第二十二話 想い出の花
後半はサヤカ視点になります。
私がツバサを取り戻すと決めてから一週間ほど経過した頃、サヤカが私達の部屋を訪ねてきた。
コンコン、というノックの音にはーい、と返事をしながら部屋の扉を開けると、案の定そこには機嫌が良さげなサヤカが立っていた。
「カレンさん、こんにちは。皆さんいらっしゃいますか?」
「うん。皆部屋で遊んでるわ。どうしたの?」
「えっと、皆さんに改めてお礼を言おうと思いまして……。」
「わかった。立ち話も何だし、上がっちゃっていいよ。」
失礼します、とつぶやきながらサヤカが部屋に上がる。
皆が部屋においてあるちゃぶ台の周りに座ったところで、サヤカがいそいそと何かを取り出してちゃぶ台の上に置いた。
「これ、皆さんが一緒に取りに行ってくれた黄色のヴィオリアで作ったしおりです。ちょっと不格好なんですが、手作り感が伝わっていいかなあ、と思いまして。」
それを聞いたレイカがテンションを上げてサヤカを褒める。
「ええ、とても素敵だと思うわ!!それにしてもサヤカったらすごいわよね。私、ユウトの好きな花なんて微塵も覚えてないわよ。」
「嘘だろ。何度も教えてるのに……。」
「冗談よ。ちゃんと把握してるわ。ユウトが好きな花は藤の花よね?」
「あってるけど間違ってる。」
「ええ、どういうことよ?」
「二人ともいちゃつかなくていいから。今はサヤカの話の途中よ?」
「「いちゃついてない!!」」
私とサヤカとプディン様の何言ってるんだこいつらみたいな顔を見てから、ユウトがごほんと咳払いをして話題を元に戻すべくこういう。
「まあ、俺の好きな花はともかく今はサヤカの話だよな。そのしおり、とてもよくできていると思う。きっとアユムも喜ぶだろ。」
「お褒めいただき光栄なのですが、うまいわけではないのにどうしてとてもよくできている、と?」
「うまい下手の問題じゃねーよ。プレゼントっていうのはどれだけ相手のことを考えて用意したかっていうのが重要なんだ。お前のそのしおりはアユムに向けた日頃の感謝の気持ちがよくわかる。だからよくできているって言ったんだよ。」
「ユウトさん、ありがとうございます!!」
「ちょっとユウト、あなたカレンのことが気になっている上にサヤカにもいいこと言ってる感ある発言するなんて、浮気をするのも大概にしないと後で痛い目見るわよ!?」
「うるさいな。俺には好きなやつなんかいねーよ!! と、ごめんなサヤカ。話の腰折って。それ、今からアユムに渡すのか?」
「はい。それで、皆さんにも一緒に来てほしくて……。一人だったら私、きっとまた逃げちゃいますから。」
「わかった。それじゃあ私たち、陰から見守ってるね。」
「お願いします。」
「私、人の告白場面見るなんて初めてだわ。きゃああああ!!」
そう黄色い声をあげたレイカは、ビシッとユウトに後頭部を叩かれてた。
レイカのノリやそれに対するユウトのツッコミにも慣れてきた私とサヤカは、顔を見合わせてくすくすと笑う。
プディン様はそんな私たちを眺めながら慈愛に溢れた笑みを浮かべた。
その表情に羨望や眩しげな様子を感じたのは気のせいだろうか。
「それじゃあ私、アユムにこれを渡してきますね!!皆さんもついてきてください!!」
そう言って、サヤカは太陽のような笑顔を浮かべて部屋を出て行った。
私たちもその後についていく。
サヤカとアユムの部屋の前で、彼女は何度か深呼吸をする。
そしてしばらく目を閉じて何かを思い出した後、意を決したように扉を開いた。
自慢の元気なよく通る声を張り上げて、彼女は彼の名前を呼んだ。
「アユム!!」
*****
この件にすごくよく協力してくれたカレン達が後ろについてきているのを確認して、私は自分と彼の部屋の前に立つ。
何度か深呼吸をした後、目を閉じて、あの日の記憶を辿っていった。
その日はよく空が晴れ渡っていて、夏の花がよく映える日だった。
私は自身の家を駆け巡り、大好きな彼を呼びに行っていたのだ。
「アユムー!!私と遊ぼっ!!」
私が彼に声をかけると、彼はにぱっと笑顔を浮かべてから、振り回していた木刀を片付けて、こっちに向かって歩いてきた。
「いいよ!!今日は何して遊ぶー?」
「うーんとね、お花屋さん!!庭園の夏の花がちょうど綺麗な時だってお父さまが言ってたわ!!」
「おじさんがいうならきっとそうなんだね!!じゃあ今日は庭園でお花屋さんごっこだね!!」
「うんっ!!」
そう言いながら、私とアユムは手を繋いで庭園に向かう。
昔は、私と彼はいつも手を繋いでいた。
私が店員、アユムがお客さんになってお花屋さんごっこをする。
庭師さんが取ってきてくれたいくつかの花の中から、彼は黄色い小さな花を選ぶと、「これください」といった。
「かしこまりましたあ!!お値段はきれいな葉っぱ三枚です!!」
「はーい!!」
彼はそう元気に返事をすると、きれいな葉っぱ三枚を小さなカバンから取り出して、私に渡した。
私は店員さんになったつもりで彼に問う。
「どーしてこの花を買うことにしたんですか?」
「えーっとですね……。」
アユムは少し言葉を考えていたようだったけど、すぐに私に向き合ってこういった。
アユムの少しくすんだきれいな金髪が風に揺れて、おひさまの光を受けてキラキラと光る。
「この花、おひさまみたいで大好きなんです。僕にはお嫁さんがいて、僕にとってはその子がおひさまみたいな気がするので、その子に秘密であげようと思ったんです。」
「わあ、素敵ですね。」
私が店員さんみたいにそう返事をすると、アユムは少し恥ずかしそうに笑って私にその花を渡した。
「だからサヤカ、はいどうぞ。」
「うぇ?」
「僕とサヤカは、いつもごっこ遊びでお婿さんとお嫁さんでしょ?だから、この花は君にあげる。」
「いいの……?」
「うんっ!!」
アユムにその花を渡されて、私はそうっと受け取る。
そして、私も同じ花を一つ取って、アユムにあげた。
「それじゃあ、私もあげる!!」
「ありがとう!!ねえサヤカ、この花、指輪にして次は夫婦ごっこしよ!!」
「いいね!!」
そう言って私たちは指輪を作って遊んだ。
その帰り。
「ねえサヤカ、庭師さんに聞いたんだけど、この指輪のお花、ヴィオリアっていうんだって。黄色のヴィオリアの花言葉、知ってる?」
「え、知らなーい!!」
「えっとね、『せーじつなあい』って言うんだって。よくわかんないけど、なんか素敵じゃない?」
「そうかも!!」
そんな話をしながら私たちはお互いの顔を見合わせて、くすくすと笑うと、どちらからともなく手を繋いで家の中に向かって歩いて行った。
遠くて懐かしい、私とアユムの大事な想い出。
それを思い出して心を暖かくした後、私は目の前の扉を見つめた。
意を決して扉に手をかける。
そして、剣術の本を読んでいるアユムに向かって、声をかけた。
「アユム!!」




