなければならない、ということでしょうか。」


「あなたが言った通りよ。さっきポニーテールの女の子が言っていたけど、あなた達個人個人の実力は、霊峰を攻略するのはともかく素材の収集だけなら問題ないでしょう。でも、それぞれの実力だけでは素材を手に入れることができない。力を合わせて実力が試される箇所を突破しなければならないわ。あなた達、共闘の経験はあるのかしら?」


「一部の組み合わせだけですね。俺と休んでいる少女、騎士服の少年とポニーテールの少女、の二組です。」


「なんかユウトに少女って言われるの気持ち悪いわ。」


「お前は何でそれで目を覚ますんだよ。もっと他にあるだろ。ていうかもう少し休んどけ。」


「もう大丈夫だけど……。」


「いいから休め。」


「はーい……。」


謎のところに反応して目を覚ましたレイカをもう一度寝かせてから、俺は言葉を続ける。


「ですから、四人で共闘という経験は全くと言っていいほどないですね。」


「ねえアユム、やっぱユウトってレイカのこと……モゴモゴ」


余計なことを言おうとしたサヤカはアユムに口を抑えられてモゴモゴ言っている。

こいつ、もしかしてレイカや姉貴と脳みその構造が同じなのか?


「続けてください。」


「わ、わかったわ……。」


ビューティー様は自身の主の口を抑えているのにも関わらず何食わぬ顔で続きを促すアユムに戸惑いながら俺の発言に返事をしようと口を開く。


「全く共闘の経験がないのなら、ある程度経験を重ねてから霊峰の探索へ向かった方が安全でしょうけど、そんな時間はないわね。どうしたらいいのかしら?」


「それなら道中の魔物を倒すときに共闘を心がけたらいいだろう。今までお主らは真っ先に気づいた者が敵を殲滅させるという方式をとっていたからな。」


「まあ、それなら全くのぶっつけ本番よりはいいわね。」


「それでは、レイカさんが再度目覚めるまで待機し、その後共闘を心がけながら魔物と戦いつつ霊峰へ向かうということでよろしいのでしょうか?」


「ああ、それであっているぞ。お主らはそれでよいか?」


「俺は大丈夫ですね。」


「んー!!んんーーー!!」


「アユム、そろそろ離してやれば?」


「あっ……。お嬢様、申し訳ございませんでした!!」


「急に口ふさがないで頂戴!?さっきのは私も悪かったけど……。ていうかあんたさっき一瞬昔の口調だったでしょ!?私そっちのほうがいいんだけど!!」


「『あっ……。』と言っただけで昔のようなあなたに対して失礼な口調ではなかったはずですが……。」


「私の耳をごまかせると思わないでよね!!あんたのタメ口くらいわかるわよ!!」


俺からしたらほとんど同じなんだが。

というかなんか違うなんて少しも思わなかった。


タメ口がいいんだなんだとぎゃーぎゃー騒いでいるサヤカと必死にそれをなだめてかつ敬語を貫くアユムの様子を見て、ビューティー様とプディン様が懐かしそうな視線を向ける。


「口調でもめる主と騎士だなんて、あの二人にそっくりね……。昔のあの子達を見ている気分になるわ……。ねえ、プディン?」


「そうだな。あの二人はこの二人とは逆だったが。」


「そうね……。彼が別にタメ口でいいだろ、って言って、彼女が少しくらい主に敬意を払ってよ、って言っていたわ……。失礼だなんだと騒ぐ割に彼が解雇されかけると全力で阻止するのよね……。」


「そうだったなあ。……あの二人は、あの後どうしたんだろうな。」


「さあ……。私達四天王は封印されてしまったものだから、彼らがどうなったかは分からないわ……。あの後の二人の記録は残っているのかしら……?」


「ユウトに聞けばわかるかもしれないが、今はレイカのことが心配でそれどころじゃないだろうし、また次の機会に聞いてみるとするか。」


元の口調に戻ったビューティー様とプディン様が何かを話しているのが聞こえるが、サヤカの声と重なって何を話しているのかまでは聞こえない。


こちらに何かを聞こうとする素振りも見えないし、まあ大丈夫かと思いながら二人から視線を外した時、サヤカが俺に話しかけた。


「ねえ、ユウトからもアユムに言ってよ!!主が言っているんだからタメ口で話せって!!」


「お嬢様、ユウトさんを巻き込まないでください……。」


「それならアユムがさっさとタメ口で話せばいいのよ!!何をこだわっているの!?」


「まあまあ、口調は本人の自由だろ。タメ口だとやりにくいんだよ、多分。」


「そうなの?」


なら仕方がないわね、と少し不満げに引き下がったサヤカを見て、アユムはほっとしている。

まあ、仲が良い人に身分の差で敬語を使われるのに不満を感じたり複雑な気持ちになったりするサヤカの気持ちは分からなくもないが。


「あら、私はユウトに敬語を使う気なんてさらさらないから安心していいわよ?」


びっくりして振り返れば、いつの間にか目を覚ましたらしいレイカが立っていた。

ていうか。


「俺の心勝手に読むな?」


「えー、だってなんか考えてることわかるんだもの。」


「俺、ミヤビ兄ほどじゃないけど結構無表情なんだが……。」


「ずっと一緒にいるからよ、違う?」


「……。」


ずっと一緒にいることは否定しない。

だけどそういうことをいきなり言うのはビビるからやめてほしい。


「そーれーにー、自分に敬語を使うなって言うのは皇太子殿下のご命令なんでしたっけ?」


10年以上前の幼い自分の言動を思い出して恥ずかしくなる。


「おっ前、そのことはほじくり返すなと何度も何度も……!!」


「はいはいごめんなさーい」


とてつもなく適当で少しあおるようなニュアンスを含むレイカの返しに軽くイラっとするが、いつものことなのでもうあきらめた。


「レイカさんもお目覚めのようですし、そろそろ出発いたしましょうか?このまま霊峰に向かいます?」


「そうだな。ミヤビ兄には俺から使い魔を送っておくよ。多分連絡してくれるはず。」


「あっ、そういえばユウトは皇子様だから使い魔がいるんでしたっけ。トモエさんとおそろいの。なんだかんだ言ってユウトって結構トモエさんと仲いいわよね。」


「うるさいな、父上が勝手におそろいの使い魔を与えてきたんだ。姉貴とおそろいかどうかはともかく神殿を出たらそいつを呼んでミヤビ兄に連絡を頼んでおく。」


「それじゃあこのまま出発ってことね!!強い敵がいるかもって思ったらテンション上がるわ!!」


「お嬢様、一人で突っ走るのはお控えください。」


「はぁい。」


「では、その霊峰とやらに向かうとするか。ビューティー、異常があったら例の連絡魔法で我に伝えてくれ。」


「おそらく何もないとは思うけど、わかったわ……。あなた達も気を付けるのよ……?あ、そういえばそこのメガネの女の子……レイカちゃん、だったかしら……?ちょっとだけ、時間をもらいたいのだけど……。」


「はい、どうかいたしましたか?ビューティー様。」


「少し昔……2000年ほど前かしら……?この神殿でたまたま数日間だけ目が覚めていた時期があったのだけど、そのときにこの青い天魔石をあなたたちの一つ前の持ち主の子がこの神殿に奉納してくれたのよ……。この世代の青の天魔石の持ち主はきっとあなただわ……。なんとなく感じるの……。この天魔石、あなたが持っておいてほしいのだけど……。」


そう言ってビューティー様は、レイカに青の天魔石を差し出す。


「……わかりました。ありがとうございます。」


レイカが天魔石を受け取ったのを確認すると、ビューティー様はふわりとほほ笑んで言葉を続ける。


「ええ……。みんな、何度も言うけど、なるべくケガをしてしまわないように気を付けてね……。プディン、四人のこと、ちゃんと見守っておくのよ……?」


「当たり前だ。安全第一だからな。」


「それならよかったわ……。私は大広間の入り口までしか見送ることができないけれど……いってらっしゃい……。」


こうして、ビューティー様に見送られながら、俺達四人とプディン様は、カレンの目を覚ますための霊薬の材料を収集するべく、霊峰へ向かって神殿を後にした。

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