第十三話 四天王伝説
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時は5000年前、場所は天界。
当時、ブローム=フランナという名の大天使がいた。大天使というのは、天界の女王という役職の正式名称である。天界に存在するすべての天使、国を束ねる女性であるため、王の中の王といえる存在だ。
その大天使の側近を天空四天王と呼ぶ。赤・黄・緑・青の四人の天使がそう呼ばれるのは今も昔も変わらないが、当時の四人はある出来事から天界の歴史に己の名を刻みつけた。
その頃、天界では大天使派と反大天使派の間で戦争が絶えなかった。天界の歴史の中で五本指に入るほどの荒んだ時代。
大天使派は、従来通り大天使が絶大な権力を持ち、天界を治めることを望む者たちの集まり。
反大天使派は、大天使制度を撤廃して、それぞれの国がそれぞれで独自の政治を築くことを望む者たちの集まり。
戦争自体は大天使派の圧勝だったが、大天使派の中心人物の中に裏切者がいた。黒龍明良という名の男性堕天使。
彼は内側から大天使、四天王という風に体力を削って大天使派の結託を崩壊させて権力を自分のものにしようとしたが、魔族側の協力者と四天王たち、大天使の健闘によって封印された。
しかし、封印に大量の魔力を費やした四天王たちは、満身創痍のところを明良ではない何者かに襲われ、人間界の東西南北それぞれの果てに長い間封印されることとなった。
そして大天使は限界まで戦ったためかほとんどの力を使い果たし、もう大天使としての役目は果たせなくなり、本人も息を引き取る直前であった。
息を引き取る時、彼女は信頼を置いていた魔族の協力者たちにとある頼みごとをした。
自分が息を引き取ったら、残った魔力を小さな石にして人間界に飛ばしてほしい。
赤、桃、黄、橙、緑、青、紫の七つ。
この七つの石は、人間界であなたたちの好きな場所に飛ばしていいけど、絶対に人間界にしてほしい。
人間は三種族の中で一番魔法に疎いから、悪しき野望を持つ者に使われにくいと思う。
それに、明良は魔力の影響が少ない人間界に封印した。封印はしたけど、彼はいつか必ず復活する。
自分は、強いものに怖気づかずに戦う勇気を持つ人間が、一番彼を倒す役目に適していると考えている。
その時に少しでもその者たちを手助けできるように、自分はこの七つの石を残す。
ブロームはその言葉を最後に息を引き取った。
その後、魔族の協力者たちはブロームの言葉の通りに七つの石を人間界に飛ばした。念のため、限られた者しか石に触れることができないように高度な結界魔法をかけて。
それは後に、天族と魔族の間で天魔石と呼ばれるようになった。
そして、大天使のために必死に闘い、悪しき堕天使を封印して天界に平和をもたらした当時の四天王と魔族の協力者は、その功績を讃えられて後世にその名を残すこととなった。
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「その時の黄の四天王が、プディン=スウィーテ様。ここにいらっしゃる方だ。」
「なるほど、そんな神話があるんだね。これが今ユウトたちが話していることの前提?」
「ああ。」
「後世には、あのことはそのように伝わっているのだな。」
「はい。」
「カレンへの説明が済んだところで、封印されたはずのプディン様がなぜこのようなところにいらっしゃるかをお聞かせ願えますか?」
「ふむ、良いだろう。我は昔、同期の四天王たちと人間界の各所に封印されたのは間違いない。しかし先日、我が封印されていた場所の周りで妙な魔力を確認したのだ。」
「妙な魔力、ですか?」
「うむ。邪悪なものだ。危険を感じて我が力ずくで封印を解き、周囲の様子を確認していった。すると、悪しき者の配下と思われる魔物がそこら中をうろついていたのだ。封印されていたとはいえ、少なからず我の魔力は漏れ出ていたため魔物は滅多に近付かなかったのだが……。このことに異変を察知したため魔物を捕まえて調べてみたら、明良の魔力が検知された。おそらく明良の封印が5000年の時を経て解けたのであろう。」
「……あれ?」
私はふと疑問に思う。そのことについて考えていると、プディン様が声をかけてくれた。
「どうかしたのか?カレン。」
「えっと、私たち人間の世界では、2000年前に勇者が現れて仲間たちと共に魔王明良の魔の手から世界を救った、という伝説が伝わっていて、正式な記録も残っているんですけど……。」
「そうなのか?」
「はい。人間界の住民なら誰でも知っている伝説だと思います。」
「そうか。考えられる可能性としては、明良が死してもなお復活したか、何者かによって蘇生されたか……。どちらの可能性だとしても今は調べようがないな。魔力の質的に明良本人であるのは間違いない。一体何があったのだろうか。」
プディン様はしばらく考えに耽っていたが、やがて考えるのを放棄したようにこちらを見ると、ハッとしたように目を見開いた。
「カレン、ユウト。そなたらが持っておるペンダントは天魔石ではないか?」