第二十九話 手がかり
「と、いうことで、ツバサは失踪する少し前から何だか変な声が聞こえていたみたいで……。本人は洗脳魔法の類だと思っていたみたいだけど、何か別の意見がある人はいる?」
「いや、ないな。その日記帳に書いてあるっていう内容からしても洗脳魔法で間違いなさそうだ。それにしても女の声か。一体誰がツバサに洗脳魔法をかけたんだろうな?」
「洗脳魔法はこの世界でタブーとされている禁術だな。莫大な魔力を要するし、それがツバサ相手とするなら尚更だ。洗脳魔法は自分より格下の魔力を持つものにしかかけられないから、相手はツバサより魔力が高いとなる。」
「ミヤビさん達の家系はこの世では右に出るものがないと言われるほどの魔力を保持する家系です。ツバサさんは間違いなくその家系の直属ですから、洗脳魔法をかけた相手はかなりの強敵だと思われます。」
「私はファレオ家に勝る魔力を持つ者の話など聞いたことがありませんね。王宮で騎士をやってる分割と情報通なはずなのですが、聞いたことがないということは表舞台に姿を現さないか、そのような人物はいないかの二択ですね。」
「魔術の研究が盛んだった、プディン様が現役で黄の四天王として活躍されていた時くらい昔ならファレオ家を超える魔力を保有する人物が存在するのはわかるわ。だけど、今この世界にそんな人物はいるのかしら?」
「あまり可能性は高くないと思うのよ。いたらとっくのとうに話題になってるはずだし、もしそうならアユムが小耳に挟んだことすらないっていうのは考えにくいわね。うちの王宮の騎士団は噂好きな人が多いし。」
「カレンよ。ツバサはその日記帳に“女の声”と書いているのか?男ではなく?」
「女だって書いてあります。」
「そうか。ひょっとしたら明良が関連しているのかと思っていたが、女の声、なら違うな……。明良は男だし、明良を超えるあるいは同等の魔力を誇る者なんてフェザーとブローム様しか……。」
「フェザー、っていうのはプディン様の時代の赤の四天王の名前な。」
「ありがと、ユウト。」
「フェザーは男だし、ブローム様はあの日亡くなられたはず。我の知り合いには他にツバサに洗脳魔法をかけられるような者は……。」
しばらくゴニョゴニョと独り言を呟いていたプディン様は、唐突にハッと目を見開いた。
「これは……。」
「どうかなさいましたか?プディン様。」
「また面倒なことになったな。このツバサの豹変……。5000年前のあの事件にも関わってくるかもしれない。」
「どういうことですか?」
「ツバサの豹変に明良が関係しているであろうということは前々から考えていたが、もしかしたらこれは、あの日明良を思うままに操り、我ら当時の四天王を封印したあの事件の黒幕が仕組んだものかもしれない。」
「プディン様、例の事件の黒幕が誰かご存知なのですか?」
「いや、知らない。その人物については女か男かすらもわからないほど謎に包まれているのだ。だからこそ、女だというのもあり得ると言っただけで保証はない。」
「当時の四天王の皆さんを封印したなら、間違いなくその人はツバサを超える魔力を保持しているわね。でも、そんな5000年も前の人がこの世界に生きているのかしら?プディン様がお元気なのは封印されていたからよね。」
「プディン様、何かその黒幕に関する手がかりや思い当たる節はないのですか?」
「うーむ。その黒幕の姿をブローム様はご覧になられたのだが、我が意識を失う寸前に一瞬だけその表情が見えて、とても悲しそうな顔をしていらしたのを覚えている。それくらいのことしか我にはわからない。」
「それだと黒幕の人物を特定するのが難しいですね。まずはブローム様の身の回りの人間関係を知った方がいい気がします。ブローム様は天界や魔界では有名な方だけど、人間界に彼の方に関する資料があるかどうか……。」
「我にもブローム様の周囲の人間関係はよくわからない。当面はそこを探っていくのが目的だが、確かに人間界ではあまり資料が多くなさそうだな。」
「ブローム様の身の回りに関する本はわかりませんが、ブローム様がお書きになられた魔導書なら兄様が一冊持っていたような気がします。皆様がお求めになられている情報がある確率は低いですが、一応ご覧になりますか?」
「関連する文書には目を通しておいた方がよいな。見させてもらっても構わないか?」
「かしこまりました。ただ、書庫のだいぶ奥にしまわれていったと思われるので、少しお時間をいただきます。明日の朝までには見つけ出しておきますので、今日はうちで休まれたらどうですか?宿に戻るにも今日はもう遅いですし。」
「ありがとう。だけどアサヒくん、私達も手伝いましょうか?」
「結構です。中にはとても古い本もあるので、扱い方にコツが必要で……。」
「それなら仕方ないですね。皆さん、今日は休みましょうか。部屋の数的に二組は二人で眠らなければなりませんから、ここは一応婚約者である私とミヤビさん、ユウトとレイカさんでよろしいでしょうか?」
「私とトモエさん、ユウトとミヤビ兄様ではだめなのですか?」
「だめです。私はあわあわしてるユウトが見たいのです。」
「発想がおかしいな。流石姉貴だとしか言いようがない。」
「ひどくないですか?ねえミヤビさん。」
「いや、俺はどちらかというとユウト寄りだ。」
「えーっ、そうなんですか?」
うんうんとうなずくミヤビさんとショックを受けた様子のトモエさんのテンポのいい会話にその場に笑いが広がる。
なんだか、ユウトとレイカのやり取りを見ているような気分だ。
「それでは皆さん、ごゆっくりお休みください。敷地内は自由に移動していただいて構いません。」
「ありがとう、アサヒくん。」
皆がそれぞれアサヒくんにお礼を言って、好きなように過ごし始める。
そんな中、私の足は自然と庭に向かった。
外に出ると、頬に夜の冷たい風が当たる。
庭の木が風でそよそよと揺れて、まるでひそひそ話をしているみたいだ。
適当にぶらぶらと庭を鑑賞していると、とある庭の一角が目に留まった。
夜の暗い空間の中で良く映える、白色の美しい花。私の故郷、ブロウ村でよく見かける花だ。
確か、花言葉は……。
『寂しさに耐える』『別離の悲しみ』
この花言葉は、かつてブロウ村にいた魔族の男子と人間の少女のカップルが、互いに別れを告げたのがこの花の咲き乱れる丘だったということからつけられたと誰かからか聞いた。
今よりもずっと魔族への差別がひどかったそのころ、魔族は理不尽な理由で追放されることも少なくなかったらしい。彼もその被害者の一人だ。
やむを得ず別れることになった彼と彼女は、お互いへの愛を忘れないという約束をして別れた。
その数日後、魔族の男子は村から追放され、二人は死ぬまでお互いを愛し続けることを忘れなかった。
ブロウ村の住人なら一度は聞いたことがある悲恋の物語だ。
この話から、この花には『私を忘れないで』という花言葉もある。
ツバサはこの花言葉を知ったうえで花壇にこの花を植えたのだろうか?
ツバサのことだから花言葉なんて知らないで植えた可能性が高いが、ブロウ村を思い出しながら植えたんだろうなということはなんとなく分かる。
この花を植えた時にツバサが思い浮かべた村の記憶がいいものなのか悪いものなのかはわからないけど、村のことを思いながら植えたのは間違いないだろう。
そう一人感傷に浸りながら故郷の花を眺めていると、隣に誰かが立つ気配がした。
誰なのかと思ってふりかえると、そこには。
「あれほど俺にかかわるなって言ったのに、まだ知りたがるんだね。もしかして聞こえていなかった?」
「ツバサ……。」
現に今、私が思い浮かべていた人物が立っていた。
いつもこの話を読んでくださってありがとうございます。
リアルが忙しくなってきて執筆の時間が今まで通りにとれないので、この小説は2週間に1話、土曜の22時に投稿に変更させていただきます。時間があれば2週間待たずに1週間に1話投稿するときもあるかもしれません。
執筆は続けますので、これからもよろしくお願いいたします。




