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6人の継承者と時を超えた復讐  作者: 羽畑空我
第一章 彼の元を目指して
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第十一話 冷たい声音

剣の切っ先がイバラ男に振り下ろされ、確かな手ごたえを感じる。


しかし。


「やるな……。だが、ここまでは想定範囲内だ。オレ様にダメージを通せたのはムチ野郎も同じだ。貴様らにもあの男と同じ目に遭わせてやろう!!」


イバラ男がそう告げると、辺りに甘いにおいが漂う。


これ、かなりマズくない?頭がくらくらする。確かにこんな術を使われたら、あんなに強いユウトが戦闘不能になったのもうなずける。


流石のソヨさんも、少し辛そうだ。そのとき、レイカの声が響き渡った。


「プロテクティア!!」


声がした方に目を向けると、レイカの周りでは白い光のヴェールがひらひらと波打っていた。


「カレン、ソヨさん!!早くこの中に入って!!」


くらくらする頭と体幹がしっかりせずにふらふらしている体を懸命に支えながら、光のヴェールを目指して歩き始める。


ここで何もできずに殺されるのは嫌なので、においの影響で右も左もわからなくなっている自身の体に鞭打って、私はレイカの元に向かった。


やっとの思いでレイカが生み出した光のヴェールの中に足を踏み入れると、眩暈と立ち眩みが収まった。


「これは……?」


「プロテクティアという高等魔法です。光のヴェールの中にいれば状態異常はおろか、攻撃もほとんど食らわずに済みます。」


いつの間にか隣にいたソヨさんにそう説明される。


「レイカ、そんなすごい魔法が使えるの?」


「まだ回復魔法使い見習いだからヴェールは数分しか持たないし、使うまでにかなり時間がかかるけどね。とりあえずカレン、アイツを仕留めるなら今のうちよ!!」


「わかった。」


「アイツはおそらく氷属性に弱いと思います。アイツは気体状なので、冷えると液体になって大して動けなくなるはずです。イバラを再生するのにもしばらく時間がかかるでしょうし、アイスだけで倒せると思います。」


「ソヨさんありがとう!!」


ソヨさんのアドバイスを受けて、私は叫んだ。


「アイス!!」


大きな氷の玉ができる。私はそれをイバラ男に向けて放った。


攻撃手段も何も今は使えないイバラ男は、成すすべなく私の魔法で液状化した。


と、そのとき。


「オレ様は、まだやれる!!!」


イバラ男だった黒い液体から禍々しいオーラが放たれる。


黒い液体はむくむくと気体になって、元の姿になっていく。あんなに頑張ってやっと勝ったのに、コイツはまだ戦えるの?


あまりのショックに言葉を失ってただ突っ立っていた私の耳は、イバラ男に向けたソヨさんの声をとらえた。


「あなた……。どうでもいい茶番をまだ続けるのですか?体力の無駄だとは思いません?」


今まで私たちが聞いてきた中性的で不思議な声とは似ても似つかない、冷たい声。そんな声を発したソヨさんは、イバラ男に向かってゆったりとした余裕しゃくしゃくといった足取りで歩いていく。


そしてイバラ男の目の前に立つと、軽蔑するような目線で彼を見下した。


「その、瞳の色。その、ゴミを見るような冷たいまなざし。今まで使ってきた高等魔法。もしや、あなた様は……。いやしかし、彼は男性であったはず……。」


「それ以上のおしゃべりは許容できませんね。おとなしく死の運命を受け入れたらどうですか。」


ソヨさんがこの世のものとは思えないほど冷たい声音で残酷に告げる。

ソヨさんの冷たい言葉をおびえた様子で聞き入れたイバラ男は、やがて蒸発して、消えてなくなった。


それと同時に、誘拐事件の被害者と思われる女性たちやユウトを捕らえていたイバラも消え失せ、重力にひかれて床に落ちてくる。


レイカは、走ってユウトの元へ向かった。


「ユウト、大丈夫!?」


「レイカ……。無事だったんだな、良かった。部屋を守っている途中に敵にやられるなんて、なんてかっこ悪い……。」


「そんなことないわ。ユウトが守ってくれている間はぐっすり眠れたもの。」


「そうか。カレンとは合流できたのか?」


ユウトが自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので、女性たちのケガの治療をしていた私は、目線は手元に向けながら返事をした。


「レイカとは合流したわ。だからここにいるんじゃない。」


「それは確かにそうだな。俺のことを捕まえた奴、結構厄介な術を使っていたが、勝てたのか?」


「そこは、私とレイカと、そこのぷるぷるした魔物とソヨさん……。旅人さんとなんとかつないで頑張ったんだけど……って、あれ?」


辺りを見回したが、ソヨさんは見当たらなかった。


「さっきはそこにいたんだけどなぁ……。」


私が疑問をそのまま口にすると、ユウトに回復魔法をかけていたレイカが答えてくれた。


「ソヨさんね、気が付いたらいなくなっちゃってたの。お礼言いたかったんだけどね。みんなで協力して戦ったから、もしソヨさんがいなかったら死んでいたかもしれないわね。」


「そうだね。たぶん、ソヨさんがいなかったら勝てなかった。」


「そうだったのか。お礼が言えなかったのはもやもやするな。ツバサに会いに行く旅の途中でもし再開できたら、その時は絶対お礼を言おう。」


「ええ。」


「うん。」


「慣れない高等魔法を使ったから疲れちゃったわ。村の人に行方不明の人たちが見つかったことを報告してから、戻って休みましょう。しばらくあの魔法は使いたくないわね……。」


「レイカ、ありがとう。そしてお疲れさま。やるべきことが終わったらゆっくり休もうね。」


「そうだな。何事も健康管理が最重要だ。」


「むむむーーっ!!」


「『たくさんご飯を食べたい!!』だってよ。」


「もう、ぷるりんったら食いしん坊ね!!」


今日の朝休憩所で別れた時と同じ和やかな雰囲気に戻って、私は心の底からほっとした。


*****


急に夜空の闇に浮かんだ黒い影は、かなり不満げに光に告げる。


「全く、お前のせいで今日もあの女を捕らえそこなったじゃないか!!いつもいつも俺の邪魔ばかりしやがって。」


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