第一話 手紙
父と母は、居間でこんなことを話していた。
「この手紙の差出人の欄に書いてある、みう、って名前の子、きっとツバサ君よね。字がとてもよく似ているし。三年間もカレン達からこの手紙を隠して、子供達には悪いことをしてばかりね。」
「そうだな。結局二人を殺したのはツバサ君ではなかったわけだし。自分の子供が危険にさらされているかもしれないとはいえ、証拠を大して確認もせずに彼を犯人としたのは大きな間違いだったよ。でも、彼が生きていてくれてよかったね。」
「そうね。きっとこのこと子供たちに話せば、私達はあの子達の信頼を失うでしょうし、あの子達を傷つけるわ。だけど、きちんと謝ってこの手紙をあの子達に渡すべきよ。そう思うの。」
「私もだよ。」
私は思った。大人ってすごく身勝手だと思っていたけど、あの行動は私達のことを考えた結果だった。彼が魔族であるということも相まって、今回はかなり過激になってしまったけれど。私が大人達の立場だったら、同じくらいのことをしてしまうかもしれない。
でも、ツバサを失った私達はとてもつらい思いをしていた。大好きな人が理不尽に奪われた怒りと悲しみ。それは、きっと私達より多くの人との様々な別れを経験したであろう大人達には痛いほどよくわかるだろう。
いろいろなことが頭の中でぐちゃぐちゃになって、その日の夜はあまりよく眠れなかった。
次の日、私が朝起きて居間に向かうと、両親はすぐに謝ってくれた。
ツバサを火あぶりの刑にしたこと。
手紙を隠していたこと。
二人は包み隠さずに全てを話して謝っていた。そして、ツバサの手紙を渡してくれた。その手紙には、よく川辺に落書きしていた時と変わらない彼の字で、こう書いてあった。
「最近は生活も安定してきて、お仕事もいい感じにできています。ライクファイト王国で戦闘用の魔物を管理するお仕事をしているんだ。カレンも、時間があったら遊びに来てね。」
どうやらツバサはライクファイト王国に住んでいるらしい。私はすぐにツバサの元へ遊びに行きたくなった。両親に言う。
「お父さん、お母さん。私、ツバサのところに遊びに行ってきていい?」
「もちろん。ただ、村の外には魔物がいるから気をつけるんだよ?」
「うん!!」
私は今までで一番のスピードで身支度をする。私が持っている服の中で、一番動きやすい服を着て、腰に護身用の剣をぶら下げる。魔法も問題なく発動できることを確認して、準備は完了だ。あの日から私は、いつかツバサに会いに行くときのためにこの村で一番強い人に教えを乞うていたのだ。
そうだ、お土産にツバサが好きなこの村限定のジャムを持っていこう。村のパン屋さんに売っていたはず。ジャムを買うためのお小遣いをもって、私はパン屋さんに向かった。
パン屋さんの扉を開けると、カランコロンとかわいらしい鈴の音が鳴った。
「いらっしゃーい!あっ、カレン!今日はおつかい?」
出てきたのはそこの店長の娘さん。ツバサを牢屋から出そうとした私に協力してくれた子達のうちの一人だ。
「この村限定のあのジャムが欲しいの。ツバサへのお土産用に。」
「手紙が届いたの?生きていることが分かって良かったわ。そういえばツバサはブロウジャムが好きだったわね。ちょっと待ってて。父さんに在庫を確認してくる。」
「うん、ありがとう!」
彼女は厨房の奥に入っていった。数分後、彼女は厨房から出てくると、こういった。
「カレン、今ちょうどホワイトベリーを切らしちゃってて、ジャムが作れないの。私も両親も忙しくて手が離せないし、入荷時期もわからないわ。もしよければベリーを採りに行ってくれないかしら。もちろんジャム代は無料にするわ。お願いできない?」
「わかったわ。ホワイトベリーはどこに実ってるの?」
「この村を出てちょっと西に進んだところにあるノーズスノー密林の最深部にある木にたくさん実っているわ。ジャムを一つ作るのに必要なホワイトベリーは十個よ。よろしくね!」
「オッケー。集まったら渡しに来るわ。いつ戻るかわからないから、家を空けないでね。」
「旅行の予定とかもないから大丈夫よ。じゃあ、よろしくね!」
私はホワイトベリーを採りに行くために、村を出てノーズスノー密林に向かった。
歩き始めてしばらくすると、ちらほらと魔物が見えてくるようになった。鍛錬のおかげで身につけた剣術や魔術は、大いに役に立ってくれた。襲ってきた魔物のむれを一通り倒して一息ついていると、急にあたりが暗くなった。背後には魔物の気配。
しまった。まだ一匹残っていた。生存本能で攻撃はよけたものの、体制を立て直すのに時間がかかりそうだ。どうしよう。私が必死に対応策を考えていると、後ろでビシッと音がして、魔物が倒れた。
何が起きているのかさっぱりわからなくて呆然としていると、塵となって消えていく魔物の死体の向こう側から、男の子の声がした。
「まぬけ。」