第九話 ぷるりん
彼女の申し出は純粋にありがたい。だけど……。
「その申し出はありがたいんだけど、その敵だいぶ強いと思うの。私たちが言えることじゃないけど。関係ない人を巻き込んでケガさせたくないしなあ……。」
「あ、それならお構いなく。自分で言うのもなんですけど、私は空間認知と魔術に長けているんです。魔物数匹程度なら一回で殲滅できます。」
「えっ、すごい!!」
「本当についてきてくれるの!?」
「もちろんです。一生懸命一緒に戦わせていただきます。私のことは、えーと……ソヨとでもお呼びください。」
「分かった。ソヨさんね。よろしく!!」
「はい!!」
ローブのフードと前髪のすき間から、ソヨさんが少し笑ったのが見えた。
「それじゃあ出発!!って、どこに行けばいいのかしら?」
「もう、レイカったら!!今までそんな調子でユウトを振り回していたの?」
「そっ、そんなことないわよ!?」
振り回していたんだ。
「それなら私におまかせください。」
そう言ってソヨさんはその場にしゃがみ込む。そして、地面に手を触れてこう唱えた。
「ディプラ」
その瞬間、彼女の足元に魔法陣が現れた。ソヨさんは目をつむって何かに集中している。
それにしてもあの魔法陣、なんだか見覚えが……。
私が一人で考え込んでいると、ソヨさんが目を開けてこう言った。
「見つけましたよ、魔物の気配。この村の北の果て……。そこにある空き家に恩人さんをさらった犯人は潜んでいるようです。その周りには十数人分の生命体反応も確認できました。お二人が言っていた事件では今のところ17人が行方不明ということですから、犯人はこいつで間違いなさそうです。生命体反応の数から考えると、誰も亡くなってはいないようです。急ぎましょう!!」
「ソヨさん、ありがとう!!」
「なるほど、ユウトが手を焼く理由がよーく分かったわ。」
「ひどくない!?」
私たちは笑いながら、空き家に向かって駆け出した。
数分後、私達は空き家の前に立っていた。ソヨさんが言う。
「この先は敵の結界が張ってあるかもしれません。用心しながら進みましょう。」
「「了解です!!」」
ソヨさんに言われた通り警戒をしながら空き家の扉を開ける。
すると、ビュンッ、と何かが飛んでくるような音がして、白くて丸い物体が飛び出してきた。
「むむむーっ!!」
「「!?」」」
「『こんにちわーっ!!』 だそうです。」
「え、ソヨさんこの子が言っていることが分かるの!?」
「それは、まあ。旅人として各地を旅していたんですが、ある日大ケガをして一時期結構長い間療養していたんです。その時とてつもなく暇で、暇つぶしに魔物の言葉を勉強していたんですよね。」
「なるほど。」
改めて白い物体をながめる。
体は白くてぷるぷるしている。おしるこに入ってるアレに似ていて、とても可愛らしい。
頭にはプリンの甘いところのような色の黄色いバケツをかぶっていて、そのバケツには植物の双葉のマークが一つ、端っこの方に小さく記されていた。
「むむむ?むーむむむーむー!!」
「『名前をつけてくれない?自分の名前忘れちゃったんだよねー!!』だそうです。」
「え?それじゃあぷるぷるしてるからぷるりんで……。」
「ぷるりん?可愛い!!」
「この子の名前はぷるりんってことでよろしいでしょうか?」
「「ええ!!」」
「分かりました。今からあなたの名前はぷるりんです。名付け親はレイカさんですよ。ふふ、良かったですね。」
「むーむー!!」
「『ありがとう!!』ですって。」
「ソヨさんが普通に話しても魔物には伝わるんだ。」
「発音を微妙に変えると魔物にも通じる、ってこの前ユウトが言っていたわ。ユウトも魔物と会話できるのよ。ただ、戦闘する気満々の魔物や、血の気の多い子にはあまり話が通じないらしいわ。」
「へえ、そうなんだ。」
「そうですね。ただ、その『微妙』が結構難しくって。会得にはかなり時間がかかりますね。」
「そうなんだ。ユウトはいつ覚えたの?」
「まあ、ユウトは生まれつき頭の良さがずば抜けているし、ずっと勉強していたからね。なんてったってユウトはおu」
「伏せてください!!」
ソヨさんが唐突にそう叫ぶ。言われるがままに伏せると、壁の何もないところから、ひゅんっと急にイバラが生えてきた。
少しでも伏せるのが遅かったら、急所に命中していただろう。
ありがとう、ソヨさん。
レイカやソヨさん、ぷるりんにもケガがなさそうでほっとしていると、壁がゴゴゴゴゴ……と音を立てながら開いて、中から黒い霧が現れた。
「チッ、外したか。」
男の声だ。レイカはその霧を見つめて目を見開いた後、不快感がぬぐえない声で叫んだ。
「ユウトをさらったの、コイツよ!!!」