第3話:ティフェレトでのギルド会議
エマとエーリカの姉妹と出逢ったテレーゼたちは、宿に戻って同行していた妹たちにそのことを話します。そして、ティフェレト観光を行った後、テレーゼたちは会議に出席します。
エマとエーリカという姉妹と知り合ったテレーゼたちは宿に戻ったとき、カトリナとアリーナとマーヤの3人も既に部屋に戻って来ていた。
カトリナは、幼少の頃にマルクト近郊の村の教会にいて、いろいろなことを教わった神父さんが、今は王都ダアトの孤児院の責任者になっているとの風の噂を耳にしたことがあったらしく、同じく神父さんと面識があったアリーナやマーヤと一緒に孤児院を訪問したそうである。そこで当時の神父さんと無事に再会できたとのことで、何よりである。
孤児院には、テレーゼたちがマルクトギルドに販売を委託しているリバーシで遊んでいる子供たちがいて、みんなで楽しくリバーシで遊んだそうだ。あと、3人は気持ち程度であるが、孤児院に寄付をしてきたらしい。そんな妹たちの善行に誇らしさを感じたテレーゼである。
テレーゼは、3人にエマとエーリカの2人と知り合ったという話をした。
「テレーゼお姉さん、猫神様って本当にいたんですね・・・」
「私たちの多くは豊穣の女神様である地母神様を、エーファは慈悲深い獣の神様を信じています。ですから、この世に神様はいるとは感じていたのですが・・・まさか猫の姿で生き神様としてダアトにいるのにはびっくりしました・・・」
「猫の神様と友達になるなんて、お姉さん凄いです・・・」
「私も20年以上生きた猫が神様になってこの世に戻ってきたと聞いて驚いたわ。そういえば2人には、みんなで遊びに来るように誘われたから、今度はお土産を持って会いに行きましょう」と、カトリナ、アリーナ、マーヤ、テレーゼ。
日程的には会議まであと2日あったので、翌日と翌々日はティフェレトをソフィアとマーヤの案内であちこち見て回ることになった。
流石に政令指定都市並みの人口を擁する大きな都市だけあって、主な場所だけでも1日で全て見て回るのは難しく、丁度良いスケジュールと言える。
テレーゼは、気になった建物や賑やかな光景をスマホで写真に残したので、留守を護ってくれる妹たちに見せてあげようと思っている。
ギルド本部での会議当日の朝、カトリナ、アリーナ、ペルレにはギルドや留守を護ってくれている妹たちへのお土産や物資の買い出しなどをお願いして、テレーゼはソフィア&マーヤと一緒にギルド本部に向かう。
ギルド本部の大会議室は、学校の階段教室のようになっていて既に椅子とテーブルが設置されていた。司会を務めるギルド本部の役員たちが座る場所以外は出席者の席が決まっていなかったので、会議室の窓際の席に3人集まって座ることにした。受付の際に手渡された会議資料に目を通す3人。それから1時間ほどの間に会議出席者が揃い、会議が始まった。
会議の各支部からの出席者は、ギルドマスター本人よりも、その補佐役の出席が多いようだ。ここでセフィロトにおける各都市や街の位置関係について説明する。
セフィロトの最北に位置する国境のケテル、ケテルの南東と南西に位置するコクマとビナー、コクマの南部に位置するケセドと、ビナーの南部に位置するゲブラー、ケセドの南部に位置するネツァクと、ゲブラーの南部に位置するホド、イェソドはネツァクとホドから見てそれぞれ南西と南東に位置し、テレーゼが根拠地にしているマルクトは、イェソドの南部でセフィロトの最南に位置しており国境である。
そして、セフィロトのほぼ中央に大都市のティフェレトがあるが、今回は前述の9つの支部の関係者をティフェレトに集めての会議である。
なお、王都ダアトはティフェレトの北部に位置し、実質的にはティフェレトの一部といえる。ここにはギルドの支部や本部が置かれていないが、これは王国からの干渉を極力避けるためという理由らしい。
(作者注釈:セフィロトにおけるそれぞれの街の位置に関しては、旧約聖書の「生命の樹」を検索すると、比較的容易に確認可能と思われる。位置関係における上下左右と東西南北は、上(北)、下(南)、左(西)、右(東)となるが、これは小学校高学年の社会科や理科で、地図の見方や星座の位置などを教わるときに出てくる事柄である。
但し、南半球の国々から発行されている地図の中には、南(極)が上に表示されているものがあるが、その場合は、上(南)、下(北)、左(東)、右(西)であるため注意のこと。
なお、各セフィラ(セフィロトやセフィラは、元々「(ものなどを)数える」という意味のヘブライ語に由来するが、本文ではそれぞれの都市や街を意味する)の名称は、例えば、ティファレトやコクマーといった表記も多く見受けられるが、これらの表記揺れは書籍によっても存在するようなので念のため)
会議における発表の内容は、各ギルド支部に一任されているようで、発表の順番は緯度で言えば北から、緯度がほぼ同じなら東→西という順番のようである。
各ギルド支部の大体の特色を、マルクトのギルドにある資料を確認するなどして事前に予習して会議に臨んでいたテレーゼは、他の支部の出席者からの発言にメモを取り(とは言っても、事前に予習していた内容と大差ない発言で質問するまでもなかったが・・・)、マルクトに関しては、地域の特産品を生み出すことの大切さについて説明を行った。
何らかの質問やサンプル提供などの要望があるのではと思っていたテレーゼであるが、事前にお互いの発言内容を打ち合わせていたイェソドはともかく、ギルド本部や他のギルド支部からの質問等はなく、会議自体は呆気なく終わった。
(ここまであっさり終わるとは思っても見なかったわ・・・シャンシャン総会(質疑応答、議論に乏しく、会社側の提案があっさり可決される株主総会のこと)じゃないけど、これならギルド本部への書簡などで現状を報告すれば良い話だし、わざわざ出席する意味があるのかしら?定期的にギルド関係者が一堂に会する機会を作ると言う意味では、相応の意義があるのかも知れないけど・・・)
(確かにこれでは、会議の体を成していないですね・・・)と、テレーゼ&ティアナ。
しかし、逆に考えれば、ジークリットがイェソドギルドのソフィアと歩調を合わせてギルド支部を独立させようとする動きが気付かれにくくなるのだから、事を成すためにはむしろ好都合ではないかと思うテレーゼである。
会議が終わったあと、テレーゼ、マーヤ、ソフィアはギルド本部を出て、ティフェレトの表通りにある食堂で昼食を済ませることにした。マーヤとソフィア曰く、なかなかリーズナブルで美味しい食事を出してくれるとのことで、出て来た食事を口にして納得するテレーゼである。
「テレーゼさん、初めての会議、お疲れ様でした」
「ソフィアさんこそ、お疲れ様でした。ギルド本部の会議はいつもあんな感じなのですか?」
「会議がすぐに終わる、という意味ではその通りよ。円滑な会議進行のために質疑応答は極力行わないように、というギルド本部からの通達が数年前にあったんだけど、ジークリットが会議に出席していたときには、ギルド本部のあまりのやる気のなさに憤慨して、司会進行を務めていた役員に食って掛かっていたわね」
「その時の状況が目に浮かぶようですね」
「だから、今のままでは冒険者をサポートする組織であるギルドが衰退してしまう・・・彼女なりに現状を改革しようとしていた矢先に、あなたが主体となってギルド改革を立派に成し遂げた・・・」
「まだまだ道半ばだとは思いますが・・・」
「現状でも、セフィロト中に10箇所あるギルド本部や支部の中では、明らかに抜きん出ているわ。もちろん冒険者たちにとっても、セフィロトで一番居心地が良いギルドでしょうね。何と言っても冒険者たちのために文字や文章の学習会を定期的かつ精力的に実施したり、安価で優れた回復薬の製造方法を無報酬でマルクトやイェソドのギルドや薬師たちに提供してくれたり、美味しい農作物や白い磁器やリバーシや算盤や置き薬といった、他所ではとても真似ができないような特産品や仕組みをいくつも生み出して、ギルド運営のみならず、冒険者たちへの依頼報酬増額や、マルクトの街や周辺の村々の住民生活までも大きく改善してくれるような、非常に有能かつ豪胆で心優しいギルドマスター代理がいるんですもの」
「恐縮です」
「だからジークリットは、そんなあなたを深く信頼して自分でも努力を重ねているわ。端から見ればストレス発散のための深酒が心配なんだけど、最近では楽しくお酒を嗜むことが増えたのは何よりだわ・・・そしてイェソドのギルドでも、あなたが行ったギルド改革の手法を採り入れて現在頑張っているところなのよ。3年後のギルド本部からの独立のときに、マルクトギルドと肩を並べることができるようにね。そのためにも、今後イェソドに適した農産物や、特産品の開発や、仕組み作りなども含めて、いろいろ教えて欲しいわ」
「私で良ければ、喜んで」
「テレーゼ代理、目に見えるくらいの勢いで日々良くなっている現状のマルクトギルドの中で働けることを、私はとても嬉しくそして誇りに思います。私自身、自分にできることを精一杯頑張りますので、今後ともよろしくお願いします」
「マーヤ、こちらこそよろしく頼むわね。但し、ソフィアさんもですけど、絶対に一人で無理はしないで下さいね」と、ソフィア、テレーゼ、マーヤ。
現在の仕事の面白さを心の底から実感して、やる気に満ち溢れた2人を心底頼もしく思いつつも、仕事中毒には、くれぐれもならないで欲しいと願うテレーゼである。
今にして思えば、やり甲斐という意味では非常に充実していたとは言え、ややもすれば過労によりいつ発病しても不思議ではない、本当に激務だった前職の総合職の勤務状況が自分の忙しさの基準になりがちで、まだ頑張れるとつい無理をしてしまい、そのことが妹たちを酷く心配させてしまいがちなこと(第13章第2話参照)を重く受け止め、そこは自分自身も含めて今後も注意していこうと思う。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
会議自体はテレーゼの予想以上に呆気なく終わりました。そして、かつて会議に出席したジークリットのエピソードをソフィアから聞いたテレーゼは、ギルド独立という一大事に思い至るまでの、彼女の熱い想いを知ることとなりました。
元々有能なジークリット、ソフィア、マーヤといったギルド主要メンバーの今後に大いに期待です。
次話は、テレーゼたちが帰途につく話です。




