第十九話 山奥の花園にて
「ツバサ……。」
会えなかった間話したかったこと、ツバサに会ったら話そうと思っていたこと、いろいろな言葉が頭をぐるぐると回っていたけど、結局どれも言葉にならなかった。
思いつく限り理由は二つ。
一つ目は、再会が突然すぎて思考が追い付かなかったから。
ツバサとはライクファイト王国で会うと思っていたから、あまりにも急に言葉を交わすことになって戸惑ってしまったのだ。
二つ目は、目の前にいるツバサが私の知っているツバサと同じようで違う気がしたから。
だって、私が知っているツバサはむやみに草花を刈り尽くしたりするような人じゃない。ツバサは昔、みんながびっくりするくらい自然を大事にしていたはずだ。
私の記憶に残る声とは幾段か低くなったツバサの声が私の鼓膜を震わせる。
「どうかしたの、カレン。そんな驚いた顔してさ。」
「だって、ツバサが、花畑の花を刈り尽くして……。」
「うん、俺がここにあった黄色のヴィオリアを刈ったよ。それが何か?」
にこにこと笑いながらツバサはそう告げる。
なんだろう、なんかちょっと怖い。
「君たちも黄色のヴィオリアが欲しかった?それなら大丈夫だよ。」
ほら、と言いながらツバサがその場から少し体を動かす。
それと同時にツバサの周りをふよふよと飛んでいる魂みたいなものも動く。
その色は、いつの間にか白から黒に変わっていた。
ツバサが移動したことによって見えるようになった広場の中心には、黄色のヴィオリアがたったの一輪だけ残っていた。
「黄色のヴィオリアが欲しいならこの最後の一輪を持っていきなよ。俺はもうこれ以上いらないからさ。」
「そういう話じゃないでしょ!!ツバサ、どうしちゃったの!?」
ツバサだけど、ツバサじゃない。
彼は本当にどうしてしまったのだろうか。
さっきから言動や笑い方も、かすかに狂気をはらんでいる気がする。
ユウト達も、私があれだけ大事にしていたツバサという存在が想定とは全く違う形で自分たちの前に現れたことにかなり混乱しているようだ。
その証に、きょとんとした表情のまま固まっている。
「どうしちゃった、か。」
ツバサはここではない遠くを見るような目でそうつぶやいた。
「少し説明が難しいかな。カレン、気になる?」
そう問いながらもツバサは遠い目をしたままだ。
おそらくツバサからしたら私が今どう返すかはどうでもいいのだろう。
気になる、と答えれば最低限の説明をして、それ以外ならそのまま別の話題に移すかこの場を去るか。
この状態のツバサが本来の生活地であるライクファイト王国に戻るとは考えにくいし、次はいつ会えるかわからない。
そう思ったら、例え本来のツバサでなかったとしてもできるだけ長い間彼をこの場に引き留めたい、という衝動に駆られた。
今目の前にいるツバサが私の知っている彼と程遠いから、少しでも昔の彼の面影を感じたいというのもあったかもしれない。
「うん、気になる。」
「そっか。」
ツバサはそういうと、私の方を見ながらこう言った。
「簡単に言うと、新しい目的が見つかったんだよ。自然なんて、俺のプライドなんて、全部どうでもいいって思えるくらい大切な目的。そのためなら俺は、なんだって捨てられる。そう……。」
ツバサはしっかり私の目を見てこう言い切った。
「カレン、君からの信頼や友愛さえも。俺の目的の前ではどうでもいいものなんだよ。」
その瞬間、私の心の中心にあるものが引き裂かれたような心地がした。
感覚なんてないはずの心が、激しく痛むような。
こんな感覚は、五年前のあの日を含めると人生で二回目だ。
人の心は、誰かの言葉一つでこんなにも簡単に傷つけられてしまう。
心に受けた衝撃が大きすぎたせいか、かなり遅れてちょうど今両目から涙があふれてきた。
気を取り直したみんなが、次々に非難の言葉を彼に浴びせる。
「あんたっ、最低!!!!!!」
「なんで平気でそんなこと言えるわけ!?」
「おい、どういうつもりかは知らないが今のはひどすぎるんじゃないか?」
「何なのだ、今の暴言は。そなたはカレンの親友ではなかったのか?」
ツバサはみんなの非難を受けてもなお堂々としてこう答えた。
「俺の目的を確実に達成するために必要なことだよ。正直君たちに周りをちょろちょろされるとやりにくいしね。」
みんながまた何か言おうとしたが、ツバサはそれを遮って続ける。
「あ、仲間のカレンが傷つけられたからって怒って俺の目的を壊そうとするのはやめてよね。まあ別にいいか。よく考えてみれば、どんなに努力したところで君たちが俺の目的をつぶすなんて不可能だ。」
そう言ってツバサはずっと浮かべていた狂気をはらんだ笑みを深める。
「あ、そろそろタイムリミットだね。このままここにいれば俺の目的に支障が出る。ああ、君たちとこのロボットを戦わせることは俺の本意じゃないからこいつは回収していくよ。黄色のヴィオリアはさっきも言った通り君たちにあげる。使い方に気を付けないとケガしちゃうかもしれないから気を付けなよ。それとカレン、これは警告だよ。俺のことを下手に詮索しないように。君の身に何が起きるかわかったもんじゃないからね。」
そう言い終えるとツバサは、じゃ、と軽く挨拶をしてロボットと共にどこかへ消えた。
私達は、そんなツバサを呆然としながら見えなくなるまで見つめていた。




