第1話:告白と隠蔽魔法
テレーゼは3人に自分の秘密を打ち明けます。
そして、接骨院内の「国境」問題に対して対策を行います。
昨夜のささやかではあるが心温まる宴から一夜明けて、4人は朝食を済ませた。
テレーゼは、今後付き合いを心底大切にしていきたいと強く決意した、アデリナ、カトリナ、ヘレナに、もう隠し事ができそうになかった。覚悟を決めて自分が日本という「知らない場所」からやってきた、異邦人であることを3人に話した。
「テレーゼさん、昨夜からずっとそれを悩んでいたんですか?何となくですが、私たちとは違う世界の人なんじゃないかと思っていました」
「初めて魔法を使ったというのに、あんな規格外に魔法を連発するなんて普通出来ない」
「というか、テレーゼのような浮世離れした度量の女って、アタシは地母神様(セフィロトで広く信仰されている、慈悲深い命と実りの女神)の化身だと言われても信じられるよ」
カトリナ、ヘレナ、アデリナは薄々気付いていたようだ。
「私のこと、不気味だとか怖いとか思わないの?他所の世界の人間なんだよ?」
「そんなこと言うのならお互い様ですよ」
「うん、私テレーゼと知り合えて本当に良かった」
「テレーゼが嫌がってもアタシ、いやアタシたちは絶対離れないからな!」
テレーゼを励ますように3人は話しかける。
「アデリナ、カトリナ、ヘレナ、本当にありがとう・・・」
思わず嬉しくて泣きそうになるテレーゼだった・・・仲間を大切に思いやるという情に厚い点において、4人は本当に似たもの同士だった。まさに4人はお互いが「真友」同士である・・・
「ところで、テレーゼさん、ここの建物で、最初の晩に魔法が使えなかったのって、別の場所から建物ごと飛ばされてきたからですか?」
「でもそれだとアデリナを治療をした部屋でテレーゼが回復魔法使えたのもおかしい」
「アタシ、難しいこと解らないけど、今いる部屋と病室?が日本、だったっけ?とセフィロトに別れているとか?」
3人が考え始めた。
「私は多分、アデリナの言ってることがほぼ真実だと思う」
テレーゼは初日の晩に「ライト」が部屋で使えなかったことを3人に伝えて魔法を使おうとするが、やはり使えない。カトリナも続いて魔法を使おうとするが結果は初日の晩と同じだった。
「次は施術室に行きましょうか?」テレーゼは3人と一緒に移動する。
「テレーゼさん、「ライト」を使ってみますね。」カトリナの持つ杖の先に光が灯る。
「私もやってみるわ」無詠唱かつ杖なしだったが、両掌に光が灯る。
「とても2日前に魔法を覚えた人とは思えませんね」「いつ見ても非常識」「テレーゼ、ホントに凄いよ!」
「やっぱりアデリナの言ってたとおりみたいね。今いる施術室がセフィロトでさっきまでいた居間が日本、で間違いないわ。あとカトリナ、隠蔽の魔法ってないのかな?」
「ありますけど、どうして?あっ・・・」
「よその場所に繋がってることを国王とかに、いや他の誰かに知られたら危ない」
カトリナとヘレナはテレーゼが初日の晩から危惧していた、接骨院が「自分たちが知らない場所」に繋がっているということの危険性に気付いたようである。
「テレーゼ、カトリナ、ヘレナ、どういうことなんだ?アタシにも説明してくれよ」
「アデリナ、要するにこの接骨院は「国境」なの。だから領土を広げようと考える人たちに知られると戦争になりかねないのよ」テレーゼが説明する。
「・・・そういうことか。今のマルクトの領主って良い領主らしいけど、王都ダアトの国王って、つい最近辺境の森に兵を出してたくらいだから、隠してたほうが良いな」
アデリナが世情の機微に対して聡い一面を見せる。
「アデリナの言うとおり建物は隠したほうが良いですね。外に出ましょうか?」
4人は施術室から建物の外へ出て、裏側の森に向かう。
「私の力ではイメージが弱いのかも知れませんが、そこの森の木に隠蔽魔法を使ってみますね。日の光に照らされて消える朝靄のように木を隠せ!」
カトリナに魔法を掛けられた木が、ぼやけたように見える。
「やってみるわ。日の光に照らされて消える朝靄のように木を隠せ!」テレーゼの魔法によりカトリナが魔法を掛けた木の隣、約10メートル四方の木が完全に見えなくなった。
「嘘だろ・・・」「テレーゼってやっぱり普通の人間じゃない」「教えた私の魔法より効果も範囲も上ですね。これなら何とかなるかも知れないですね」
「ところでカトリナ、この魔法ってどのくらい効果あるの?」と、テレーゼ。
「私のはだいたい5分程度ですが・・・テレーゼさんのは時間を置いてまた確認しましょう」
昨日の魔法から丸1日が経過した状態の見えなくなった木々は、まだ完全に隠れたままだった。
結局、木々が見え始めたのは8日目になってからであるが、その間テレーゼたちは、4人パーティー申請のためギルドに行き、その後パーティーとしての行動やセフィロトの文字を習得するため、3人を先生役にして学習の日々を過ごした。
「テレーゼ、隠蔽魔法がこんなに長く効くなんて、見たことも聞いたこともないんだけど・・・」「まさに人外・・・」「テレーゼさんの魔法って凄まじいとしか言いようがないですね・・・」3人は呆然とした様子で感想を口にした。
「隠蔽魔法が上手く行ったのは良いんだけど、これ、建物に魔法掛けたら完全に見えなく方が問題じゃないかな?」と、テレーゼ。
「それは何とかなりますよ。以前討伐した魔物の魔石があるんですけど、それに紛失物を見つける魔法を掛けて手に持つと、そばに寄ったときだけ霧が晴れるように物が見えるようになるんです。こんな感じで」
そう言ってカトリナは魔石に魔法を掛けてぼんやり見える木々に近寄ると霧が晴れるように木々が姿を現した。そして彼女が木々から離れて3人のところに戻ってくる間に木々が見えにくくなった。次に彼女が木々の中にどんどん入っていくと、10秒くらいで隠蔽魔法の効果が復活するらしく、カトリナが見えにくくなった。
「魔石は確か4つありましたから、私が魔法を掛けますね。魔石はみんな1個ずつ持っていて下さい。魔法の効果がなくなったら私に渡してもらえばまた掛けますから。魔石への魔法付与は、テレーゼさんがもし魔法を使うと、力が強すぎて隠蔽の魔法自体消滅すること確実ですから私が適任ですね」と、カトリナ。
「それなら私は接骨院に魔法を掛けるわね」
そう言いながら今度は杖なしかつ無詠唱で隠蔽魔法を掛けると、接骨院は完全に見えなくなった。
「もうアタシはびっくりして言葉が出ないんだけど・・・」「アデリナに同じ」「逆に言えば歴代最強かつ当世で唯一無二の魔法使いと噂される、王都の筆頭宮廷魔導師を軽く打ち負かせるレベルのテレーゼさんが、私たちの仲間なのはこの上なく心強いですよ」
「ところで、日本とやらは、この建物がセフィロトに繋がってることは大丈夫なのか?」と、アデリナ。
「元々居間側は勝手口だったから、滅多に人が来ないと思うわ。念のために居間と施術室の間の廊下に隠蔽魔法を掛けておけば、日本側から私たち以外の人が、セフィロトに入って来られないと思う」
「それなら大丈夫か。そうだ、もし行けるのならアタシ、テレーゼの故郷に行ってみたい」「同感」「もし良ければテレーゼさんの故郷を案内してくれませんか?」
「近いうちに3人を日本に招待するわ。ただ近いうちに服と靴を買ってくるからそれを着てね。日本は革鎧着てる人なんてコスプレする人くらいしかいないのよ」
「コスプレって日本とやらで、アタシたちみたいに革鎧着てる人のことか?こっちじゃ普通なんだが・・・それはともかく、テレーゼの着てるような服って、アタシ楽しみだな」
「テレーゼが選んでくれるのって凄く嬉しい」
「アデリナやヘレナじゃないですけど、テレーゼさんがどんな服を選んでくれるのか私もとても楽しみです」
3人が口々に期待を口にしている間、テレーゼは自分の魔法の威力よりもむしろ、会話や事象から容易に真実を見抜ける洞察力を持ったアデリナの聡明さに驚嘆するばかりである。
(お金のことは置いといて、3人に何か似合う服と靴をプレゼントしてあげたいわ・・・)
3人の喜ぶ様子を見て、4人で一緒に日本に出かけることを楽しみに思うテレーゼだった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
テレーゼの接骨院は日本とセフィロトの双方にとって文字通り要衝ですので、双方にとっての争いの火種が消えて本当に良かったですね。