第1話:ギルド会議への誘い
ギルドマスターであるジークリットから、マルクトギルドの将来を踏まえてテレーゼにある提案が行われます。
イーナとエーファに使った人化魔法の考察を行った翌日、テレーゼのギルドマスター代理としての勤務中、ツンフトマイスター(ギルドマスター)のジークリットが彼女のそばにやってきて話しかけてきた。
「テレーゼ、いつも本当に申し訳ないのだが、ツンフトマイスター代理として、ある会議に出席してもらえないだろうか?」
「それは構わないのですが、何の会議ですか?」
「ティフェレトで3年に1回、ギルド本部と各ギルド支部の担当者が、時期的には丁度1ヶ月後にあたる来月の初日に集まって、ギルドの現状報告を行っているんだよ。我がマルクトギルドは、現在急ピッチでギルド改革を行っている所なんだが、今回の会議出席を最後にしたいと考えているんだ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「前々から思うところはあったんだよ。理想論的な考えかも知れないが、ギルドは本来冒険者たちや、延いては街や周辺の村々に住まう人々に寄り添って共生する組織であるべきなんだよ。それは、他ならぬツンフトマイスター代理である君自身が一貫して体現し続けてくれたことであり、君も強く理解してくれる事だと思う。然るに、中央の連中は、少なからぬ支部の収益を吸い上げてそれを外部に還元もせず、ともすればお偉方の私腹を肥やすことのみに費やされている。私にはそれがどうしても納得できないんだよ・・・今年の新年早々に起きた、ネツァクとホドの両ギルドマスター追放劇も、そのことと無関係ではないらしいのだ。それはともかく、先日私の存念をソフィーアに打ち明けて夜通し語り合ったんだが、彼女も同じ認識ということで確認できたから、今後はイェソドギルドとも歩調を合わせるつもりだよ」
「そうなんですね・・・(ジークリットが言っていることに嘘はないだろうから、彼女の真意はマルクトギルドが改革で最近急速に力を付けることが出来たから、もっと力を高めて3年を目処にギルドの本部からイェソドと一緒に独立したいと考えているのね・・・私への会議出席要請はいわゆる敵情視察かしら?)」
「そこで、君にはギルド本部や他の支部の現状を見て来て欲しいんだよ。会議での発言内容に関しては、ギルド改革の触り部分程度で構わないと思うが、君に一任するよ。何もかも君頼りで本当に申し訳ないが、是非お願いできないだろうか?」
「解りました。私で良ければ引き受けさせていただきます。ところで今回の同行者は決まっているんですか?」
「私もできることなら出席したいのだが・・・流石に君が軌道に乗せてくれたギルド改革の最中に、長期間ギルドを留守にする訳にはいかないな。君の復命は非常に信頼が置けるから、後日読ませてもらうことにしよう。道案内として君の腹心のマーヤを充てよう。それとイェソドでギルドマスターであるソフィーアが合流する予定になっている。後は君がパーティーメンバーの中から自由に選んでもらって構わないよ」
「私はそれで構いません。テレーゼ代理、今回もよろしくお願いします(テレーゼお姉さん、今回の件でご両親が開発した転移魔法が役に立つんじゃないでしょうか?あと、ギルドマスターは、あの日単純に深酒をしていたわけではなかった(第17章第3話参照)んですね。正直ほっとしました・・・)」
「マーヤ、こちらこそよろしく頼むわね(魔法の発動には、一度目的地まで行かないといけないところがネックだけど、何なら毎日でもマルクトに帰って来るということすら出来そうね・・・但しあの魔法の、姉妹や両親以外に対する扱いはまだ決めていないことと、今後の切り札になり得る魔法だから、今回の移動中の行使や、ジークリットとソフィアに伝えることについては、残りのパーティーメンバーや両親と合わせて帰宅後に話し合いね・・・)」
「・・・という内容の会議への出席をジークリットから依頼されたのよ。今回の会議はティフェレトのギルド本部で開催されるそうだけど、マーヤ、時間的にはどのくらい必要なのかしら?」
「マルクトからイェソドまで余裕を持っての移動で3日半くらいの距離ですけど、イェソドからティフェレトもほぼ同じくらいの距離です。前回の会議ではギルドマスターを連れてティフェレトまで行きましたので、道順も覚えていますし、7日、遅くとも8日あればティフェレトまで十分到着できると思います。ですから、半月後に出発すればイェソドから出発するソフィアさんとの合流期間も十分だと思います。それと、折角ですので、ティフェレトに隣接する王都ダアトにも足を運んでみてはいかがでしょうか」
「解ったわ。あとマーヤが案内してくれるのは頼もしいわ。マーヤ、今回もよろしく頼むわね」
「わかりました」
「姉さん、今回は誰を連れて行くの?」と、ヘレナ。
「今回は私とマーヤはずっと馬車に乗って移動するけど、日没になったら自動防御と隠蔽魔法を使って馬車の護りを固めた後で、イェソドに到着するまでは交代で転移魔法で家まで帰って来ようと思うのよ。だから、自動防御、隠蔽魔法、転移魔法が使えるペルレも一緒に同行してくれないかしら?あと、申し訳ないけどイェソドに到着するまでは元の大きさでいてもらえないかな?後から説明するけど、イェソドまでペルレを含めて7人での馬車移動になる予定だから」
「姉さま♡イェソドまで身体を元の大きさ(約20センチ、第8章第3話参照。なお現在は人間とほぼ同じ大きさである)でいて欲しいということを含めて、ペルレは喜んで同行します」
「ありがとう。それで、カトリナとアリーナは折角だから馬車操縦の練習を兼ねて同行をしてもらえないかしら。前回同行してくれたアデリナとヘレナはイェソドまでの道中、馬車を護ってくれると助かるわ。イェソドから先はソフィアにお願いしようと思っているわ」
「せっかく長距離での馬車操縦の機会をテレーゼお姉さんからもらえるのですから、頑張ります」
「カトリナと同じく、私も頑張りますね」
「わかった、姉さん」
「ということは、イェソドまでは、アタシとヘレナがイェソドまで護衛することになるのかな?イェソドまでは7人とはいってもペルレは元の大きさでいれば良いとしても、イェソドから先はアタシとヘレナにソフィアまで馬車で移動というのは8人で流石に人数が多いから、アタシたちは姉さんかペルレの転移魔法でマルクトに帰ったほうが良いと思うけど、ティフェレトへの道中は大丈夫か?」と、カトリナ、アリーナ、ヘレナ、アデリナ。本質的に聡いアデリナは、イェソドから先の道中で、自分たちが抜けることによる護衛戦力低下が気になるようだ。
「テレーゼお姉さん、イェソドから同行する予定のソフィアさんは、冒険者としても頼りになると思いますので、護衛をお願いして問題ないと思います」と、アデリナの疑問に対してマーヤが応じる。護衛の戦力としてソフィアは充分頼りになるようだ。
「それは心強いわね。それで、イーナ、アンナ、エーファは、ヘナフ、ワーちゃん、エァトと一緒に私たちの家や農場を護ってくれないかな?ティフェレトやダアトに到着したら、今回イェソドまで護衛してくれるアデリナやヘレナを含めて、転移魔法でみんなで遊びに行きましょう」
「イーナ、テレーゼお姉ちゃんたちと一緒に遊びに行くのが楽しみなの♪」
「アンナもイーナちゃんやテレーゼお姉ちゃんやお母さんたちとのお出かけが楽しみ!」
「テレーゼ姉者たちが留守の間、我が留守を護ろう」
(テレーゼおねえちゃんがかえってくるのをみんなでまってるの)
(テレーゼおねえちゃん、がんばって)
「姉さまやペルレ姉さまの代わりに農場のお世話を頑張りますね」と、イーナ、アンナ、エーファ、ヘナフ、ワーちゃん、エァト。頼もしい妹たちである。
「みんながいてくれるから、とても心強いわ。半月後の出発であまり時間はないけど、旅支度を少しずつ進めておきましょう。
あとは、今回の会議でどこまでマルクトギルドの情報を提示するかに関してはジークリットとも打ち合わせが必要だけど、基本的にはそれぞれのギルド管内で新しい特産品を作ることの有用性を話すことと、要望があればサンプルの品物を提供する程度で考えているわ。それ以外のマルクトギルドに関する詳細な現状報告は、ギルド改革に関して現在道半ばだから、もう少し成果が明確な形になってからということで今回の報告は見送る予定よ。
それとジークリットやソフィアに転移魔法を明らかにするのは、まだ魔法自体が現在慣熟運用中だから今回は止めておきましょう」と、留守を護ってもらう妹たちへの感謝と、会議での報告予定の内容、転移魔法について当面秘密にすることについて口にするテレーゼ。
「基本方針は、テレーゼお姉さんの考えで良いと考えます。ギルドマスターがギルドの独立を視野に入れている現状で、こちらの手札を多く明らかにするのは得策ではありませんから。そこはイェソドのギルドマスターであるソフィアさんとも、再度の摺り合わせが必要でしょうね。最後に転移魔法の両ギルドマスターへの公表は、私も時期尚早だと考えます」と、ギルドでのテレーゼの腹心と言えるマーヤが、基本方針に関して賛同してくれたので何よりである。会議での報告内容に関しては改めてジークリットと調整を行おうと思う。
話が一段落して、姉妹全員での賑やかな夕食である。(姉妹揃っての食事もあと半月でしばらくお預けというのは寂しいものね・・・)(今回の会議がどんなものになるのかは解りませんが、今まで通り姉妹全員で乗り越えましょう)と、テレーゼ&ティアナ。
食事を口にしながら、仕方ないとは解っていても、いつも一緒にいる妹たちの多くと、しばらく離れることに寂しさを感じるテレーゼである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
テレーゼが初めてセフィロトきっての大都会であるティフェレトや首都ダアト(実質的にはティフェレトの衛星都市のような位置関係です)に旅立つことになりました。愛娘たちがどんな経験をしてくれるのか、作者もとても楽しみです。
馬車の乗員に関しては、2頭立ての幌付き馬車で、道中の物資込みで最大6人という大きさです。今回の旅ではテレーゼ、カトリナ、アリーナ、マーヤ、ペルレが最後まで、イェソドからソフィアが合流しますので、身体を小さくできるペルレはともかく、アデリナとヘレナがイェソドでソフィアと入れ替わる形で旅のメンバーから外れるのは前述の理由からです。もっとも一度目的地に到着できれば、転移魔法が使えるようになるため、この枷は外れるのですが。




