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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第19章:初めての大都市
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第2話:ダアトまでの旅路と街の中で再び

 会議出席のため、テレーゼたち一行は馬車でティフェレトに向かいます。

 予定よりも早く到着した一行は王都ダアトに向かいますが、そこで新たな人物?たちが登場します。


 1月28日 本文と後書きの内容を一部加筆しました。

 テレーゼがジークリットからティフェレトで開催されるギルド会議への出席を打診されてから半月余りが経過して、いよいよ出発当日の朝を迎えた。


 マルクトギルドの前には、以前イェソドに行くときに使用したものと同じ2頭立て幌馬車が待機していた。テレーゼは今後のことを視野に入れ、出発前に幌馬車の持ち主と交渉を行い、幌馬車と2頭の馬の購入に成功していた。


 その後、テレーゼは幌馬車の足回りやキャビン(人や荷物が乗る部分のこと)に付与魔法による改造を念入りに施して、見た目こそ以前の馬車と同じであるが、乗り心地が格段に改良され堅牢化されたことに加えて、大幅な軽量化が施されているため、馬たちの負担軽減や速度向上にも大きく寄与している。また馬たちにも体力回復魔法や浄化魔法を使っているので、元気一杯なのは何よりである。


 このため、テレーゼはマルクトからの出発を当初予定していた会議の半月前よりも数日遅らせることにしたが、それでも日程的には余裕がある。イェソドで合流する予定のソフィアには、事前にジークリットの手配により早馬でイェソドの到着予定日を連絡済みである。


 「それでは、テレーゼ、会議の方はよろしく頼むよ」


 「わかりました。私たちが留守の間、後のことはよろしくお願いします」と、挨拶を交わすジークリット&テレーゼ。そして、テレーゼ姉妹のパーティーはジークリットやギルド職員たちの見送りを受けて出発した。






 イェソドまでの道中は、ボアの群れとの遭遇も殆どなかった。先日のエーファたちの群れを移動させたことによる効果はとても大きかったようだ。また馬車の速度も以前より速かったため、2日目の夕刻にはイェソドに到着した。


 門の手前で、ここまで護衛を務めてくれたアデリナとヘレナを転移魔法でマルクト郊外の自宅まで送り届けた後でイェソドの街に入り、そのままギルドに向かう。ギルド裏の訓練場に馬車を移動させてからテレーゼとマーヤが建物に入り、受付嬢にギルドマスターのソフィアを呼んでもらう。程なくして彼女が現れた。


 「テレーゼさん、マーヤさん、久しぶりね。ジークリットからの手紙によるとティフェレトまで同行させてもらえるとのことだけど、よろしく頼むわね。あと、今日は時間があるから、先日できなかったボアの群れの移動に対しての慰労会とみんなの歓迎会をさせてもらいたいのだけど、どうかしら?」


 「ありがとうございます。先日のメンバー全員が揃っているわけではありませんが、それで良ければ参加させて下さい。出発は明日の早朝を考えていますが、時間的にも余裕がありますので会議への出席は大丈夫だと思います」と、ソフィア&テレーゼ。


 ギルドの会議室では、宴の準備が既に行われており、ギルドの通常業務終了後、心温まる宴が行われた。イェソドギルドの参加者たちから、ボアの群れの移動(第14章第4話参照)と、新しい回復薬の製造方法譲渡(第17章第2話参照)に関して、テレーゼたちが何れも無報酬で行ったことを深く感謝された。新しい回復薬への更新は順調に進んでいるとのことで何よりである。


 そして翌日早朝、ソフィアを馬車に乗せてイェソドを出発した。






 「テレーゼさん、この馬車、全然揺れないのね。そしてとても速いわ。あと、馬車移動時の野営で交代で見張りをしなくても良いのと、暖かくてこれほど美味しい食事がいただけるなんて、どちらも初めてのことだけど、本当に有り難いし嬉しいわ。テレーゼさんたちの魔法って本当に凄いのね・・・」と、ソフィア。


 彼女は、テレーゼが付与魔法で改造を施した馬車の乗り心地や、スピードにかなり驚いたようである。


 そしてイェソドを出発した日の夜に馬車での野営を行ったのだが、通常であれば交代で見張りを立てるところである。今回は、テレーゼとペルレが全攻撃に対しての自動防御や隠蔽魔法を使えるため、馬車全体に馬ごとそれらの魔法を掛けて見張りが不要であった。


 食事に関しては、テレーゼ姉妹全員でマルクト出発前に用意した食事をテレーゼが空間魔法で保管していたのだが、道中それを取り出してソフィアにも勧めたところ、通常の馬車移動では考えられないレベルの快適さにソフィアは改めて驚いたようである。


 食後に会議での発言内容に関して打ち合わせを行ったが、テレーゼやジークリットの方針(=マルクトギルドの方針)に同意してくれたので何よりである。イェソドギルドやギルドマスターであるソフィアとは、今後も歩調を合わせることが多くなるだろうと思うテレーゼである。





 

 ティフェレトに近付くに従って、だんだん行き交う馬車や人が増えてきた。そしてイェソドを出発した次の日の夕方より少し前にはティフェレトに到着した。


 話には聞いていたものの、セフィロトでは随一の、日本的に言えば政令指定都市並みの人口を擁する大都市で、日本からやって来たテレーゼもティフェレトの繁栄ぶりには結構な驚きを感じていた。過去に訪れたことのあるマーヤを除いて、初めてここに来たティアナ、カトリナ、アリーナ、ペルレもそれは同じだったようだ。


 ギルド本部での会議は、今日を含めて4日後の朝からであり、日程的にも余裕があるため、ソフィアの勧めで王都ダアトに向かうことになった。


 王都ダアトとはいうものの、ティフェレトの北側に隣接する衛星都市的な関係性で、ほぼティフェレトと一体化した都市であるが、例えばドイツの首都ベルリンの南部に位置し、衛星都市の元祖とも呼ばれるグロピウス・シュタット(参考までに「クロピウス」は、この大規模住宅地を設計したドイツ人建築家ヴァルター・グロピウスの苗字であり、「シュタット」は、英語ではタウン(町)やシティ(市、都市)に相当するドイツ語である)などは、前述のティフェレトとダアトのイメージに近いと思われる。


 ダアトに到着後、ソフィアが会議の時に利用しているという、お勧めの馬宿に無事チェックインできたのは何よりである。テレーゼ姉妹はマーヤを除いてダアトに来たのは初めてであり、明日の午前中にソフィアが街中を案内してくれることになった。有り難い話である。


 翌朝、宿で食事を済ませて、ソフィアの案内で街中へ。王城や大教会といった歴史ある建造物は流石の存在感であり、テレーゼは持っていたスマホで写真を撮って留守番してくれている妹たちに、後日見せてあげることにした。ソフィアにガイドのお礼を言って一度彼女と別れる。


 折角の機会なので、テレーゼ姉妹は各自夕方まで街中を散策することにした。テレーゼはティアナ、ペルレと一緒で、カトリナ、アリーナ、マーヤは他に行きたい場所があるとのことで、別行動となった。






 テレーゼたちがダアトの街の中を歩いているとき、もふもふした長毛種の可愛い茶トラ猫(テレーゼの故郷では「やす猫」(第7章第3話参照)と呼ばれている色合いである)を抱えた少女が向こうから歩いてきたのだが、石畳の少しでこぼこした部分に右足を取られてしまったようだ。猫は転びそうになった少女の腕の中から飛び出して難を逃れたようだが、少女は右足首を捻ってしまったらしく、立ち上がるのも辛いようだ。少女が抱えていた猫が、少女のそばで心配そうにしている。テレーゼたちは少女と猫のいる所に向かった。


 「右足を捻ったみたいだけど、大丈夫?」(足を捻った時の状況から見て、内返し捻挫ね・・・)と、テレーゼは少女に話し掛ける。


 (作者注釈:内返し捻挫は、正確には「内反捻挫ないはんねんざ」という。足首が強制的に内側に曲げられたときに発生する捻挫を指し、逆に外側に曲げられたときに発生する捻挫は、外返し捻挫(正確には「外反がいはん捻挫」)という。


 内側への可動域が外側よりも大きいという足首の構造上、捻挫の大半が内返し捻挫であるが、これらの捻挫は、受傷時に足首周辺の靱帯損傷や骨折といった外傷を併発しやすい。


 なお、足首の捻挫だけならきちんと治療すれば長くても3週間ほどで完治するが、前述の外傷を併発すると完治に数ヶ月を要することもあるうえ、捻挫は癖になりやすい(反復性捻挫という)ため、放置せずきちんと治療することが肝要である)


 「大丈夫です・・・いたた・・・」と、少女。やはり立ち上がって脚に体重を掛けたときに強い疼痛(痛みのこと)が発生するようだ。少女の猫は、怪我をした少女に寄り添うようにそばにいる。


 「すぐそばに座れそうな場所があるから、そこで治療するわね」「先生ですか?申し訳ないんですけど、私、持ち合わせが・・・」「お金は要らないから心配しないで」「ありがとうございます・・・」と、テレーゼは少女に肩を貸して、会話を交わしつつ数歩先の場所に移動する。


 「まず、患部を確認させてもらうわね」と、テレーゼは少女に靴を脱いでもらった。視診や触診の結果、足首を内側に動かしたときに疼痛が著明なようだが、幸いなことに靱帯や骨には外傷がないようだ。


 骨折などを併発していない捻挫の場合、患部である足首にまずアンダーラップを巻く。これは通気性のある薄いふわふわした素材で、テーピングの粘着剤で接触性皮膚炎(皮膚が「かぶれる」こと。IV型(遅延型)アレルギーの一種である)を起こさないようにする目的で使用するが、その上からテーピングや包帯を巻き患部を固定することが施術の基本である。また、必要に応じて松葉杖を使用する。


 これは、受傷した足首に関節可動域の制限を行い体重を掛けないことで、足首への負荷を軽減して患部の治癒を促すことと、捻挫の再発を防ぐのが理由である。そして、治癒の進行に応じて足首の固定を外し、徐々にリハビリを行う、というのが捻挫における大まかな治療の流れである。


 今回テレーゼは回復魔法を使って患部を完治させ、その後少女に立ち上がって軽く歩いてもらい、足に体重を掛けても疼痛が発生しないことを確認して治療を終える。


 「先生、本当にありがとうございます。私、この街に住んでいるエーリカと言います。この子はノルウェージャンフォレストキャットのエマです」と、自己紹介を受ける。


 「私は、テレーゼよ。よろしくね」(セフィロトにもこの猫っていたのね・・・地球とセフィロトは、お互いに異世界とは言っても私たちが知らないだけで、実際には人や物や動物など、想像以上に多くの繋がりがあるのかしら?)


 (エーリカを助けてくれてありがとうよ)と、猫のエマが頭の中に話し掛けてきたように感じた。


 (今、エマが私に話し掛けてきたように感じたんだけど・・・)「どういたしまして」と、テレーゼはエマに話し掛ける。


 (アンタ、アタシの話が理解できるのかい?エーリカ以外にはアタシと会話出来ないと思っていたんだが、コイツは驚いたね・・・)と、半信半疑に近いテレーゼの頭の中に明確な意思を伝えるエマ。


 (テレーゼさん、この猫は普通の猫ではないようですね。以前あなたの故郷への旅行で、猫神様を祀った場所(第7章第3話参照)に行ったことがありましたが、そこにいてもおかしくないような存在感を感じます)


 (姉さま、おそらくですが、この猫さんは猫の神様というか亜神のような存在だと思います。神様に近い存在の彼女が、どうしてここにいるのかは解りませんが)と、ティアナ&ペルレがテレーゼの頭の中に話し掛ける。2人は霊魂と精霊であるため、いわば神に近い存在であり、エマという猫の特異性により強く気付いたようである。


 「テレーゼさん、エマお姉ちゃんの話す言葉が解るんですか!?立ち話も何ですから、少し離れていますけど、もし良ければ私の家にどうぞ。何もお返しできませんが、せめてお茶くらいは出させて下さい」と、エーリカ。彼女の言葉に甘える形で一行はダアトの街から少し離れたエーリカの家に移動した。


 因みにエマは、エーリカがまた捻挫したら困るということで歩いての移動だったが、彼女はできればエマを抱っこしていたいようだ。その様子を見て(困ったもんさね・・・)とエマが愚痴をつぶやいていたが、口調とは裏腹にエーリカを強く心配していることが感じられたのが印象的だった。






 ダアトの街外れにある一軒家に到着する。エーリカの母親であるエルナにお茶を出してもらうテレーゼ姉妹。エルナにもエーリカの施術に関してのお礼を言われた。王都ダアトにある大教会は、信仰の総本山だけでなく病院的な役割も担っているようだが、回復魔法を受けるためのお布施が相当高額らしく、テレーゼが回復魔法を使ったことを聞いたエルナは恐縮していたので、気にしないように伝えるテレーゼである。


 居間でお茶を飲んだ後で、テレーゼたちはエーリカの部屋に移動する。


 (テレーゼ、アンタは力を抑えているようだけど、教会の回復魔法使いなんて目じゃないくらい凄まじい力を持っているようだね。もっと言うと、当代の猫神であるメインクーンのカールですらおそらく敵わないくらいの存在・・・一体何者なんだい?)と、エマがテレーゼの頭の中に話し掛けてきた。彼女の特異性にテレーゼ、ティアナ、ペルレが気付いたように、エマもテレーゼの力に気付いたようだ。


 自らの正体がほぼ明らかになっている以上、きちんと説明した方が良いと判断したテレーゼは自分のことを話すことにした。


 (異世界人、って言うのかい・・・アタシは次期猫神の自分と同じように、どこかの神様かと思ったよ・・・でも初対面のエーリカを何の代償もなく助けてくれるようなお人好しだし、アタシはアンタのことが気に入ったよ。エーリカ共々今後よろしく頼むよ)


 「エマお姉ちゃんと話が出来るだけでも凄いのに、よその世界の人だなんて・・・今後よろしくお願いします」と、エマ&エーリカ。


 「こちらこそ、よろしく頼むわね。私はマルクトから、ティフェレトで行われるギルドの会議出席のために昨日やってきたんだけど、あなたたちと知り合えて良かったわ。ところで、せっかく友達になったんだから、通信魔法を付与したた魔石をあげるわね。これで会話だけならいつでもできるから、なるべく身につけておいてね」と、手持ちの魔石に通信魔法を付与して使い方を説明した上で2人に渡すテレーゼ。


 エマに渡した魔石は首輪にくっつけたので、動きの邪魔にならないのは幸いである。エーリカは首に小さい袋をぶら下げて、お守りのように魔石を身につけることにしたようだ。


 その場で通信魔法を試したエマとエーリカは、今まで見たことも聞いたこともないテレーゼの開発した魔法に驚いたようだが、2人が普段行っていた頭の中での会話がそのままテレーゼたちとも行えるため、すぐに慣れたようだ。


 そのあと、全員で楽しく会話している間に夕方近い時間になったので、テレーゼたちはお暇することにした。


 (いつでもアンタたちと会話できるようにしてくれてありがとうよ。機会があれば、転移魔法とやらでまたここに来てくれないかい?エーリカも喜ぶからね)


 「今日は、エマお姉ちゃんともお話ができるような新しいお友達ができて嬉しかったです。足を治療してもらったことも合わせて本当に有り難うございました。良ければ、今度はみんなで遊びに来て下さい」 


 「わかったわ、エマ、エーリカ。また近いうちに会いましょう」と、エマ、エーリカ、テレーゼ。母親のエルナにも声を掛けてから家を出て、宿に向かう。


 (私の故郷には、ティアナがさっき話してくれたように猫の神様を祀った神社があるけど、本当にいたのね・・・しかも、エマの姿は神社で祀られている「やす猫」だから二重に驚いたわ・・・)(テレーゼさん、私もです・・・)(ペルレも実際に会って話が出来るとは思いませんでした・・・)と、テレーゼ、ティアナ、ペルレ。


 セフィロトに来て色々あったテレーゼであるが、(猫の神様やその家族に会って友達になるなんて、まさに異世界ね・・・)などと、改めて感じたテレーゼである。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 エマとエーリカという猫と人間の姉妹は、本編を連載する前に投稿させていただいた短編小説の主人公たちです。本話を綴っている合間に鉢植えの植物に水をあげようと思い庭に出たのですが、植木鉢のそばで、短編小説のきっかけとなったもふもふしたお婆ちゃんの可愛い猫さんを偶然見掛けたことから、本編にも登場してもらおうと思い、再登場の運びとなりました。

 テレーゼ姉妹の根拠地であるマルクトと、首都ダアトという距離的な関係から頻繁ではないかも知れませんが、今後も本編に登場してもらう予定です。

 エーリカの右足首が無事に完治して、またエマも含めて友達付き合いが始まって良かったですね。


 あと、作中でテレーゼが疑問に感じたノルウェージャンフォレストキャットに関して、若干補足させていただきます。

 かつてテレーゼと同じように家ごとセフィロト(ダアト)に飛ばされた、とある一家がこの猫の夫婦を飼っていたのですが、大きくもふもふで可愛いこの猫さんを、愛玩動物というよりもネズミや害虫などを退ける家の護り神として欲しがる人は想像以上に多く、一家が飼っているこの猫の子供たちが主にダアトで飼われはじめ、名前を含めて、ダアトやティフェレトで次第に知られるようになりました。

 その末裔のうちの1頭が、エーリカの叔母(エーリカの母であるエルナの妹)が飼っているエマの母猫になります。また、メインクーンがセフィロトにいるのもほぼ同様の理由です。セフィロトでは長毛種の大型猫さんたちが家の護り神として人気が高いようです。


 次話は、ティフェレトでのギルド会議などのお話です。

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