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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第18章:日常生活でのあれこれ
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第2話:植物の精霊再び

 テレーゼ姉妹のところにワーちゃんが精霊として現れてくれた翌日の話です。

 ところが、これで終わりではなかったようです。

 ジンベエザメのぬいぐるみであるワーちゃんが、サメの精霊なのか、ぬいぐるみの精霊なのか、ペルレやテレーゼにもよく解らない(両方の性質を持っているため)のだが、テレーゼ姉妹(特にイーナ)にとって新しく妹が増えたということの前には些細なことであり、早速みんなと仲良くしているのが印象的だった。


 また、ワーちゃんには、テレーゼが通信魔法などを付与した魔石を使ったアクセサリー(ペルレのブレスレット(第15章第2話参照)と同じく、伸縮性が非常に高い素材を使用)を作成して、身体に取り付けたところ、ワーちゃん自身の特性である防水性や撥水性がアクセサリーにも発揮されるため、入浴時の取り外しが不要であり、そのことを彼女は喜んでいるようだ(元々がサメのぬいぐるみの身体なので、自分で取り外すことができないため、当初はイーナが入浴の都度取り外そうと考えていたようだ)。


 ワーちゃんが精霊になってみんなの前に現れた翌日のこと。以前テレーゼが「一度あることは二度ある、二度あることは三度ある」という諺のことを妹たちに話したことがあった(第5章第2話参照)が、今回はまさにそんな状態だったのかも知れない(但し後述のように、いわば幸せが増えたような出来事である)。







 テレーゼたちは、朝食後にギルドに出勤したマーヤ以外の全員で農作業に精を出していた。そんな中でテレーゼは今回実験的に、株元に十分な追肥を行った上で成長魔法だけではなく強力な回復魔法も使い、これまで幾度もたくさんの果実を実らせてくれた株の力をより充実させるという方法を試してみることにした。


 すると、これまで以上に目に見えて大きく元気になったイチゴの株の辺りから、「姉さま」(滑舌がペルレ以上に成長途上中なのか「ねえたま」とも聞こえる)という声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、ペルレの髪と瞳の色を深紅にした以外は彼女にそっくりの姿をした、可愛い顔をした妖精のような女の子が現れ、テレーゼのいる近くに飛んできて、テレーゼの肩の上に止まった。


 「姉さまが、魔法や肥料で私や他の子たちを大きく元気にしてくれたので、ようやく逢うことができました・・・」と、女の子。彼女はペルレと最初に逢った時のように、魔力を洋服のように身に纏っているようだ。


 「あなた、もしかしてイチゴ(私や妹たちの名前に共通するドイツ語だと「エァトベーレ」よね・・・)の精霊になるのかな?」と、テレーゼ。


 「はい、姉さま。今日は特に一杯元気をもらえたので、みんなの力が集まって私が姉さまのところに出て来ることができました。「エァトベーレ」は、私に名前を付けてくれたのですか?」


 「ええ。母親の故郷の言葉でイチゴを意味する単語なんだけど、このままだとあなたのことなのか、イチゴ全体のことなのか解りにくいわね。だからあなたのことは「エァト」(英語では「アース(地球、地面)になるわね・・・)と呼ぼうと思うんだけど、どうかしら?」


 「とても素敵な名前で本当に嬉しいです。それとたった今、姉さまとより強く心が繋がったように感じます」と、エァトが口にしたのとほぼ同時に、テレーゼも彼女との強固な心の繋がりが実感できた。 


 「それは良かったわ。ところで、あなたがいる間は、イチゴの収穫は控えた方が良いのかしら?」


 「私にもよく解らないんですけど、私が生まれるまでには、他の子たちの力も必要になるみたいですが、一度生まれることができれば、私が姉さまと繋がっている限りは消えることはないようです。もちろん、イチゴたちが元気であれば私もより元気で過ごせるようです」


 「そうなのね・・・私との繋がりで精霊がより強い力を得たというのは、昨日生まれたばかりのワーちゃんと似ているわね。というよりは、イーナと一緒に名前を考えたワーちゃんを含めて、私が名付けをした妹たち全員に共通することかしら?」


 「ほぼ間違いなくその通りだと思います。姉さまが名付けを行った効果として、私やワーちゃんやエァトちゃんの場合は精霊として姉さまという唯一無二の居場所を得て、イーナ姉さま、ヘナフちゃん、エーファ姉さまの場合は従魔魔法と合わせて心の繋がりが終生の契りというレベルになっています。そしてティアナ姉さまの場合は文字通り一心同体になっていますが、何れの場合も姉さまが行った名付けが、セフィロトでは非常に強い心の結びつきを生み出していると考えられます」と、テレーゼの近くで作業をしていたペルレが頭の中に語りかけてきた。


 「ペルレ姉さま、エァトです。同じ植物の精霊として今後よろしくお願いします」


 「エァトちゃん、こちらこそよろしくお願いします。2人で姉さまを支えていきましょう」「はい、ペルレ姉さま」と、2人の植物の精霊が挨拶を交わす。外見は前述のように髪と瞳の色を除くとかなり似ているのだが、若干ペルレの方が年長者的な容姿や口調であることと、ペルレは拡大魔法でほぼ人間の大きさになっているという違いがある。


 (さし当たっては、エァトのために今の大きさの洋服、通信魔法と隠蔽魔法を付与した魔石が付いたアクセサリーを用意しなくては・・・)と、思索に耽るテレーゼである。


 テレーゼの通信魔法によりエァトのことを知った他の妹たちも、農場のイチゴが植えてある圃場に集まってきて、エァトに話し掛ける。滑舌が成長途上ではあるものの、日常の会話は問題なく行えるようだ。


 あと、ペルレと同じように「本体」であるイチゴたちは、彼女自身が話してくれたように。精霊として独立した現在もエァトの生命力の大きな源になっているようなので、イチゴの収穫だけでなく、彼女がこれからも元気でいてくれるように、テレーゼが大切に水や肥料を与えて、間違っても枯れることがないように育てていこうと思う。


 「そういえば、エァトは、何か魔法を使えるのか?」と、アデリナ。


 「現時点で使えると確認できるのは、成長魔法、回復魔法、冷蔵魔法とそれを強力にした冷凍魔法、そして空間魔法が使えるようです」


 「今の魔法は、エァトが畑のイチゴのときにテレーゼ姉さんから掛けられた魔法だよな。ということは、エァトが今後新しい魔法を覚えるときには、姉さんの魔法をぶつければ割と簡単に覚えられるんじゃないの?」と、エァトの話に対してアデリナが提案する。こういうときのアデリナの洞察力は、相変わらず姉妹の中でも抜きん出ている。


 「アデリナの言ったことは確認と、何よりもエァトの気持ちが第一だけど、おそらく正しいと思うわ。但し流石に攻撃魔法ではやらないほうが良いわね。特に火魔法とか植物にとって致命傷になりかねないし、収穫のために必要な冷蔵魔法はともかくとして、何より大事な妹相手に攻撃魔法は使えないわ。だから、補助魔法や回復魔法や無属性魔法で今アデリナが言ったことをやってみようと思うんだけど、エァトはそれで良いかしら?」


 「はい。姉さまの魔法を身体で感じることは何よりも勉強になりますから嬉しいです。あと、冷蔵魔法に関しては今後は使わなくても良いかも知れません」


 「どういうことですか?」と、カトリナ。


 「花が咲いて大きなイチゴになって欲しい、と想いを込めて成長魔法を使えば大丈夫だと思います」そう言って、成長魔法を使うエァト。すると、確かに花が咲いて大きなイチゴが実った。


 「私と姉さまとペルレ姉さま、それと以前ここに来て下さったお父さまとお母さまはすぐに出来ると思います」というエァトの言葉に従って、テレーゼとペルレが念じながら成長魔法を使うと、同じように大きなイチゴが実った。おそらく、剛史とテレージアも同様のことが可能だろう。


 「エァト、良いことを教えてくれてありがとう。これからもこの方法でやっていくことにするわ」と、テレーゼ。成長魔法と冷蔵魔法の同時発動は相応に難易度が高いため、これまで苺の収穫作業における魔法の行使は、テレーゼとペルレ以外には両親のみ可能だったが、今後は他の妹たちも可能になるかも知れない。そう思うとエァトが自分達の前に現れてくれたことと合わせて嬉しさを感じるテレーゼである。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 テレーゼ姉妹のところに、新たな植物の精霊エァトが現れました。これは、イチゴを極力更新しないというテレーゼの気持ちが強く影響しています。


 イチゴは本来、晩春に収穫が終わると新しい苗に更新を行い、栽培していた圃場も土壌消毒や施肥や耕耘などを行います。


 これは色々な理由がありますが、一度圃場に植えて成長した株を掘り上げて改めて開花のために冷気に当てるという手法が営農のうえでは全く現実的でない(投下する労力や経費に見合った収量を確保できない)というのが最大の理由です。また、新しい苗を採取するための親株も、だんだん親株自体が弱ってくるため長くても3年程度で更新されます。日本からやってきたエァトは、そのような自分や仲間たちの行く末を多少なりとも知っていて覚悟もしていたようです。


 ですが、セフィロトで通常のイチゴ栽培のスタイルに拘る必要がなかったテレーゼは、同じ株たちをずっと育てることを決意します(第9章第1話参照)。あまつさえ、自分たちのために強力無比な回復魔法まで使って大切にしてくれるのですから、強い想いと魔力が集まったときに精霊が誕生する(第8章第3話のカトリナの説明)とされるセフィロトでは、植物の精霊として誕生する条件は十分満たしています。そのような経緯から、特にテレーゼに対して姉として強い敬慕の情を抱いています。


 テレーゼ姉妹にとっては、今後農場の主力であるイチゴ栽培を行う上で、この上なく心強い妹と出逢えたことになりますが、それ以前に単純に妹が増えたことの方が姉妹にはこの上なく嬉しいことだったようです。


 次話は、テレーゼ姉妹にとって大人気の、あるおかずに纏わるエピソードです。

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