第3話:エマの新たな能力
昨日テレーゼの人化魔法で人間になったエマですが、テレーゼたちと再会するまでの僅かな期間で、新たな能力に目覚めたようです。
昨日カレーの昼食やリバーシや露天風呂で親睦を深めたテレーゼ姉妹とエマ・エーリカの姉妹。今日はテレーゼとマーヤがギルドマスターへの復命でマルクトギルドに出勤するので、その前に2人にマルクトの街を案内するため、ダアトにあるエマたちの家に迎えに訪れたテレーゼ姉妹である。庭で花壇の手入れをしていた母親のエルナと挨拶を交わし、エマとエーリカを呼んでもらう。程なく2人は居間に現れた。
そこには、昨日テレーゼが帰宅前に人化魔法を解除して猫の姿に戻った筈のエマが、人間の姿でそこにいた・・・
「もしかして、エマは自分で人化ができるようになったの?」
「テレーゼ、アタシも自分のことながら驚いているよ・・・アンタがアタシに魔法を掛けてくれたから、何となくだけど自分でも人間に変身できるような気がして、エーリカやエルナがいるところで変身できるか試してみたらこの有様さ。元の姿に戻ることもできるけど、変身の度に魔力をかなり使うようだから、あまりコロコロ姿を変えることはできそうにないねぇ・・・昨夜は家族みんなへの説明のために、人間と猫に合わせて3回変身したから流石に疲れたよ・・・」
「私もエマお姉ちゃんが自分で変身できるなんて本当に驚きました・・・お母さんは最初目の前で起こったことを信じ切れていなかったんですけど、お姉ちゃんが私も知らない昔のことをお母さんにいくつか話をして、その後猫と人間にそれぞれ変身したことで、猫として永く一緒に暮らしていたお姉ちゃんが、毛皮を着替えて(生まれ変わって)私たちの所に帰って来てくれただけでなく、その猫が人間に変身したことを受け容れることができたようです。
それで、今後お姉ちゃんは、どうしても猫の姿に戻らないといけないようなときを除いて、基本的には人間の姿で生活することになりました。今着ている服はお母さんの服なんですけど、娘が増えたと嬉しそうでした・・・」
「まったく・・・昨夜はアタシは何回も変身して疲れているのに、エルナはアタシが人間に変身したことに妙に興奮して、夜遅くまでエルナが持っている服を着せ替え人形みたいに、何回も取っ替え引っ替えされたのには正直参ったよ・・・」
「エマお姉ちゃん、お母さんは、もう1人子供が欲しいと前に私に言っていたから、お姉ちゃんが人間になってくれて、きっと物凄く嬉しかったんだと思うわ・・・ところでお姉ちゃん、時々で良いから猫の姿に戻ってくれないかな?たまには、もふもふの可愛いお姉ちゃんをいっぱい抱っこしたいから」
「エーリカ、アタシが猫のときは、家の中での抱っこはともかく、抱っこしながら歩くのは危ないから当分はお預けだよ。この前みたいに、また石畳とかで捻挫でもされたらたまったもんじゃないからね」
「残念だけど仕方ないね・・・抱っこしながらのお散歩は、またお姉ちゃんごと転んだりしたら危ないから、しばらく止めておくね。あと、お姉ちゃん、いつも私のことを心配してくれてありがとう」
「エーリカがアタシを抱っこしたままで、問題なく歩けるようになりたいのなら、もっと大きくなれるように好き嫌いなくたくさん食べて、身体も鍛えるんだね。抱っこは暑苦しいからあまり好きじゃないけど、アンタは抱っこが好きなようだし、アタシも楽をできるから気長に頑張りな・・・あと勘違いしないでもらいたいけど、アタシは別にエーリカが心配とかじゃなく、アンタが何かとドジだから、また何かあってアタシまで巻き込まれた日には、冗談じゃないから言ってるだけさね・・・」
(エマは、エーリカに対しては基本的にツンデレなのね・・・いかにも猫らしい性格とでも言うのかしら?それはともかく、いつも本当に仲の良い姉妹で何よりだわ・・・)などと、エーリカが姉のエマを溺愛しているのはもちろんのこと、エマも素っ気ない口調ではあるが、エーリカを想う気持ちが随所に表れていて、そんな2人の仲の良さに微笑ましさを感じるテレーゼである。テレーゼはエマとエーリカの2人を含めて転移魔法を使い、まず自宅に戻る。そして、全員家を出てマルクトの街に向かい、入り口で門番に身分証(後述)を持っていない2人分の通行税(銅貨10枚:日本円で1000円相当。第1章第3話参照)を支払い、街の中へ入った。
「マルクトの街は初めて来ましたけど、私たちが住んでいるダアトと同じ以上に賑やかなんですね・・・」
「マルクトは国境の街で討伐依頼や採集依頼などが他所よりも多いから、経験が浅い冒険者でも比較的お金を稼ぎやすいからだと思うけど、ここで一旗揚げたいと願う駆け出しの冒険者たちが多いわね。あと、ここでしか手に入らない特産品や特産物を仕入れに来る商人たちが最近増えたみたいね」と、自分たちが住んでいる王都にも引けを取らない活気のあるマルクトの街に驚くエーリカと、その理由を説明するテレーゼ。
「テレーゼ、特産品や特産物って、昨日お土産に持ってきてくれた白い食器とか、おもちゃとか、美味しい野菜といったモノのことかい?アタシは昨日初めて見たんだが、もしかしてアンタが作ってるのかい?ホント大したモンだね」
「私だけではなく、みんなで頑張ってきたことが少しずつ形になってきたのだと思うわ」と、エマの感想に答えるテレーゼ。
マルクトの街の賑わいぶりを見ながら、まず領主館に向かう。領主館や教会は、王都の王城や大教会には建物の規模や歴史では及ばないものの、マルクトの街の中では観光スポット的な場所である。
因みにマルクトの街の領主は、ギルドマスターのジークリットなどと並んで有能だと評されることが多いが、最近の街の活況ぶりを後押しする形で、石畳や防御壁などの普請をはじめとした公共工事などを積極的に行っており、そんな景気の良さが街の治安の良さにも繋がっている。そのため、最近は特に目に見えて住みやすい街になっているのも大きい。全員で領主館と街の教会を見学したあと、市場に向かう。
「この野菜は、昨日テレーゼさんの家で食べたカレーで使われていたものと同じですよね・・・少なくともダアトでは見たことがないくらい新鮮で美味しかったんですけど、テレーゼさんたちは野菜も農場から出荷しているんですか?」
「私たちはギルド経由で農場の野菜を出荷させてもらってるんだけど、最近は栽培が比較的簡単な一部の野菜の種を、農家向けにギルド経由で販売しているわ。そして、それらの野菜については、マルクトや近郊の村々で作られた品物も増えてきて、それを商人が仕入れて他の街でも販売しているみたいね」
「それって美味しい野菜の出荷を、自分たちで独り占めにしないで他の農家たちにも利益を分け与えてるってことだろ?アンタ、あまりにも気前が良すぎるというか豪胆すぎるんじゃないのかい?」
「そうでもないわ。野菜の生産や出荷は、なるべく多くの人が関わった方が良いのよ。何故なら私たちだけで出来る事は限られているから、私たちが独占するよりも、街や近くの村々で多くの人たちが関わることで野菜がたくさん作られて、より多く売ることができるようになるわ。そうすれば、生産された野菜がマルクトの街の名物だとより多くの人に広く知られるようになって、更に多く売れるきっかけになるわ」と、市場に出回っている美味しい野菜について、エーリカやエマに、現状とブランド化の意義をなるべく解りやすく説明するテレーゼである。
市場の品物をあれこれ見ている間に昼食の時間となったので、全員で市場内にある食堂で昼食を済ませる。昼食で口にしたおかずの中にも、テレーゼたちがギルド経由で販売している美味しい野菜が使われていて、自分たちがこれまで進めてきたことの成果が、目に見える形で確認できることを嬉しく感じるテレーゼである。
「そう言えば、テレーゼさんたちはこれからギルドに行くんですよね。もし良ければ私たちも連れて行ってもらえませんか?」
「それは構わないわ。あと、折角だからギルドで冒険者登録も一緒にする?マルクトに限らないけど、ギルドが発行する身分証は、基本的にどこの街でも使えるから、今後2人が他所の街に行ったときにも役に立つわよ。あと、身分証をどこのギルドで発行したかについては、基本的にギルドの一部の担当者でなければ解らないから、例えば街の門番などから、ダアトに住んでいるのに、何故国境にあるマルクトギルド発行の身分証を持っているの?と、疑問に思われるようなこともないわ」
「もしテレーゼさんたちが迷惑でないのでしたら、ぜひお願いします」
「良ければアタシにも作ってもらおうかね。人間の姿でいるのなら身分証とやらがあったほうがいいだろうからね」
「解ったわ。エーリカ、エマ。あと冒険者登録の職業に関しては、今日は2人とも登録しないほうが良いかも知れないわね」
「職業って何ですか?」
「冒険者として自分が主に何ができるのか?何をやりたいのか?を、冒険者の仕事として表明したものとでも言うのかしら。例えばこの魔法が使えるとか、この武器が上手く扱えるとか、そういったことで決める人が多いわね。2人の場合は、何も解らない状況でその場ですぐ決められるものでもないだろうから、今後ゆっくり決めれば良いと思うわ。何の職業になりたいのかを後日言ってもらえば、職業を追加で登録するわ」
「テレーゼ、アンタの職業は何だい?」
「私は「医者」よ。あと全属性の魔法が使えるから、どちらかと言えば、医者と言うよりは魔法使いに近いのかも知れないわね」
「テレーゼさんがお医者様だというのは納得です。違う世界でもお医者様だったんですか?」
「私の場合は、日本では、正確には「柔道整復師」といって患者様を主に手技で治す職業を、自分が食べていくための仕事にしていたわ。但し、日本にいた頃の私は、回復魔法だけでなく魔法そのものが使えなかったから、あなたを治療したときのようには、すぐに怪我を完治させることができなかったのよ」
「以前、私の捻挫を回復魔法であっという間に治してもらいましたけど、後でお母さんに聞いたら、教会や病院での治療は、普通は1回の回復魔法や手当てではなく、何回か通って治療することが多いらしいです。テレーゼさんは、元々お医者様と同じように怪我を治すことをお仕事にしていたから、あんなに回復魔法の使い方が上手だったんですね。あの時は本当にありがとうございました」
「テレーゼ、アタシからも改めて礼を言わせてもらうよ。エーリカを助けてくれてありがとうよ」
「どういたしまして。私が偶然その場にいて、治療ができて良かったわ」
市場から会話を交わしつつギルドに到着する。
「ギルドの中に入りましょうか」と、エマとエーリカに声を掛けるテレーゼである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
エマが自力で人間に変身できるようになったのは作者もびっくりです。
エマは猫の亜神ですが、例えば猫神に比べて成長途上中?な存在である猫又が、変身の能力を使えることは昔話などでも出てくるためご存知の方も多いと思われますが、それ故に、テレーゼの魔法というきっかけがあったことは大きかったのですが、自力で人化の能力を身につける潜在能力は、元々あったと思われます。
そして、変身後のエマが、エルナたち他の家族から娘として受け容れられて良かったですね。今後は主に人間の姿で家族と一緒に生活することになりますが、時々抱っこしたいというエーリカのリクエストに応えようとするエマは、本当に妹想いの良い姉だと思います。
あと、エマはノルウェージャンフォレストキャットの成猫としては小柄(それでも3キロ以上はあります)ですが、猫の姿のエマを抱っこしながら歩くのは、エーリカが前章で捻挫してしまいましたので、もっと身体が成長してからとエマが心配する気持ちは作者も同感です。
マルクトの街の観光では、王都ダアトを凌ぐマルクトの街の活況ぶりは、エマとエーリカにとって、とても興味深いものだったようです。
次話は会議の復命などの話です。




